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第10話 昼食チョイスは何よりも大事

「姫子、今日も遊び行っていい?」


「……照久の家に行ってみたい」


「お、俺ん家は何もないから来ても面白くないと思うよ。それよりスマビクやろうぜ」


部屋に人間呼べないって。部屋にはエルフの正装や聖なる鞄置いてあるし、同じエルフ族のネイフォンさんが突然来訪するかもしれない。

エルフだとバレないか戦々恐々で姫子におもてなし出来る自信がありません。


ハンマー無双作戦も通じずその後何連敗と敗北した日の翌日、今日も学校へと通う。

勉強ばかりで気が滅入る中、印天堂65の入手も難色を示して体力精神共にクタクタです。

担任の教師が言うには二週間後の期末考査に向けて各自勉強に励むようにだって。期末考査って何だ? 学校の行事的なやつ?


「いいよ」


「じゃあまた放課後な!」


「うん」


今日も委員長の家でスマビクをやる約束を取ることに成功、これで三日連続65とご対面となる。

俺自身が65プレイして楽しく遊んだところで目的の65入手には何も関係がないと思えるが実はこれはこれで着実に目標に向かって一歩前進している。

購入ルートで印天堂65を手に入れられない今、委員長の65を譲ってもらうのが一番楽な入手方法だ。

昨日、スマビク一本勝負の賭けに出たが結果は敗北。

けどそれで全てが終わったわけではない、またもう一度挑戦すればいいだけのこと。

その為にも特訓が必要だ。今の技術では委員長のブービィを打ち負かすなど不可能である。

敵のホームで腕を磨くなんてなかなか肝の据わってるぜおい。

だがこれしかスマビクの練習をする方法がない、いつになるか分からないが打倒委員長を目指して特訓あるのみ。


「……テリー、ちょっと来て」


「ん、どうした清みぐぇ!?」


昼食は何食べようか昨日の授業中に絞り込んだ唐揚げラーメン、肉うどん、サンドイッチの候補から厳粛たる選出をするべく自分の席で会議を始めようとしたら清水が乱入、朝のホームルーム前だというのに他クラスにまで乗り込んできたかと思えば清水に襟首を掴まれて教室の外へと連れ出される。

喉が絞まる喉が絞まる! こんなことが昨日あったような気がするけども!? 訳が分からない。

登校する同学年の生徒達が不思議そうに視線を向けてくる廊下を高速スピードで駆け抜ける清水。

襟首掴まれた俺は廊下を高速スピードで引きずられる。

教師が見たらイジメだと勘違いされるぞこれ。

喉が絞まって悲鳴も出せぬまま屋上へと通じる階段を登ったところでようやく清水が離してくれた。

森の中ほどではないが新鮮な空気が肺へと送り込める、呼吸の大事さを痛感。


「おぇっ……何しやがる暴力女」


「テリー、お前は一体何者だ?」


あ? 何者って清水は知っているだろ。エルフだよ、誇り高きエルフ族の民さ。

この学校で唯一正体を知っている人間のくせに何を今更なことを問うんだよ。

あれれぇ、俺ってば知らないうちに忘却魔法使ったのかな? 

それとも痴呆が始まったのですかな清水おばちゃん。


「なんかムカつく顔しているから殴るね」


「痛い!」


グーで殴るなよ。

清水は躊躇いもなく握り拳で顔面を狙ってきた。

咄嗟に反射で避けた自分に感動する暇もなく追撃のパンチが腹部に被弾、鋭い痛みが内臓を貫く。

ぐふっ、な、なかなか良いパンチだぜ清水。

一撃目を躱されたことに動じることもなく次の拳を放てる戦闘センスには尊敬どころか恐怖すら感じる。

良い兵士になれるぞお前、生まれてくる時代間違えたんじゃね。


「で、何か言いたいことある?」


「……とりあえず今日は豪勢に唐揚げラーメンとサンドイッチ両方食べようと思います」


「何の話だ!」


何って昼飯の話だよ!って叫ぼうとしたけど腹が痛くてしゃがみ込んでしまった。

まだ回復出来ていないなんて、なんつー威力のパンチだよさっきのやつ。

人間の女はこんなに強いのか、戦争したらエルフ負けるくね? 

いや、清水が例外的に強いだけなのだろう。こいつが特別でゴリラの遺伝子組み込まれているだけで他の女子は皆か弱いはず。

おっとりとした委員長が弾丸パンチを放れるとは思えない、そして思いたくない。


「私が言いたいのはどうしてテリーが姫子ちゃんのこと下の名前で呼んでいるかってことだよ」


「あ~、ゲロ吐きそう。吐いた方が楽になるかな? いやでも吐いたら負けな気がするな」


「姫子ちゃんと何があったかさっさと吐け!」


ぐへらぁ!?


「に、二発目は駄目だって。マジで吐くぞテメー。そのラインの綺麗な足をゲロまみれにしてやろうか」


「どんな脅し文句だ、誇り高きエルフ君♪」


「ちっ……別に、委員長からそう呼べって言われたからだよ」


荒れ狂う腸の痛みに悶絶しながらも昨日の出来事を話した。

自分のダサイところを説明するのは情けないからアイテム設定いじってハンマーを使ったインチキ戦法で負けたことは伏せて簡潔に話す。

スマビク勝負で賭けをしたこと、負けて委員長の願いを聞くことに、名前で呼ぶよう言われたこと、肉うどんは明日のお昼すること……は喋るとまた殴られそうなので言わなかった。これが一番言いたかったのに。


「なるほどね、姫子ちゃんがそんなことを」


「これで満足ですか清水さん?」


「あの難攻不落と言われたガードの固い姫子ちゃんが……? まさか面食いだったのかな?」


「麺食い? おお、やっぱ肉うどんが最終候補にまで残った理由が聞きたいようだな。それはだな……」


「ホームルーム始まるから戻ろっか」


麺類の中では一番価格が安いのが何よりも魅力で……って清水が消えた!? 

あの野郎、言いたいこと言って殴ってはいさよならですってか? どこまで自分勝手な女なんだ、どこかのエルフの長みたいな傍若無人ぶりじゃないか。

委員長と仲良くなっても別にいいじゃん、清水がそこまで気にすることじゃないと思うぞ。襟首掴んで引きずり回してグーパン二発も打つ程の事件ではないって。

清水だけではなくクラスの皆も過剰に反応し過ぎな気がする。

さっきだって委員長と話しただけでザワザワと昨日みたいに騒いでさ、俺らの方チラ見したりして気になっている男子と女子がたくさん。

それだけ委員長が人気だってことか。委員長可愛いもんね、小さくてお人形さんみたいって言うのだろう。

癒し系女子の頂点と俺みたいな転校生が仲良くしているのを見たら驚いて当然なのか。清水が不思議がってもおかしくない。

もしかして俺って結構すごいことやっているのか……?


「まあいいさ、目的さえ達成出来ればいいのだから」


誰と仲良くしようが何を食べようがそんなのは通過点、気にすることでもない。

印天堂65さえ手に入れば他はどうなろうと関係ないんだ。

それ以外は俺の自由だろ、爺さんにだって文句は言わせないさ。











豪勢なランチを終えて午後の授業も受け流して放課後となった。

学生の本分は授業だというのに最近は流してばかりだ。

体育と理科系以外まともに聞いてないです。このままだと期末考査はヤバイ気がする。

さっきクラスメイトに聞いたけど期末考査ってこれまでの授業で学んできたことを生徒がちゃんと理解しているか確認する為の筆記試験だそうで、決められた点数を獲得出来ないと最悪の場合進級が出来ないらしい。

別に進級出来なくても困ることはないし、どうせ森に帰るのだから人間界でのルールなんて知ったこっちゃない、とはいかない。

高校において進級出来ない、つまり留年することは恥ずかしいことらしくて来年からは一つ学年の生徒達と同じクラスで授業を受けることになる。

あの人誰?みたいな居心地の悪い空気になると予測される。

ただでさえ人間界は空気が悪いのにこれ以上汚されてたまるか。

しかし小中学校を卒業していない俺に高等学校のテストで点数取れるのかな? 

このままでは期末考査で無惨な結果になりそう。そのうち時間見つけて清水辺りに勉強教えてもらって対策を立てておくか。

期末考査はまだ二週間も先のことだし、今を大事に生きていこう。


「私の勝ち」


「つ、強……」


てなことで今日も委員長の家へお邪魔している。

これで十連敗目を喫した。

残機5対1のハンデをもらっているのに勝てないとなるとショックで言葉一つ出せない。

これじゃあ賭けを持ちだすのはまだまだ先の話か……。

委員長に勝つどころか本気にさせることから始めないと駄目だな、勝負にすらなっていない。

かといって短期間で上達する方法なんて都合の良いものがあるわけでもなく、何十回とプレイして経験値を積むしかない。

ぐぬぬ、モリオの↑B攻撃の使いどころが分からん。ブービィの↑Bはあんなにも機動性が高くて使いやすいというのに。


「照久はストーリーモードから始めたら?」


「ストーリーモード?」


委員長との対戦を終えて次に始めたのはストーリーモード、キャラを一人選んでそいつでステージを勝ち抜いていくというやつみたい。

難易度はノーマルにしていざ挑戦。

勿論キャラ選択はモリオ以外ありえない。こいつで天下取るって決めたんだい。


「最初の相手はピンクか、上等だぜ」


桃色の服を着た勇者ピンク、ハイラルの使命を受けし勇敢な青年。

剣を使い爆弾とブーメランを投げてフックショットで相手を捕獲し吹き飛ばす、近距離から遠距離まで申し分なく戦えるバランスタイプのキャラクターだ。

剣による攻撃が強くて厄介だが、モリオのファイアボールで牽制しつつ隙を狙って攻撃していけば勝てるはず。


「この、このっ……」


「……」


ストーリーモードは一人用なので委員長は後ろで俺のプレイを見ている。

ずっと視線を感じて気になるところだが今は特訓に集中するべき。

こうして委員長がスマビクをやらしてくれているんだ、その思いに応えるべく俺は強くなればいいだけのこと。

突如現れた竜巻によって上空へと吹き飛ばされたピンクを見つめながらアピール、モリオが巨大になってドヤ顔で決着となった。

ピンク弱かったな~、これなら楽々クリア出来そうだぜ。


「委員長はストーリーモードクリアしたの?」


「……」


「あ、ごめん。姫子はクリアした?」


「うん」


ちょっとまだ慣れないな。

姫子って言うのが恥ずかしいのもあるが、どうも言いにくい。委員長の方がサラッと呼べて俺的には委員長の呼称の方がいいんだけどな。

でも何でも言うこと聞くって言っちゃったし、インチキした身分の俺が嫌がるなんて生意気なこと言えない。

別に嫌じゃないし、慣れたら普通に呼べると思う。そのうち慣れるでしょう、呼び方もスマビクにも。


「はっ!? ヤッシー軍団だと?」


ピンクに完勝して次の対戦相手はヤッシー。

恐竜の一種でモリオシリーズに登場するモリオの良きパートナー、二足歩行で褐色の靴を履いて背中には鞍を付けているオシャレな恐竜。

人気はモリオ並に高く、ヤッシーが主人公のゲームも多数販売されている。

スマビクではジャンプ力の高いヤッシー特有の踏ん張りジャンプ、卵を投げたり産んだりと独特のアクションでクセのあるキャラだ。

一度使ったが難しくて二度と使わねぇと思ったヤッシーが第二戦目の相手。

何に驚いたのかと言えば一対一ではなく一対多数、その数なんと十八匹。十八匹のヤッシーがパートナーであるモリオと戦おうとしているのだ。

なんて奴らだ、誰のおかげでスマビクに参戦出来ていると思ってやがる。このモリオ様が活躍したおかげだろ。それなのに集団でリンチにしようなんて悪魔かよ。


「あ、意外に弱い」


「ヤッシー軍団は吹っ飛び易いから何も気にせず倒せるよ」


通常より吹っ飛び度が高くなっているのか、ヤッシー達はちょっと攻撃すれば「アワワワ~」と情けない悲鳴を上げて空へと舞っていく。

弱い、これは弱い。動きも遅くて攻撃をガードするまでもない、ここは連打してヤッシー十八匹を滅殺! 

なんだ、ストーリーモード簡単じゃん。修行にならないなぁ。


「……ごほ」


「ん? どうかした?」


「ううん、なんでもない。ちょっと咳が出ただけ」


委員長って咳も可愛く出せるんだね。

人間もエルフも同じみたい、くしゃみや咳はそいつの性格や態度がよく反映されている。

委員長は見た目も性格も大人しく可愛いので咳もキュート、対してネイフォンさんや爺さんはくしゃみする時ボム兵でも飲み込んだのかって勢いの爆裂音をかます。声が大きくて耳障りなくしゃみや咳をしやがる。

近くで聞いた身としては将来あんな大人にはなりたくないと思ったものだ。

なんて決意を固めて委員長の咳に胸キュンを覚えつつ次の対戦相手と戦う。

次の相手は、


「ファックスか、雑魚だな」


ファックス・ムクラウド。

シューティングゲーム『スターファックス』に登場する狐の姿をしたキャラで、超高性能全領域戦闘機アーウィンを華麗な操縦技術で乗りこなす雇われ遊撃隊のリーダー。

非常に機敏で地上を俊足で駆け抜け、隙の少ない攻撃からコンボを繋げるスピードアタッカー。

相手の遠距離攻撃を跳ね返すリフレクターや遠くにまで届くビームを撃てる等、機転の利く中~上級者向けのキャラクターらしい、ネットにはそう書いてあった。

だが攻撃力は低く、冷静に対処すれば余裕で勝てるっしょ。

モリオの敵ではない、と思った自分の顔は開始一分で歪んだ。


「なんだこいつ、強くね!?」


俊敏な回避でことごとく攻撃が躱されていく。

モリオの拳を見切ったかのように避けて後ろへと回り込んで連打を繰り出すファックス、距離を置こうとしてもブラスターで追撃を食らって態勢を整えられない。

ファイアボールで牽制してもリフレクターで跳ね返されて逆にこちらの行動が制限されるだけ。

近づいてもコンボ性能の高い連撃でダメージ値を稼がれて気づけば100%に近いダメージを受けていた。

なんて強さだファックス。さすが遊撃隊のリーダーをやっているだけのことはあるな。

というか三戦目から急に強くなり過ぎじゃないかこれ? ピンクとヤッシーは余裕で倒せたのと比べてファックスの強さは格段に上がっているぞ。

勝てる気がしねぇ……なんだこの狐野郎、きつねうどんにして食ってやろうか。

あ、肉うどんよりきつねうどんの方が食べたいな。明日はきつねうどんだな、うん。


「照久、やられたよ?」


「あ」


明日の昼ご飯のことを考えてしまって気が緩んでしまった。

その隙を見逃す程ファックスは甘くなく、素早い攻撃でモリオを吹っ飛ばす。

援護するかのように時折フィールド巡回するアーウィンが超強力なビームを放ち、見事なタイミングでモリオを迎撃するピタゴラスイッチが発動。

宇宙の彼方へと飛んでいったモリオ。

すまないモリオ、俺きつねうどん食べたくなってきたよ。


「ファックス強いな」


「初心者キラーだから。……もう一回やる?」


「たりめーだろコンティニューだチクショー!」


その後も挑戦し続けたが、ファックスを打ち崩すことはなく敗戦を繰り返した。

……ファックスも倒せないのに委員長を倒せるわけがない。

クソ、印天堂65入手はまだまだ先が遠いようだ。帰って操作方法の復習とイメトレしなくちゃな。

最後はトレーニングモードで停止状態のファックスをボコボコにして委員長の家を後にした。


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