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第100話 銀髪の転校生

「おはようテリー」


「おはよう清水」


二年生になり十日が経過した。

新しいクラス、新しいクラスメイト、新生活の新鮮味も削れて普段の日常として刺激なく過ごせるようになってきた。

今日も学校、しんどいが職業学生として通わなくちゃいけない。

せっかくネイフォンさんが学費を払ってくれているのだ、それに応えなくてはならない。

欠伸を噛み殺しながら正門をくぐり抜けていると後ろから声をかけられた。振り返れば今学期からクラスメイトとなった協力者清水寧々の姿が。はいはい、おはようごーざます。

今日も清楚エロい足と艶があってサラサラの髪が朝日に当たって綺麗に輝いている。見た目はただの美少女だが、少し刺激すると暴力を振るうゴリラ系女子へと変貌する凶暴な一面もある清水。そんなバイオレンスなこの子も俺にとってはかけがえのない親友。


「ちゃんと朝ご飯食べてきた?」


「食パンにマヨネーズ塗って食べた。絶妙に美味しかった」


「まあそれでもいっか」


そういえば最近清水が朝食を作りに来てくれない……飽きたのかな。

以前はアポなしで不法侵入して朝ご飯を作ってくれていたのにここしばらく作りに来てくれない。仕方なしに食パンを大量に買って毎朝モサモサ食べている。マーガリンを塗ったり調味料をなすりつけて毎朝消費しているが少し物足りない。その分昼食をたくさん食べるとしよう。


「そういえば今日転校生が来るらしいよ。知ってた?」


「転校生?」


転校、それは他の学校に通学していた生徒が別の学校へ移ることを指す。

転校してくる生徒のことを転校生と呼び、多少なりとも話題になるのは必然のことである。元転校生として半年程前に体験したのでよく分かる。

へぇ、転校生が来るのか。


「噂だとうちのクラスに来るらしいよ」


「その噂って誰から聞いたんだ?」


「さあ、なんか耳に入った」


思うんだけど噂話とか誰が発端で広まるんだろうな。誰もかれもが噂で聞いたと言うが必ず誰か最初一人が言いふらしているはずなのにその素性は知られない。おかしな話だよ、うん。

そんなこんなで転校生について清水を話しているうちに二年一組の教室へと到着。清水に別れを告げて自分の席へと着く。


「おはよう木宮! 今日もカッコイイね、羨ましくて妬ましいよ」


クラス替えをしたのにまた同じクラスになった小金が今日も朝から執拗に話しかけてくる。席に着くと同時に来やがった。

新しいクラスで友達作りが出来ないのか、毎日いつもいつも話しかけてくる小金。

トイレとかで席を外して戻ってくると小金は寝たフリをしていることが多い。俺以外に友達いないのかよ。まあ俺も言えた義理ではないが。


「ねえねえ、転校生が来るって噂知っているかい?」


「さっき清水から聞いたよ。言うのが一歩遅かったな地味クソ豚眼鏡」


「あれ、僕にそんなキツイあだ名あったかな? なんか泣けそう!」


相変わらずテンションの高いツッコミを入れてくる。

こいつと知り合って結構な日数が経ったが未だに不快感を感じる。

もっとまともな会話をしてくれるならこちらも好意的に話しかけるのに、この馬鹿は普通の会話をしようとしても無理矢理ツッコミを入れてくるから面倒臭い。ジャイアントドンビキ―くらい面倒臭い。


「でも普通、転校生って始業式の時に合わせてやって来るものじゃないのか?」


「確かにそうだね。十月だなんて中途半端な時期に転校してきた木宮が言うのもちょっとおかしいけど」


クスッと小さく微笑む小金。

あ? なんだその微妙に上品な笑い方。イラッとするからやめろ。

俺の場合は仕方なかったんだよ。爺さんに無理矢理追い出されてしまったのだから。

噂が本当だとすれば転校生とやらは今日来るそうだ。始業式から十日経った今に来る。何か事情でもあったのか。


「せっかくだし可愛い女の子だったらいいなぁ。美少女転校生だなんて胸熱だよ。胸熱で胸キュンだよね」


知らないよ。典型的な思考を口に出す小金の顔は少しだけニヤついている。きっと転校生に過度な期待を乗せて妄想に浸っているのだろう。

もしかして半年前俺が転校してきた時も同様のことを呟いていたのかな。その時はすまなかったね、ワタクシ男なんで。今回は女子だったらいいな。俺も微力ながら祈っておくよ。


「席に着け」


「あ、担任来たね。じゃあまた後で」


チャイムが鳴り、その音と同時に担任の教師が入ってきた。

慌ただしくクラスメイトが自分の席へと座り始め、小金も自分の席へと戻った。

……まあ俺の後ろなのだが。

新しいクラスになって席順をどう決めるかだが、セオリー通り五十音順になった。『あ』から始まって『ん』で終わる。我がクラスでは安藤さんから始まって吉永君で終わる。そうなると木宮という苗字の後ろに来るのは小金。うちのクラスに木村や九条院の名前の奴がいないせいだ。

何がじゃあねだよ、すぐ後ろで「転校生可愛い子だったらいいね」とまた同じ話題を振ってくる小金。

この時ばかりはネイフォンさんの考えた偽名が嫌になったぞ。


「朝のホームルームを始める前に、もう知っている奴もいるかもしれないが今日から新しいクラスメイトが来る。今から紹介する」


担任の声に何人か歓声を上げる。

一人は真後ろにいる奴だった。不快な声が嫌でも耳に入ってくる。

ふーん、本当に転校生来るんだな。一体どんな人間だろう。小金程ではないが少しだけ興味がある。

新学年へと進級して十日、少しだけ時期をズラして来る転校生は一体どんな人物なのか。


「それでは入ってきてくれ」


担任は横を向き扉に向かって話しかける。

一秒も経たないうちにガラッと扉が開いて一人の生徒が入ってきた。同時に真後ろから「なんだ男子かよぉ」と落胆した声が聞こえた。

俺や小金と同じ制服を着た生徒。教室に入ってくると同時にクラス中の視線は一つに向けられる。

ビックリした、キラキラと輝く銀髪が入ってきたのだから。

銀色に輝く髪の毛はツンツンとしており、襟足が長い。

異質の空気を放ちながら教室中を軽く見渡して静かに担任の方へと歩いていく転校生、澄ました横顔が一瞬だけ見えた。


「では自己紹介よろしく頼む」


「初めまして皆さん。如月浮羽莉(きさらぎふわり)と言います。緊張して上手く自己紹介出来ませんが皆さんと早く仲良くなりたいです。どうぞよろしくお願いします」


黒板にチョークで名前を書いた後、淀みなく流暢に自己紹介を終えた転校生は最後にニコッと爽やかなスマイルを浮かべた。

少しだけザワッとする教室内、主に女子だ。黄色い歓声が聞こえたりした。カッコイイ!と目をキラキラさせながら隣の女子生徒が呟いている。

確かにカッコイイ、発言が。

緊張していると言ったがそんな様子は微塵も感じられず噛むことなく簡潔かつスタンダードな自己紹介を終えた転校生、如月浮羽莉。同性から見てもなかなかレベルの高いフェイスだ。小金の百倍カッコイイ。

……そして何より、


「おい小金、あの転校生……」


「どうかしたのかい?」


「キラキラネームだ」


半年前、この日本界で住むにあたって偽名が必要となった。

テリーという名前が日本界では不自然だからだ。

色々と名前について調べていたらそこでキラキラネームという存在を知った。これまでのありきたりな名前とは別次元のある意味ハイセンスな名前、それがキラキラネーム。光宙が代表作らしい。何と読むのかは知らないが。ちなみに小金もキラキラネームの持ち主。餅吉とか超ダサイ。


「浮羽莉だって。おいどうするんだよ、お前唯一の個性であるキラキラネームキャラのお株が奪われたぞ」


餅吉もレベル高いが、浮羽莉というネーミングはそれを遥かに凌駕していた。

モブ顔で眼鏡で地味な小金が個性を主張出来る分野、キラキラネーム枠。

それを完全に食われたのだ。なんて可哀想なんだ……!


「お前のアイデンティティーは無に帰したと言ってもいい」


「そ、そんな。顔面偏差値でも次元の違いを見せつけられ挙句にキャラ強奪だなんて…………いや、何が!? 別に僕キラキラネームの使い手で名を馳せたつもりはないよ!」


相変わらずうるさいツッコミだな。耳元で叫ぶなよ。

哀れな餅吉はこの辺で放置しておくとして。

転校生、か。女子数人が興味ありげに目を輝かせている、その間も柔和で屈託のない微笑みを浮かべてクラス全体を眺めている。

転校生は教壇に立って俺らは椅子に座っているので自然と転校生が俯瞰する形になる。

なんとなく上から見下ろされている気がするなー。まあいいや。

それにしても、銀髪か。爺さんの白髪とは違い、光が当たって彩度が増して輝く様は優美で気品の高さを感じる。味気ない白とは違う光沢を持った銀色だ。

銀髪って初めて見た。漫画ではよくあるが現実でも存在するとは。

黒髪だらけの人間界では珍しい、そして浮いている。浮羽莉だけに浮いている。クラスで唯一の茶髪である俺が言うのもおかしな話だけど。


「では如月の席だが、木宮の前の席だ。木宮はあの茶髪の奴だ」


担任が俺の方を指差す。というか俺の髪の毛を指差している。

茶髪の奴って紹介が雑だなー。

そういえば俺の前の席は誰も座っていない。前々から気になっていたんだよ。

もしかして転校生が来ることを踏まえて空けておいたのか。

如月って名前は五十音順だと木宮の前になるし。ああそういうことだったのね。

一人で納得していると転校生の如月浮羽莉がこちらへとやって来た。


「よろしくね」


「あ、ああ、うんよろしく」


ニコッと微笑んで席に座る如月。

それを見た隣の女子が「わっ、ダブルイケメン!」と呟いた。

他の女子もコソコソと何やら囁き合っている。「銀と茶のコラボ」とか「イケメン転校生ライン」とか「後ろの眼鏡が邪魔」とか。


着席して前を向く転校生の後ろ髪を見つめる……襟足長いなー。そしてものすごく綺麗な銀髪だ。爺さんの白髪みたいな腐った色をしておらず鮮やかで光沢があってずっと見ていられる。謎の存在感がある。何より雰囲気が圧倒的だ。

そりゃ女子もキャーキャー言って当然か。


……ん、清水と姫子も……も、もしかして興味あったりするのかな。隣の女子みたいに見つめていたりするのか……むっ、それはなんか嫌だ。

チラッと清水、姫子の方を見れば、


「お、テリ~」


「……照久」


左側の席に座る清水と目が合うと清水は楽しげに手を振ってきた。そして右側に着席する姫子は転校生というか俺の方をガッチリ見つめていた。

え、何? 

とりあえずニコッと微笑んでみると姫子も手を振りかえしてくれた。

あ、なんかこの二人はそこまで興味津々ってわけじゃなさそうだ。良かった。……良かったとか言っちゃったよ俺。イケメン転校生に嫉妬していたのかよ。


「ど、どうしよう木宮。銀髪イケメン、茶髪イケメンと続いて黒髪地味クソ豚眼鏡が来るのってどう考えても場違いだよね」


「そうだなクソ豚眼鏡」


「やっぱり泣きそうだ!」


小金の悲鳴を後ろで聞きながら目の前で飄々と微笑む転校生を見つめていた。仲良くなれたらいいな。


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