優の存在(こと)
・・・・・・
「湊ぉー、こっちこっちー!」
「待ってよぉ・・・・優ー」
近所の公園で二人で走り回りながら遊んでいる光景
季節はそれこそ今と同じ春から夏に変わる頃で、俺達以外にも公園にはおじいちゃんおばあちゃんがベンチに座っている
俺らはこの公園で毎日のように遊んでいた
「今日は砂場でおままごとして遊ぼっか」
「うん!じゃあ僕はおうちを作るね」
「じゃああたしは食べ物を取ってくるね」
そういうと彼女は花壇にむかって走っていた
俺は落ちていた木の枝で砂場に線をかき、家の敷地を決める
「いてっ!?」
「おい、どこ見て歩いてるんだよ」
「あなただってどこ見てるのよ!」
嫌な会話が聞こえたので振り返る
見てみると、近所のガキ大将3人組と優がもめていた
「おい、それがぶつかってきた奴が言うことかよ?」
そう言うと3人組のリーダーが優に一歩近づく
考えるより先に体が動き、優の前に立ちふさがる
「優に手出すな!殴るなら僕を殴れよ!」
「なんだお前?俺様たちと喧嘩するつもりなのか?」
「君たちが優を殴るのは僕が許さない!」
・・・・・
キーンコーンカーンコーン
「気をつけ、礼。」
ふと顔を上げると、気付けば6時間目の授業が終わっていた
どうやらあまりに日差しが暖かくて寝てしまったらしい
あくびをしながら伸びをする
それにしても昔の思い出をみるなんて
「湊ずっと寝てたな」
「気付いてたんなら起こせよ」
「すんげー気持ち良さそうに寝てるから起こそうに起こせなくてな」
智仁が帰る支度をしながら俺に話しかけてくる
こいつは俺の斜め後ろの席で、位置的には窓側二番目の後ろから二番目だ
「それはどうも。そういやお前今日も部活か?」
「まーな、今は3年の引退が目前で顧問も熱はいってるからさ。気合いれないとな」
「そっか、試合いつだっけ」
「今週の土曜日が3年の最後の大会だな。2年生が少ない分俺も試合に出るから緊張するわ・・・」
「じゃあ暇だったら見に行くさ」
うちの高校のサッカー部は2年生が4人しかいない。また3年も今は5人程度なので、1年生もがんばればレギュラーになれてしまう
1年生がはいってくるまでは3年も10人くらいいたらしいが、時期も時期なので今は減ってしまった
智仁は中学時代、サッカー部のキャプテンだったらしく技術もあるので注目されている
支度を済ませた智仁はすぐさま部活に向かってしまった
「今日放課後はなんにもないの?」
かばんを背負った優が話しかけてきた
「特にないな」
「じゃあ買い物付き合ってよ!ひとりじゃさみしいし」
「なんで俺が・・・。てか、お前今日部活はどうしたんだよ?」
「今日は顧問の先生が出張だからOFFなんだ。たまには買い物くらいいいじゃんよー」
優は中学からバスケットボールをはじめてた。もともと運動神経は良かったものの、小学校では特に運動はしていなかった
中学入学前に「あたし、バスケやる!」といったときは少し驚いたが、部活にはいってどんどん上手くなっていくのにさらに驚かされた。
「なら部活の奴といけよ。俺といったってつまんないだろ」
「えー、ケチ。なんかおごってあげようと思ったのになぁー」
「行きます、是非行かせてください。」
彼女の手を握りながら頭を下げてお願いする
「やったー!じゃあ10分後に正門でまってるからね」
そういって彼女は教室を出て行った
なんでかこう、物でよく釣られてしまうんだよな
そう思いながら俺も帰る支度を始めた
「優のやつ遅いなぁ」
腕時計に目をやるとさっきから15分はかかっている
いつも時間には厳しいのにな
「ごめーん!」
そう思っていると下駄箱の方から彼女があわてて走ってきた
なんかさっきと髪型が違う気がする
「別にかまわねーよ。それよりなんで髪結んでるんだ?」
いつも彼女は髪の毛を結うことはしない。肩ぐらいまである黒い髪をいつも風になびかせている
でも、運動するときだけは結んでなくもなかったような・・・
「ちょっと気分転換だよ。この前湊が結んでる方がいいって言ってたからさ」
「なんかそっちの方が優らしいよ。似合ってる似合ってる」
そういうと彼女は少し照れながらうれしがった
こいつもなかなか単純な奴だな
「えへへ、ありがと。じゃあ買い物行こっか」
そういって俺らは歩き始めた
何を買うにしてもここらへんで買えるとしたら、商店街の八百屋で買える野菜くらいなので隣町のショッピングセンターで済ませるのが基本だ
隣町では電車で2駅だが、あるいても20分くらいしかかからないので歩くことが多い。
「あ、そういや授業中寝てたら昔の夢をみたよ」
「ふーん、いつぐらいのときの?」
そんな他愛もない話。
どんなにつまらない話でもこうやって返してくれる
「あれって幼稚園のときだっけ?優がガキ大将に絡まれてさ・・・」
「ああ!あれね!それくらいだったかなー、なんか懐かしいね!」
「あんときは大変だったわ・・・」
「あんときの湊ホントかっこよかった!今じゃ想像つかないくらい」
あの時、止めにはいったのだが当然勝てるわけもなくボロボロになってしまった
かっこつけた割りには情けなくて悔しかったのも覚えてる
「なんだよそれ。傷つくぞ?」
「冗談だよー!今も昔もかっこいいよ!」
そういうと彼女はオレの頭をツンと押した
いつもなら押し返すところなのだが、昼休みの出来事を思い出して照れくさくなる
「てか湊、あたしを守ってくれた後に言ってくれた言葉覚えてる?」
ちょっと真面目ななトーンで質問をされた
いきなり雰囲気を変えて話されたのでちょっとドキっとする
「そんな10年も前の話なんか覚えてねーよ」
そっけなく返してしまう。だって覚えてないものは嘘は言えないし
そうすると彼女は残念そうな顔で、
「・・・そっか。そ、そーだよね!もうだいぶ昔のことだもんね」
と頬をかるく掻きながら答えた
なんかすごく物寂しそうで落ち込ませることを言ってしまったかと思い、「ごめんな」と軽く謝った
「気にしないでいいよ!・・・あたしこそごめんね、なんか暗いムードにしちゃって」
「そんな気遣うなって。久しぶりにゆっくりできるんだか楽しくやろーぜ」
「そうだね!湊いいこというじゃーん!」
そういう彼女に明るさが戻ったみたいでホッとした
その後の買い物もさっきの空気が嘘みたいに楽しく過ごせた
やはり彼女といると落ち着く、なにより元気をもらう
できることならずっと遊んでいたいくらいだ
そしてこの日からオレは少しずつ気付き始めた
今まで「幼馴染」っていうことを言い訳にしてきた自分のことを。