温泉旅行へ、いざ行かん!!
「という訳で〜……!温泉旅館にやって来ました!!やっふ〜!」
全身で喜びを表現するボスにつられて、特にテンションの高かったエックス戦闘員達や八咫烏ちゃんも盛り上がりを見せた。
緩やかとはいえ山道を歩いてきた疲れもあるだろうに、一行は全くそれを感じさせない軽やかさで入口の方に向かう。
「ぜぇ、はぁ……き、君たち、ちょっと元気すぎやしないかい……?」
「あなたが運動不足なだけでは?」
「私とて、肉体スペックは一般ピープルなのだよ……戦闘員ならまだしもね……」
言外に能力持ちの化け物共と一緒にするな、と恨めしげな意図を感じる。
実に身軽なはしゃぎようを見せるボスらとは異なり、後から遅れて到着したソアレは満身創痍にも程があった。
シャツは汗でびっしょりと濡れ肌に付着しており、ちょっと大人っぽい紫のレースの下着が丸見え。
頬や首筋に張り付いた髪。
そして首筋から胸元へと伝う大粒の汗など、醸し出される色気は加減知らずだ。
……シャツにでかでかと印刷された"さいえんてぃすと"の文字から目を逸らせば、だが。
どうやらソアレの服飾センスは絶望的らしい。
「いやぁ〜。それにしても、まさかボスが商店街の福引で一等賞を引くとは……人生何があるか分からないっすね〜」
「ですねぇ〜。しかもせっかくだから全員で行こうだなんて、ボスってば太っ腹ですぅ!」
そう、今回どうしていきなり温泉旅館に?と疑問を抱いた方も多いだろう。
その理由は単純で、なんとボスがたまたま開催していた商店街の福引にて、見事に一等賞である「秘境温泉二泊三日の宿泊券(四名分)」を引き当てたからだ。
ちなみに足りない人数分はボスのポケットマネーから追加で支払われている。
先月のバイト代どころか先々月の分まで軽く吹き飛ぶ勢いだったが、それでもボスには退けない理由があった。
もちろん団員の中から四人だけ選ぶと、絶対に後腐れが発生するし……というボスとしての気遣いもあるのだが、それ以上に。
なんてったって温泉旅館だ。
温泉ですよ、温泉。
合法的に湯上り&浴衣姿の女性陣が拝めるのです。
それだけで行く価値がありますよ、ええ。
………と、実はボスの卑しい下心から今回の大奮発が成されたなんて知られた日には、きっと部下からの信頼は地の底に落ちてしまうだろう。
なのでボス、きちんと本音は隠し通しました。
……一部、何となく察している人は居たようだが。
「イリスちゃ〜ん、こっちこっち!早くチェックインしちゃうよ!」
「まったく……。ええ、今行きますよ」
子供のようにはしゃぐボスに対して、側近として色々と注意したいものが頭を過ぎったイリスであるが、もはや彼とも長い付き合い。
今更どうこう言ったところで意味が無いことは分かりきっている。
それに、せっかくの休暇だ。
下心ありとは言え、しっかりと全員が楽しめるよう実費を使ってまで場を整えたのは、他でもないボス本人である。
イリスは呆れたような笑みにどこか優しさを滲ませつつ、そっとボスに連れ添って旅館に足を踏み入れた。
「……ほんと、ボスは人たらしだねぇ。本人に自覚は無いんだろうけど」
なんて呟きを残して、ソアレもゆっくりとその後を追った。
◇◆◇◆◇◆
「ほぅらボス、とっておきの発明品を君に進呈しよう。前作からさらに改良を施した高性能迷彩マントだ」
「なんで???」
無事チェックインを済ませ、時間も時間なので早速温泉を楽しもうと各々脱衣室へ向かうことになった直後。
皆が出払ったことを確認したソアレがボスを引き止め、開口一番に放ったのが先程のセリフだ。
特に頼んだ覚えもないため、ボスは大変混乱した。
「なんでって、君も覗きたかろう?女風呂を。しかし彼女達相手にバレたらタダでは済むまい。一部はむしろウェルカムだろうけど……ともかく、そこでだ。優しい私から、日頃の感謝を込めたプレゼントさ」
「いらん気遣いすぎる……」
まずそもそもだ。
女湯を覗きたいと思ってる変態だと断定されていることが、誠に遺憾であるとボス。
おや違うのかい?とソアレは首を傾げるが、そこはちょっと立場上お答えしかねるので、黙秘を貫く。
「要らないのかい?」
「い、要りませんとも……」
「……ふふっ。体は正直なようだね」
「───はっ!?」
どうやらボスのおてては本能に従順だったようで、思考とは裏腹にソアレから迷彩マントを受け取ろうとしていた。
ええい、この悪い手め!
「……ま、ボスならそう答えるだろうと思ったさ」
「それは信用されてる、って事でいいのかな……?」
「さてね」
一通りからかって満足したのか、迷彩マントをしまいつつ実に楽しそうな笑みで支度を整えるソアレ。
綺麗に畳まれた浴衣とタオル、その上にアダルティな下着を乗せ、ボスの背中を押す。
「さて、それじゃあ行こうか。……ああ、先に言っておくけど、私は覗かれても構わないよ。アジトで何回も裸を見られてるしね。なんなら混浴でもするかい?」
「マジすか───じゃなくて、遠慮しときます!」
本能に負けそうになった己をビンタで正し、なんとか欲望を振り切るボス。
その姿を眺めてソアレはさらに愉快そうな笑い声を上げる。
「あははっ。やっぱり面白いね、君は」
「そりゃどうも……」
随分と滑稽に写ってるんだろうなぁ……と涙目のボスだが。
ソアレの表情を見る限りは、決してそんなことは無いのだろう。
◇◆◇◆◇◆
〜男湯サイド〜
「うおおおおっ!すげぇ広いぞ!」
「うおおっ!テンション上がりますね!」
ボスと一号君は、脱衣場の扉を開いた途端に目の前に広がった光景に興奮し、我先にと濡れた石畳の上を早歩きで進んでいく。
どうやら他に入浴中のお客さんは居ないようだ。
「あっ、二人ともあんまり急ぐと───!」
三号君の注意も虚しく、ボスと一号君はほぼ同時に足を滑らせすってんころりん。
「ぐほぁっ!?」
「あべし!?」
ボスは後頭部を、一号君は顔面を激しく強打した。
実に芸術的なすっ転び方に、二号君と三号君から爆笑の嵐が巻き起こる。
温泉では走っちゃダメ絶対。
気を取り直して、四人並んで体を洗いしっかりと汚れを落としてから、満を持して湯船に浸かる。
「「「「おおお〜……」」」」
体全体に、じ〜んと熱が広がっていくのを感じる。
湯の温度は普通のお風呂よりも少し熱いだろうか。
しかし疲労した体には実に心地良い。
このままふにゃけてスライムにでもなってしまいそうである。
「……そう言えばボス、入浴する時も仮面付けたままなんですね」
三号君、ふと湯気越しに見えたボスの仮面が気になったようで、何気なく聞いてみる。
そう言えば食事中とかも付けっぱなしだったなと。
すると、ボスは折り畳んだタオルを頭に乗せながら。
「いやまぁ、俺のアイデンティティだからね。もはやこれ付けてないと、"誰お前?"ってなっちゃうし」
「まぁ悪の秘密結社のボスですしね。身バレ防止としても大事ですよね〜」
すぃ〜……と横を流れていく二号君の意見も、ボスが滅多に仮面を外さない理由の一つである。
「あとなんか秘密を抱えるボスキャラっぽくてカッコ良いし!」
「ボスって何か秘密抱えてるんです?」
「いや別に?」
適当作画で即答したボスに呆れの視線が殺到する。
いやいや君達も何故か覆面被ったままやん、とボスさん。
確かに(エックス戦闘員一同)。
「……で、一号君はさっきから何やってるのさ」
「……漢の使命を……果たそうかと……」
一人、黙って三メートル程ある木製の仕切りを見詰めていたかと思えば、そんな事を言い出した一号君。
まぁ要するに覗きの作戦を考えていたらしい。
なんてしょうもない漢の使命なのだろう。
「こ、こいつ、決意のあまり世紀末みたいな顔面してるぞ……!」
「どんな作画崩壊だよ……」
ウルトラにメタい発言をしつつ、ドン引きの一同。
しかしそこでボス、研ぎ澄まされた凄まじい聴覚で仕切りの向こうの情報をキャッチ。
その様はまさにペル〇ナのよう。
「させるかぁ!」
頭上のタオルをぶん取ったかと思えば、一瞬にして全く同じ白のタオルが真横に出現。
二つのタオルを結んで固定し、拘束具の要領で投擲、回転しながら一号君に肉迫したタオルは、そのまま雁字搦めになり一時的とは言え一号君の動きを封じ込めた。
今がチャンスだ。
「二号君っ!」
「え、あっ、はい!」
バレーボールのレシーブの構えをしたボスの手のひらに、二号君が飛び乗る。
「どっせい!」
ボスの気合いと共に、人間打ち上げ花火と化した二号君が一瞬で暴走一号君の元にたどり着いた。
今にも拘束が解けそうな一号君の肩を掴み、「頭冷やせやゴルァ!」とでも言うかのごとく、湯船の方に投げ返した。
ドパァンッ!と勢いよく立ち上る湯柱。
騒ぎが落ち着くと、そこにはまるで漂流物のようにぷかぷかと一号君が浮かんでいた。
ナイス連携プレイである。
〜女湯サイド〜
「わふ〜ん♪」
他のお客さんが居ないのを良いことに、ウルフちゃんは犬掻きでスイスイと温泉を泳ぐ。
水分を吸収してヘタったケモ耳と尻尾の小さな揺れからも、彼女のご機嫌具合が分かりやすく伺えた。
「ふあぁ〜……♡染みるっすねぇ〜……」
肩までしっかりと浸かり、茜色に染まり始めた空を見上げながら八咫烏ちゃんがポツリと呟いた。
火照った顔はすっかりと緩みきっており、温泉の素晴らしさを如実に伝えてくる。
「あっはっは。たまの外出も悪くないかもねぇ」
「いつの間に……。ソアレ、お酒は控えた方が───」
「ん?ははっ、まぁそう硬いこと言わないでくれ。温泉は晩酌に限る」
「もう……」
やれやれとイリスから諦念の視線を頂戴したのは、岩の湯縁に寄りかかりながら、おちょこ片手にのんびりと寛いでいたソアレさんだ。
浮かべた桶には酒器が乗っており、ちょうど空になったおちょこにトクトク……と透明な液体が注がれる。
ちなみに中身は少し辛みが強めの日本酒だ。
この後どうなるかが容易に想像出来るため苦言を呈そうとしたイリスであるが、頬の火照り具合とテンションの微妙な高さから察するに、既にそれなりに酔っているご様子。
今更言っても遅いと判断したらしい。
「んぅ〜……あっ、ボスさんの声ですぅ!」
スイスイと自由自在な泳ぎを見せていたウルフちゃんが、唐突に耳を細かく動かしたかと思えば、目敏く仕切りの向こうに居るボスのお声を察知したようで。
嬉々としてザバァッ!と立ち上がった。
大量のお湯のベールがみるみる剥がれ、その引き締まったモデル顔負けの肉体が惜しげも無く晒される。
そのまま尻尾をぶんぶん振って男湯の方に突撃しようとしたが、さすがにイリスさんに止められた。
「……ああそう言えば、ボスに覗き用の迷彩マントを渡そうとしたんだがね」
「なんて事してるんですか」
「良かれと思って。まぁボスには遠慮されてしまったけれど……」
知らないうちに、とんでもない代物がボスに渡りそうになっていたという事実を知り、イリスさんは戦慄する。
しかもそれが、この前のデート尾行事件のデータを元に改良されたブツであると聞いて、何とも言えない表情になってしまった。
「ま、まぁ、さすがにボスは、覗きをするような人じゃないっすもんね」
「いんや、どうかな?今回は断っていたけれど、女湯への興味はあったように見えたね」
「「………」」
半数が赤面した空間を、冷たいからっ風がひゅ〜っと吹き抜ける。
ソアレは愉快そうな笑い声を噛み殺しながら、まぁ安心したまえと空を指差す。
「念のため、私の発明品を設置しておいたよ。なんだか湯気が多いとは思わないかい?」
「言われてみれば……」
「確かに、ちょっと不自然っすね」
怪訝そうなイリスと、不思議そうに辺りをキョロキョロ見回す八咫烏ちゃん。
ウルフちゃんはよく分かっていないのか気の抜けたおとぼけ顔だ。
「その名も、"R18規制エフェクト生成装置"。これさえあれば、仮に全裸を覗かれたとしても、相手側からは局部だけはピンポイントで湯気に隠れて見えなくなるのさ」
開発者曰く、搭載されたセンサーによって隠すべき場所を瞬時に判断し、湯気の映像を投影することで覗きから守ってくれる……らしい。
果たしてそれは守っていると言えるのだろうか、なんて野暮な質問は受け付けない。
「また無駄にハイテクな物を……」
色々と言いたいことはあるだろうに、ツッコミが追い付かず頭痛を堪えるような仕草を取ることしか出来ないイリスさん。
「ま安心したまえ。一応この仕切りの近くにも発明品が置いてあってね。覗きを企む不届き者を感知したら、即座に十万ボルト、ぴっぴ〇ちゅ〜……さ」
あ、この前手伝わされたやつってこれだったんだ……と絶妙なジト目になるイリスさん。
すると。
────ドパァンッ!!
突如として、男湯の方で巨大な湯柱が立った。
「えぇ……」とドン引きする一同。
誰一人状況が把握出来ない中、ただ一人だけ事情を理解したらしいソアレは、肩越しに僅かに振り返りながらくすりと笑みを浮かべた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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