デートの裏では……
「せっかくですしボス、ウルフちゃんに何かご褒美を与えては?」
というイリスさんの優しい提案から始まった、ウルフちゃんのご褒美デート計画。
皆さんご存知の通りデートは大成功、二人の関係はより進み、ウルフちゃんのモチベーションはぐぐ〜んと上昇したことだろう。
さて、では今回は。
そんな甘ったるいボスとウルフちゃんの一日を、密かに背後から追いかけていた者達の話をしよう。
◇◆◇◆◇◆
私服に黒のロングコートを羽織ったボスが、ぽけ〜っとベンチに座っている。
おそらく何も考えていないであろう彼から10mほど離れた位置に、品揃えの悪い自動販売機が二台並んでいた。
その影から、気付かれぬようトーテムポールのようにひょっこり顔を覗かせる存在が。
上から八咫烏ちゃん、イリスさん、一号君である。
「あのぉ〜……本当にやるっすか?」
「無論です。目を離した隙に間違いがあったらどうするつもりですか。正気を保てませんよ、私が」
「ほんと、どうして許可したんですか……」
真顔で言い切ったイリスさんに、一号君の呆れが混じった言葉が突き刺さった。
だって……!だってあそこで駄々を捏ねたら、ボスに子供っぽいとか思われちゃいますし……!とイリスさん、苦渋の思いを吐露。
どうやら中々に迷った末の譲歩だったらしい。
「ボスとて一人の男なんです。もし初デートでいきなり手を出すような、節操のないケダモノだったなら……パリッとやってしまいましょう」
イリスさんの手のひらで最小威力の電撃がバチッ!と音を立てた。
何がなんでも間違いを起こさせないというその姿勢に、八咫烏ちゃんは苦笑い、一号君は同じ男としてボスに同情の視線を送る。
その時。
「ボスさぁ〜んっ!」
「「「!?」」」
人混みの中をスルスルと駆け抜け、猛烈な勢いでボスに突撃する者が居た。
愛らしい狼ガール、ウルフちゃんである。
自慢のケモ耳と尻尾をピコピコ、ぶんぶんと荒ぶらせて、好意全開でボスに抱きつく。
その際、彼女のご立派な凶器が思いっきりボスに押し付けられ、服越しでも分かるくらいぐにぃ……!と潰れた。
イリスさん、目を見開いてビシッ……!と石化。
「えへへ〜!お待たせしました!」
仮面に頬を擦り付けながら、これでもかとお尻をグリグリ、胸をムギュムギュ。
イリスさん、震える手で自分の胸をぺたぺた。
返ってくる感触にガーンッ!と打ちひしがれた。
彼女の名誉のために補足しておくが、決してイリスさんの胸は小さくない。
いわゆる美乳というやつだ。
断じて微乳じゃない。
むしろウルフちゃんが大きすぎるのだ。
「………!」
イリスさん、ぷるぷる涙目で震えながらすくっと立ち上がり、雷撃をスタンバイ。
慌てた八咫烏ちゃんと一号君が止めにかかる。
「い、イリスさん!落ち着くっす!」
「まだ序盤ですよイリス様!一旦ステイが賢明ですって!」
「……!」
尾行がバレないよう、最低限の動きかつ最大限の力でぐぎぎぎっ……!とイリスを引き戻すお二人。
涙目のイリスが落ち着く頃には、息切れが止まらなくなった八咫烏ちゃんと一号君であった。
そんな裏の事情は露知らず、時間が惜しいと早々に始まったボスとウルフちゃんのデート。
まず向かったのは、何やら最近開店したらしい有名なスイーツ店だ。
恋人繋ぎしたウルフちゃんに手を引かれ、ボスは興味深そうに配られたメニュー表を眺めている。
「……ふふっ……だ、大丈夫。大丈夫なのです。手を繋ぐことくらい、私もしたことありますから……ぐすんっ」
虚ろな瞳でぶつぶつ呟きつつ、何とか自我を保とうとする様は、その、何というか……とても可哀想な人だった。
建物の間の路地に身を潜め、スイーツ店を凝視する三人には、通行人から不審者を見る目がプレゼントされる。
彼らの視線がよく物語っていた。
通報しようかどうか迷っていると。
「イリス様って、こんなキャラだったっけ……?」
「なんか、ボス絡みになると一気にメンタルが豆腐になるみたいっすね〜……」
親指の爪をガジガジしてもおかしくないテンションのイリスに、保護者兼お目付け役のお二人にも困惑が混じっている。
……あ、ちょっとそこの小学生、防犯ブザー鳴らそうとしないで!
「っ、八咫烏ちゃん、あれ!」
「どうしたっすか?あれって───っ!?」
ふとスイーツ店の方に視線を戻した一号君が何かを発見したようで、大慌てで八咫烏ちゃんの肩をツンツン。
戸惑い気味だった八咫烏ちゃんも、その光景を目にして言葉を失った。
非常に観察しやすい窓際に座っているため、何の障害もなく全面公開されたその光景……イリスさんのメンタルをごっそり削るには充分だった。
「ヴォエッ」
「ついに吐いたぁあああ!!」
「どんだけ見たくなかったっすか……」
四つん這いに崩れ落ちたイリスさんから、普段聞かないような潰れた悲鳴が捻り出される。
それだけ「あ〜ん」の威力は絶大だったようだ。
後にボスの方からも「あ〜ん」したと知り、イリスさんは血涙を流した。
一方、その場の雰囲気に当てられた人々が、砂糖を吐き出すマーライオンになるレベルの、甘ったるい一部始終を目撃した八咫烏ちゃんは思わず赤面、一号君は「リア充滅ぶべし」と怨嗟の瞳を向けたという。
◇◆◇◆◇◆
さて、イリスさんおゲロゲロ事件から程なくして、次にボスとウルフちゃんが向かったのはフィットネスジムだった。
何ともウルフちゃんらしいチョイスに、八咫烏ちゃんと一号君はほっこり。
「………そう言えば、ボスって能力者なんっすよね」
「そうだよ。……あそっか、八咫烏ちゃんは入ったばっかりだもんね」
ボスは特殊能力を扱う、いわゆる"能力者"という存在。
この世界には、常人離れした常識外れの能力を身に付ける者が一定の割合で生まれ、ヒーローになったり、ヴィランになったり、そのまま一般人として生活していたりする。
イリスさんの"雷"や三英傑が一人、"勇者"の力が良い例である。
ボスもその能力者であることは、入団時に八咫烏ちゃんも聞かされていた。
が、実は具体的な能力については知らない。
一応言っておくが、隠してる方がカッコ良いからという理由で話してなかっただけで、別にトップシークレットとかそういうんじゃない。
「ボスの能力は───」
「「「「うおおおおっ!?」」」」
突如として響いた野太い声に遮られて、一号君の言葉はかき消されてしまった。
本当は最後まで聞きたかったが、それどころではないことを察して二人は視線と意識をボスとウルフちゃんの方に戻す。
どうやらウルフちゃんが限界まで積んだベンチプレスを軽々と持ち上げ、それを目撃した筋肉の妖精達が大盛り上がりした、というのが現状らしい。
「な、なんだってぇえ!?」やら「そこにシビれる憧れるゥ!」やら聞こえてくる。
「……ウルフさんって、別に筋力アップとかの能力じゃなかったっすよね」
「うん、普通の"狼"だけだったと思うけど……」
改めて、脳筋幹部のバグってる加減を再確認した二人であった。
……ちなみに。
「止めないでください。ボスの性癖が歪む前に矯正しなくては……!」
「ステイステイ!落ち着くっすよぉ!」
「ちょ、それ矯正じゃなくて去勢になっちゃいますって!」
手のひらに凄まじい電撃をスパークさせながら、据わった瞳でズンズン進もうとするイリスを引き止めるのが、今日一で大変だった。by八咫烏&一号
スポーティウルフちゃん相手に、若干ソワソワしていたボスに対して、イリスさんは正気を失いかけてしまったのだ。
あの元〇玉みたいな雷の塊が放たれていたら、フィットネスジムは筋肉の妖精諸共、黒焦げになっていただろう。
◇◆◇◆◇◆
「こっちだよ」
ボスに手を引かれ、丘を登るウルフちゃん。
その後ろを、八咫烏ちゃんの風とソアレ開発の迷彩マントというガチ装備で、万が一にも気付かれぬよう御三方は追いかける。
丘の上のベンチに座ったボスとウルフちゃんは、まるで恋人のように寄り添っている。
「ウェッ」
イリスさんがまた嫉妬という名の毛玉を吐き出す猫と化した。
少し肌寒いと感じたタイミングで温かいお茶を手渡したボスに、「さすボス」と合いの手が入る。
「今日は楽しめたか?」
「はいっ!ボスさんと一緒でしたから!」
頭上に煌めく雄大な星々も、眼下を彩る人工の天の川さえも霞む満開の笑顔に、八咫烏ちゃんから「ふわぁ……」と感嘆のため息が漏れる。
「ボスさんはどうでした?その……楽しかった、ですか?」
上目遣いでそう問いかけるウルフちゃん。
実にあざとい。
四つん這いで万感の想いを吐き出していたイリスさんも、さすがにピタリと固まる。
そこで。
「もちろん、楽しかったよ。すっごくね」
ボスの優しい声色の言葉は、少し離れた位置で隠れていた三人にもはっきりと聞こえた。
「あ……えっと、その………良かった、ですぅ……」
珍しくしおらしい反応に、八咫烏ちゃんもキュンとしたのか、声には出さないがキャーキャーとはしゃいでいる。
一号君、リア充の織り成す桃色空間にやさぐれる寸前である。
「えへへ♡絶対にまた二人で来ましょうね!」
「気が向いたらな」
言葉とは裏腹に、ボスの表情はとても柔らかかった。
それが何よりボスの気持ちを物語っていた。
反対方向に盛り上がる八咫烏ちゃんと一号君はさておき、しばらくしてイリスさんはゆっくりと立ち上がる。
「あ、あの……イリスさん?その、大丈夫っすか……?」
ハッと気が付いた八咫烏ちゃんが遠慮気味に声をかける。
が、反応はない。
そこですすっと移動し、横から顔を覗き込んで………「ぴぇっ」と小さな悲鳴を上げた。
「なるほど……やりますね、ウルフガール。そちらがその気なら、私もうかうかしていられません……」
決意に満ちたその瞳は、まさに"覚悟を決めた女"の瞳だった。
要するに燃えていた。
恋敵との壮絶な戦いを予知し、女の本能をその冷たい瞳にメラメラと宿らせたのだ。
これ以降、イリスさんはボスにそれとなく甘える機会が増えたらしい。
────オマケ────
どうも、秘密結社Xのボスです。
唐突ですが何故か最近、イリスさんの距離が近いように感じます。
「どうぞ、ボス」
「ありがとー」
イリスさんが気を利かせてくれたようで、お茶を入れてきてくれました。
しかしお盆を持って立ち去るのかと思えば、何故か机の端にお盆を置き、隣にストンと腰を下ろします。
近いです。
肩がぶつかりそうです。
何を隠そう私、陰キャ非モテ童貞男です。
自慢ではありませんが、女性に対しての免疫は一般男性よりも低いと自負しております。
そこで、何とか平常心を保つため、少し横にズレてみます。
「………」
ところがどっこい。
イリスさん、無言で距離を詰めてきました。
今度は肩がピッタリとくっつき、さらにはその可愛らしいお顔をコテンと肩に預けてきます。
ふわあぁあぁあぁあぁあぁ!?(ビブラート)
なんか良い匂いがっ、ちょ、その上目遣いは反則でしょう!!可愛いかよ!!
「あの……イリスさん、どうかした?」
「………いえ、別に。ただボスに甘えたくなったので」
ええ、私はウルフちゃんの全力パンチが腹部に直撃したかのような、それはもうものっそい強い衝撃を喰らいましたよ。
甘えたいですって?
あらやだあなた、子供の頃から中々言い出せずにいたことをついに……!
お父さん嬉しいわぁ!
「あの……」
「?」
「頭、撫でても良いっすか」
「!……どうぞ」
「あざっす」
久しぶりに、その美しい銀髪をなでなで。
ふおおおおおっ。
柔らかっ、スベスベっ!
ふおおおおおおおっ!
決して邪な考えはありません。
私は組織のボスとして、部下の求めることをしたに過ぎないのであります。
この後、作業が終わるまでひたすらにイリスさんを撫でくりまわしました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
誤字脱字報告、感想等やブクマ、評価など、ぜひともよろしくお願いします!!(*^^*)
・そこにシビれる憧れる……「ジョジョの奇妙な冒険」より
・元気玉……「ドラゴンボール」より




