勇者は自重を知らない
勇者君の修行回、これにて終了です!
ユウキが山に籠ってから一ヶ月ほど経った。
色々と紆余曲折あったものの、何とか「まぁ卒業しても……良いか?」くらいには成長したので、ついに山を降りることになった。
決して、刃が「もう面倒を見切れない……」と匙を投げた訳ではない。
ないったらないのだ。
いや本当に。
爽やかフェイスから撒き散らされるキラキラが鬱陶しいとか、一向に治る気配の無いご都合解釈に呆れ果てたとか、そんな事は一切無い。
「師匠、ありがとうございました!」
ユウキが勢いよく頭を下げた。
気を付けをし、ピシッと正した背筋を倒して最大級の感謝を伝える。
顔を上げたユウキの表情はすっかりと憑き物が落ちたようで、従来の純度100%の爽やかさと意味不明なキラキラが戻っていた。
彼の周囲を彩る煌めきが刃の元にも降り注ぎ、すこんっ……と額に当たって地面に落ちる。
心なしか刃の頬が引き攣っていた。
「僕、頑張ります!ヒーローとしてもっともっと腕を上げて、いつかこの世界に平和をもたらしてみせますから!」
「うん、そうか………まぁ頑張れ、な」
苦笑い混じりに刃は視線を逸らす。
それは、このどうしようもない勇者君を更生させられなかっただけでなく、さらなる悪化を招いてしまった事への後悔の念である。
どうやらユウキ君。
「綺麗事でも大いに結構」と刃さんから頂いたありがたいお言葉を、自慢のご都合解釈で曲解してしまったようなのだ。
彼女の言葉の字面だけを真正面から受け取り、「自分こそが世界を変えるんだ!」と息巻いている。
結果的にユウキの根本的なスタンスは修行前から一切合切変わっておらず、むしろ悪い方向に独走状態。
もはや誰にも彼を止めることは出来ない。
刃さんは「もう本人が納得してるならそれで良いか……」と途中で諦めた。
「師匠の教え通り、僕が正義の象徴になります!皆を導く、本当の正義のヒーローに!」
「いや何それ知らん、怖ぁ……」
人の話も聞かずに、キラキラを振り撒いて己の決心を握り拳と共に表明するユウキ君。
彼が幼い日より憧れた、特撮番組の主人公のようにに。
人々を守る正義の象徴。
悪を前に決して挫けることのない、ラブアンドピースを掲げるヒーローになると。
ユウキは改めてそう心に誓ったのだ。
いいセリフだ。
感動的だな。
だが意味不明だ。
刃は本当に……本当に、苦々しい表情を浮かべていた。
全くもって言った覚えのない"教え"を、さも当然のように心に抱かれても困惑するばかりだった。
それとも自分の記憶に無いだけで、もしかしたらそのようなおかしな"教え"を自分はしてしまったのだろうか。
危うく"存在しない記憶"が脳裏に蘇りそうになり、刃は慌てて己の顔を横に振る。
ユウキのご都合解釈は他人にも伝染するらしい。
なんて厄介な病原菌なんだ……。
「本当にありがとうございました!たまにご挨拶にお伺いします!それでは!!」
「いや来なくて良いぞ、本当に」
刃さんまさかのガチ拒絶。
街角アンケートを全力でお断りする中年男性のように、真顔で手のひらを向け丁重に断りを入れる。
しかし肝心のユウキはそれにすら聞く耳を持たず、一方的に別れを告げてさっさと山道の方へと走って行ってしまった。
嵐が去った後の静けさが刃の元に訪れる。
「いやほんと、来なくて良いからなー。と言うか絶対に来るんじゃないぞー……」
即行で見えなくなってしまったユウキの背中に向けて、刃は念を押すようにそう口にする。
もちろん答える者は誰一人として居ない。
「……う〜ん、引っ越すか?」
割とガチトーンで放たれた本音だった。
一応ユウキ君の名誉のために言っておくが、決して刃も彼のことが"嫌い"という訳ではないのだ。
ただ、あんまり同じ空間に居たくは無いと言うか、あんまり傍で喋って欲しくないと言うべきか……。
彼がどんな理想を掲げ、奔走しようが、正直言って刃にとってはどうでも良いし、好きにやれば良いと思う。
しかし自分の生活に関わってくるというならば話は別である。
せっかく人里離れた良い住処を見つけたと思ったのに……。
まさか、また引越しを考えることになるとは。
「……まぁ、しばらく様子を見るか……」
さすがに即座に引越しは早計と判断したらしい。
しばらくはここに定住する決意をしたようだ。
ご覧の通り、またしても知らず知らずのうちに他人の人生に、悪い意味で大きな影響を与えてしまったユウキ君であった……。
───あれ、僕またなんかやっちゃいました?
────オマケ────
数日かけて、元の担当地区である町に帰ってきたユウキ君。
久しぶりの過ごし慣れた土地に、実家のような安心感を感じながら歩いていると……。
「良かったね、小雪ちゃん」
「はいです!ソアレ様、ありがとうございます〜!」
「ふふっ、どういたしまして」
ボスにエンカウントした。
謎の幼女と仲睦まじく手を繋ぎ、ニッコニコなだらしない表情を浮かべる秘密結社Xのボスと。
そして幼女の反対の手を握るのは、かの有名な秘密結社X所属の大物ヴィラン、マッド・ノクターンではないか。
ユウキは即座に事態を察した。
幼気な女の子が、ヴィランに誘拐されている───!と。
「待て、ファントム!今すぐその女の子を離すんだ!」
「───げっ」
振り返ったボスの表情が、芸術的なまでに顰められた。
先程までのハッピーな表情からは180度真逆。
まさに天国から地獄に突き落とされた感じだ。
「おや、勇者君じゃないか。これまた久しぶりだね」
「師匠の元で修行をしていたんだ!それよりも、まさかそんな小さな女の子を誘拐するなんて……お前たち、今日という今日は許さないぞ!!」
「え?え?」
小雪ちゃんは完全に困惑していた。
助けを求めるように左右のパパとママに視線を行ったり来たりさせる。
いやマジで、空気読めよ勇者この野郎。
「ほんっっっっっっとうに、何なんだよお前はぁ!!」
ボスの多大に呆れとうんざりを含んだ嘆きが、ザワつく町中に吸い込まれて行った。
勇者君もついに、ひと皮剥けましたね……(白目)
・いいセリフだ。感動的だな。………『仮面ライダーディケイド』より、海東純一のセリフ
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