やはり筋肉、筋肉は全てを解決する
今日も今日とて、秘密結社"X"の戦闘員達は世界征服のため町へと出撃していた。
「ふっ、今日こそはお縄についてもらうぞ、秘密結社"X"の面々よ!」
「むっ!?」
「あ、あれは……!」
三号君が二階建ての建物の屋上を指さす。
そこには真っ赤なマントをはためかせる筋骨隆々な男が、腕を組んで立っていた。
「貴様らの横暴もそこまでだ!とうっ!」
ズンッ!とエックス戦闘員達と相対する位置に着地した赤マスクの男は、マントを払い除け名乗りを上げる。
「私はヒーロー、マッスルマン!市民の方々に迷惑をかけるヴィランは、私が倒す!」
「お、おのれぇ……!」
ギリッと歯を食いしばった一号だが、すぐさまチラリと目線を送りつつ二号、三号と共にマッスルマンを囲む。
「ふっふっふっ、いくらプロヒーローと言えど、多勢に無勢だろう!」
「ケッ。ちゃっかり女の子から黄色い声援貰いやがって……タコ殴りじゃい!」
「へへっ、久々にキレちまったよ……」
「……あの、どう考えてもセリフがフラグ──」
「かかれぇーー!」
八咫烏ちゃんのツッコミを遮り、一号二号三号は同時にマッスルマンに飛びかかる。
その形相はまさに鬼。
嫉妬という名の邪な感情が、彼らにさらなる力を与える───!
「マッスルパーーンチッ!!」
なんて事は無く、極限まで鍛え上げられた筋肉によって発生した衝撃波でまとめて弾き飛ばされ、仲良く犬〇家。
しばらくジタバタもがいた後、動かなくなった。
あまりにも虚しい。
「全くもう……ほらほら、今日のところは撤退するっすよ〜」
「む、無念……」
両足を持って大根のように引っこ抜かれる、砂まみれのエックス戦闘員達。
真正面でモロに衝撃を喰らった一号に至ってはガチ気絶しているらしい。
くてぇ……とした一号を担いだ八咫烏ちゃんは、漆黒の翼をはためかせ空へと舞い上がる。
二号と三号も風に乗せられ強制連行。
まるで公園で遊び疲れた子供とお母さんだ。
実情はあまりにも違いすぎるが。
「ま、待て!逃げる気か!」
「はい〜。撤退っす〜」
追ってこようとしたマッスルマンに特大の竜巻を放ち、八咫烏ちゃんは足早にその場を後にした。
マッスルマンもすぐさま竜巻を拳で粉砕して周囲を見回すが、既に彼女らの姿は見えなくなってしまっていた。
◇◆◇◆◇◆
「───という訳で、厄介な相手だったっす」
「う〜む……まさか八咫烏ちゃんの竜巻を素手で粉砕とは……」
アジトにて、打倒マッスルマンに向けた作戦会議が行われていた。
八咫烏ちゃんからの報告を聞いたボスは腕組みして思わず唸る。
竜巻──そう、言わずと知れた自然災害の一種だ。
それを素手で破壊するようなヒーローが相手となると、さすがに八咫烏ちゃんでは決定打に欠ける。
「……で、一号君達は?」
「二号さんと三号さんはトレーニングルームに行くって言ってたっす。一号さんは研究室……たぶん、ソアレさんに会いに行ったのかと……」
「ああ……」
すっ、と目を逸らす八咫烏ちゃんとボス。
あんな筋肉ダルマに負けてられるかいっ!と、トレーニングルームに向かった二号と三号はともかくだ。
一号君が研究室に向かったと報告した/聞いた途端にこれである。
まるで死地へと向かった戦友へ、心の中で敬礼するかのような雰囲気だった。
「無事だと………良いね……」
「っすね……」
肘をついて口元を隠す、いわゆるゲ〇ドウポーズで漢の無事を祈るボス。
気持ちは八咫烏ちゃんも同じだった。
………さて、気を取り直して。
「まぁ真面目な話、相手が筋肉ならあの子に任せるのが一番だと思うんだけど……」
「っすね。ウルフさんは今どこに?」
「…………トレーニングルーム……」
「あっ(察し)」
深々と俯いたボスの言葉に、八咫烏ちゃんの表情が固まる。
なんてタイミングの悪い。
そう思った時、会議室のドアが勢いよく開かれた。
「ボスさ〜ん!呼びましたっ?」
「あぁうん、そうね」
まるで外で出番を待っていたかのようなジャストタイミングで、会議室の扉をぶち壊しながら乱入してきた少女。
マッスルマンへの報復が可能な数少ないエックス戦闘員である。
苦笑い気味に扉を直す八咫烏ちゃんからは目を逸らしつつ、少女は担いでいた物体を机の上に降ろす。
「お届け物で〜す!」
それは、なんとトレーニングルームに向かったと聞いていた二号君と三号君の亡骸であった。
アイデンティティの全身黒タイツ&覆面が、所々擦り切れボロボロという実に悲惨な姿だ。
たぶんマッスルマンと戦った時よりダメージがある。
「勇敢な英霊達に、敬礼ッ」
「………まだ……生きて、ますよ……」
「……か、勝手に殺さないで……ください……」
「あ、無事だったのね」
「「なんとか……」」
生きてはいるらしい。
とは言え戦闘不能状態には他ならず、サムズアップするのが限界なよう。
二人は「「あいるびーばっく……」」と呟きながらタンカーで運ばれて行った。
「えー……こほん。それじゃあ三人の仇は任せたぞ、"ウルフガール"よ!」
「はい、任されましたっ!」
元気よく笑顔で敬礼するウルフガールであった。
◇◆◇◆◇◆
「──うむ、今日も町は平和だな!」
近隣のパトロールを終えたマッスルマンは、公園のベンチで一服していた。
自動販売機で買った缶コーヒーを口元で傾ける。
マッスルマンは通称"三英傑"と呼ばれる、ヒーロー協会でもトップクラスの実力者。
そんな彼がパトロールしてくれるとあれば、確実な安全が保証されると言っても過言では無い。
そのため人々は安心して生活することができ、通りかかれば口々にお礼を述べていた。
仮に応援が無くともヒーローとして活動することに迷いなどないが、やはり自分の頑張りで人々が安心してくれているのだと知ると、どうしても嬉しくなるというものだ。
そんな平和な昼下がりを、突如としてぶち壊す存在が現れた。
「……あ。貴方がマッスルマンとやらですね?」
「いかにも私はマッスルマンだが……君は?」
横からひょっこりと顔を覗かせたのは、高校生くらいの獣人少女だった。
この世界での獣人とは、能力の発現によって獣の特徴を得た人を指す。
どうやら少女は狼の獣人らしい。
灰色のケモ耳と尻尾は思わず触りたくなるくらいモフモフで、サラサラなストレートヘアも同色だが、瞳だけが翠の鮮やかな色彩を持つ。
加えて、中々に際どい服装だ。
どこぞの民族衣装と言われてもおかしくない薄着&ミニスカ。
腕に装着している大きな狼の足は武器なのだろうか。
鋭い爪がギラリと光を反射している。
日中からこんなコスプレみたいな格好する人って居るんだ……と引き気味だったマッスルマンだが、彼女が羽織っている黒のローブに刻まれた"X"印を見つけて、思わず目を細めた。
「貴様は、まさか……!」
「ご明察っ、ですぅ!私こそ秘密結社Xの幹部、ウルフガールですぅ!」
チュドーンッ!と灰色の爆発が、ウルフガールと名乗った少女の背後で起こる。
ちなみに装置の起動要員は唯一奇跡的に無事だった一号君だ。
「幹部だと……!?なるほど、この前の報復に来たという訳か……!」
「正解ですぅ!」
「………すまん、ちょっと良いか?」
「どうぞ、ですぅ」
「……彼はその、何故あんなにボロボロなんだ?」
"彼"というのは、無論一号君である。
何を隠そう一号君、奇跡の生還を果たしたとは言え、きっちりマッドな実験には付き合わされたのでボロボロ状態なのである。
少なくともヒーローが思わず心配しちゃうくらいには。
「ちょっと実験で失敗したみたいで」
「実験でああなるのか!?」
「二号さんと三号さんは今も集中治療室ですぅ」
「一体何の実験をしたんだお前達は!」
「あぁいえ、お二人は私がトレーニングでちょっとハッスルしすぎちゃって……」
「それはもはやトレーニングなのか!?」
マッスルマンの戦慄が止まらない。
ヤバい奴らを見る目でウルフガールと一号を見つめる。
実際、世界征服を目論んでいるのでヤバい奴らなのは間違いない。
「……ま、まぁ良い。報復に来たんだったな。返り討ちにしてくれよう!」
気を取り直し。
マッスルマンはコーヒーをベンチに置きつつ構えを取る。
ウルフガールも話が早くて助かる、と笑みを浮かべた。
「小難しいことは苦手なので……さっさとかかってくるですぅ」
「むぅ……!」
ピリッと空気が張り詰める。
ウルフガールが只者ではないことを、彼女の雰囲気から察したのだろう。
マッスルマンの額を冷や汗が伝う。
「くっ、最初からフルパワーで行くぞ!喰らえっ、マッスルギャラクシーッ!!」
"三英傑"マッスルマンのフルパワーで放たれた必殺技、マッスルギャラクシー。
高い防御力を誇るシェルターだろうが要塞だろうが軽々と粉砕する、まさに必殺技と言うにふさわしい攻撃だ。
衝撃波を帯びた拳が、真っ直ぐにウルフガールに突き刺さる──。
ドゴォオオオオンッ!!!
激しい衝撃と轟音が乱舞し、巻き上げられた砂煙が踊り狂う。
しばらくすると突風が収まり、パラパラと残骸が地面に降り注ぐ。
手応えはあった。
が、マッスルマンの顔色は優れない。
何故なら……。
「……ぷはぁ。ふふっ、まぁまぁな一撃ですぅ」
「………ッ!?」
砂煙が晴れ、姿を表したのは。
無傷でニヤリと笑みを浮かべたウルフガールであった。
マッスルマンの拳を左の手のひらで受け止めており、直撃したことに間違いはない。
あれだけの威力を真正面から浴びてこれなのだ。
この時、頬の引き攣ったマッスルマンと、一人吹き飛ばされ木にぶっ刺さっていた一号君が思った事は同じだった。
こいつ、化け物だ……と。
「じゃあ、次はこっちの番ですぅ!」
ウルフガールの無邪気な声でハッと我に返ったマッスルマン。
握り締められたウルフガールの右拳が唸り声を上げる。
あ、死ぬ……瞬時に脳裏でそう理解し、長年の経験が刻まれた肉体は即座に筋肉を固めガードの姿勢を取る。
直後。
「どっかーーんっ、ですぅ!!」
「ぐほぁあっ!?」
放たれたのはただの正拳突き。
が、それが腹にめり込んだマッスルマンは後にこう語った。
やはり筋肉、筋肉は全てを解決する……と。
凄まじい勢いでぶっ飛ばされたマッスルマンが激突した木は、半ばからバキバキッ……と音を立てながらへし折れてしまった。
「よしっ。……えへへ、帰ったらボスに褒めてもらうですぅ!」
マッスルマンが起き上がらないことを確認し、ウルフガールは小さくガッツポーズ。
倒れたヒーローに既に関心は無く、早く帰ってボスに褒めてもらうことしか頭になかった。
「痛たた……ウルフちゃん、大丈夫?」
「ばっちぐー、ですぅ!さ、敵討ちも済んだことですし、早く帰りましょう!」
何とか自力で戻ってきた一号君と合流し、二人は通報される前にそそくさとその場を離れた。
"三英傑"マッスルマンの敗北は、秘密結社Xの名を大きく世に知らしめることになった。
───オマケ───
帰宅後、ウルフガールのご褒美なでなでタイムにて。
「……え、一撃?」
「はい」
「一撃にしか見えない速度のラッシュとかじゃなくて?」
「はい」
「ワンパン?」
「はい」
「……マジ?」
「……マジです」
一号君からの報告を受けたボスは思った。
何それ知らん、怖ぁ……と。
ウルフちゃんを撫でる手が一瞬止まったボスであった。
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・犬神家……『犬神家の一族』より
・ゲンドウポーズ……『新世紀エヴァンゲリオン』より
・あいるびーばっく……『ターミネーター』より
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