ママァ!!
本日もまた、世界征服に向けた侵略活動(笑)に精を出す、秘密結社Xのメンバー達。
今回出撃したのは、八咫烏ちゃんとエックス戦闘員の三人である。
「へ〜。そっか、お土産喜んでくれたんだ」
「はいっす。特にお父さんは大喜びで、額縁に入れて飾ったりなんかしてて……こっちが恥ずかしいくらいっす」
八咫烏ちゃんの照れ笑いに、一号二号三号はそろってほっこりした気持ちになった。
家族って良いね……。
うん、良いね……。
前日、八咫烏ちゃんは温泉旅館でのお土産として、たくさんの写真と茶葉を持って実家に帰省した。
ボスの助言通りに喜んでくれるのかと多少の不安を抱いていた八咫烏ちゃんであるが、実際に渡してみると思っていた以上に……というか、こっちがもうやめてと赤面して懇願するくらいには歓喜されたらしい。
特にお父さんに。
元から自他共に認める親バカであったお父さんは、娘が少し早めの独り立ちをしてしまい、日々寂しい思いをしていた様子。
そこに娘成分が過剰供給されたのだから、そりゃあ狂喜乱舞してもおかしくはあるまい。
豪華な額縁に入れて玄関やらリビングに飾った時点で、羞恥心に耐えられなかった八咫烏ちゃんにしばかれたが。
「愉快なお父さんだねぇ」
「娘としては恥ずかしい限りっす……」
一号君らの温かな眼差しに耐えられなかったのか、八咫烏ちゃんはお父さんへの恨み言を呟きつつそっぽを向いてしまう。
あら可愛い。
そんな、侵略行為とは程遠い、ほっこりした雰囲気を漂わせていた秘密結社Xの面々。
それじゃあさて、そろそろ始めますか……と気合いを入れようとした、その時。
空から何かが落下してきた。
ドゴォオオオンッ!と重い地響きを唸らせつつ、巻き起こった凄まじい風圧が公園の土を捲り上げ、勢いよく周囲に散らす。
「のわぁあ!?」
とりあえず、一番近かった一号君がぶっ飛んだ。
フィギュアスケートの選手も真っ青な空中きりもみを披露し、うつ伏せでビタンッ!と着地。
そのまま何回もバウンドしてジャングルジムに叩き付けられた。
一方二号君は、吹き飛ばされた際に上手くバックステップを挟んだ事で衝撃が緩和され、空中でクルクル回転。
ヒーローのようにかっこいい見事な着地をキメた。
………が、最後の詰めが甘く、決めポーズのために伸ばした左足を軽く捻挫。
グキッ!という死刑宣告音と共に、二号君の左足首に激痛が走る。
二号君、無言で撃沈。
そして三号君に関しては、安定の砂場で犬〇家だ。
彼が一体何をしたと言うのか。
「この風は……」
「くっ!さてはヒーローのご登場だな……!?」
「なんか今日来るの早くない?」
「ほら、俺らいつもこの公園来るから、ヒーローからマークされてんじゃないの?」
さすが皆さん、慣れた様子で各々の状況から脱出し配置に戻る。
復帰が早い早い。
ちなみに三号君の考察、大正解です。
この公園と近辺は秘密結社Xが多々目撃されたこともあり、先月からヒーロー協会の監視カメラ数が約三倍にまで増加。
異変を察知し次第、すぐにヒーローが向かえるようになっている。
また警察で言う交番のような場所が近くに作られ、市民からの通報にも、いち早く反応出来るよう仕組みが整えられたとか。
おそらくそのいずれかで駆け付けたヒーローなのだろう。
エックス戦闘員達の間に緊張が走る。
そんな中、一人さりげなく意味深発言をしていた八咫烏ちゃんのみ、「うわぁ……」と苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「───現着。制圧を開始するわ」
モクモクと立ち込める土煙の向こうから、随分と物騒な言葉が聞こえてくる。
直後、ボボッ!という鋭い音と共に両者を遮っていた土煙が数箇所、裂けた。
突然の出来事だ。
エックス戦闘員諸君には、薄っすらとエメラルドの軌跡が見えたかどうかのレベルだろう。
「疾ッ!」
だが八咫烏ちゃんはしっかりとその正体を見抜いたようで、風を纏わせた裏回し蹴りを一閃。
ほぼ透明に近い風の刃を全て粉砕し、一号君達を守るように立ち塞がった。
「あ、ありがとう、八咫烏ちゃん」
「いえ……」
八咫烏ちゃんの声色はどこか硬い。
よく見ると頬を緊張の汗が伝って落ちており、思いのほか余裕がないのだと分かる。
それは、今こうして向かい合っている相手の実力を、彼女が何より知っているからであろう。
「今のを弾くとは、中々やるようね───って、うそ………"風花"……?」
土煙が晴れ、困ったように肩を竦めていたヒーローであるが、目の前に立ち塞がる八咫烏ちゃんを見つけた途端、動揺を露わにした。
まるで信じられないものを見たかのような反応である。
「お母さん……」
「「「お母さん!?」」」
一号二号三号は声をそろえて驚愕した。
慌てて二人の間で視線を行ったり来たりさせる。
………確かに似ている。
髪型は八咫烏ちゃんがセミロングでヒーローは腰までのロングと違いはあるものの、顔の造形は本当にそっくりだ。
八咫烏ちゃんを少し大人っぽくして、肉付きを良くした感じ。
ヒーロースーツとヴィラン装備で格好は全く違うのに、凄く似ていると感じるくらいには明確な遺伝があった。
「風花……あんた、何でそこに………」
"風花"とは、おそらく八咫烏ちゃんの本名であろう。
どうやら娘がヴィラン組織に所属しているとは全く知らなかったらしい。
まぁ普通の親なら……ましてや自分がヒーローならば、娘がヴィランになるのを止めるに決まっている。
それを充分に分かっていたので、八咫烏ちゃんは内緒にしていたのだ。
まぁ要するに、就職したと嘘をついた親に、実はYouTuberとして食ってることがバレた、みたいな状況だ。
……ちょっと違うかも。
まぁとりあえず、八咫烏ちゃんの苦虫を百匹噛み潰したような表情の原因はこれだった。
「……どうしてもこうしても、私が秘密結社Xのメンバーだからだよ、お母さん」
「………………はぁ」
長い沈黙を置いて、お母様は頭痛を堪えるように額を手で抑えた。
色々と思うところはあるのか、近年稀に見る見事な顰めっ面である。
「……一つ、聞かせてもらえるかしら」
顰めっ面のまま、お母さん───暴風ヒーロー"テンペスト"は娘に問う。
しかし答えが返ってくる前に、一号君二号君三号君がそろって「あの初めまして、お世話になっております。いつも娘さんには助けてもらってばかりで……ええ。すみませんこちら心ばかりの品ですぅ」と菓子折りを差し出しぺこり。
お母さん、「あ、これはご丁寧にどうも。いつも娘がお世話になっておりますぅ」と律儀にぺこり。
一拍置いて。
「一つ、聞かせてもらえるかしら!」
気合を入れて仕切り直した。
八咫烏ちゃん、シリアスブレイカーされたせいですっかり気が抜けてしまい、脱力した状態で面倒くさそうにジト目を向ける。
暗に「何?」と聞き返されたことを察し、お母様は娘の目を真っ直ぐに見て、今度こそ真剣に聞いた。
「あなたは……」
娘の真意を確かめるため、その瞳をじっと見据え。
「あなたは、あなたの意思でそこに居るのね?」
「もちろん」
八咫烏ちゃんは即答だ。
自分の意思で秘密結社Xに入団した。
それは紛れもない事実であり、決して曲げようのない真実なのである。
八咫烏ちゃんは、悪の組織と呼ばれる場所に所属したことを一切悔いていなかった。
娘の瞳に込められたその意志を見定めたお母様は、やれやれと諦めのため息をつく。
「さすが、私達の子ねぇ……」
とテンペストは呟いた。
掲げた手のひらで風が渦巻き、細かな風の刃となって唸り声を上げる。
そこに母親の影はなく、ただ一人のヒーローがヴィランに相対しているだけだ。
「……なら、遠慮は要らないわね。あなたを───秘密結社X所属ヴィラン、八咫烏の……捕縛を開始する」
テンペストの宣言と共に、手のひらの風刃が解き放たれた。
不可視に近い無数の風刃が弾幕のごとく押し寄せる。
一般怪人ならば一瞬でサイコロステーキになるところだが、風のエキスパートは何もテンペストだけではない。
秘密結社Xの力で改造怪人となった八咫烏ちゃんもまた、母と同じ風の力を手に入れたのだ。
「───さて、いっちょぶちかますっすよ〜!」
漆黒の翼を羽ばたかせた八咫烏ちゃんは、自分に言い聞かせるように、わざとらしく高めのテンションでそう宣言した。
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・犬神家……『犬神家の一族』より




