ヒーローとヴィランが存在する日常
初めまして、ぽんすけと申します。
しばらくは毎日投稿しようと思いますので、ゆっくりのんびりと、我らが秘密結社Xの日常を楽しんでいただければと思います。
───ヒーローVSヴィラン。
創作物などでよく目にする構図だ。
日曜日の朝に放送される某特撮番組にお世話になった人も多かろう。
この物語は、そんな特撮やアニメから飛び出したかのような存在が平然と跋扈する世界と、そこで繰り広げられる、ヒーローとヴィランが起こしたドタバタ騒動の記録である───。
◇◆◇◆◇◆
「いや〜、ギリギリ間に合って良かったなぁ」
のどかな日差しがサンサンと照る、ご機嫌な昼下がり。
人がまばらに行き交う歩道をその青年は軽い足取りで進んでいた。
右手にはパンパンに膨らんだエコバッグがぶら下がっている。
チラリと見えたお菓子や食材の群れから、おそらくスーパーなどで買い物をした帰りだと予想出来る。
何を隠そう彼がご機嫌なのは、その買い物において色々と得をしたからに他ならない。
これならば、青年に買い物を任せた彼女もまた喜んでくれるだろう。
『先日、A地区においてヴィラン連合の一角である"百鬼夜行"が───』
「ん?」
鼻歌でも歌いそうな気分だった青年は、不意に聞こえてきたシリアスな声色の言葉に目をパチクリさせる。
視線を彷徨わせると、その声は電気屋さんの入口に設置されたTVから流れていることに気が付いた。
放送されているのは、青年でも知っている有名なニュース番組。
朝の顔となりつつある新人女性キャスターが読み上げていたのは、つい先日起きたヒーローとヴィラン組織の衝突についてだった。
『──ヒーロー協会は対応に追われており──トップヒーローである"ビルドマン"が出撃し──』
アナウンサーの背後では戦闘の一部始終がリピート再生されている。
どうやら炎を操るヴィランだったようで、ヒーロー達の決死の奮闘を支持する声が番組の専用テロップに流れる。
「ふ〜ん……」
青年の反応は薄い。
まるで興味が無さそうである。
それは事件が身近でなかったが故の現実味の無さから来るものなのか、はたまた……。
『なお、同じくヴィラン連合に属する秘密結社"X"も活動が活発化しており、今後の対策が──』
続くアナウンサーの言葉を聞き流しながら、青年はその場を後にした。
正直、この手のニュースに対しての青年の興味は限りなく薄かった。
もちろんヒーローやヴィランの話題が嫌いなのではない。
むしろ大好きだ。
だがしかし──。
「あ」
タイミング悪く、目の前で信号が赤になってしまった。
ここの信号は青になるまで時間がかかるんだよなぁ……と内心で電気屋さんで立ち止まったことを後悔しつつ、青年は仕方が無いのでポケットからスマホを取り出す。
直後。
───チュドオオオンッ!!
ビル群の向こうで派手な土煙が上がった。
その高さ、なんと五階建てのビル以上。
そんなギャグみたいな光景に道を行き交っていた人々の体が固まる。
「えぇ……」
これには青年もあんぐりである。
遠くて定かではないが、派手に巻き上げられた土砂の中に人型の何かも混じっていなかっただろうか。
見間違えだと信じたい。
思わず頬が引き攣る青年。
……そう言えば、部下達が作戦を決行すると言っていた場所があの辺なような……。
「……見に行ってみるか」
やれやれと肩をすくめる青年。
遅れて、遠くから聞こえてきた緊急車両のサイレンの音で周囲の人々も我に返る。
いつの間にか歩行者用信号も青になっていたらしい。
戸惑いながらも動きを再開した人々が横断歩道を進む。
しかし、そこにエコバッグを持った青年の姿は既になかった。
◇◆◇◆◇◆
───住宅街のど真ん中にある公園にて。
「うわああっ!?」
再び派手な爆破が起き、吹き飛ばされた人影がゴロゴロと地面を転がる。
「くっ……!二号、三号、大丈夫か──っておわあああ!?二号ぉおおおお!!」
ガバッと起き上がったのはなんと、全身黒タイツのおそらく男。
現実ならば確実に変質者として通報されてしまうだろう覆面の彼だが、この世界では割と目にするありきたりなコスチュームだったりする。
端的に言うとヴィランのモブコスチュームだ。
顔面とベルトに"X"が刻まれた、某特撮番組の戦闘員を彷彿とさせる姿の彼は、話題に事欠かない悪の秘密結社、"X"の戦闘員なのである。
そんな彼、一号君は慌てて砂場へと走り寄る。
爆発の衝撃で犬〇家している仲間を助けるためだ。
「生きてる?」
「ギリ」
なんて緊張感の無い会話が掘り起こされた二号君との間で行われる。
「ごめんこっちも助けて欲しい」
と三号君。
どうやら爆発の衝撃でブランコに絡まってしまったらしい。
「野郎の亀甲縛りとか誰得やねん」
顔を顰めた一号君と二号君の手によって無事、三号君も救出された。
コスチュームに付いた土埃をお互いに払ったりしていると。
「これ以上お前たちの好きにはさせんぞ!」
「「「おっ、お前は!!」」」
ザッ……!とジャングルジムの頂上に人影が現れた。
はためくマントが翻り、砂煙に隠されていたその姿が露わになる。
「俺は"ブラストソルジャー"!この町の平和は、俺が守るぜ!」
ビシッと決めポーズで登場した爆発ヒーロー、ブラストソルジャー。
強力な爆破を操る、ヒーロー協会期待の新人ヒーローだ。
最近ではニュースでもよく聞くその名前を、エックス戦闘員の三人も知っているらしい。
「くっ、まさか貴様が出てくるとは……!」
「俺達じゃ少し荷が重いな……」
「はっはっは!今日こそは逃がさんぞ、ヴィランどもめ!」
ニヤリと笑みを浮かべたブラストソルジャーが足に力を溜め、飛び出そうとした……まさにその寸前。
真上から降り注いだ気配に目を見開き、思わずバックステップ。
直後、何かが墜落し衝撃でジャングルジムが歪む。
「何奴っ!?」
「──ふっふっふっ!我ら秘密結社Xの新人怪人、八咫烏ちゃんさ!八咫烏ちゃん、お願いします!」
「了解っす!」
漆黒の翼をはためかせた、和装の少女。
風を操り飛び散った羽が渦巻いたかと思えば、ブラストソルジャーに向けて一斉に襲いかかった。
黒翼の群れと爆発が正面から衝突し、激しい爆音を伴って相殺される。
「むぅ!敵ながらやるな!」
「お褒めに預かり光栄っすね〜!」
拳に爆破を纏ったブラストソルジャーの一撃を、八咫烏ちゃんは羽で構築した刀で迎え撃つ。
一進一退の攻防は、まさにTVの中の光景がそのまま現実になったかのようだ。
「フレー、フレー、八咫烏ちゃん!」
「八咫烏ちゃん頑張れー!」
「行けるぞ、八咫烏ちゃ〜ん!」
もはや乱入出来るレベルの戦いではなくなってしまったので、応援しかやることのないエックス戦闘員諸君。
「うおおおっ!ブラストブロー!」
「くっ……!きゃあ!?」
爆破を纏わせた拳が、ついに八咫烏ちゃんの刀を砕いた。
そのままの勢いで地面を殴ると、カッ──!と一瞬にして視界が眩い光で染め上げられ、巨大な爆発を巻き起こした。
思いっきり弾き飛ばされてしまった八咫烏ちゃんだが、二号君と三号君が力を合わせてキャッチ。
何とか事なきを得た。
「大丈夫?」
「っす、助かったっす」
「良かった良かった。しっかし……」
八咫烏ちゃんは無事だったものの、エックス戦闘員達の表情は優れない。
新人とは言え、自分達よりも明確に強力な怪人である八咫烏ちゃんですら押され気味なのだ。
ブラストソルジャーの強さは本物である。
「ふっ!喰らえぃ、"テンズ・ブラスター"」
「うわあっ!?」
ブラストソルジャーが引き起こした高威力の爆発に巻き込まれ、八咫烏ちゃんとエックス戦闘員達は乱雑に吹き飛ばされた。
「うぅ……痛たた……」
思ったより被害が少なかったのは、直前で八咫烏ちゃんが自身の風を展開し、全員を爆風から守ってくれたためだろう。
八咫烏ちゃんは乱れた服装を直しつつ周囲を見渡す。
「八咫烏ちゃん大丈夫!?」
「えと、自分は大丈夫っすけど………す、すぐ掘り起こすっす!」
「ごめんね!」
またしても犬〇家な二号君。
もはやそういう星の元に生まれたのかもしれない。
木にぶっ刺さっていた一号君と、鉄棒に引っかかっていた三号君も協力して、砂場の砂を掘り返す。
「ふっ、大人しく投降したら───」
「わ。どったの皆」
キメ顔で降伏を促そうとしたブラストソルジャーの声を遮って、にゅっと現れた第三者。
黒ローブの彼を見て八咫烏ちゃんと一号君、三号君の表情がパッと明るくなる。
ちなみに二号君はまだ砂場に埋まっているので事態を把握していない。
「──むっ、その仮面……まさかお前は!」
「あ、ども。秘密結社Xのボスですー」
「ああこれはご親切にどうも……じゃなくて!」
先程までのザ・ヒーローとヴィラン、みたいな掛け合いとは打って変わって、ぺこりとお辞儀で挨拶する自称秘密結社のボスさん。
恐ろしく腰が低い。
あまりに自然な動作にブラストソルジャーもぺこりとお辞儀を返してから、思わずと言った様子でセルフツッコミ。
色々と言いたげである。
「貴様が秘密結社Xのボス……"ファントム"か」
「あっ、はい」
「……一つ聞いて良いか」
「どうぞ」
「そのエコバックは?」
「買い物帰りなもんで」
「そ、そうか」
悪の秘密結社のボスが自ら買い物って……とブラストソルジャーは微妙な表情だ。
ブラストソルジャーは改めて、"ファントム"と呼んだその男に視線を巡らせる。
機能性を損なわないスーツの上に漆黒のロングコートを羽織っており、頭部を覆うフードの下にはいかにもヴィランっぽい仮面。
手袋もしており様相は明らかなヴィラン組織のボス、と言った感じだ。
だからこそなおのこと、庶民的なエコバックがまた良い味を出している。
「───あれ、ボス!?」
「ちっすちっす」
やっと掘り起こされた二号君もまた事態を把握したようだ。
さて、どうしたものか。
ブラストソルジャーは苦虫を噛み潰したような表情で思考を巡らせる。
いかに期待の新人ヒーローとは言えど、まだ組織のボスを相手に出来るような実力でないのは自分が一番理解していた。
まさに形勢逆転。
一体どう出るのか……。
ブラストソルジャーが身構えた次の瞬間。
「そんじゃ、今日は撤退撤退。帰るぞ諸君」
「「「うっす」」」
「了解っす〜」
おや?
掘り起こした砂を律儀に戻して整えたかと思えば、ボスから出たのは驚きの言葉だった。
不意を突かれたブラストソルジャーが固まるのも無理はない。
「……ま、待て!どこへ行く!」
しかし流石はプロヒーロー。
一瞬で我に返り、すぐさま追い打ちの爆破を放つ。
……ところが。
───ドゴォオオン!!
───ドゴォオオン!!
「おっとっと」
「なにっ!?」
ブラストソルジャーの一撃が相殺された。
しかも、全く同じ規模の爆破によって。
出力も、クセも、何もかも全く同じ。
ファントムも自分と同じ爆破の能力者なのか……!?
歯を食いしばり吹き抜ける爆風をガードしながら、ブラストソルジャーは頬を引き攣らせる。
しかもただの爆破使いでは無い。
異常なほどの制御能力を持つ、文字通り格の違う能力者だ。
「何故、この状況で撤退する!お前ならば俺にも勝てるだろう!」
「……ふっ、そんな事も分からんのか。ならば教えてやろう」
背を向けていたボスさん──ファントムが振り返りながら、仮面の下で意味深な笑みを浮かべる。
ゴクリと生唾を飲み込む音がした。
この圧倒的に有利な状況で撤退する理由。
それは──。
「せっかく買ったアイスが溶けちゃうからに決まってるでしょうが!!」
「…………は?」
今度こそブラストソルジャーは動けなかった。
しかし、誰もそれは責められまい。
まさか悪の秘密結社のボスが、アイスのために戦闘を諦めるなんて。
誰が信じるだろう。
「ボスさんボスさん、もちろん私達の分もあるっすよね」
「あたぼうよ。帰ったらジャンケンな」
しかし部下達は慣れているようで、そんな会話をしながらボスの後ろをとてとてついて行く。
秘密結社Xの面々の姿が見えなくなった頃、ようやく正気を取り戻したブラストソルジャーが、ぽつりと一言。
「な、何だったんだ、一体……」
彼の表情は、今回の事態のカオスさを見事に物語っていた。
───オマケ───
帰宅後。
「……ボス、これは?」
「すんませんっしたー!」
エコバックから取り出したパックの卵が半分ほど割れていた件について、ジト目の側近さんに問い詰められたボスでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
誤字脱字報告、感想等やブクマ、評価など、ぜひともよろしくお願いします!!(*^^*)
・犬神家……『犬神家の一族』より




