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かみや×みめも  作者: 疼きちゃん


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9/11

9話 椛

 (もみじ)はコミュ強です。


「もみー、明日カラオケ行かない?」

「いいよー、どこ集合?」

 同級生からは毎日遊びに誘われ。


「椛お姉ちゃんだー!」

「ガキんちょども今日も元気だなー!」

 校内を歩けば低学年のキッズたちが群がってきて。


「お、椛ー、また今度助っ人頼むわー」

「うぃっすー、そん代わりまた奢ってくださいねー」

 外を歩けば中等部の上級生に声を掛けられます。


「椛ってカリスマBくらいありそうですね」

「Bの意味がよく分からんけど、そんな大層なもんじゃないって」

「大層なもんですよ。私なんて同級生からは神谷二号呼びされて、下級生には無視されて、上級生にも無視されますよ」

「それはおまえが話しかけるなオーラを出してるからじゃない?」


 それはその通りです。だって人間関係ってだるいじゃないですか。


「芽依も、たまには私や美紅以外と遊んでみてもいいんじゃない?」

「それは……考えただけでもだるいですねぇ……」

「この子は何でこんなコミュ障に育っちゃったんだか……」

「どうやら遺伝子が悪いらしいですよ」


 お母さんに、私の実の両親について聞いてみたことが一度だけあります。私が十歳のころでした。そのときの回答がこうです。


「……不器用にしか生きられなかった人たち」


 そう呟いたお母さんの顔は、今まで見たことがないくらい辛そうで。それ以来、私は実の両親のことはもう忘れようと誓ったのです。


「遺伝子に打ち勝て!」

「やーだー」

「これからクラスの奴らとバッセンに行く約束してるから一緒に行こうぜ!」

「バッセン?」

「バッティングセンター」


 椛がバットを振るモーションを見せつけてきます。


「ああ、野球ですか……そんな球と棒を使う卑猥なスポーツやりませんよ」

「多方面に怒られろ」


 そんなこんなで。

 椛に強引に引っ張られ、バッティングセンターにやって来ました。

 クラスの男子が三名います。名前は確か磯野、フグ田、中島だったかと思います。


「やー、ごめんごめんお待たせ」

「お、神谷二号もいんじゃん。野球好きなのか?」


 磯野くんが気さくに話しかけてきます。


「私は強引に連れてこられただけですよ、磯野くん」

「高橋だよ! 誰だよ磯野って!」


 磯野くんの本名はどうやら高橋くんというらしいです。


「ああん!? 名前間違われたくらいでそんな声を荒げて器がちっちぇーですね!? そちらこそ私のこと二号呼びして! 私の名前分かるんですか!?」


 キレ芸などを披露してみせました。

 私だけなら絶対にやりませんが、椛がいるので何かあったら椛に守ってもらおうという計算高い私です。


「め、芽依だろ、それくらい分かるって、五年間同じクラスなんだからよ!」

「え!? 高野くん五年間同じクラスだったんですか!?」

「そうだよ! おまえ酷いな!? いや、てか、高橋と磯野を混ぜてんじゃねーよ!?」


 私たちのやり取りを見たフグ田くぅんがゲラゲラと笑っています。


「前々から思ってたけど神谷二号っておもろいよな。なぁなぁ、じゃあ俺の名前は?」


 何ですかこいつは、唐突に人のことをおもしれー女呼ばわりしてきて。


「フグ田くんでしょう」

「おもしれーからそれでいいや」

「いいのかよ!?」


 磯野くんがフグ田くんにツッコミを入れます。こう書くと磯野くんがフグ田くんに何かを突っ込んだみたいで、こう、アレですね。


「中島もこのバカになんか言ってやれよ」

「ええー、いや、僕は別に……」


 磯野くんに詰め寄られた中島くんはしどろもどろです。いや、おまえは本当に中島なのかよ。思わず心の中でツッコまずにはいられませんでした。


 話の流れで、何回ヒットを打てるか勝負をすることになりました。これだからスポーツをする人間は嫌いなんです。すぐに何かと勝負をしたがるから。こんな球を棒で打つ行為の巧拙で人間の何が測れると言うのでしょうか。


 三百円で二十五球。球速は九十キロと書かれてます。えーと、たしかプロのすごいピッチャーで百六十キロくらいでしたっけ? これくらいなら余裕なのでは?


 じゃんけんの結果、順番は磯野くん、私、中島くん、フグ田くぅん、椛となりました。


「っしゃー! かっ飛ばすぜー!」

「せいぜい頑張ってください、カツオくん」

「翔太だよ! 高橋翔太!」

「ありきたりな名前ですねぇ」

「おまえ全国の高橋翔太に土下座しろ!?」


 磯野くん改め高橋くんは二十五球中、十五球がヒットとなりました。


「くそ、調子でねー」

「どんまいですよ、承太郎くん」

「翔太だ! てか、おまえ確か運動苦手だったよな、何でそんな上から目線なんだよ」

「まあ、九十キロくらいなら余裕ですよ。見せてやりますよ、神谷の遺伝子ってやつを」


 息巻いて打席に立った私でしたが、一球目を見逃してしまいました。え、いや、速くないですか? なんか横から見てたときよりも速くないですか? 私のときだけ百六十キロになってませんか?


「くっ……目覚めろ、私の中の神谷の遺伝子……!」


 空振り。


「やーっ!」


 空振り。


「目閉じてちゃ当たらないだろ」

「うるさいですね……! 目ん玉かっ開いてても見えないんですよこっちは!」


 フグ田くぅんのアドバイスにキレてるうちに四球目も見逃してしまいました。

 その後もバットはボールに掠ることすらなく……神谷芽依、痛恨のノーヒット。


「こんな球を棒で弾く行為の何が面白いんですか……野蛮な原始人たちめ……」

「いや、おまえ一回も当てられてないから、そりゃ面白くないだろ」


 フグ田くぅんの無慈悲な言葉が私のガラスのハートを粉々にしました。私こいつ嫌いです。おまえなんか未来では波平にヘコヘコするくせに、ふざけやがって。


 続いて中島くんの番ですが、流石は中島くんです。磯野をよく野球に誘うだけあって、なかなかのバッティングセンスでした。十八回のヒットで、暫定一位となります。


 大口を叩いていたフグ田くんは二十回のヒットで、中島くんを抜きました。大口を叩くだけありますが、このままこいつが一位になるのは癪です。


「椛ー! 私の仇を討ってくださいー!」

「まかせろり」


 椛はニカっと笑うと私の頭をわしゃわしゃと撫でました。イケメンすぎて、私じゃなければ惚れてたかもしれません。でも、まかせろりはちょっとダサい……。


 流石は神谷の遺伝子(本物)と言うべきなのか、椛は軽快な打撃音を連続で響かせていました。

 そう、神谷家の人間はみんな運動神経が良いのです。お母さんも、叔父も、美紅も、椛も。


 私だけ仲間はずれ。

 神谷の遺伝子を持っていないから。

 よそから引き取られた、他人だから。


 それを嫌でも思い知らされるから、私は運動が嫌いなんです。


 椛の結果は、全球ヒットでぶっちぎりの一位。

 その後は勝負とか関係なしに、各々が自由にバッティングを始めました。当然私は帰ろうとしましたが、椛に引き止められます。


「芽依、練習しようよ。芽依だって練習したら打てるようになるって。そしたら楽しいよ?」

「もういいですよ、私は運動神経と遺伝子が悪い女ですから……」

「そんなもんを努力しない言い訳にしないの。ほら、お姉ちゃんが教えてあげる」


 不貞腐れる私の手を椛が強引に引いていきます。


 椛は昔からこういうところがあります。強引で、人の気持ちを無視して手を引っ張って。はた迷惑で、お節介で、優しくて、守ってくれて、同い年なのにお姉ちゃんぶったりして。


 私は、そんな椛のことが時には煩わしいけれど。

 昔からたまらなく大好きなのです。

 だから、いつまでもどこまでも、手を引かれていってしまいます。


「ねぇ椛、私、磯野くんよりも上手になれますか?」

「翔太? よゆーよゆー」


 椛にフォームを直され、コツを伝授してもらいながらバッティングと格闘しましたが中々上手く行きません。


 ボールに目は慣れてきました。あとはタイミングさえ合えば当たるはずなのです。そう、これは音ゲーみたいなもの。落ちてくるノーツにタイミングを合わせて叩くだけ。


 百球目。

 ボールをしっかりと目で追いながら、バットを振り抜きます。今までになかった手応え。ボールはバットに弾かれ、見事な放物線を描いてかっ飛んでいきました。ここが空き地だったら、間違いなく雷親父の家の窓ガラスを割っていたことでしょう。


「芽依ー! ナイスホームラン!」


 椛が勢いよく抱きついてきました。

 まるで自分のことのように嬉しそう。


 自分がホームランを打ったことよりも、椛が私のことで幸せそうに笑ってることが嬉しくて。ああ、だから私は彼女に手を引かれていたいのです。

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