7話 喫茶オータム・ムーンにて
いつも通り、三人での登校中。
そういえばと思い出した話題を口にしてみます。
「お母さんみたいな人のことを、合法ロリというらしいです」
美紅と椛がまた訳のわからないことを、という顔をします。
「ということは、私たちは違法ロリということですか!?」
「芽依の言ってることは一ミリも分からないけど、まー、たしかに優ちゃんって若く見えるよね。何歳だっけ?」
椛が口元に指を当てて考えます。
「パパの四つ下だから三十歳じゃない?」
美紅が即答します。
自分の父親を基準に計算するあたり、美紅らしいです。
「三十……」
ええと、お母さんが私を引き取ってくれたのが、私が五歳か六歳のときだから、二十代の真ん中くらいに養子持ちになって、それからずっと彼氏も作っていない……?
何だか急に罪悪感に苛まれてきました。
「お、お母さんの彼氏を探さなきゃ!」
「何でそーなるのよ」
呆れる美紅とは対照的に、椛は真剣な表情です。
「でもそれって、芽依のお父さんになる人ってことだよ。芽依はお父さん欲しいの?」
「別にいらないですけど……」
一応ですが、真面目に考えてみます。
お母さんの彼氏になる人→お母さんは合法ロリ→相手はロリが好き→私の身が危ない!
「違法ロリじゃないですか! 私の身が危ない!」
「何言ってるかちょっと分からないけど、優ちゃんも大人なんだから、彼氏がどーのこーのは子供の私たちが考えることじゃないよ」
椛の言い分も分かります。分かりますけど。
……もしも私のせいでお母さんが我慢してるとしたら、申し訳ないじゃないですか。
◇◆◇
大人の意見も参考にしてみようと思い、放課後に大人のいるお店にやってきました。
喫茶オータム・ムーン。お母さんのお友達の家がやってる喫茶店で、私も昔からよく来ている場所です。
「芽依じゃん、よっすー」
お店に入ると、見た目はお嬢様なお姉さんがカウンター席から私に手を振ってきます。
「芹沢さん、こんにちは」
「お姉さん今日は勝ったからねぇ、一杯奢ってあげるよ」
飲み屋ですか、ここは。
「だってさ芽依ちゃん、何にする?」
お店のお姉さんが注文を聞いてきますが、私は常連なのでメニュー表を眺めるまでもなく即答します。
「では、ブレンドコーヒーをいただきます」
「ブレンドね。ミルクは……いらないよね、ふふ」
お母さんの真似をして無理してブラックコーヒーを飲み続けていたら、小学五年生にしてブラックコーヒーを飲めるようになった大人な私なのです。
お姉さんは目の前で豆をミルで手挽きして、コーヒーを淹れてくれます。
「芹沢さんにご相談なんですけど」
「どしたの? なんか深刻そうだけど」
「二十代半ばから三十路まで彼氏いない女の人って……どう思いますか……?」
コーヒーを淹れていたお姉さんのケトルを持つ手が止まります。
「芽依ちゃんそれって私のこと!?」
「ええ!?」
お姉さんは半泣きでした。
そ、そうでした、この人お母さんの同級生でした。彼氏いないのは知りませんでしたが、無自覚に人を傷つけてしまっていたようです。
そんなお姉さんの様子を見て、芹沢さんはけたけたと笑っています。人の心とかないんでしょうか。
「い、いえ、すみません、うちのお母さんのことです」
「あ、あー、優のことか。もー、びっくりしちゃったよ、えへへ」
お姉さんは照れ笑いで誤魔化そうとしますが、びっくりしたのはこっちです。
「ふぅん、察するに優が彼氏作らないのは自分がいるからって思ってるわけだね」
「……はい」
「全く関係ない……とは言わないけど、芽依がいなかったとしても優は彼氏とか作ってないと思うよ」
「それは何故ですか?」
芹沢さんは自分のミルクティーをスプーンでくるくるとかき混ぜながら「うーん」と考え込む素振りを見せます。
「……優は一途だからねぇ。初恋をずっと引きずってるんだと思う。はい、ブレンド」
芹沢さんへの問いかけに代わりに答えてくれたのは、お姉さんでした。
「初恋、ですか」
「そう。色々あったの。芽依ちゃんがもう少し大きくなったら、きっと優から話してくれるよ」
「い、色々……三角関係とか……ですか?」
「ふふ、四角関係とか、五角関係くらいあったかも?」
結局この話は、悪戯っぽく笑うお姉さんに誤魔化されて終わりました。
ブレンドコーヒーは苦かったですが、どうにか飲みきれました。私ってば大人の女。




