6話 ごんぎつね
冬休みが終わり、学校が始まってしまいました。
放課後、教室の窓際の席から外の雪景色を眺め、アンニュイな表情でため息を吐きます。美少女にのみ許される所作です。
美紅や椛とは登校は一緒にしますが、それぞれの交友関係があるため下校は別行動となることが多いです。
美紅には仲良し女子グループがあり、椛は顔が広くて下級生や上級生、はたまた中等部の先輩たちと遊ぶこともあるようです。
そして私にはイマジナリーフレンドのマイちゃんがいます。メイちゃんとマイちゃんで仲良しなのです。今日は何しましょうかマイちゃん。え? 泣いてない、泣いてないですよ? 私にはマイちゃんがいますからね?
「マイちゃんだけいれば他に何もいらないんですよ……」
「えっ」
えっ。
背後からの声に振り返ると、そこにはクラスメイトの女子がいました。
「に、二号さんって、そんな、私のことを……!?」
一部のクラスメイトは私たちのことを神谷一号、神谷二号、神谷三号と呼びます。み(美紅)、め(芽依)、も(椛)の順番で私は二号というわけです。
いや、そんなことよりもあの独り言を聞かれた……!?
しかし、それにしては相手の様子がどうもおかしいです。ドン引きしているというよりは、照れているというか……。
「で、でもごめんなさい、私好きな人がいるからー!」
そう言うと相手の女子は私に頭を下げて、バタバタと教室から駆け出していきました。
相手の反応から察するに、彼女の名前がマイ……ということなのでしょうか? 顔に見覚えはありますが、他人に興味がなさすぎて名前をよく覚えてません。助けてイマジナリーフレンズ。
おもむろにスマホの電話帳を開き、電話をかけます。
相手は暇だったのか、ワンコールで電話に出ました。
「もしもし、リカバリーサポート・ネットワークさんですか? 今パチンコ屋さんの店内にあるチラシを見てお電話してるんですけど」
『イタ電してくんじゃないわよ! 今忙しいんだから! 死ね!』
暴言とともに切られました。
もちろん私はパチンコ屋さんに入ったことなんてありませんが、リカバリーサポート・ネットワークなる謎の組織があることは芹沢さんから聞いて知っています。
神谷一号はノリが悪いので、今度は神谷三号に電話をしてみます。ちなみに私のスマホには神谷家と芹沢さんの電話番号しか入ってません。イマジナリーフレンズはスマホを持てないので仕方ないのです。
「もしもし椛? 良い話と悪い話、どっちから聞きたいですか?」
『こういうときは良い話から聞くのがセオリーってもんでしょ? どした?』
「これは、わたしが小さいときに、村の茂兵というおじいさんからきいたお話です」
『いきなりごんぎつねの話するのやめてね。てか、ごんぎつねって良い話系のストーリーか?』
「ごん、おまえだったのかぁぁぁ!」
悲しい結末を思い出して、目頭が熱くなる私です。
「良い話でしょうがよ!」
『うわ、いきなりキレてくるなよ……。で、悪い話ってのは?』
「なんか女子に告白してフラれました。マイちゃんって誰ですか?」
『マジでひとつも意味が分からないけど、佐藤舞ちゃんのこと? 同じクラスの』
「おお、そういえばそんな名前でした。私がイマジナリーフレンドのマイちゃんと話してたところを、その佐藤舞ちゃんに聞かれてしまいましてね」
『私はおまえが社不すぎて心配になるよ』
かくかくしかじかと事情を説明すると、椛は「いい感じに誤魔化しとくよ」と言って電話を切りました。
帰宅してから話を聞くと、どうやら私が一人で演劇の練習をしていたことにしてくれたらしいです。持つべきものは人脈の広い従姉妹です。
「なるほど、将来は演技派女優……というのも悪くないですね」
「イロモノお笑い芸人の間違いでしょ」
事の顛末を聞いた美紅は呆れ顔でした。
皮肉を言いながらも、こたつでくつろぐ私に緑茶を淹れてくれます。
「わぁ、ありがとうございます」
「あんたもいい加減いい歳なんだから、その架空のお友達と話すのやめなさいよ」
「クラスカースト上位の美紅には分かりませんよ、私と私のイマジナリーフレンズの気持ちは……」
「バカ、そんなのと話すくらいならあたしとか、椛とか、いるでしょ」
美紅は照れくさそうに頬を赤らめながら、ぷいとそっぽを向きました。何ですかこいつ、ツンデレですか?
「でも死ねって言いながら電話切ったじゃないですか」
「あれはあんたが訳わからないこと言ってたからよアホ!」
美紅は口は悪いけれど、本当はとても優しいのです。
持つべきものはツンデレの従姉妹です。




