第11話 くっせぇ
神谷芽依の朝は早い。
午前七時、起床。
「……まだ寝れますね」
午前七時、就寝。
「おっきろー!」
椛に勢いよく布団を剥ぎ取られます。
「寒い……どうしてこんなひどいことを……呪いますよ……」
縮こまり、ガクガクと震えながら恨み言を口に出します。
「ご飯もう出来てるって」
「ここで食べますぅー……」
「ガキみたいなわがまま言わないの」
「寝ながら食べますぅー……」
「マジで寝起き悪いよな、おまえ……」
椛はそれだけ言うと部屋から出て行きましたが、またすぐに誰かがやってくる足音が聞こえてきます。
……なんか、くっせぇニオイがします。どうやら鼻先に何かを近づけられているようです。
「くっせぇですねー! 何ですか!?」
目を開けると、眼前に納豆がありました。そのまま口に入れられてしまいます。
この神谷芽依、納豆が大嫌いです。
しかしそれ以上に、食べ物を粗末にしてはならないと育てられてきました。
涙目になりながら、どうにか口の中のくっせぇ豆を飲み込みます。
「やっていいことと悪いことがある!」
相手を確認することを後回しにして、とりあえずキレました。どうせ椛か美紅だろうと高を括っての行動でしたが、目の前にいたのは少年のように笑う叔父でした。
「よう、爽やかな朝だな」
「……口の中が納豆臭くて最悪な朝なんですが」
「そいつは災難だな」
他人事のように言いながら納豆を食べ始める叔父。殴っても許されるでしょうか。
実を言うと、私はこの人がちょっと苦手です。
イケメンで、金持ちで、美人の奥さんがいて、温かな家庭を築いている人生の成功者。あまりに眩しすぎるから、苦手なのです。
しかし私はこの人のおかげで今の生活を享受できていると言っても過言ではないので、感謝はしています。
「叔父さん、何でこんなことしたんですか……」
「たまには可愛い姪とコミニュケーションを取ろうと思ってな」
「コミュニケーションはコミュニケーションでもバッドコミュニケーションって言うんですよ、これは」
「手厳しいな」
流石にバッチリ目が覚めたので、体を起こします。
バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきたかと思えば、椛が戻ってきました。
「あれ!? 芽依起きてる!? てか何でお父さんいるの!?」
手には納豆を持っていました。どうやら叔父と同じことを考えていたようです。殴りたい、この親子。
予想外の展開だったのか椛はしばらくフリーズしていましたが、手に持っていた納豆を唐突に食べ始めました。
寝起きの私のすぐそばで納豆を食べる親子。何これ。
「とりあえず部屋が納豆くっせぇの嫌すぎるんで、ここで食べるのやめてくれません?」




