10話 神谷芽依VSおでん
全身が筋肉痛です。
昨日、普段使わない筋肉という筋肉をフル稼働させて百回もバットを振ればこうなります。
というか、昨日の帰りの時点でもう動けなくなってしまい、叔母の楓さんに車で迎えにきてもらう事態になっていました。
「う、動けません……」
一ミリでも体を動かすと激痛が走るため、寝たきりになっています。今日が休みでよかったのか悪かったのか。平日だったら学校サボれたのに。
「ツンツン」
「ぎゃーっ!?」
椛が私の二の腕のあたりを突ついてきて、思わず絶叫してしまいました。
「私のことをおでんか何かだと思ってますか!?」
「いや、おでんをツンツンはしないだろ、何言ってんだ?」
「まったく、芽依に運動なんてさせたらこうなるに決まってるでしょ」
呆れ顔の美紅が朝食を乗せたトレイを両手に持ちながら部屋に入ってきました。昨日はまだギリギリ自分で食器を持てましたが、今はもう無理そうだと言ったら美紅が食べさせてくれることになりました。ちょっと恥ずかしいですが、ありがたいです。
「まずは体を起こさないとね」
椛が私の背中に腕を回してきます。
「も、椛、分かってると思いますが、優しく、ゆっくりお願いしますね……?」
「分かってる分かってる、そぉい」
「ぎゃーっ!?」
結構な勢いで上体を起こされます。
「分かってない! 椛は私の体のこと何も分かってない!」
痛みで涙目になりながら猛抗議をしましたが、椛には何も響いてなさそうでした。
「今日の朝ごはんは……お、おでん!?」
「昨日作りすぎちゃった分の残りよ」
「それはいいとして、何か煮えたぎってません?」
小さな土鍋の中のおでんからは湯気が迸っており、見るからに熱そうです。いえ、あからさまに激アツです。
「温め直してるときにパパと話しててぇー、ちょっと目を離してたらこうなっちゃってたのよー」
「大好きなパパとお話しできて嬉しいのは分かりますけど、火を使ってるときに目を離すのやめてくださいね?」
「わ、分かってるわよ、気をつけるわよ。それよりもほら、食べさせてあげるから口開けなさいよ」
美紅が熱々の大根を私の口元に運ぼうとしてきます。
「え、何か私、古のおでん芸をやらされそうになってませんか!? あつっ、あっつい! ギリDV! これギリギリでDVだと思うんですけど!」
口元に差し出された大根を必死にフーフーと吐息で冷ましながらどうにか食べます。これは何? 新手の拷問ですか?
「なーに? 冷ましてほしいの? 甘えん坊さんねー」
美紅がやれやれといった表情で卵に吐息を吹きかけ冷まそうとします。
「いや、卵はフーフーしたところで絶対中身が熱いじゃないですか!? 悪意ですか!? それともバカなんですか!?
「た、たしかにそうね。卵は後にしたほうがいいかしら……」
良かった、バカなだけでした。いや、良くはないのですが。
「普通に時間を置いて冷ませばいいだけなんじゃない?」
椛が至極真っ当な対応法を挙げます。
「なんかそれはそれで負けた気がしますね……」
「何と戦ってるんだよ、おまえは」
「おでん」
「あ、そ」
神谷芽依VSおでんには興味がないようで、椛は読書を始めてしまいました。
「じゃあこのまま食べるのね? はい」
「あっつ!?」
VSちくわ、噛んだ瞬間に熱い汁が溢れてきて敗北。
「はい、次どうぞ」
「あちちちち!!」
VSこんにゃく、シンプル熱くて敗北。
「何やってんだこいつら……」
呆れる椛、嬉々として熱々おでんを食べさせてくる美紅、泣き叫ぶ私。カオスな朝食風景でした。




