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一章 第三話 『劣等感』

001


「堂々としていればいい」


 ワタシは自主練をする手を止めた。


「誰かに貶されて劣ったりするようなものじゃない」


きっと本心でワタシに言ってくれているのだろう。だがワタシはその言葉を受け取れなかった。何故ならワタシは先祖代々伝えられている術をまだ使いこなせない。受け継がれてきたこの黒い翼は術者の証。ワタシはその翼に対して劣等感を抱いていた。


「ありがとう。でも、さ。やっぱり置いていかれるンだよね。強さとかを、自分のものにできてない気がするんだよね」


 声は震え始め、目頭は熱い。そんな自分を情けなく思えて俯いた。いつも、この翼を誇りに思えない自分がいた。自分の一部なはずなのに『この翼は親から受け継いだだけに過ぎない、ワタシにはこの翼は不釣り合いだ』と感じていた。


「自分の弱さを認める。それだって強いことだろ?ちゃんと自分を分析して克服するから、技術を積み上げるからヒトは強くなれる。今ヤブサはその途中にいるんだと思う。僕だって最初から何でもできた訳じゃないし、強かった訳でも動けた訳でもない。出来ることをどんどん増やして今なんだ。越えなきゃいけないのは自分自身だけど、証明するのは相手だよ。僕はヤブサのことを弱いだなんて思ってない」


そう言われて不思議と涙が溢れた。そしてその言葉たちがナニカの隙間にストンとはまった。認められて嬉しかった。でも、まだ強くなりきってない。自分じゃ大事なヒトを大切なヒトを守りきれない。だから、


「強くなりたい・・・・・・。自分の力で守れるようにしたい・・・・・・!」

「そうこなくちゃな。でも、今日はお休みしよ。ボロボロだろ?僕ら」


 そう言いながら笑った。


(嗚呼、強いな)


 ワタシも釣られて笑ってしまった。


ワタシが旅について行ったのはケイが初めて自分から誘ってくれたことと来度が言っていた『自分探し』に興味を持ったからだった。

 ワタシは自分の好きな物ややりたい事が曖昧ではっきりしない。自分の事なのに自分で分からない。いつもそんなんだった。だから嫌だった。得意なことも自慢できることも特に持ち合わせていない。先祖代々伝わる法術も未だに使いこなせない。自分に自信が持てず、自分の意見をしっかり持てない。そんな時に出会ったのが来度だった。「自分を探す為の世界一周の旅。知ってる?世界一周はまだ誰も達成出来ていないんだ。面白そうだろ?」その言葉にワタシは動かされた。その旅は本当に楽しい。見たことないもの初めて知るもの、気になるもの好きな物。たくさんの物事に触れられた。その中で自分をだんだん見つけられているような気がした。誰かに認められたような気がした。


『廻生』先は選べない。その先でどう生きていくかは自分次第だ。だが、運命は変えられる。強い信念の元に。





002


比翼健眞ヒヨクケンマ


 今日から小学六年生、らしい。やなこった。


「ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ・・・・・・」


アラームの音が鳴り始めてワタシの倦怠感は倍増した。


(あー、連休明けの登校日ってなんでこんなにだるいんだろう。起きたくない)


しばらく目覚ましを無視しようとしたが無視しきれず、イライラしながら起きると机にはやりかけの絵や読みかけの本が散らかったまま。カーテンを開けると朝日が眩しすぎて目がやられた。


「眩しっ・・・・・・」


思わず座り込んで目を手で覆う。その拍子に窓の隣にある勉強机の角に体をぶつけ、ギリギリでバランスを保っていた本やペン類が次々に落ちた。


「何が起きたの!?」


姉が突拍子もなく部屋の扉を勢いよく開けて入ってきた。まだ寝癖がついていてスウェットだった。


「えーと、うん。こういうこと」

「あー、うん、そう。怪我は?」


状況は察してくれたみたいだった。


「特にないです。だけどペンの蓋が何個か飛んでいきました」

「手伝おうか?」

「お願いします」


朝っぱらから面倒臭いことが起こったもんでちょっと疲れた。


「ありがとうごさいます。なり姉」

「どういたしまして。やってくれたね、健眞」

「言ってることが噛み合わないんだけど、成花さん?」

「うるさい。スルーしなさい」

「なんで」

「いいから」


二人仲良く洗面台で身支度をしてリビングに行った。母はもう既に朝食を作り終わって洗い物をしていて、兄は半分寝ている状態で朝食をとっていた。ジジイ、こと父はスウェットのままテレビの前、カーペットの端で新聞を読んでいた。


「ウゲッ、なにしてるのさ。あのジジイ・・・・・・」

「マジでないわー」


ワタシ達きょうだいが父、のことをジジイと呼ぶわけはその性格にある。要は自己中すぎるのだ。クズ野郎って言いたいぐらい。ていうか言ってる。ジジイ自身がゴミ片付けていないのに、片付けようとしているワタシ達に「早く片付けろ」とか言ってきたり。はあ?テメェこそ片付けてないだろうが、って話なわけで。単なる単にワタシ達は父が嫌いなわけだ。関わりたくもない。


「聞こえてるわけないか。食べようよ、健眞」

「うん」


そしてワタシたちはダイニングテーブルに並んで座って朝食を食べ始めた。


眞也シンヤ兄、よく半分寝ながら食べられるよね」

「おれは寝ていない」

「よく言うよ。ていうか時間大丈夫なの?」


なり姉が眞也兄に言う。


「今日はいいの、大丈夫」

「いいなぁ、大学。私も朝にゆっくりしたい」

「・・・・・・」


 食べるのも準備するのも遅いからなのに、分からないのかな。思ったとしてもあえて口には出さない。絡まれたくないからね!


そんなことを言っても思っても、ワタシは兄と姉の足元にも及ばない。二人は中学時代、定期テストや期末テストで殆ど満点、つまりは常に順位一桁を保持し、小中高一貫の学校で高校にもエスカレーター式で上がれるのに、進学校に受験してそこでも順位上位を保持している。一方私はどんなテストでも中間位の辺りをウロウロしていて下に行くことはあれどなかなか上の方には行けなかった。


それがワタシの劣等感だった。人それぞれあるにしろ、きょうだいでここまで差が出てくると肩身が狭い。三人とも漫画小説、ゲーム好きは同じだが、そこだけが違った。母もそれなりにいい所に行っているし、認めたくないけれど父も特進科の学校に行っていた。自分だけ劣っている。それが嫌だった。

食べ終わったあと、行く時間まで少し間があるからゲームをした。何回もクリアしたゲームだからもう楽しいとは思わない。だけどいい暇つぶしになっていた。何回かそのゲームをクリアするともう時間になっていたので、通学バッグを背負ってマンションを後にした。


通学路は桜の木が満開で春の花がそこらじゅうに咲いていた。蝶もヒラヒラ飛んでいた。ちょうど他の人も家を出る頃で道は光咲学園の制服を着た子供で溢れていた。身長から見て小二、三の数人グループがキャッキャとはしゃぎながら前を歩いていた。


(よく朝からはしゃげるもんだな、元気すぎるだろ)


そのグループを見守りながら学園に登校した。いつの間にか桜の花びらが一枚、頭に乗っていた。

学園に着くと校舎の扉の前は組を確認する人で溢れていた。ちなみに組を提示されても担任は分からない。書いてない。


(探すの面倒臭いな。いや、探す他ないんだけどさ・・・・・・)


自分で自分にツッコんで虚しくなってきた。


「あ、あった」



六年三組 二十五番 比翼健眞



(なんとも言えない。ん?光梨も千夢も結芽乃ちゃんもいるのか。退屈はしなさそうだな)


靴を上履きに履き替えて螺旋階段をのぼって四階に行く。階段辛い。教室を探して自分の席を探す。誰かいるかな。あ、いた。


「あっ、光梨。結芽乃ちゃんも千夢も」


 やっぱり目立つな、光梨。


「よろしくね、健眞」


光梨がこちらを向いて言う。顔がいい。ムカつくほどに。


「よろしく」


思ったことを悟られないようにすかさずワタシも言った。


席に座ってみれば結芽乃ちゃんと隣だった。そして新学期最初の授業、学活が始まった。最初は担任の紹介だった。


「柏坂祐実です。一年間、よろしくお願いします。皆さんのこと、沢山教えてくださいね」


歳は五十代前半ぐらいの女性の先生だった。直感で「あ。この人面倒臭い人だ」と思った。

 多分この人、ワタシたちのことすっごい子供扱いするな。先が思いやられる。

それからクラスメイトの自己紹介。何回か同級になった子、初めて同級になる子、半々だった。そしてワタシの番が回ってきた。


「比翼健眞です。趣味はゲームです。まあ、仲良くしてください」

(テキトーテキトー。深いことは言わないのが身のため)


 席に座ろうと椅子を引きかけた時、騒々しい手が上がった。


「はいはーい。一番好きなゲームはなんですかー?」

(は?誰だよ)


聞いてきた奴は 燭釧ともしびくしろ だった。


(あんのお騒がせ野郎め!ろくなこと聞きやしない)

「えーと、リズムゲームです。好きというか得意というか、はい」

「はい!素敵な自己紹ありがとうございました!さて、次は誰かな?」


チラッと燭の席を見ると隣に華奢で押しに弱そうな子が座っていた。いや、マジで可哀想。


「はい、私の名前は降谷智花です。すきなことは・・・・・・」


いつの間にか自己紹介は終わっていた。

下校の時間になると、みんな一目散に教室を出ていった。ワタシもその群衆に紛れて教室を出る。


「やあ健眞。始業式はどうだった?」


後ろから声をかけられた。


「光梨か。うん、なんか疲れた」

「おやま、それはいけないね。僕はこれから仕事があるのに」

「なんの?いや、聞いても答えてくれるわけないか」


光梨はこの手の質問に一回もまともに答えたことがない。


「うん、答える気は無いよ。それにしてもお疲れだね。飴はいるかい?」

「ですよねー。てか、なんで持ってんの・・・・。まあ貰うけど」


早速飴をコロコロ転がす。

「あ、りんご味。ん?これ炭酸入ってる?」

「なんとか玉だったかな。それ、面白いだろう」


光梨は意地悪そうにニヤッと笑った。


(うわー、悪い顔)

「今、悪い顔してるなー、とか思ったのだろう?顔に出てるぞ」

「あー、出てた?」

「丸分かりだよ」

「それはそうと、光梨。未だに結芽乃ちゃんに男って気づかれてないの?」


さっきから気になっていたことを聞いてみた。


「うん、そうみたいだ。四年一緒にいて気づかれないとは、こちらが驚くよ」


光梨はそう言うとちょっと萎れた。この時の光梨は見てて面白い。ちょっとイタズラしたい。


「いや、うん。なんで気づかれないんだろうね。女の子だー、ってもう確信してるんじゃない?」

「ヴッ、そうかもしれない。そして何故否定できないんだ」


光梨が攻撃を受けたかのように顔を歪めた。


「スキンシップも激しいし?本当にそうかもね」

「ヴグッ!グサグサと刺さる・・・・・・」


さらに顔をしかめる光梨。


(やべ、楽しくなってきた。悪い癖だな)

「ねえ健眞。楽しんでないかい?」


光梨がすこーし目付きを悪くしてこちらを見た。


「あー、バレた?まあ、隠せるわけないか。光梨相手に」

「否定して欲しかったのだけど・・・・・・。いや、何故結芽乃は気づかないんだ」

「まあ、分からなくもないな」


別にそう感じないわけじゃない。


「何を、何が」


光梨はダメージを受けすぎて単語で話し始めていた。


「うん、結芽乃ちゃんが光梨のことを女の子、って勘違いする訳をだよ。だって光梨、ワタシから見てもたまにどっちか分からなくなるし。スカート履いてても執事みたいな服着てても違和感ないと思うし。顔は中性で美人だし、性格は誰にでも優しいし、老若男女関係なくモテるし、成績優秀、運動神経抜群。大人びていて聞き上手だけど、やると決めたら最後まで突っ走る。光梨さ、盛りすぎてない?」

「途中からあまり関係ないし、なぜ執事の服が出てきたのも謎だし、褒められているのか妬みなのかよく分からないのだが」

「褒めてるよ。そこは間違えないで」


はあ、と光梨はため息をついた。仕草一つ一つが何処か色気を感じる。


「それにしても光梨、髪伸びたね。もう後ろで結べるんじゃない?」


ワタシはサラッと光梨の髪に触れる。


「そうかもしれないね。明日頼めるかい?」

「いいよー。アレンジしまくってあげる」

「ものすごく嫌な予感がするのだが。まあいいか。それでは健眞、また明日」

「じゃあね」


昼は母親が用意してくれていたものを食べ、またゲームをしようとしたが、やめた。虚しくなると思ったからだ。『劣等』。その言葉が心にとまる。どんなに努力してもきっと上のきょうだいたちには追いつけない。やってみなきゃ分からないとは思うけど、それでも勝てるとは思えなかった。


「落ちこぼれ、か」

(せめてなにか特別なのがあればいいんだけど、無理な話かな)

「何もしたくない」


リビングの方からピアノを弾く音がする。きっと母親が開いているピアノ教室で誰かが弾いているのだろう。目を閉じて横になる。何も考えない、そうすれば楽になれるはず。そしてそのまま夢の世界に引き込まれた。




003


「・・・・・・ん。・・・・・・サさん。ヤブサさん!」

「ハッ・・・・・・!」

「大丈夫ですか?疲れているのなら休んだ方が」

「大丈夫です。少し、意識が飛んでいました」

「そう、ですか。無理しないでくださいね」


そう言って、目の前の美青年は微笑んだ。金青色の髪に左右で色の違う瞳。


「ハハッ。気をつけます」


(さて、どうしたものか。此処は何処だ。ワタシは今誰だ。あの超絶美青年は誰だ)


周りをちらりと見れば、目の前の机に読みかけの本、壁には青い火が灯るランプ、床は石畳、そこら中にある棚にはぎっしりと本が詰まっていた。その本にも色々あって、背表紙やカバーが丁寧に着いているもの、破れたり剥がれたりしているもの、背表紙すらついてないもの、下手すると空中を飛んでいる本なんかもある。


(いや、なんで飛んでんの?)


その飛んでいる本の中の一冊が誰かによって捕まえられた。捕まえたのは綺麗なマントに長い藤紫色の髪を持った子だった。十歳ぐらいに見えた。


「ちょっと、読ませて、ね」


小さな優しい声で本に呼びかけ丁寧に頁をめくった。やがて読み終わると手のひらに本を乗せた。


「ありがとう。また、機会があったら、読ませてくれる、かな」


本は返事の代わりにその子の周りをくるくると飛んだ。絵になる光景だった。その後その子は私に駆け寄ってきた。


「ヤブサ。ボーッとしてる。疲れた?」

 ん?いや大丈夫だよ、ケイ。心配しなくていいよ。

「ん?いや大丈夫だよ、ケイ。いやぁ、ケイと蝶書が一緒にいるの絵になるなー、て思ってね」


 なんでワタシはこの子の名前を知っているんだ?なんで思ったことが言えないんだ?


「来度さん、の方、が絵になる、と思う」


そう言ってケイさんは蝶書と楽しげに会話しているライトさんとやらの方を見た。どうやらライトさんはさっきワタシに声をかけてきた人らしい。しっかしまあ、どっから見ても美青年だなー。


「否定はできないなー。来度さんは神秘的な美を兼ね備えているというか」

「うん。ボクも、そう思う」


ライトさんはワタシたちの視線に気づいたのかこちらに寄ってきた。うわ、近くで見ると余計に眩しく見える!


「そろそろ休憩にしませんか?リースから『そろそろ昼食にしないか?』と『意志疎通コーレント』が来たもので。どうですか?」


(コーレント?なんだそりゃ)


「いいですね。確かリースさんは市場の方にいるんでしたっけ」

「美味しそうな料理を見つけたらしく、早く来て欲しいとのことで。ここから市場は少し遠いので『飛行』を使おうと思うのですが、飛べます?」

「使えます。そろそろケイもお腹がすいたようでウロウロしているし」


隣を見ればケイが虚空を見上げて体を揺らしていた。


「ハハッ、本当だ。では道案内お願いします」

「了解です」


そうやってワタシ達は建物を後にした。

「ヤブサ、抱えて」


「ハイハイ。ほら掴まった」


そう言ってワタシの体はケイさんを抱き上げた。そして背中に違和感を覚える。今まで気が付かなかったがこの体の主人は黒い大きな翼を持っていたらしい。その翼をバサッと拡げるとひとつ仰いで空高く飛んだ。


(へえ。飛べるんだ。え、めっちゃ楽しい)


「初めて見た。黒翼を持つヒトが飛んでいるの」


下の方で来度さんがそう呟いたのが聞こえた。でも次に瞬きした時には来度さんはもう下にはいなくてワタシ達の隣に浮遊していた。


「来度さん、然普術ネフィアの立ち上げ早くないですか?」


(ネフィアとはなんぞや)


「そうですか?まあ、リースのお陰で極めることになったしッ」


そう言って来度さんは宙を仰いだ。その目に光はなく、そして自虐気味にふっと笑った。ろくな思い出無いんだろうなー。


「飛ばしていいですか?ケイの機嫌が悪くなってきたので」


腕に抱えられていたケイさんを見るとかなり不貞腐れていた。


「そうですね。リースに怒られたくない」

「ちゃんと付いてきてくださいね」

「臨むところです。ちゃんと追いついてみせますよ。数々の面倒事を乗り越えてきたんです、舐められちゃ困ります」

「了解しました」


ワタシ達は不敵な笑みでお互いを見合った。いざ飛び始めるとワタシの視界は白い霧に包まれていった。



005


やっと目が開けられるくらいの明るさになって辺りを見回すと、また見知らぬ場所だった。


(なんか、見覚えある。何処だ?)

「・・・・・・ヤブサ」


袖を強めに下に引っ張られて思わずよろめいた、と思った。だがこの体は一ミリも動かなかった。引っ張られた方を見れば十歳くらいの赤い髪をした子がワタシの服を掴んでいた。


(何この体、鍛えてんの?)

「どうした。ちょう」


その子はちょうと呼ばれた。恐らくニックネームかなんかだろう。


「・・・・・・・・・・・・」


ちょうは何も言わずワタシの袖を引っ張り誘導した。


「どこ行くの」

「・・・・・・コッチ。来て欲しい」


やっと喋った、と思ったらまた黙りこくってしまった。ちょうに連れられながら足元が不安定な道を難無く進む。マジでこの身体、鍛えてでもいるの?

突然ちょうは立ち止まった。連れてこられたのはそこそこ幅の広い川の畔だった。


「アッチ」


と言いながら、ちょうは川の反対を指さした。そこには世にも珍しい動物がいた。よく見れば足に怪我をしている。


「そういう事ね。分かった。ほら、ちょう。掴まって」

(どういうこと?何が分かったんだ?)


またワタシは黒の翼によって宙を飛んだ。今は夕方らしく、川が橙色に染まっている。

近くで見れば見るほど綺麗な動物だった。鹿のような姿だが、毛色は青く大きな瞳は金色、銀の刺繍のような模様に箔でも散りばめたかのような見事な角を持つ動物だった。大きさはワタシと同じくらいだろうか。


「キィケルの種か。大丈夫?ちょっと足を診せてもらってもいいかな」

「あなたがその知識を持っているならば、お願いしよう」


(動物が、喋った、だと?)


その動物が喋った。機械のように淡々としているが何処か人間味を帯びる声、一言で表せない声だった。


「じゃ失礼するよ」

そう言ってワタシの体は懐から眼鏡のようなものを取りだし傷口を丁寧に診た。その後、軽く川の水で洗ったのち掌を傷口にあてる。そうすると切られたような傷がみるみる塞がっていった。そしてまた川の水で傷口があった部分を洗い、草で編んだような布を取りだし丁寧に巻き付けた。


「これでよしと。この怪我の原因って教えて貰える?」

「あぁ、教えよう。まあ、狩合日かりあいびでもないのに襲われたのだ」


(狩合日ってなんだよ)


「格好からして盗賊か珍品商の輩だろうな。斧みたいのようなもので振り被られた。お返しに服を燃やして羞恥に晒してやったがな。だが生憎、我は治癒の術を持ち合わせていなくてな。先の有様さ。その時、偶然にもその子が通りかかってな、そなたを呼んでくれたのだよ」


「なる程ね。で、ちょうは一人で散歩しながら何してたの?移動するなら誰かと一緒にって来度に言われなかった?」


そう言うとちょうはバツが悪そうに顔を背けた。


「リースから逃げるため・・・・・・」

「あー、また?着せ替えされてたのね」


ちょうはこくんと頷いた。


「ハハッ、可愛らしいことだな」


そう言って鹿みたいなやつは笑った。


「だからって逃げちゃダメでしょ。今頃あっちこっち探しているんじゃないの?」

「探してないと思う」

「なんでよ」

「きっと今頃、あの森に住んでいる妖精や小人と雑談していると思う。リースは話しながら小人たちの服とか作ってたし」

「なるほどね。まあでも、位置探索系の術がかけられてるし、大丈夫と判断したのかもね。」

「かけられていた術ってそれか。道理で動きにくい訳だ」 


ちょうは成程と納得したようだった。


「そろそろ戻ろう。多分夕食の準備始まってるし」

「ん」

「ありがとう。また会えたら」


そう言って鹿のやつも去っていった。

ワタシが一歩踏み出すと視界が歪み、立つのが困難になるくらいの目眩に襲われた。



やっと目を開けられるようになった、と思ったらワタシは宙に浮かんでいた。

辺りは炎に包まれ、叫び声や雄叫びが響き渡り、雷の音が聞こえた。柱で形成されているようなこの建物は一つ一つがとても太いのに綺麗に斬られていたり今にも崩れそうなくらいにヒビが入っていた。

そんな状況を目前にして、ワタシは自分で驚くほど冷静だった。


(ここは来たことある。見たことある。この出来事もちゃんと知ってる。何故ワタシはコレを忘れていたんだ?)


色鮮やかな赤色だけじゃない鮮血、目の数が二つじゃなかったり、角が生えていたり、動物の頭を持った人種を眼下にして驚き怯えるどころか、観察しそれを当たり前と感じるワタシがいた。腑に落ちているワタシがいた。その自分に対して寒気を覚えた。


(気味が悪い。本当に)


なんとなく誰かと自分が融合するような感覚を覚え、何かがリセット、いや思い出されるような気分に陥った。


(ワタシは誰だ。名前は健眞、いや、ヤブサ。あのヒトに付いて行って旅をした。黒翼に劣等感を持っていて、自分のことが大嫌いだった。自分の強さを見つけられたのはあのヒトのおかげだった。今度こそあのヒトに守られるんじゃなくてワタシがあのヒトを)


「救うから待ってて、来度」


下からそう呟くのが聞こえた。

ワタシは燕のように降下して、戦場に立っていた一人の子に重なった。ワタシに向かって襲いかかる奴らを一瞥して瞬く間になぎ倒し、一点を見つめる。一番大きな柱に最上部に施された檻のような硝子細工を見つめた。ワタシでなければ見逃すように繊細な。その内側には白く長い髪に、また白い服に白い肌のヒトが鎖に繋がれていた。美しく繊細な硝子細工とは対象的にドス黒い色に染まった頑丈そうな鎖。


「ワタシはもう、なンにもできない落ちこぼれじゃない」


 その時強烈な頭痛がワタシを襲った。内側と外側、両方からハンマーで力任せに殴られたような痛み。それでもワタシは立っている。今すぐにでも倒れ込みそうな痛みに体が耐え、まるで燕のように目で追いかけるのが精一杯の速度で次々に短刀で襲いかかる奴等を薙ぎ倒す。呂色の翼は突風を起こし、散る羽根は奴等に深傷を負わせる。

 でもそれだけ派手な戦い方をしても死人一人出していない。きっと殺したくはないのだろう。殺し合うために戦ってるわけじゃなくて、誰かを助けるために人を退けているよう。人が十分に捌けると翼を広げ宙を斬る。手を伸ばせば『ライト』に届きそうな時、『ライト』は白に染まった目を見開いて何処かを斬った。次の瞬間にワタシの体は真っ直ぐ下に落ちていった。最後に見えたのはライトが鎖を粉々にして身に不釣り合いな大鎌を持った姿だった。


 そこで途切れる。



006


もう一度目を開ければ見慣れた天井。


(夢だよな。きっと、うん)


 その思い込みを裏切るかのようにワタシの手には黒色の羽根が握られていた。自分の手のひらより少し大きい立派な羽根、いや劣等品。


「なんで夢と思い込ませてくれないかな。コレじゃ、真相がわかるまで突き止めなきゃいけないじゃないか。はあ」


 バケツをひっくり返したような音が聞こえて花火に近い光と振動が伝った。窓からは地面が川もどきになっているのが見えた。 


「まるで季節外れの台風だ。もうちょい後だろ、こういうのは。始業初日にこんなだったら今年一年は波乱の幕開けな気もしてきた。あー当たらなくていいのに」


 こんなの当たっても嬉しくない。


 とりあえず母がいるであろうリビングに行けばクッキーと紅茶を出して些細な一人お茶会をしていた。


「流石に生徒さんは帰らせたのね」 

「何言ってるの健眞。今日はもともとお休みの日。それに今日はピアノに一切触れていないよ」

「じゃああの時聞こえたピアノの音は誰の音だ」

「さあ知らない。空耳じゃない?」

「そういうことにしとくか」


 部屋に戻るついでにクッキーをつまみ食いした。やっぱり美味しい。

 さあて、この羽をどうするか。手に持ってクルクルと回す。光に当たると緑や紫、青や赤に変色して見える。


「珀、ヤブサね。黒い翼に栗色の髪。で、おそらくその翼の羽根がこれなんだろうな」


 付け根部分に穴でも開けてネックレスとかにでもするか、どうするか。なんとなく身に付けてた方がいい気がする。


「なんかこう、紐ないかな。紐」


 羽根を机の上に置いといて紐を探し出す。


「どっかでもらったのが・・・・・・・。あった」


 でも、机の上には羽根はなかった。


「どこいった、風もないし。え、どこよ」


 十分近く部屋中を探し回ったが見つからず、諦めた。


「え、幻影とか何か?」


 その後、風呂に入る前に一旦見つかり寝ようとした時には消えていた。

 で、朝起きた時には机の上にあった。そしてその羽根は二枚に増えていた。


「ホントに何なの、この羽根」


 学校に着いて教室にも着いて一番最初に目に留まったのは結芽乃ちゃんと千夢だった。二人は何やら話し込んでいた。


「何話してんの?」


 通学バッグを置きながら話しかけた。


「あ、健眞。ちょっとね」


 ワタシが話しかけるとまず千夢が反応して、その後ろから結芽乃ちゃんが顔を出した。


「何の話?」

「昨日見た夢のことを話してたんだ」

「夢?どんなやつ?」

「・・・・・・、やけにリアルで記憶に残る夢」


 夢は昨日も見たけれど。


「戦争とかそういう夢」


 戦争、戦いの夢には心当たりがあった。記憶に残りすぎて忘れたいくらいのが。


「ライト?」

「あー、健眞も見てた?」

「わたしはリーシェイっていう人から見てた」

「私はケイから」

「ワタシはヤブサから・・・・・・。ライト、は誰」

「うん、ホントにそう。で、わたしたちが共通で見たのは戦場、の夢」

「ワタシもだ。空飛んだり、魔法っぽいの使ったりとか。これだけ見ればただの二次元ラノベオタクが見た夢だね」


 しょうもないことに気づいてしまった。


「あー、本当だね」

「拗らせ・・・・・・」


 結芽乃ちゃんがボソッと言う。


「ヤメロゥ、それ以上言うなー。でも、事実だよなぁ」


 千夢が天井を仰ぐ。


「うん」

「なんかこう、現実を痛感するというか」

「まあ、でも同じ夢を見たことは事実だし、ね?」

「記憶なのかもね」 


 ただなんとなく。


「頭が痛くなることが多かったなぁ」

「どうなんだろう」

  真実はまだ闇の中らしい。


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