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混ぜるな危険? 葵といいんちょー その2

 振り返ると制服姿とは大きく印象の違ういいんちょーが佇んでいた。


 黒のチュールスカートに薄橙色のアンサンブルニットを着用していて、普段よりも大人っぽいというか、より美しさが引き出されているという感じだ。


 もちろん制服もあれはあれでいいのだが、やはり普段は見ない私服の新鮮味には劣ってしまうというものだ。


 右手には俺が持っているのよりも少し小ぶりな紙袋を持っているので、いいんちょーも買い物に来たのだろうか。


 って、いかんいかん。


 こんなにまじまじと同級生の女子を見つめていたら変態だと思われてしまう。


 俺は視線をすぐに上に向けると、いかにも自然な感じで、


「あれ、いいんちょーじゃん。奇遇だな。いいんちょーもここ来てたんだ」


「ええ。ちょうど連休だし、どこかお出かけしようと思って。それでここでセールをするって聞いたから服を見に来てたの」


 なるほど、葵と似たような感じということか。


「小倉くんはどうして今日ここに?」


「本当は来るつもりはなかったんだけど、妹がどうしても行きたいって言うから。仕方なく付き合ってやってるって感じかな」


「へー。小倉くんって妹さんがいたのね」


 意外そうに少し驚いた素振りを見せるいいんちょー。


「ゴールデンウィークに一緒に買い物なんて仲がいいのね」


「まあ仲は悪くはないと思うけど、いいかといわれるとどうかな。今日だって半ば強引に連れてこられたみたいなもんだし」


「それでも休みの日に妹さんのために来てあげたんでしょ? そんなこと仲良くないとしないわよ。それにそもそも妹さんが小倉くんのことを嫌っていたら誘いもしないでしょうし」


「そうかな」


「そうよ。私も弟がいるんだけど、小倉くんたちみたいに出かけるなんて最近はほとんどしてないわ。昔はお姉ちゃん、お姉ちゃんってかわいかったんだけど。今じゃすっかり生意気になっちゃって。世話の焼ける弟よ」


 いいんちょーは呆れたようにため息をこぼすが、その言葉の端々からは弟さんへの愛情がにじみ出ているような気がする。


 どうやら本人は仲がいい、という自覚がないようだ。


「きょうだいの仲のよさって自分達だけじゃ分かんないのか」


「小倉くん、今何か言った?」


 俺は首を横に振ると、親近感を覚えながら言った。


「いや、なんでも。こっちの話」


 いいんちょーは不思議そうな顔をしていたが、この事実は心の中にそっとしまっておくことにして、話題を変えることにする。


「ところでいいんちょーは席取ってあるの?」


こちらの問いかけに対し、いいんちょーは少々困ったような表情を覗かせる。


「いや、実は取ることができなくて。私もさっきここに来て探したのだけれどちょうどお昼時だし、こんな混雑だから中々席が見つからなくて。ひとまず注文はしておいたんだけど……少し見通しが甘かったわ」


 なるほど、しかしそういうことならクラスメイトのよしみだ。


「なら俺らと一緒に食べる? 席取ってるし」


 その提案に一転、目を丸くするいいんちょー。


「いいの? でも小倉くんにも悪いし、それに妹さんにご迷惑じゃないかしら。私なんかがご一緒してしまって」


「全然問題なし。俺はもちろん、葵だって迷惑だなんて思わないと思うけど」


 気にしない素振りで答えたものの、それでもいいんちょーは迷っている様子。


 しかし俺が葵の愛想のよさについて熱弁をふるい続けると、ようやく


「分かったわ。じゃあお言葉に甘えてご一緒させてもらおうかしら。ありがとう、小倉くん」


 ほんのりと笑顔を見せてくれた。


「そんな感謝されるようなことしてないって。いいんちょーにはいつもお世話になってるし、今日はそれのほんのお返しだ。じゃあさっさと昼ご飯受け取って行こう。葵も待ってるだろうし」


 その直後、


「つっぎのかたぁ、どうぞぉー!!!」


 洋食店には似合わない威勢のいい店員さんの声が辺り一帯に響いた。




 俺は自分のカツカレーと葵のオムライスを、いいんちょーはビーフカレーを受け取って、並んで席に戻ると、ポチポチとスマホをいじっている葵の姿が目に入った。


「悪い、葵。遅くなった」


「ホントだよ~。連絡したのに返事もないしどこ行ったかと思って……」


 と、スマホから顔をあげて笑顔で出迎えてくれた葵であったが、俺の隣にいるいいんちょーに焦点が合った途端に瞬間冷凍したかのように顔を凍り付かせた。


 そして頬の筋肉がつったかのようななんとも言えない表情でいいんちょーのことを一瞥したのち、顔を強張らせたまま油の切れたロボットのようにこちらを向いた。


「えっと……どちら様?」


 ん、なんだ?


 人懐っこいこいつでもさすがに初対面の年上相手では緊張するのだろうか。


 葵のこんな様子は見たことがないため物珍しさを覚えるが、そういうことなら共通の知り合いである俺が二人の仲を取り持ってやろうではないか。


 俺はまずは葵に向き直ると、いいんちょーのことを手で示しながら、


「葵、紹介するよ。こちらは俺のクラスメイトのいいんちょ……じゃなくて、河井侑里さん」


 いいんちょーは一歩前に歩み出ると完璧スマイルで葵に自己紹介を始めた。


「こんにちは、葵さん。小倉くんと同じ高校に通っている河井侑里です」


 次はいいんちょーに向かって、葵を紹介する。


「いいんちょー。妹の葵だ」


「……小倉葵です。はじめまして」


 しかし普段の愛想のよさとは打って変わって明らかに不愛想な返事をする葵。


「よろしくね」といういいんちょーの明るい返事にもペコリと頭を下げるだけだ。


 いつもだったら「よろしくお願いします!」とか言って、直射日光レベルの光を放ちながら相手の懐へするりと入っていくはずなのに、本当に今日はどうしたんだ?


 葵の見慣れない様子をいぶかしんでいると、葵はまたもいいんちょーのことをまじまじと見つめていた。


 そして何を考えているのか分からないような目でこちらを見据えてきて。


「おにいちゃん、ちょっと」


 小さく手招きしてきた。


「どうしたんだよ」


 そのまま素直に葵のそばまで行くと、葵は俺にだけ聞こえるように声を押し殺して言ってきた。


「おにいちゃん、どういうこと!?」


 葵に視線を向けると、むすっと頬を膨らませている。


「どういうことってどういうことだよ」


「質問を質問で返さないで! なんで女の人なんか連れて来てるの!? それもとびきりの美人さん!」


 なんでこいつ、こんなに不満そうなんだ?


 理由がよく分からないので、ひとまず詳細な経緯を説明しておくことにする。


「さっきそこでばったり会ってさ。それで話してたら席が見つかんないって言うから一緒に食べようって誘ったんだ。いつも仲良くしてもらってるし色々助けてもらってるからそのお礼ってことで」


「……ふーん。……へー」


 途端に仏頂面になる葵。


「いいんちょーと一緒だったらマズかったか?」


「……べっつに。せっかくのおにいちゃんとのデートで? 久しぶりにおにいちゃんと二人でご飯食べれると思ってたのに? おにいちゃんが他の女の人連れてきたからって? なんとも思ってないけど?」


「飯なら姉ちゃんいない時とかたまに二人で食べてるじゃん」


「むー、そういうことじゃないんだよ!」


 話せば話すほどますます眉を寄せてしまう葵。


「? そういうことってどういうことだよ」


「ふん! おにいちゃんなんて知らない!」


 そしてぷいっと不機嫌そうに顔を背けて身を翻しテーブルに戻ってしまった。


 なんだ、なんだ? 葵のやつ本当にどうしたんだ?


 俺は葵の様子に首をひねりながら後を追った。

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