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泣いて笑って二日酔い おまけ ~長男はつらいよ~

「よし、この二人が食べないようにチョコ全部食べてやろう」


 二人の姉妹とひと悶着あった後、俺は小倉家の平穏を守るための作戦を実行に移すべくチョコに手を伸ばしかけたが、視界の隅に映ったあられもない姿で床に寝っ転がっている姉ちゃんを見て手を止めた。


 さすがにいつまでも床で寝かせておくわけにもいかないし、あと姉ちゃんと葵、チョコ食った後歯ブラシしてないよな。


 このまま寝かせたら絶対虫歯になってしみるような痛みで顔をゆがめる二人の絵が容易に想像できる。


 であるならこの家で唯一正気を保っている俺が酔える二人の世話をしてやるしかないか。


 俺は洗面所から二人の歯ブラシを持ってくると、まずは比較的暴走の危険性が低そうな姉ちゃんに呼びかける。


「姉ちゃん起きて。歯ブラシしないと虫歯になるぞ。あと寝るならベッドで寝ろよ」


「うーん……はると……? うーん……?」


 どうやらまだ寝ぼけているらしく、花金の仕事帰りに宅飲みして酔っぱらった敏腕OL小倉美夏(2n才)が言いそうなセリフを発する姉ちゃん。


「いつまで寝てんの。起きて歯ブラシする、ほら」


 あまりに起きなさそうなので、姉ちゃんのそばにしゃがみこんで頬をぺちぺちと叩いてみると、姉ちゃんはごろんと寝返りを打って仰向けになってカバのように口を開けた。


「……何やってんの?」


「はると……歯みがいて」


「は? そんな子供じゃあるまいし、自分で磨けよ」


 俺は呆れながらそう言うが、姉ちゃんは目を閉じたままずっと口を開きっぱなしにしている。


 放っておけば自分でやるだろ、と思ってしばらく姉ちゃんが動くのを待っていたのだが、微動だにしない様子からどうやら自分で磨くという選択肢はないらしい。


「……まったく、しょうがないな」


 結局根負けした俺は正座すると姉ちゃんの頭を膝にのせて歯ブラシをしてあげることにした。


 前歯、奥歯、ハグキと順にシャコシャコと軽やかに磨き続ける。


 こんな感じで誰かの歯を磨いていると小さい頃母親が俺の歯を磨いてくれていた時のどんな気持ちだったのかがなんとなく分かるような気がする。


 そんな他人の歯を磨くという初めての体験に名状しがたい不思議な感覚を覚えながらもブラッシングを終えた俺は姉ちゃんに呼びかけた。


「はい、終わったよ。洗面所行くぞ。立てるか?」


「んー……」


 姉ちゃんがのそのそと危なげに立ち上がるので、肩を貸してあげて洗面所に連れていく。


「はい、がらがらぺー」


「がらがら……ぺー」


「姉ちゃん、自分で部屋戻れる?」


「うん……」


「ちゃんとパジャマに着替えてから寝ろよ? 分かった?」


「うん……」


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ……」


 もごもごとした口調で言いながら姉ちゃんはどこかおぼつかない足取りでトボトボと二階に上がっていった。


 これで酔っ払い姉妹の片方の世話は完了したので俺は少し肩の荷が下りたような気持ちになるが、リビングに戻り次第もう片方の葵の姿を認めると嘆息をつく。


 こいつには前科があるからな。


 起こしたら起こしたでまたあんな大惨事を引き起こす可能性もあるし、でも歯ブラシはさせたいし悩みどころだな。


 腕を組んでしばらく酔っ払い野郎の後処理方法について唸っていると、突然「う~ん……う~ん」とうなされて苦しんでいるような葵のうめき声が耳に届いた。


「葵、大丈夫か」


「う~ん……あたま痛い……。お水飲みたい……」


 葵は出がらしのような弱弱しい声でそう告げた。


 どうやら先ほどのアルコールが体に回って気分が悪くなってしまったらしい。


 俺がキッチンに行ってコップに水を汲んでくると、葵はそれをごきゅごきゅと、砂漠をさまよっていた冒険家のようにかなりの速度で飲み干す。


「うっ、気持ち悪い……」


 と、先ほどとは打って変わってしおらしくなってしまったのでこれなら歯磨きさせられるな。


「葵、気分悪いなら歯磨きして寝ろ。これ、歯ブラシ。自分で磨けるよな?」


「むりー……おにいちゃん、みがいて」


「えー、お前もかよ。しょうがないな。ほら、膝に頭乗せろ」


 ということで葵にも姉ちゃんと同様にブラッシングをすることになってしまった。


 なんで俺は姉(18)と妹(12)の歯を磨かなくちゃいけないんだ?


 この状況への疑問が絶えなかったものの、それでも断ってしまえば葵に惨事が降りかかってしまうため仕方なしに歯磨きを済ませてやる。


「葵、歩けるか?」


「……なんとか」


「転ばないように気をつけろよ。俺の肩に手回して」


 そのまま全体重を肩に預けてくる葵を洗面所に連行してから。


「はい、がらがらー」


「がらがら……」


「ぺー」


「ぺー……」


「よくできました。じゃあ部屋まで行くぞ」


 パジャマに着替えるように厳重に言いつけてから部屋のベッドに寝かせた。


「ありがと……おやすみ……」


「おやすみ」


 葵の部屋の電気を消して、ドアを閉めると一仕事終わったという開放感のもとに俺は大きく伸びをする。


「手間のかかる姉妹だ、ホントに」


 愚痴を吐き出してセルフストレス発散をしたのちリビングへと向かう。


 しかしここからが山場だ。


 すべては小倉家の平穏のために、だ。


「さて、じゃあ最後の任務やりますか」

次回 二人だけのヒ・ミ・ツ

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