はじめてのしょくしつ その1
ある日の放課後、アカリ達小学生三人衆とドロケイをすることになった。
「じゃあおにいさんが警察で私たち三人が泥棒ね! 牢屋はここのベンチで! じゃあ逃げろー!」
じゃんけんの結果、俺が鬼の警察役をすることになったのだが、なんで俺は普通にこいつらとドロケイをしているんだろうね?
ふと気になったのであいつらに訊いてみると、
「友達なんだから遊ぶのは当然じゃん!!!」
元気とやる気と勇気をミックスしたようなパワフルな声が返ってきた。
あいつら俺のこと友達だと思ってたのかよ。
でもそう慕ってくれるのは悪い気はしないな、なんて我ながらちょろいとは思うが、それでも純粋な嬉しさを覚えながら、公園中に散らばっていく三人の後ろ背中を眺めて待つこと三十秒。
「よし、じゃあ始めますか」
今日も今日とて小学生どもとの遊びの時間が始まるのだった。
そういえば普通に始めてしまっているが、ドロケイなんていつぶりだろうか?
中学に入ってからやった覚えはないから……小学校以来、実に三年ぶりくらいかもしれないな、と公園を歩きながらふとそんなことを思う。
こういう鬼ごっこから派生したゲームというのは単に走力が高ければ勝てるというものではなく、いかにして地形を生かして逃げ惑う奴を追い込んで捕まえるのか、また常に全力疾走するのではなく、どこで本気を出すのか。
さらにドロケイとなると捕まえたやつをいかに脱走させないか、という知力、経験を合わせた総合的な力が問われる遊びなのだと俺は思っている。
三年、もしくはそれ以上という長いブランクがあるのは少々不安ではあるが、所詮奴らは小学生で俺は高校生。
走力、知力、経験、すべてにおいて差は歴然だ。
さっさと終わらせて家に帰ってダラダラでもするとしようじゃないか。
俺は余裕の心持ちで歩みを速めたのだった。
しかしその十分後、その目論見はまんまと外れることになった。
「はぁ……はぁ……」
俺は息も絶え絶えになりながら牢屋であるベンチに身を預けていた。
「はぁ……はぁ……すばしっこいやつらめ」
そう独りごちながらこの十分間にあったことを思い返す。
ゲームが始まってからまず俺はアカリとユウトの二人に照準を合わせた。
理由は単純であの二人はちょっとおバカだから、すぐに逃げ場のない場所とかに行って自滅すると思ったからだ。
だがあいつらを発見していざ追いかけてみたものの……。
「きゃー! 来たー!」
「おにさん、こちらー!」
「待ちやがれ! ……はぁ……はぁ……あれ?」
追いかけれど中々二人に追いつくことができないのである。
しかも少し走るだけでゼーハーと息が上がってしまう始末。
そう……なんということか、体力が予想以上に落ちてしまっていたのだ!
その事実にショックを受けていたが、思い返せば中三で部活を引退してから本気で走ったりしてないし受験で机に噛り付いていたしで、体が衰えてしまうのは必然だった。
しかもこの公園には数回しか出入りしていないため、俺は土地勘がないのにこいつらはホームに等しいから公園の地理を熟知しているのだ。
つまりいくら俺が高校生であいつらよりは走力が高くても、体力、知識、そしてブランクによる経験の面で劣っていれば捕まえることは難しいのである。
「甘く見てたぜ……」
そう現状分析を行いながら息を整えていると、あどけなさの残る声が飛んできた。
「あっ、おにいさん休憩してるー!」
「マジかよ! 体力なさすぎんだろ!」
「本当だー。何やってるんですかー? まだ終わってませんよー?」
ベンチから数メートル離れた距離で三人が余裕の表情を浮かべながら囃し立ててくる。
「……ちょ、ちょっとな、作戦考えてたんだよ。この作戦を実行すれば……お前らなんて一網打尽だ」
俺はせいぜい強がって答えてみるが、
「うっそだー!」
風の前の塵のようにアカリに一蹴されてしまう。
「なんでだよ、根拠あんのか?」
「だっておにいさん、この前のキスの話で嘘ついてたじゃん! 今日も嘘ついてるでしょ!」
「おい! それは掘り返すな!」
俺が声を荒げると、三人はサーカスのピエロでも見たかのように楽しそうに笑う。
クソッ、完全に遊ばれているな。しかも小学生に。
プライドを傷つけられ、もやもやとフラストレーションが溜まっている俺に向かって三人はさらなる挑発を繰り返す。
「ほら、早く立ってくださいよー。私たちまだ全然遊び足りませんからー」
「そうだよ! おーにさん、こちら! 私たちはここにいるよー!」
「高校生なんて大したことなかったな! ヨユーだぜ!」
カッチーン。
そこまで言われては寛大な俺の堪忍袋の緒も切れるってもんだぜ。
俺はゆらりと静かにベンチから立ち上がると、心に闘志を燃やしながら答えた。
「……そうかそうか。大したことない、か。そういうことなら……本気出してやろうじゃないか!!!」
次回 はじめてのしょくしつ その2




