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どこが変わった? その2

 さらにその翌日。


 今日は休みの日なのでいつ問題が出されるのかと身構えていたが、なんと予想を裏切るように朝一番に出題された。


「今日はおねえちゃんに協力してもらうことになりました! おねえちゃんが準備できるまでもうちょっと待ってね」


「えっ、今日はお前じゃなくて姉ちゃんなの?」


「うん。おねえちゃん、ちょうど今日お出かけするらしいからちょうどいいかなって思って。あとわざわざおにいちゃんのために準備するのが面倒くさくなっちゃった」


「お前が三日坊主になってどうするんだよ」


 そう葵に突っ込んでいると、明るい笑みを振りまきながら姉ちゃんがリビングに入って来た。


「二人ともおまたせ~」


 今日の姉ちゃんは紺を基調としたブラウスと白色のスカートのコーデという大学生らしいカジュアルな格好をしている。


 自慢の滑らかな髪もきちんと手入れされているのがよく分かるが……姉ちゃんって出かける時いつもこんな感じの格好してるから何が変わったのか正直分からないぞ。


「どこが変わったか、春斗には分かるかな~?」


 スカートをひらりとなびかせ、踊るように一回転する姉ちゃん。


「なんか姉ちゃん、楽しそうだな」


「ふふっ、そうね。春斗のために頑張ってオシャレしてみたから分かってもらえると嬉しいな」


 わーお、ハードル爆上がりじゃん。


 ここは姉ちゃんの期待に応えるため、なんとしても正解しなかればいけないな。


 そんな使命感を胸に俺は過去の傾向を踏まえて、細部までじっくりと検分していくが、しかし。


 むむむ、やはり全然分からないな。


 観察を初めて一分ほどが経過したのだが、どれだけ見てもいつも通りの姉ちゃんにしか見えない。


 クソッ、このままじゃ姉ちゃんの笑顔が悲しみに染まってしまう!


 焦りと必死に戦いながら死に物狂いで上から順に姉ちゃんを眺めていると……あっ! 


 俺はついにその変化を見つけることができた。


 なんだ、明らかに変化している部分があるじゃないか!


 答えが分かった喜びに身を任せ、俺は大声を発する。


「分かった! ウエストが太くなったからスカート緩めのやつにしたんだろ! っしゃ、間違いないだろ!」


 その直後、葵に体をバシンと叩かれる。


「いたっ! えっ、なに!?」


「もう、おにいちゃんは! デリカシーがないにもほどがあるよ! ほら、おねえちゃんショックで固まってるじゃん!」


 葵の指さす方を見ると、姉ちゃんは「ウエ……太っ……」とつぶやきながら電池が切れかけている人形のように震えている。


「でも変化は変化だろ? 俺、なんか間違ってる?」


「間違ってないけど間違ってるの! おにいちゃん、まずはおねえちゃんに謝りなさい!」


「なんで俺がそんな――」


「いいから早く!」


「えぇ……ごめん、姉ちゃん」


 言われるがまま姉ちゃんに謝ると、姉ちゃんは寝耳に水を入れられたように意識を取り戻す。


「……いいの。そもそもお姉ちゃんが太っちゃったのが悪いんだし、春斗は何も悪くないから。……やっぱりご飯食べすぎちゃったのかな……うぅ……」


 いたたまれない空気がリビングに充満する中、葵は両腕を腰につけて、強い声で俺を糾弾する。


「まったく! これからは特訓に加えて、女の子への配慮っていうものも勉強してもらう必要があるね。覚悟しておいて!」


「えぇ……そんな……」




 それからさらに二週間。


 俺は毎日毎日葵の特訓を受け続けたわけだが……今更になってふと思った。


 これ、なんの役に立つの?


 そもそも俺、彼女はおろか女友達すらいないからこの能力を鍛えたところで使いようがないし、無用の長物ってやつじゃないのか?


 しかしそんなことをあいつに言ったところで無駄だろうし……正解するまで頑張るしかないのか。


 そんな暗澹たる思いを胸に教室へと入り自席に向かうと、すでにいいんちょーが席に座っていて、予習だろうか、さらさらとシャーペンをノートに走らせていた。


 いいんちょーは俺に気づくと手を止め、微笑みながら挨拶をしてくれる。


「小倉くん、おはよう。なんだか今日は元気がないわね」


「おはよう、いいんちょー。うん、まあ……ちょっと妹にしごかれてるっていうか、もてあそばれてるっていうか、そんな感じ」


「あなた、妹さんと何やってるのよ……」


「さあ……俺も分かんない……」


 そうつぶやきながら呆れたような目を向けてくるいいんちょーに視線を向けると……あれ?


 俺はいいんちょーを見てふと思ったことを口にした。


「ねえ、いいんちょー。もしかして髪切った?」


「……えっ?」


 その瞬間、時が止まったように固まるいいんちょー。


「いや、間違ってたらごめんなんだけど、なんかそんな感じして。いつもとちょっと雰囲気違うなーって思ったから」


 何気なくそう言うと、いいんちょーは目を大きく見開いて答える。


「え、ええ。昨日、毛先をほんの少しだけ短くしたんだけど……よく気づいたわね。登校してから誰も気づかなかったのに……ひょっとして変、かしら?」


「いや、むしろその逆だ。全体的にすっきりした感じになっててすごい似合ってると思う」


「……そ、そう」


 俺の返事を聞く否や顔を背けるいいんちょーだが……あれ? まさか、怒ってる?


 そういえば好きでもない人に髪型を変えたことを指摘されると嫌悪感を示す人もいるってこの前ネットニュースで見た気がするぞ。


 ヤバい、つい葵の特訓みたく指摘してしまった!


 内心ひどく焦った俺は身振り手振りを交えながら弁明する。


「あっ、いや別に変な意味じゃなくて! えっと……その、ごめ――」


「すごく嬉しい」


 そんな俺の謝罪の言葉をいいんちょーの静かな呟きが遮った。


「……へっ?」


 俺がおそるおそる顔をあげると……いいんちょーははにかむような、嬉しさをにじませたような笑みを浮かべながら言った。


「気づいてくれて、ありがとう」

次回 姉の偉大さ

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