どこが変わった? その1
「ねえねえ、おにいちゃん。私を見てさ、何か気づかない?」
学校から帰って来てリビングでくつろいでいると、俺の後に帰って来た葵が突然そんなことを聞いてきた。
「え? 何かって何?」
「それを言ったら面白くないでしょ。ほら、よく見てみてよ」
葵は期待に満ちた眼差しを向けながら、こちらに一歩詰め寄ってくる。
妹を蔑ろにするわけにもいかないので葵をじっくりと観察してみるが、いつもと変わったところは特に見られない。
うーん……マジで分からないぞ。
ここは無難な答えでやり過ごすか。
「あー……髪でも切った?」
答えを聞くや否や拗ねたようにむすっとなる葵。
あ、ハズレっぽい。
「違うよ! これだよ、これ! 新しいの使ってみたの!」
葵の指さす先には淡い青色を基調とした花のヘアピンが照明に反射してキラキラと輝いている。
んな小さなもの気づくか! とは内心激しく突っ込んでみるものの、俺はそれをおくびには出すこともなく、ポンと手をたたいて大げさに納得した素振りを見せる。
「あー、それか! たしかに言われてみれば雰囲気変わってるな、うん。すごい似合ってるし可愛いぞ」
失言を取り繕うようにそう褒めてみたものの、葵はジト目を向けてくる。
「おにいちゃん、気づかなかったのごまかそうとしてるでしょ?」
「……そんなわけないだろ。本当にそう思ってる」
「もう、バレバレだよ! おにいちゃんなら気づいてくれると思ったのに!」
声を大にして不満をあらわにする葵だが、これはこちらにも三分の理があるだろう。
「いや、そんなちょっとの変化なんて普段からじろじろ見てない限り気づかないって。どこが変わったか聞くくらいならそれこそ髪をバッサリ切ったとかじゃないと気づくの無理だぞ」
「それでも気づいてほしいものなの! まったくもう、おにいちゃんは女の子のことを全然分かってないよ!」
だって俺、女の子じゃないし。冴えない一般高校生男子だし。
心の中で言い訳がましく反論していると、葵はやれやれと肩をすくめた。
「はあ……まさか私のおにいちゃんともあろう人が妹の変化にすら気づけないダメダメ男子だったとは……。これは私が直々に指導してあげる必要があるよ」
うわっ、なんかいきなり面倒くさそうなこと言いだしたぞ。
「別にいいよ。妹のささいな変化なんて気づかないもんだろうしそれに――」
と、急いで口を開いて拒否の意思を伝えてみたものの、葵は勢いよく宣言した。
「よし、分かった! 明日から特訓だよ、おにいちゃん! おにいちゃんを鍛えて鍛えて鍛えまくって、女の子の変化に気づけるようなステキな男の子にしてあげる!」
こうなるともうこいつは止まらない。
こうして俺は半ば強引に特訓を受けさせられることになったのだった。
翌日から特訓という名の苦行が始まった。
内容は一日に一回、葵のどこが変わったのかを当てるという至ってシンプルなものだ。
時間は特に指定されていないため、葵の準備が整い次第いきなり出題されるのだが……心構えというか、よし今から頑張るぞ! と気合を入れるくらいの時間は欲しいものだ。
今日は葵が風呂から上がった直後に出題された。
「デデン! 今日はどこが違うでしょう!?」
ほんの少し上気した顔をにこやかにしながら葵が尋ねてくる。
むむむ。
パッと見はいつもと変わらぬ風呂上がりの葵なんだが、昨日の傾向を踏まえると。
「えーと……ヘアピン新しくした?」
「ブブー、違います! 正解はパジャマでしたー。昨日の問題そのまま出すわけないでしょ」
それもそうか。
さすがに安直すぎたかな、と反省していると葵はパジャマを見せつけるようにくるりと一回転する。
「パジャマ、新しいのおろしてみたんだ。どう? 似合ってる?」
「あー、うん。可愛い可愛い。超サイコー」
「間違えてるし全然気持ちがこもってない! 明日もう一回!」
「えぇ……」
翌日。
今日も葵がお風呂から上がった直後に出題された。
まさかの風呂上り二連チャンだ。
「おにいちゃん、どこが違うと思う?」
ふむ。
俺は一度葵を上から下まで観察してみる。
今日はヘアピンをつけてないし、パジャマも前に見たことがあるやつだ。
ならば何が違うのかと頭を悩ませていると――うん?
この鼻孔をくすぐる甘い香りは……。
「もしかしてだけど、洗剤でも変えた?」
そこそこ自信があったのだが、葵はふるふると首を横に振る。
「うーん、違うね。今日はいつものシャンプーじゃなくて、ちょっといいやつを使ってみたから髪がキレイになってると思うんだけど……なんで洗剤?」
「なんかいつもとお前のにおいが違ったから洗剤でも変えたのかと思って」
「えっ……。おにいちゃん、普段から私のにおい嗅いでるの? それはちょっと引く……」
「じゃあどう答えればいいんだよ! お前が答えろって言ったんだろ!?」
次回 どこが変わった? その2




