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サッカーボールと変質者 その1

 ある晴れた日、学校の帰り道に児童公園のそばを歩いていると、目の前にサッカーボールが転がって来た。


「すみませーん! 取ってくださーい!」


 声のした方から、小学四年か五年くらいの男の子が手を振って駆け寄ってくる。


 そのボールを見ていると、中学まではサッカーをやっていたことをふと思い出し、少し懐かしい気持ちになる。


 まだできるか? と思い、試しに転がっているボールに足を掛けると左右の足で交互にリフティング。


 そして顔の高さまでボールをあげて手でキャッチ。


 おっ、意外とまだまだいけるものだな。


「はい」


 駆け寄って来た男の子にボールを渡すと、キラキラと羨望の眼差しを向けてくる。


「すげー! にいちゃん、サッカーうまいんだな!」


「まあ、昔ちょっとやってたからな。うまいかどうかは分からないけど」


「なあなあ。にいちゃんさ、サッカーできるんだったら俺たちの練習付き合ってくれないか?」

 

 なんと小学生からサッカーのお誘いが来た。


 高校生にもなって小学生と遊ぶのもどうか、とか一瞬思ったが、その子の純粋な瞳を見ているとそんなくだらないプライドは一瞬で吹き飛んでしまった。


 まあ、どうせ家に帰っても暇だしやることもないからな。

 たまには体を動かすのも悪くはないだろう。


「いいぜ」


「よしっ、決まりだな! こっちこっち!」


 嬉しそうにニカッと笑って走り出す男の子についていくと、公園のベンチの近くに男の子と同じ年くらいの女の子が二人立っていた。


 一人はツーサイドアップでもう一人はセミロングである。


 男の子が二人に駆け寄ると、ツーサイドアップの女の子が腰に手を当てながら待ちくたびれたとばかりに男の子に呼びかける。


「遅いよー。どこまで取りに行ってたの?」


「ごめんごめん。道までボールが飛んで行ってたからさ、時間かかっちゃって」


「もう、早くしてよねー」


「まあまあ、そんな怒らないであげなよ。取りに行ってくれたんだしさ」


 セミロングの女の子が微笑を浮かべながらツーサイドアップの女の子をなだめる様子を黙って眺めていると、唐突にツインテールの子の視線が俺に向く。


「ねえねえ。この人、誰? ユウトの知り合い?」


 その女の子は不審そうな表情をしながらひそひそ声でユウト、と呼ばれた男の子に問いかけると(聞こえているが)、男の子は声を一層大きくする。


「ああ。このにいちゃんはな、サッカーのうまいにいちゃんだ!」


 男の子は胸を張って自信満々に言い切っているが、一切説明になってない。


 さてはこの子、ちょっとおバカだな?


 俺は二人の女の子の視線をさらりと受け流すと、軽く咳ばらいをしてから三人に向き直った。


「近くの県立北東高校に通っている小倉春斗だ。えっと……みんなの名前も教えてもらっていいか?」


 そう言うとまずは男の子が意気揚々と先陣を切った。


「第二小学校五年三組のユウトです! で、こっちが同級生の……」


 ユウトが二人に手を向けると、ツーサイドアップの女の子がペコリと頭を下げた。


「アカリっていいます。はじめまして、サッカーの上手なおにいさん」


 次にセミロングの女の子がにこやかな笑みを浮かべる。


松下まつしたです。よろしくお願いします、おにいさん」


「ユウトに、アカリに、松下か。改めてよろしくな」


 精一杯の笑顔を浮かべてそう言うと、


「「「よろしくお願いしまーす!」」」


 明るくて元気いっぱい! という感じの声が公園内に響いた。

 

 小学生すげーな、エネルギーの塊じゃん、なんていう年寄りくさいことを思いながら驚いていると挨拶はもう済んだ、とばかりにユウトが小学生男子然とした口調で呼びかけてきた。


「よし、じゃあサッカーの続きしようぜ! にいちゃんに教えてもらおう!」


 ユウトが提案するが、アカリは不本意そうに顔を曇らせる。


「えー、サッカーはもういいよー。私、別にサッカーやりたいわけじゃないし」


「何言ってんだ! そんなこと言ってたら二組との試合に負けちゃうだろ!」


「それ男子にしか関係ないでしょ。私たちには関係ないよー」


 駄々をこねるアカリ。


「……ま、松下はどうだ? サッカーしたいかしたくないか」

 

 するとアカリを説得するのは難しいと判断したのか、ユウトは松下に照準を定めたが、本人はにこやかな笑みを崩さずにそれを受け流した。

 

「私はどっちでもいいよー。二人で決めなよー」


 事態が膠着したせいか、ユウトは困惑の色が滲んだ瞳で助けを求めるように俺を見つめてくる。


 こんなところで振られても困るんだが……しょうがない。


 俺はアカリに視線を移すと、諭すように優しく語りかける。


「そんなこと言わないでさ、アカリも一緒にサッカーやろうぜ。サッカーやっていれば人生で役立つことだってあるから」


「ふーん。例えばどんな風に役に立つの?」


 小学生特有の純朴な眼差しで中々鋭い質問をぶつけてくるアカリ。


「えっと……まあ、そうだな。サッカーやってれば、ほら、キック力が上がるだろ? キック力が上がれば、えっと、そう! 缶蹴りする時メチャクチャ有利になる!」


 なに言ってんだ俺。


 予想外の質問に虚をつかれたとはいえ、こんな苦し紛れのこじつけでお年頃の女子小学生を言いくるめられるわけが……


「あ、たしかに! それはすっごく大事だ! はいはい、私、サッカーやるー!」


 あっさりと言いくるめられた。


 さてはこの子もちょっとおバカだな?


「よし! 松下もそれでいいか?」


「二人がそう言うならいいよー」

 

「決まりだ! やったー、サッカー!」


 ユウトは嬉しさのあまり走り出し、アカリと松下も特に不満はなさそうにそれについていく。


 ということで、無事みんなでサッカーをやることになった。

次回 サッカーボールと変質者 その2

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