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あっさり読めるーショートショート・カプセル

ショートショートー窓辺の女〜ライトホラー

作者: あみれん
掲載日:2025/09/20

「ショートショート・カプセル」シリーズVol.1です。

毎朝の通勤路に、男の目を引く家があった。

古びた木造二階建て。

壁は黒ずみ、雨どいは錆びつき、ひび割れたガラスが軋むように光を反射している。

その二階の窓には、必ず人影が立っていた。


女のように見える影。

肩から垂れた髪。

けれど、いつも同じ姿勢のまま――微動だにしない。


最初は気味の悪い趣味の住人だと思った。

しかし、何日も同じ光景を目にするうちに、胸の奥に別の考えが巣を作った。


――ひょっとして、監禁されているのではないか。

声を出せないまま、窓辺に立ち尽くして助けを待っているのではないか。


想像は膨らみ、仕事中も夜眠る時も、その影が脳裏から離れなくなった。

助けを求める沈黙の視線が、自分に向けられているように思えて仕方がなかった。


「犯罪に巻き込まれたのかもしれないぞ、確かめなければ……」


男は決意する。

ただの訪問では不審に思われる。

そこで思いついたのは、住宅会社のセールスマンを装うことだった。

築年数の経った家にリフォームを勧める――自然な口実だ。


翌朝。

メモ帳とボールペンを胸ポケットに差し込み、男はその家の門をくぐった。

ドアベルを押すと、すぐに足音が近づく。

扉の向こうに立っていたのは、中年の女だった。


「築年数が経っているようなので……もしよければ、リフォームのお話を」


女は露骨に不愉快そうな顔をしたが、しぶしぶ男を中へ通した。


一階を見回り、メモを取るふりをしながら、男は心臓の鼓動を抑えられなかった。

二階へ向かおうとすると、女が低い声で言った。


「二階は……掃除をしていません。行かないほうがいいですよ」


その言葉は警告というより、諦めに似た響きを帯びていた。

だが男は微笑みを作り、「大丈夫です」と答えて階段を上がった。


廊下を抜け、例の窓のある部屋に入る。

壁一面には黄ばんだ額縁に収まった賞状が沢山貼られている。

「地域安全協力賞」「犯罪撲滅協力感謝状」――なんだこれは、異様な数だ。


窓辺には――確かに人影が窓の外を向いて立っていた。

(こ、この人か?...)

男は恐る恐る近づく。

その瞬間、血の気が引いた。


「うわっ!」


それは……マネキン人形だった。

虚ろなガラスの瞳が、外の通りを睨むように向いている。


「……!」


背筋に冷たいものが走った次の瞬間、後頭部に激しい衝撃が走る。

視界が闇に沈む。


意識が途切れる間際、耳に届いたのは、老人の湿った声だった。


「ウホホ……婆さんや。これでまた、犯罪撲滅協力の感謝状がもらえるぞ」

「ええ……住宅会社の社員なんてどうせウソ。立派な不法侵入罪ですよ。この前の男は、水道局から来た、なんて言ってましたっけね〜」

「そうじゃとも。ワシら老人が安らかに暮らすには、ワシら自身で犯罪のない街にすることが一番じゃ」


押し殺した笑い声。


「婆さんや、今度は女の犯罪者を捕まえてみてはどうだ?」

「フォッフォッ、イヤですよぉ、お爺さん。それじゃ人形のカツラを男物に変えましょうかね」


床に崩れ落ちた自分の体を、何かが引きずっていく感覚。

最後に男の耳に届いたのは、一階に残った娘の独白だった。


「だから……行かないほうがいいって、言ったのに。もう、面倒くさい」


そして、ズル……ズル……ズル…...という音が闇に吸い込まれて言った。

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