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05 連続って何ですか?



「ささ!どうぞ!どうぞ!勇者さま!」


胴上げの後も宴会は続きます。


「お前たち!どんどん持って来なさい!」


「はい!」


とか言って美女たちが僕の周りを取り囲みます。


「そう言えば、さっきは男性ばっかりでしたよね?」

僕が美女たちに聞くと、


「魔物が若い女性を連れ去るんです。

 だからみんな隠れて過ごしてるんです」

などと言うんです。


「だけど勇者さまが魔物を退治してくださったおかげで村に平和が訪れました!」

とか美女たちに言われて僕は有頂天になります。


なんで魔物が消えたか知りませんけど、ウハウハですよ、僕はね。


ちょっと離れたところでエレノアさんがムスッとしております。


僕は、

「ちょっとお手洗いに行ってきます」

と言って外に出ます。

それを見たエレノアさんが僕についてきます。


「あ!勇者さま!お手洗いはコチラです!」


とか言う声が聞こえますが、どうでもいいことです。

多少のワガママはオッケーなのです。

なぜなら僕は今、勇者なのですから。


「エレノアさん。

 何か怒ってます?」

誰もいないことを確かめて僕がエレノアさんに聞きます。


「怒ってなんかないわ!」

と怒りながら言います。


「怒ってますよね?」


「そんなことよりタツキチ!

 これからどうするの?」


「指輪のエネルギーってどれくらい貯まりました?」

僕がエレノアさんに聞くと、


「まだ、全然ね。

 何日かかかりそうだわ」

と言います。


「でも、これでゼロからの依頼は終了したって事ですよね?

 魔物から村を救ったんですから」


「ええ、そうなるわね」


「良かったですね。クビにならなくて」


「そうね。

 だから今度こそ逃げるわよ、タツキチ」


「え?どうしてですか?」


「あなた、勇者じゃないでしょ?

 私たちは、勇者を派遣する調査員なのよ」


「そ、そうですね」


「本来、見えちゃいけない存在なのよ」


「確かに・・・」


「だからエネルギーが貯まるまで身を隠すのよ」


「そうですね。

 じゃ、すぐに逃げましょう。エレノアさん」


「そうね!行きましょう!」


「あ!いた!勇者さーん!」

村人が両手を振りながら走ってきます。


「出ましたー!

 また魔物が出ましたー!!」


え?

うっそーん。

また出た?

そんなすぐ?


「エレノアさん。どうしましょう」

僕はエレノアさんに助けを求めます。


「どうするも何も、もう一度戦うしかないでしょ!?」


「え?戦う?

 だいたい魔物ってそんな連続で出るもんなんですか?」


「さぁ、分かんないわ」


「分かんないって、エレノアさんが今まで見てきた中でこんな事ってあったんですか?」


「私、知らないの」


「え?」


「現場は初めてなの」


「初めて?

 え?勇者を派遣してるんですよね?」


「派遣したこと無いのよ。

 まだ勇者を探してる段階なの。

 だから私、見習いなのよ」


は?

見習いといってもエレノアさんは初心者なのですか?

で、僕がアルバイト?

本気ですか?

ということは、


「2人とも、素人?」


「そうなるわね」


そうなるわねって・・・

これ、無謀にも程がありますよね。

だって村人と変わらないんですよ。僕たち。


「に、逃げましょう。エレノアさん」


「そ、そうね。

 ここは一旦、引くという事で・・・」


「そ、そうです。

 逃げるんじゃなくて、引くという事にしましょう」


「そ、そうよ。

 逃げるんじゃないわ!

 引きましょう!タツキチ!」


「はい!」


僕らは、あからさまに逃げます。


「あ!勇者さまー!!」


とか言う声が後ろからしますが、知りませんよ、僕はね。

だって僕、勇者じゃないんですから。


村人が、

「勇者さまーー!」

とかまだ言ってますよ。


ま、僕らは素人なので当然のごとく逃げるんですけどね。


「止まって!!タツキチ!!」

僕の前を走っていたエレノアさんが、村の門が見えた所で急に止まって叫びます。


あ。あれは・・・

さっきと同じ魔物が・・・


ドスン!ドスン!


ゾウの大きさの魔物が、ゾロゾロと門から入ってきています。


「えっと、1、2、3、4、5、」


「タツキチ!なに呑気に数なんか数えてるの!」


「え、だけどですね・・・」


「で、何体なの?」


「え?」


「魔物は何体いるの?」


「じゅ、12体ですね」


「12体・・・」


「多いですね。

 魔物ってこれぐらい出るのが普通なのでしょうか?」


「いいえ、これは普通じゃないわ」


「そうなんですか?」


「見習いの仕事は、同時に2体までよ。

 それ以上の場合はベテラン調査員の仕事なのよ」


「ベテラン?」


「そうよ、ベテラン調査員の派遣する上級勇者よ。

 それでも勇者1人で12体なんて、あまり聞いたことないわ。

 魔物が多い場合はパーティーを組ませるから・・・」


「それじゃあ、これは・・・」


「分からないわ。

 だけど、ゼロが指定場所を間違えるはずないわ・・・」


「でも、目の前にいますよ。12体も」


「そうね。

 ・・・タツキチ?」


「はい?」


「終わりよ」


ドスン!ドスン!


「え?」


「今度こそ終わりよ、タツキチ」


「そんな・・・」


「あなたがもう一度さっきのアレをやらなければね」


「さっきのアレ?」


ドスン!ドスン!


「そうよ!さっき消したでしょ!魔物を!」


いや、でもあれは・・・


ドスン!ドスン!


「僕じゃありませんよ」


「いいえ、あなたよ」


「だって僕、なにもしてませんよ」


ドスン!ドスン!


「あなたがやったのよ」


「違いますよ」


「じゃあ何であなたの全身が光ったのよ!」


「え?」


光った?

え?


「僕、光ったんですか?」


「そうよ、あなたが光った瞬間、物凄い音がして魔物が消えたの!」


ドスン!ドスン!


「でも僕、やり方、分かりませんよ」


「あの時と同じようにやってみてよ!

 ほら!急いで!魔物が来てるわ!!」


ドスン!ドスン!


えっと・・・

あの時は・・・そうだ。


「たしか・・・目を閉じました」


「だったら早く目を閉じて!」


「どうです?」


ドスン!ドスン!


「ダメよ!消えないわ!

 やり方が違うのよ!」


えっと他には・・・

何をしたかな?

ん~、それっぽい事は・・・

あ、そうです。


「消えろって思いました」


「じゃ!消えろって願って!!」


「消えろ!」


ドスン!ドスン!


「ダメよ!消えないわ!

 それもやり方が違うのよ!

 他にないの?」


ドスン!ドスン!


「もうダメ!来たわ!タツキチ!!逃げて!!」


12体の魔物が目の前に来ました。


ドスン!ドスン!


もうね、逃げる状態じゃありませんよ。

だって囲まれてるんですから。魔物に。

完全終了ですね。コレ。

僕、踏みつぶされる感じですか?

ああ、ホントに終わるんですね。


「逃げてッ!!タツキチ!!」


エレノアさんの叫び声が聞こえます。

エレノアさん、短い間でしたが、ありがとうございました。

こんなのが消えてしまえば、もっと一緒にいられたんでしょうね。


僕は目を閉じます。

さようならエレノアさん・・・


ビシューーッ!!!


何かを引き裂くような凄まじい音がしました。

僕はそっと目を開けます。


「あなた・・・」

エレノアさんが呆然としてます。


「はい」


「一体どうやったの?」

エレノアさんが呆然としたままつぶやきます。


「消えた・・・のですね」


「ええ・・・消えたわ・・・」


見るとそこには何事もなかったかのように、のどかな風景が広がっています。

なんか小鳥のさえずりとか聞こえてきますよ。

さっきまでの事がウソのようです。


「あのー、エレノアさん」


「何?」


「僕って今、光ったんですか?」


「ええ、光ったわ。

 そして消えたわ。魔物が・・・」


「何ででしょうか?」


「し、知らないわよ・・・」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


村人たちが一斉に走って来て僕を囲みます。


「わっしょい!わっしょい!」


胴上げですよ。


「わっしょい!わっしょい!」


僕、また胴上げされてますよ。

勇者的な感じで・・・

見習い調査員を手伝ってるアルバイトなんですけどね。




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