04 魔物って何ですか?
「出ましたー!
魔物が出ましたー!!」
村人が走って来ます。
僕はね、もうオロオロですよ。
分かります?
このどん底の恐怖を。
村人を騙くらかして飲み食いして、
挙句の果てには魔物にやられるんですよ。
戦うどころか一発アウトですよ。
人生終了ですよ。
僕ね、アルバイトですよ。
これそうとうヤバイですよね?
労働基準法とか大丈夫なんですかね?
というか、向こうから何か大きいのがやってきましたよ。
ドスン!ドスン!って。
あれが魔物ですか?
「ど!どうするの!タツキチ!!」
興奮したエレノアが叫びます。
どうすると言いましても、
オロオロするしかないでしょ?
「タツキチ!オロオロしてる場合じゃないわよ!」
いや、分かってますけど、
それ以外に思いつかないんですけど。
ドスン!ドスン!
アレ、熊ですね。
熊が2足歩行してますね。
で、顔が水牛ですね。
でっかい角、生えてます。
そうとうヤバイ奴ですよコレ。
あ。そうだ。
「エレノアさん。
どうして異世界の人は日本語を喋るんですか?」
「え!?何!?
それ今聞く必要ある!?」
めちゃくちゃ大慌てしているエレノアさんが叫びます。
まぁ、どうせ僕、やられちゃうんだったら、その前に聞いておこうと思いまして。
だって気になるでしょ?
「はい、どうしてでしょうか?」
「日本語を話してるんじゃなくて、あなたには日本語に聞こえてるのよ!
話してる相手もそう聞こえるのよ!
コミュニケーションが取れないと話が進まないでしょ!」
話が進まないって・・・
「そういうもんなんですね」
「異世界はそういうもんなの!
それよりどうすんの!タツキチ!!」
ドスン!ドスン!
魔物がかなり近づいてきましたよ。
村人たちは建物の中に逃げ込んで隙間から見てますね。
そりゃ見ますよね?
僕だって村人なら絶対見ますもん。
勇者が魔物を倒すなんて、そうそう見れるもんじゃないですからね。
でも実際は魔物が勇者を倒すんですよね。一瞬で。
これが現実ですね。
ドスン!ドスン!
魔物って、近くで見ると熊どころの大きさじゃないですよ。
ゾウさんの大きさですよ。
象の大きさの熊で、顔が水牛ですよ。
相当ヤバイなんてもんじゃないですよ。
なんか、ヨダレとかダラダラですし。
口角からは泡吹いてますし。
「ブルルルルッ!」
とか言ってますよ。
口角泡吹かし、ですよ。
なんか、さっきからずっと僕と目が合って睨んでますし。
ドスン!ドスン!
でもね、この魔物の歩くスピードだと僕、走ったら逃げれるんじゃないかと思うんですよね。
だってかなり遅いですよ。
たぶんこれ行けますよ。この作戦。
走って逃げよう作戦。
後の事、知らないけど。
「逃げましょう。エレノアさん」
そう言って僕は走ります。
全速力で走ります。
運動は普通です。
人並だと思います。
僕の右側をエレノアさんが走っています。
そして僕の左側を魔物が走っています。
チーターみたいな感じで軽やかに走っています。
え?
この魔物めちゃくちゃ走ってるじゃないですか。
ほとんど音立てずに。
じゃあアレは何ですか。
あのドスン!ドスン!という奴は。
歩くと何であんなドスン!ドスン!てなるんですか?
どういう事でしょうか?
これが魔物というものなのでしょうか?
という事はコレ、逃げれませんね。
何なら僕らより走るの早いですし。
ちょっと追い越してますからね。
僕は走るのをやめます。
疲れたからです。
けっこう走りましたからね。
ちょうど村の中心まで走った感じです。
「ちょっと!タツキチ!何で止まるの!
逃げるわよ!」
エレノアが興奮してます。
「もう走れません。ダメみたいです」
僕は肩で息をします。
それを見たエレノアが僕に言います。
「ご、ごめんね。タツキチ・・・」
「え?」
「巻き込んじゃって・・・」
エレノアさんが僕を哀れな表情で見ます。
それ、お別れのヤツですよね。
サブキャラのラストシーンですよね。
僕のシーンのクランクアップなんですね。
「はいどうもー!お疲れ様でしたー!」
とか言って、全身血のりまみれで花束を貰うヤツですよね。
ドスン!ドスン!
あ、僕の目の前まで魔物が近づいてきましたよ。
やっぱり歩くと地響きがするんですね。
あー、ついに魔物が右手を大きく振りかぶりましたよ。
これ一撃のヤツですよね。
口を大きく開けて、
「グガァアアア!!」
とか言ってますよ。魔物が。
僕、右手の一振りで吹き飛ばされて、ボロ雑巾みたいになるんですよね。
あー、凄いです。
凄いスピードで右手が襲い掛かってきてますよ。
そうか・・・
これが僕の見る最後の景色なんですね。
口角泡吹かしのヨダレだらだらの魔物が僕の見る最後のシーンなのですね。
こんなのテレビみたいにスイッチを切れば、パツンと消えてしまえばいいのにね。
でも、グラマーなエレノアさんと抱擁を交わせたし、飲み食いもさせてもらいました。
何の食材かは分かりませんけど美味しかったです。
僕の最後としては、これでいいのかもしれませんね。
さぁ、どうぞ。魔物さん。
僕は目を閉じます。
ビシューーッ!!!
何かを引き裂くような凄まじい音がしました。
僕は目を開けます。
「あなた・・・」
エレノアさんが呆然としてます。
「はい?」
「・・・今、何をしたの・・・?」
エレノアさんが呆然としたままつぶやきます。
「はい?」
見ると魔物がいません。
「え?魔物は?」
僕がエレノアさんに聞きます。
「き、消えたわ・・・」
消えた?
「どうしてですか?」
「こっちが、聞きたいわよ・・・」
エレノアさんが呆然としています。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
村人たちが一斉に建物から出て来て僕を囲みます。
「わっしょい!わっしょい!」
胴上げですよ。
「わっしょい!わっしょい!」
僕、胴上げされてますよ。
何でか知りませんけどね。