03 エネルギーって何ですか?
この村の人たちは僕を勇者と思ってるんです。
それで、目の前には大量のご馳走が並んでるんですよ。
「さ、勇者どの!
お食べください!」
とか言ってお酒なんかナミナミに注ぐんですよ。巨大なグラスに。
もうね、僕は食べまくり、飲みまくりですよ。
この異世界は最高なのです。
僕は今、この上ない幸せを感じておりますよ。
え?
魔物が出たらどうするかって?
そんなの簡単ですよ。
逃げればいいんですよ。逃げれば。
ほら、エレノアさんにしがみ付いたら、
ギュィーン!
って、ひとっ飛びです。
それで終わりです。
だって、どうせエレノアさんがクビになったら僕もお払い箱なんですから。
今を楽しまなくっちゃ!
でしょ?
それに、ほら!
「ささ!どうぞ!どうぞ!勇者どの!
もっともっとお食べください!!」
とか言ってどんどん出てくるんだから。見たこと無い料理が。
しかも全部美味しいんですから。
残すともったいないでしょ?
「タツキチ・・・」
隣でエレノアがつぶやきます。
僕はエレノアの方を見ます。
「ちょと話しがあるの。
外に出てくれる?」
僕はうなずいて、
「お手洗いに行ってきます!」
と言い、外に出ます。
「あ!勇者さま!お手洗いはこっちです!」
とか言う声が聞こえますが、そんなのはどうでもいいです。
だって何かあったら逃げればいいんですからね。
「何ですか?エレノアさん」
周りに誰もいないのを確認して僕がたずねます。
「ねぇ、タツチキ、あなた一体どうするの?」
「どうするって・・・
食べたら帰りますよ。
元の世界、というか僕の世界に」
「それがね、戻れないの」
「え?」
「指輪のエネルギーが切れてるの」
「指輪?」
「そう、異世界の移動も指輪でやってるの。
これ2人で移動すると大量のエネルギーを消費するのよ」
いや、まぁ、確かに、
短時間で何回もギュィーン!ってやってたから、
そりゃ、電池というかエネルギーも使いますよね。
「言ってる意味わかる?タツキチ」
「・・・はい」
「だから今すぐには戻れないの」
「い、今すぐに戻れないって事は、もうちょっと後なら戻れるって事ですよね」
「そうね、自然にチャージするので時間がかかるけど・・・」
「どれぐらいですか?」
「さぁ、異世界の時間によるけど、早ければ10分とか・・・」
「良かった・・・」
たった10分でしょ?
驚くでしょ?そんな言い方したら。
ん?でも、
「遅ければ、どのぐらいかかるのでしょうか?」
「さぁ、1日とか1年とかかな?」
はい?
1年?
「冗談ですよね?」
「本当よ。自然界からのエネルギーチャージは時間がかかるの」
そ、そうですか。
そういうルールなんですね。
だったら、
「指輪のエネルギーを早く貯めるには、どうすればいいのでしょうか?」
「一番早いのは、オリジナルの空間でゼロに会うことよ。
ゼロに会えばすぐに満タンになるわ」
ゼロって、ネコですね。
あの黒猫に会えばいいのですね。
ぜんぜん役に立たないと思っていたけど、エネルギーを満タンにできるスゴイ奴なのですね。
「でもエネルギーが切れてると会いに行けませんよね?」
「そうね」
ふぅ~、
大丈夫、大丈夫。
焦ることなんてありませんよ。
何か方法があるはずです。
僕は落ち着いて考えますよ。
そうです。
なにも2人分のエネルギーが貯まるのを待つ必要はないのです。
1人分、そうエレノアさんが、ギュィーン!ってネコに会いに行けばいいんです。
で、指輪のエネルギーを満タンにして戻って来て、僕を連れて逃げればいいわけです。
「エレノアさんがゼロに会うエネルギーが貯まるのって、どのくらいかかりそうですか?」
「正確には分からないわ。
でも、ここに来て数時間たつけど、ほとんど貯まってないから・・・」
「およそでいいんです。どのくらいですか?」
「数日か、一週間とかかな?」
一週間?
ダメですよね?
それって、ダメなヤツですよね?
だって僕、飲み食いしてますよね?
元の世界に戻れないってなるとコレ、そうとうなピンチですよね?
「あの~エレノアさん」
「ん?何?」
「もし、もしですよ。
エネルギーが貯まる前に魔物が出たら、僕、どうすればいいのでしょうか?」
「戦うしかないわね」
は?
「戦う?」
「そうね、勇者として戦うしかないわね」
いやいやいや。
ムリっしょ?
無理ですよ。
僕ですよ?
僕が戦うって・・・
「あの~、武器とかは・・・」
「無いわ」
ないって・・・
それじゃ、
「素手?」
「そうなるわね」
そうなるわねって・・・
他人事みたいに・・・
そりゃエレノアさんはいいですよ。
見えないんだから。
あ、そうだ。
「エレノアさん、なぜ僕は、この世界の人たちに見えてるんですか?」
「そうなのよ。
私もそれを考えていたの」
「だって、僕の世界の日本の人たちは見えてなかったですよね?」
「そうなの。おかしいのよ」
「これってゼロに聞いても・・・」
「たぶん分からないわね。
とにかくタツキチ!」
「はい」
「ここは、ひとまず逃げるわよ」
「そうですね」
「一旦この村から出て作戦を練るわよ」
「ですね。
逃げましょう」
「あ!いた!勇者さまー!」
村人が両手を振りながら走ってきましたよ。
「出ましたー!
魔物が出ましたー!!」