表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第四話 笑顔の食卓

 「こんなにボロボロになって……あんた顔まで真っ青だぞ!」


 私は今、失ってしまった最愛の人間(ひと)の腕の中にいる——神という存在を信じたことはないが、今なら跪いて礼を言ってやっても良いとさえ思える。これはまさに「奇跡」としか言いようがないのだ——。


 「あんた、ユーリって人を探し回ってたのか?悪いけど、俺はユーリじゃないよ」


 「そうか。そうだな。ユーリはもう……」


 ユーリはもう存在しない。そんなことはわかりきっているというのに、空腹は判断を鈍らせる。


 いや、空腹のせいだけではない。私はあの時のことを今でも悔やんでいるのだ。最愛の人間(ひと)と再び巡りあい、果たせなかった約束を果たしたいと、悔やんでいる。この世で叶わないのならば、あの世でも良いと、そう願うほどに。


 しかし、あの鉄の荷馬車も私を殺すことは出来なかった。血はすぐさま蒸発し、傷口は跡形もなく消えさっていた。この男が気付く間もなく一瞬で。


 だが、あれ以来一度も“食事”をとっていない今の私にとって、この回復は逆効果だったとも言える。


 「おい、おい!しっかり……」



 目を覚ますとそこは見慣れない建物の中だった。人間の住居も随分と頑丈になったようだ。これならこの地域特有の嵐や大雨も平気だろう。


 「おっ、ようやく目を覚ましたか。あんた、何日も食事してなかったんだろ?有り合わせで悪いけど、とりあえずこれ食べて」


 「私はこんな料理など……」


 男が差し出す皿を押し除けようとしたその瞬間、ほのかに血の香りがした。吸血鬼は生き物の血液からしか栄養が取れず、その中でも人間の血液が最も豊潤で栄養価が高いご馳走だ。この香りは人間のものではないが、それでも今の私にとっては十分すぎる栄養源だった。


 「ごめんな。やっぱ県外の人にはこの見た目はキツイよな……豚肉と野菜を豚の血と一緒に炒めた郷土料理なんだけど」


 「よこせ」


 「え?」


 「食ってやるからよこせと言っている」


 「いや、そんな無理しなくても。県内の人でも無理な人いるし」


 私は男から皿を奪い取ると、意を決して生まれて初めての人間の料理を口へと運んだ。


 「……美味い」


 「だろ!この見た目で『豚の血』とか言われると、なかなか食べる勇気が出ないけど、一口食べると意外と美味いんだよ」


 そう言うと男は嬉しそうな笑顔をこちらに向けた——あの時この島から連れ出していたら、ユーリもこんな笑顔を私に向けていたのだろうか——。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ