わたしの脈を忘れないで
わたしの脈を忘れないで
薄い皮膚を動かす手首の動脈を
触れなければ決して測れないような
わたしの大切ないのちの数字を
何があっても忘れないで
わたしの脈を忘れないで
脈ナシだとか脈アリだとか
そんなことで時々悩むあなたを
ずっとあなたにときめいていた
いつもより強いわたしの鼓動を
知って、憶えて、忘れないで
わたしの脈を忘れないで
雨が降ろうと鞭を振るわれようと
己の無知に打ちのめされようと
わたしがあなたと生きた証を
どんなときも忘れないで
わたしの脈を忘れないで
いつか他の誰かの鼓動に
新たに高鳴る愛情に
寄り添うべきときが来たとしても
その土台にわたしが居たことを
かつて共に鳴らしたときめきを
どうか、決して忘れないで
いいえ、本当は忘れてしまってもいい
ときどき思い出すくらいでいい
忘れて、忘れて、思い出したときに
思い出としてあなたのなかに残れるなら
そのときにだけ蘇るわたしの鼓動が
より尊く忘れ難いものになるから
緩みきった最期の脈動さえも
その儚さを奪うように記憶に刻んで
強くなっていく弱さに胸を痛めても
どうかその脈を忘れないで
あなたに忘れられたくない
わたしの弱さを忘れないで