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少年、回復する


 ラルフがオットマーの診療所から薬材を持って帰ると、オットマーはその薬材をぱっぱっと混ぜ合わせ薬液を完成させた。 

 その薬液を飲んだ翌朝、少年はベッドから起き上がられるまでに回復した。

 

「おっ小僧、起きたか。体調はどうだ?」

 ラルフはベッドから起き上がった少年に笑いかける。少年は隣ですやすやと眠る少女を起こさぬようベッドから降りた。

「お陰様で。それで……オバさん。これ、受け取ってほしいんだ」

 食事を作るアンナの背に声をかけ、少年は小金の入っている袋を食卓の上に置いた。

「なんだい、これは」

「昨夜の診察費と治療費を合わせた代金。…………二人分の宿泊費についてだけれど、それはまたあとで必ず渡すから、待っていて欲しい」

「なんだって?!」

 ラルフはアンナより先に小金の入っている袋を素早く掴み取り中身を確認した。

「結構あるじゃねぇか!これだけあれば、酒樽一つ飲めらぁ」

「返しなっ!ラルフ!」

 アンナはラルフから小金の入った袋を素早く奪うと、「オレの酒代が〜」と涙する亭主の横で、少年をジロリと睨んだ。

「……アンタ、これ盗んだ物じゃないだろうね。生憎、あたしは人から盗んだものを後生大事に有り難るほど、クズじゃないんでね」 

「盗んでは、いない」

「じゃあ、なんだい。これはお前さんのお金かい?」

「…………拾った」

「………どこで、こんな大金拾うんだい」

「………」

 蛇に見睨まれたか蛙のように、少年はアンナと目を合わせぬよう顔を背けた。

 ため息をつき、アンナは言い聞かせるように少年に向き直った。

「宿泊費も後で払うと言っていたけれど、払える手立てはあるのかい?また拾ったお金で賄われちゃ、こっちが迷惑だよ」

 困惑した様子で少年も負けじと言葉を返す。

「……わかっている。でも今返せるお金はこれしかないんだ。いまここを追い出されたらそれこそ困る」

「それはそっちの言い分だろう!追い出されたくないからって、拾った金で返されても迷惑なんだよ!見も知らぬアンタらを家に寝かせて医者にも診せた。主導権はこちら側にあるはずだ!」

 アンナの正論に少年は何も言えなくなった。

「アンナ!そんなに強く言わなくてもいいだろう。まっまだ、子供だぞっ」

 オロオロと少年を庇うラルフの言葉にアンナの目が更に吊り上がった。

「子供がなんだってんだい。あたしは子供でも大人でも平等に扱うって決めてるんだ。ラルフ、あんたが一番わかってるだろう」

「まっまあな。お前のそっそんなところが好きで籍入れたところもあるしな」

 少女のように頬を染めるラルフに少年は若干引きながらも、「じゃあどうすればいい」と問う。その問いに不敵な笑みを浮かべた。

「望むことなんて一つさ。アンタには、ここにいる間ずっとうちの宿屋で働いてもらう。もう少し寒くなったらここいらは狩猟シーズンでかなり賑わうんだ。この期間はどうしても猫の手を借りたいほど人手が足りなくなる。アンタには寝る間も惜しんで働いてもらうつもりだ。その代わり、給料から診察費と治療費、また二人分の宿泊費や食費などに差っ引いてやってもいい。……そして余ったお金は大事に貯金しな。」

 少年は目を丸くし不敵な笑うアンナに圧倒されるも、徐々に彼女の言葉の意図に気がつきふっと笑みが溢れる。

 一文無しの少年にとってそれは願ってもない申し出であった。

「……わかった。どんな下働きでもする」

「ふん!良い心がけだね。このお金は一旦あたしが預かる。そして、わかっていると思うけど、その子にも働いてもらうよ。」

 アンナは小金を一旦懐にしまうと、少年の後ろにあるベッドで眠る少女を指差す。少年は驚愕で目を見開く。

「待て!彼女はダメだ!」

「何がダメなんだい」

 (何がって……。彼女の存在を人に知られるのはまずい)

「それは言えない。それに、彼女は目が見えないから働くのは難しいだろう」 

「これもダメ、あれもダメって。いい加減にしな!目が見えなくても働いてる人は大勢いるよ。あの子は一生アンタに縋りついて生きていくのかい?そうじゃないだろう。目が見えなくたって、あの子なり生きる術を見つけてあの子なりに生きていかなきゃならないんだ。そうやって甘やかすだけが、優しさじゃないんだよ。」

「……っ」

 最もな言い分だった。

 (生きる術を見つけて、か。確かにそうかもしれない。彼女が目立たず生きる方法はこれからも必ず必要になってくる。その方法をなんとか見つけないと。その前に……)

「わかった。二人で働く。その代わり、彼女に言葉を教える時間をくれないか。言葉が通じなくちゃ動けるものも、動けなくなるだろ?」

 アンナは顎に手をやり、昨夜の少女の様子を思い出す。

「確かにそうだね。わかった。一週間だけ時間をやる」

「っアンナ!いくらなんでも、短かすぎるだろう」

「い、一週間?」

 短すぎる期間にラルフは意を唱え、少年は青ざめた。そんな二人にすげなく返事をする。

「生憎、狩猟シーズンは再来週からだ。宿屋の仕事も覚えてもらわなきゃいけないから、猶予はそれからしか与えられない。できるだろう?」

「……」

 アンナの言葉は最もだった。

 推し黙る二人にアンナはにっこり笑う。

「まだ名を名乗ってなかったね。アタシはアンナ・アーバン。そしてこのボンクラがうちの亭主、ラルフ・アーバンさ「ボ、ボンクラって酷いな、アンナ」。アンタの名前は?」

「ハ……ヨハンだ」

「ヨハンね……そして?そこのお嬢ちゃんの名は?」

「…………」

 アンナにそう尋ねられ、初めて彼女の名前を知らなかったことに気がつく。

「…………知らないな」

「アンタら、ほんと、どんな関係なんだい!」


 

 


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