喪女、観劇をする。第一幕
――聖なる誓言の秘話――
野外劇場――第一幕開演。
むかしむかしあるところに、闇夜を切り取った黒髪に、鮮やかな鮮血を思わせる瞳と唇をもつ魔女がおりました。
その魔女の名をユーベル。
ユーベルの魔力は強大で、彼女に敵うものは大陸中探しても誰一人おりませんでした。
その力を『人間を殺す』ことに使っていました。
彼女によって、大陸からからひとつまたひとつと国が消え行きました。
ユーベルを恨みながら死んでいった魂たちの声に、レーベン神は応えました。
レーベン神は天上より暗雲の大地をかき混ぜ、ユーベルを見つけました。
そうすると、暗雲立ち込める地上に一筋の光が差し込みユーベルを照らしてました。
『ユーベルよ。
無駄な殺生はおやめなさい。
其方のせいで、多くの罪もない命までも犠牲となりました。
何故そのような惨いことをするのです。
今すぐおやめなさい。
さもなくば、其方には未来永劫救いのない地獄が待っていますよ』
『殺しよりもこの身を武者震いするほどの快楽がこの世にあるわけがない!
殺すことはあたしにとって息をするのと同じくらい必要なものなのさ。
息をするってことは、それは生きてるってことだろう?
生きる糧を無くされたら、それこそあたしの存在意義なんてないようなもんだろ?
そうしたら、あたしはこの世に居ないことになるじゃないかい。
……あたしはここに居るのに。
あたしにとって、殺しをやめることこそが地獄なのさ!』
『……忠告はしましたよ、ユーベル。
皆の安寧のため生きる糧と言い切るその力、無くしてしまいましょう。
ユーベル。
とくと地獄を味わうがいい』
神の光によって、ユーベルは魔力の源である両目を焼かれてしまいました。
『ぎゃああああああああああああああああああああ』
力の源であった両目を焼かれユーベルは力を使うことができなくなってしまいました。
虐げてきた人々からの暴行から逃げ、ユーベルは山奥に隠れ住むようになりました。
しかし人々の怒りや悲しみはユーベルが力を失ったことぐらいで無くなるものではありませんでした。
ユーベルを殺すため、多くの人々が彼女を血眼になって探し、捕えては処刑し、殺せないとわかると長きに渡る拷問をしました。
誰も彼女を許す者も助ける者もこの世におりませんでした。
ユーベルはそれだけの酷いことをしてきたのです。
これは神による罰です。
神はユーベルにこうも伝えました。
『其方の罪が贖われるまでその身は不死身のまま生き長えるでしょう。
長い生の中、己が何をしたのか悔い改めるがいい』
「これって大衆向けですか?」
「まぁ……聖女の逸話なんて、リーベじゃどんな子供でも知ってる童話みたいなもんだろ。まぁ、劇のせいで臨場感は増してるがな」
横で聞こえるカールとラルフの会話をよそに、シュリは劇の言葉ひとつひとつの単語を反芻していた。
(ユーベル…目……焼く………何かが引っかかる……)
ユーベルは絶えることない生に、力の無い己の身に絶望し、捕えられた牢屋の中、ただたた自殺する毎日を送っておりました。
しかし残念なことに、その体は首を切った後から繋がるため、首を切った痛みだけがあるだけでした。
ユーベル日々虚しく地獄のような毎日送っておりました。
ユーベルの力が取り上げられてから、千年経ちました。
荒れ果てた農地は蘇り、傷つき死にかけていた人々の子孫はユーベルの存在を忘れ始めていました。
長年の罪状の刑期が満了になり、時の王に追放され、ユーベルは力を失って以来久方ぶりの自由を得ることができました。
自由になった彼女をみて悲鳴をあげる者も、殺されることをおそれ逃げ惑う者も、殺すために行方を追う者も誰一人おりませんでした。
彼女の存在は過去の瑕疵として、人々の記憶の隅に追いやられておりました。
それだけの時が流れ、世界はユーベルだけを置いて変わっていたのです。
ユーベルが追放され、五十年が経った頃。
聖剣を抜くことができた青年が、魔女退治を王より言い渡されました。
そう、魔女の退治です。
青年は大陸中のあらゆるところを探し回り、ようやく見つけました。
洞穴の中にいたユーベルを――。




