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少年、訝しむ

 アンナは言葉もなく、目を疑った。

 

 外の雲行きが怪しくなったため、アンナは広い森の中まで二人を探しにきていた。

 二人を探すようラルフに頼むところをいくら探してもどこにもいなかったため――おそらく隠れてクナイペ(居酒屋)に行っている――仕方なく雨降る前にと二人を探しにきていたのだ。


 彼らが憩いの場としている場所へと向かうと、二人の姿を見つけることができた。声を掛けようとした束の間シュリがヨハンの手ずから何かを食した途端地面に倒れるのを見てしまい、アンナは反射的に木の後ろに隠れてしまった。

 おそるおそる木陰から二人の様子を覗くと、ヨハンは倒れるシュリに驚き泡ふためく様子もなく、ただただシュリを見下ろしていた。

 倒れているシュリの顔色は悪く、血の気がない。その一方ヨハンの背しか見えないアンナにはヨハンがどんな顔をしているのかがわからなかった。それにもかかわらず何もせず突っ立っているだけのヨハンに違和感と不気味さを感じて、声をかけるのを躊躇われた。

  

 そこへ、ヨハンの手がシュリに伸びるのに気づいた瞬間、反射的に隠し持って行った小型ナイフを二人の間に目掛けて投げていた。


「っ!」

 

 瞬発力よく投げれられた小型ナイフは何らかの力で弾き飛ばされる。ヨハンの殺気だった視線が、ナイフが投げられた方向へと向けられた。

 体が威圧されるような視線にアンナは身動きができずに固まっていると、彼女の姿を視界に入れたヨハンの瞳から徐々に殺気が緩み、いつものヨハンに戻る。

 

「オバさん…」 

  

 緊張が緩んだと同時にアンナは倒れたシュリに駆け寄り、彼女の顔に触れ様子を確かめた。

 (息はしている。さっきより顔色が良い……?)

「……ヨハン。どういうことか、説明してくれるかい」

「…………」


 無情なヨハンとそんなヨハンを睨むアンナ。

 二人の心情を表した空から、雷雨が轟き始めた。



 ――――――――――――――――――――――


「おやおや今度はお嬢ちゃんの診察とはのぅ」

 気を失ったシュリを背負い雨で濡れたアンナはまた同じようにずぶ濡れのヨハンを伴いオットマー先生の診療所に訪れた。正面の戸からではなく、裏口からの訪問であった。

「いいから、先生診てくれないかい」

「フォッフォッ、焦るでない」

 オットマーは診療所の奥にあるベッドへ誘導し、寝かせるよう促す。そこへ弟子のデニスが現れた。

「先生。戻ってこないと思ったら、ここにいらしたんですか……って、アンナさん?って、この子達誰ですか?!それにみなさん雨でずぶ濡れじゃないですか!」


 デニスの配慮でアンナとヨハンはずぶ濡れの体を拭くことができた。


 デニスの不躾な視線が少女と少年に向く。

 呆れた様子のアンナがデニスを睨んだ。

「……デニス、視線がうるさいよ。そのデカい目ギョロギョロするのやめてくれないかい」

 そばかすの浮いた顔でデニスがニッと笑う。

「いやぁーアンナさんにこんな小さいお子さんがいるとは思わなくて」

「親戚筋の子を預かってるんだ」

 誤魔化すアンナをヨハンは盗み見た。

「へ――、そうなんですねぇ。アンナさんのですか?それともラルフさんのですか?お二人にあまり似てないですよね」

 興味津々でデニスはヨハンの顔を近づけジロジロと見つめ、ヨハンは嫌そうに顔を背けた。

「遠い親戚さ」

「へ――――」

「デニス、詮索はそこまでじゃ」

「先生!先生は気にならないんですか?」

「気にならん!早く他の患者を診て来なさい。」

「わかりましたよ……。アンナさんにそこの少年!またお話聞かせて下さいね!」

 名残惜しく去っていくデニスにその場の皆がため息をついた。

「先生……、アンタの後釜は本当にアレで良いのかい」

「診察と腕はワシよりいいからのぅ。ちと空気が読めなくてデリカシーにかけるがのぅ。いわゆる天才は紙一重を体現した男じゃ」

 

 (アレで天才?本当か?)と二人が心で呟いた。

 

「まぁ、デニスはほっといてのぅ。お嬢ちゃんは大丈夫じゃよ。」

「本当かい?先生」

「だから……大丈夫だって言ったじゃん」

 ヨハンをキッと睨んだアンナに、オットマーは穏やかな様子で告げる。

「どうやら、テンホォ草を誤って食べてしまったんじゃな」

「テンホォ草?」

「食べると痺れや痛みが症状として現れる毒草で、食べる部位によってその後の経過が別れる草じゃ。根や茎は栄養分を含むため栄養不良な患者には打ってつけの薬草じゃが。葉はダメじゃ。葉をどのくらい食べさせたかによって重症度が変わってくる。つまり食べる量を間違えると、一発であの世行きになる毒草じゃ。けれど運のいいことにこの子は痺れで意識を失っただけのようじゃから、食べた量が少なかったんじゃな。……しかしのぅ、見るかに怪しい見た目の草じゃからな。例えるとハエトリ草に近い見た目じゃから滅多に食べる者も居ないんじゃあ。まぁ、毒が抜けるまで体の痺れは続くと思うがの、普通に生活してもオーケーじゃ」

 アンナから強い眼差しを受けたヨハンは目線を逸らした。

「なるほどね…………あと、先生。その子た倒れた時に地面に頭を打ったようだから、それも診といてくれ」

「頭を打ったとな?……今のところ後頭部にたんこぶがあるようじゃが、頭は十分用心せんといかん。一日経過を見ないといけんからなぁ。雷雨も止まぬし、今日は三人とも泊まっていきなさい」

「本当かい?助かるよ、先生」


  

 オットマーが席を外し、横たわるシュリの側にはアンナとヨハンが残った。



「……」

「それで?シュリになぜあんなことをしたんだい…量を間違っていたらこの子は死んでいたかもしれないんだ。理由を話してもらおうじゃないか」

「……」

「カカシじゃないんだし、口が付いてんだからちゃんと説明しなっ」

 アンナの恫喝に一瞥もなく、ヨハンは口を閉ざす。

「はぁ。ダンマリかい…………奴隷市場から一緒に逃げて来た大事な子なんだろう?」

 ヨハンはアンナをハッと見つめる。

「知ってたの?」

「この世には新聞ってもんがあるのを知らないのかい。アンタらが来た翌日の新聞に載ってたんだよ。辺境の領主様が住まうカンデラの地下で違法の奴隷市場が設けられ、多くのお偉いさん達が捕縛されたってね」

 小馬鹿にしたように笑うアンナに、ヨハンは疑いの目を向けた。

「……新聞だけでわかるはずがない。あの時の俺はボロボロな姿をしていたからそう思うのは一理あるけど、シュリを見てそう思うはずがない。側から見て薄汚い野良犬とどこぞのお嬢さまがいると思うに決まっている。それなのにそんな俺たちを見て、一発で奴隷だと思う奴がいるわけない。アンタ何者だ。あの時のナイフの投げ方といい。オバさん、ただの田舎のオバさんじゃないだろう」

「オバさんオバさん、うるさいんだよ。アンナさんと呼びな、小僧。」

 用心深く探る視線を送りながら身構えるヨハンにアンナは冷然と微笑んだ。

 


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