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ファイアーボンド  作者: fuon
賽の河原崩し編
9/42

第九話

***

(フリーヴァーツ視点)

 俺たちはユリフィリー協会があった町を出て、荷馬車の荷台に乗ってデールさんの故郷、ホレイショーに向かっていた。ユリフィリー協会があった町に行った時と同じく、レティシアさんは車酔いでダウンし、イーダさんに介抱されている。教会へ向かっているときとは違って、道が石で整備されているが、この人には関係なかったようだ。まったく、この人ときたら……。


 ところで、ホレイショーとはどんな所なんだろう?ホレイショーはデールさんの故郷だから、デールさんに聞くのが良いか。

「ホレイショーってどんなところなんですか?」

「ん?俺の故郷と言うことはすでに言ったが、そうだな、ホレイショーはもともと、近くの鉱山から採れる鉱石を活かした金物産業がさかんだった。ところが、ある日鉱山にオーガのダンジョンが出来ちまってからは、地元の状況は芳しくねぇ。だから俺はこれ以上オーガどもに好き勝手されねぇように、オーガどものダンジョンを攻略しちまいたいんだ。」

「そうだったんですか……。」

「フリーヴァーツ様、ホレイショーはグローブ町の南隣にある城郭都市ですわ。高い城壁に囲まれ、東には山脈と河川、南には海があり、守りやすいと言われているんですよ。それから山からは鉱山資源がとれ、港湾からは貿易品が集まる凄い町ですわ。」

「詳しいな、ソフィア。」

 俺は食い気味なソフィアに驚きつつ言った。

「ええ、これでも貴族の令嬢ですから、隣の大きな町のことは知っておりますわ。」


「あと、ホレイショーはブラッディコート事件が起きた時に、(うっぷ)私が逃げてきたところでもある。」

「ああ、レティシアさん、安静に。」

「よせ、フリーヴァーツ。こいつは、しゃべってないと死んじまうんだ。」

「デールさん…。」

 でも、これはレティシアさんとデールさんが気の置けない仲ということだろう。

 しかし、レティシアさんは南のホレイショーに逃げていたのか。


「レティシアさんはこの町で仲間と装備を集めたんですか?」

「私がホレイショーで出会えたのは(ぼえぇっ)デールとマーヴ君だけだよ。この3人の装備は(うえぇぇ)デールの親父さんのところで整えたね。(ふう。)親父さんの腕はピカイチだよ。」

「あの時は槍を奢ってもらって、感謝しかないっす!」

「ふふん、いいんだよ、マーヴ君。その分君は槍の腕前と<大砲>で役に立ってくれているからね。」

「この女、そういうこと言う時だけは元気だな。」

 デールさんが呆れたように言った。


「ははは。でも、ブラッディコート事件のときは魔物がすごかったでしょう?レティシアさんは、よくマーヴ君に槍を奢れるお金を持っていましたね?」

「私は人一倍研究を重ねたからね。」

「何をですか?」

「ギャンブルに決まっているだろう!」

「かっこつけて言うことじゃないっすよ!レティシアさんの場合は、宮廷魔法使いの勤務中にギャンブルをして、グローブ町に飛ばされたんっすよ!」

 マーヴ君は鋭い突っ込みを入れ、続けて言う。

「でも、レティシアさんは何かとかこつけて色んなものを奢ってくれるっすから、家族への仕送りを増やせて、とても助かってるっす。」

「そうだったのか。」

 俺の中で意外さと感心が交ざる。そして、おふざけで車酔いが醒めてきたレティシアさんが続ける。


「そうなんだよぉ、フリーヴァーツ君。ところでホレイショーに着いたら、私は酒場に行って、海外の美味い酒を飲むから、君たちも付いて来給え。酒は飲めんが、珍しい料理が食えるぞ?」

「いつものパターンっすね。レティシアさんはこう言いつつ、最後には酔っぱらったとか言って奢ってくれるんっすよ。」

「ちょっと、言わないでよマーヴ君!酔っぱらった勢いでイーダちゃんに言っちゃうよ?」

「うわあああ!やめてくださいっす!!」

「私に言いたいことがあるのですか?」

「なんでもないっす!」

「でも、マーヴ君はこのままでいいの?だったら、私がイーダちゃんをもらっちゃうよ?」

「ううっ、意地が悪いっすよ、レティシアさん。」


 ――「でも、マーヴ君の気持ちは後悔する前に伝えるべきだよ。」

 レティシアはとある獣人のことを思いながら、ぼそっと言った。その直後にソフィアの<探知>が反応する。

「盛り上がっている所すみませんが、前方に熊の魔物がでましたわ。」

「鉱山がオーガに占領されたから、山から下りて来たんだね。」

 レティシアさんの言う通りだろう。しかし、これは――。

「ちょうどいいな。新生フリーヴァーツパーティーの練習相手になってもらおう。ルイ、ついてきてくれ。」

 そう言って、俺は戦闘準備に入る。


「分かりました。私は<聖盾>を使って、前で敵の攻撃を受け止めればいいのですね。」

「ああ、そうだ。ルイが守ってくれたら、俺たちが隙を見て攻撃する。」

「お兄ちゃん、私は前衛と後衛どっちをすればいい?」

「ハルはソフィアと一緒に後方から<フィデーリ>で攻撃してくれ。」

「わかった!」

「分かりましたわ。ハル、フリーヴァーツ様のところに行っては駄目ですからね。」

「わかってるって~、お姉ちゃん。<攻撃力上昇>、<防御力上昇>。」

「おお、レティシアさんから聞いてはいたが、本当に支援魔法の腕に磨きがかかったんだな。」

 俺はハルのバフの効果が上がっているのを実感する。ソフィアも驚いているようだ。

「いつの間に……?」

「ヤーキモーのダンジョンを攻略したときだ。」

「確かに、あの時なら…。」

 俺もレティシアさんから聞くまではハルの変化に気付けなかったから、ソフィアも不服そうにする必要はないんだがな。まあいい、熊の魔物ベアーは目の前に迫っている。

「さあ、お手並み拝見といこうか。」

 俺はルイの<聖盾>に、ハルの付与魔法に、熊の魔物ベアーに向けて言った。


 ――こうして開始された、フリーヴァーツパーティー VS 熊の魔物ベアーの戦いは、ベアーの大ぶりな右手の上段振り下ろし攻撃から始まった。ルイは大きく一歩踏み込み、スキルを発動させる。


「<聖盾>。」

 おお凄い!ルイが敵の攻撃を止めたぞ――ッ!その隙に俺たちが攻撃できる!これがタンクの(ちから)か!

「<フィデーリ>!」

「<猟銃>。」

 ハルがエクストラスキルでベアーの動きを止め、ソフィアはショットガンでベアーの頭を打ち抜く。

 ベアーの頭は相当固いのか、即死はしていないようだが、まだ俺がいる!


 <聖属性の加護>による高い身体能力に物を言わせ、思いっきり跳躍し、<剣術>と<火属性魔法>を発動。そして、ソフィアが先の傷口をもう一度打ち抜き、傷口をさらに広げる。俺は炎で覆われた片手剣を逆手にして両手で握り、そのまま落下の勢いを利用して、ソフィアが作った頭部の傷口を刺突――。


 結局俺たちは大した抵抗もさせずにベアーを一蹴したのであった。これには、素直に俺たちの成長を感じる。

 ルイとハルで敵の動きを封じ、ソフィアが安全圏から狙撃し、俺自身はハルのバフを受けて突撃。これは――。

「完璧な連携だな。」

「うん!すごくよかったよ!」

 ハルも尻尾を振り、耳をピンと立て、嬉しそうにする。実際、俺もパーティーの成長を実感した。ソフィアもみんなを褒める。

「ルイ様のスキルも素晴らしかったですが、フリーヴァーツ様の跳躍も以前より明らかに高くなっていて、驚きましたわ。」

「ありがとう。ソフィアの連射も凄かったよ。」

「うふふ、フリーヴァーツ様に褒めていただいて、とても嬉しいですわ。ルイ様も、()()()()()助かりますわ。」

「私はみんなを守ることしかできませんがね。」

「ルイさんもパーティーメンバーと仲良くなってきたようだな。」

 俺が言うと、ルイさんはこちらに笑顔を向ける。

「はい。でも、もっと仲良くなりたいですな。」

「まだ出会ったばかりだ。そう焦る必要はないさ。さあ、俺たちはホレイショーへの旅の途中だ。馬車に戻ろう。」

 俺たちは馬車に乗り込み、旅を再開した――。


***

 その夜、一行はホレイショーへの道の途中で野宿をすることとなり、夕食の支度をすることにした。こういう時、冒険者の食事といえば保存食だが、今回は馬車に食材から調理器具、調味料、調理器具まで一式揃っていたので、家の教育方針的に料理が得意なソフィアとハルが調理を担当することになった。

 ちなみに、なぜ彼女たちが料理上手かというと、トゥーソン家は暗殺を生業とするので、まずは料理、次に狩猟で狩られた動物の解体、その次に自力で狩猟を訓練して、徐々に殺人に対する心の準備をする。だから彼女たちは料理が上手いのだ。ソフィアは手際よく、ハルは機械のように正確に分量を量りながら調理していく。


「うーん、味がうすいかな。」

「ハル、料理には目分量も大切ですわ。」

「お姉ちゃんは脳筋なだけでしょ。でも、お姉ちゃんの言う通り、料理には目分量も大切だよね。」

「ところでハル、ルイ様とはどうですの?」

「え、どうって?」

「隠さなくてもいいですわ。先のベアーとの戦いで、ハルはルイ様に守ってもらっていたではありませんか。」

「あれ、そうだったかな。ルイさんはみんなのことを守っていたと思うけど。」

「ベアーの初撃はハルを狙っていましたわ。だからルイ様はハルのことを守っていましたのよ。」

「そうだったんだ。後でルイさんにお礼を言わないとだね。」

「ルイ様のように筋骨逞しい方に守っていただければ、ハルも安心しますでしょう?」

「うーん、まあ、確かに筋肉がすごいから、頼もしくはあるかな。」

「フフッ、ハルはルイ様のことが好きなんですわね。」

「ええ!?」

「あら、お嫌いですの?」

「そうではないけど…。」

「そういえば、ハルは日課の筋肉トレーニングをして鍛えた私の筋肉に憧れていましたわね?」

「それは……。そうだけど。」

「ハルは筋肉のある方が好きなのですわ。」

「――そっか、私筋肉フェチだったんだ…。」

「筋肉に惹かれるのは悪いことではありませんわ。そうでしょう?」

「確かにそうだね。」

「でしたら、やはりハルはルイ様のことを好いているのですわ。」

「お姉ちゃんがそこまで言うのなら、そうなのかも。」

「ええ、お姉ちゃんを信じて、ハル。」

「分かったよ、お姉ちゃん。」

「私は是非、ハルとルイ様に幸せになってもらいたいですわ。」

「あはは、さすがに気が早いよ」

「あら、私は本気ですわよ。ハルの恋は私も応援してあげますわ。」

(フフッ、これで妹がフリーヴァーツ様を誘惑することはないでしょう。……ヤギの女など、フリーヴァーツ様に近づいた途端に誘惑しにかかったからな。今後はフリーヴァーツ様の近くにいる女には警戒度を上げて行かなくてはならない。手っ取り早くハルを殺すなり、男に強姦させて男性恐怖症にするなりの手段も考えたが、ハルは()()()()()フリーヴァーツ様と長い間付き合ってきた。心優しいフリーヴァーツ様はハルに何かあれば、ハルのこと引きずりなさって、私が彼に振り向いてもらえなくなる危険性がある。それは非常に良くないことだ。直接的な手段はなるべく控えるべきだが、例えばハルの好意を別の男に向けさせることができれば、ハルにフリーヴァーツ様を盗られることはなくなる。本当、ルイは()()()()()助かるヤツだ。)


***

(ルイ視点)

 私ルイは一目惚れをしました。一目見た瞬間から私の胸は春のように暖かくなり、視界が色づきました。ガチ恋です。残念ながら、意中の人は私に惚れることはないかもしれません。ですが、私のモットーは後悔しないように人生を生きるということです。たとえ叶わない恋だとしても、アプローチぐらいはしていいでしょう。ぶっちゃけ、私が冒険者になろうと思ったのは彼と出会ったからです。というわけで、私は彼に話しかける機会を窺います。

 あ、彼はどこへ行くのでしょう。聞いてみましょう。


「おや、フリーヴァーツ君はどちらへ行かれるのですか?」

「ああ、ソフィアとハルが料理している間に、テントを張ろうかと思ったんだ。」

「いいですね。私もお供します。」

「ルイも手伝ってくれるのか?ありがとう。じゃあ一緒に張ろうか。」

「はい!」

 私はいきなり告白するのではなく、こうした日々の活動のなかでコツコツと好感度稼ぎから始めることにしました。私の愛は実るでしょうか。恋愛運を上げるミサンガには頑張ってほしいところですね。


「フリーヴァーツ君は付き合っている人はいますか?」

「いいや、いないよ。そっちこそ、どうなんだい?」

 よしっ、第一関門は突破です。この一歩は大きい。

「私は恋人いない歴≤年齢ですよ。」

「小なりイコール?」

「イコールって言ってしまうと、もう負けみたいな所あるじゃないですか。でも小なりイコールなら、まだ恋人いない歴よりも年齢の方が大きい可能性が残っているので、ギリ負けてないんですよ。」

「あはは、なんじゃそりゃ。」

 よしっ、彼が笑ってくれました。笑わせてくれる彼氏は人気ですからね。しっかりと笑いを取っていきます。


 ――そうこうしているうちに、テントを張り終えたので、私はもっと彼と一緒にいるために、テントの中に荷物を運びこむことを提案します。ほら、料理ももう少しだけ時間がかかりそうですし、いいでしょう?やりました、快諾です。張り切っちゃいます。


 でも、この楽しい共同作業は中断させられます。夕飯が出来上がったようです。仕方ないので、行きましょう。


「フリーヴァーツ君、隣に座ってもいいですか。」

 私はフリーヴァーツ君にもっとお近づきになりたいので、フリーヴァーツ君の右隣でディナーを取ろうと画策します。

「おお、もちろんいいぜ。」

「あ、じゃあ私は左側に座りますわ。ハルはルイ様の隣に座りなさい。」

 むむっ、フリーヴァーツ君の左にソフィアさんが座ってきましたか。しかもなぜか、ソフィアさんはハルさんを私の右隣りに座らせます。まあ、私には断る理由がないので、受け入れるしかないですが。

「よろしくお願いしますね、ルイさん。」

「ええ、よろしく、ハルさん。」

 ハルさんがどれぐらい私に話しかけてくるかによって、私がフリーヴァーツ君にしゃべりかける機会が増減しますね。まあ、ハルさんとも仲良くやっていくつもりですし、ハルさんも善い人なので、構いませんよ。どうせ私の恋愛スタイルはじっくりと時間をかけて好感度を稼いでいくものですし、焦って今フリーヴァーツ君に話しかける必要もないでしょう。


「このスープはハルさんが作ってくれたんですよね。ありがとう、とてもおいしそうですよ。」

「はい!私頑張りました!」

「では、いただきます。」

 私はハルさんの作った料理を口に運びます。うっ、なんだこれは。しょっぱい!

「お、おいしいですよ、ハルさん。」

 私は気を使っていいますが、微妙な表情が隠しきれていません。

「ハル、塩を入れすぎですわ。」

 ソフィアさんは遠慮なくいいます。

「あれ、そうかな。」

「うーん、これは擁護できないかな。でも、誰にでも失敗はあるよ。」

「ハルにしては珍しいな。」

 レティシアさんとフリーヴァーツ君が言います。


「ごっ、ごめんね!」

「いいや、別に責めているわけじゃないぞ。」

「そうっすよ!俺はちゃんとのめるっす!!」

 フリーヴァーツ君がハルさんを慰め、マーヴ君がスープを一気飲みします。


「ハル、だれかのミスはみんなで挽回するもんだ。ひとりで抱え込むもんじゃねぇ。」

「デールさんの言う通りだよ。成功も失敗も分かち合う。それが仲間ってものだろう?俺は小さいころからハルと一緒に過ごしてきたから、ハルがたくさん成功してきたことを知っているよ。」

「えー、なになに?ハルちゃんの小さい頃の話とかお姉さん聞いてみたいな~。」

 最後の台詞をレティシアさんがいったところで、ハルさんは嬉し泣きを始めました。


「うぅ、ぐすっ、ありがとう、みんな――!」

「私ももう少しやんわりと指摘するべきでしたわ。ごめんなさいね、ハル。」

「ううん、いいの、お姉ちゃん。(ずっ、はぁ。)」

「ほら、ルイさんもハルを慰めてあげてください。」

 ソフィアさんが私に振ってきます。

「そうですね。ハルさん、失敗は次に活かすためにあるんですよ。」

 ここで、イーダさんも加わります。

「ハルちゃん、辛かったら、私に言ってね。」

「ゔん、ルイさんもイーダちゃんもありがとう。」

 多少のトラブルはありましたが、大きな事故はないまま、この夜を明かしました。なんだかんだ、ハルさんとの距離が縮まったのは結果オーライでしょうか。

 「ううん、いいの、お姉ちゃん。(ずっ、はぁ。)」

 ずっ→鼻をすする音

 はぁ→息を吐く音


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