第四十一話
フリーヴァーツ:「うわっ!?」
烈風は弾丸を吹き飛ばし、ハルの命を救った。
「相変わらず手のかかるヤツだ」
ガレンが静かな声で言った。
「ガレンさん……?何故ここに……?」
フリーヴァーツは不思議そうに聞いた。
「私はその指輪が作った幻影だよ。」
ガレンは<風属性魔法>で風の刃をソフィアの方に飛ばしながら答えた。そう言えば、フリーヴァーツはウィンミルから<エアリエル>の魔法を込めた指輪を貰っていたのだった。ウィンミルにはこれで二度命を助けてもらったことになる。
「<クイーン>!<猟銃>!」
ソフィアはハルと風の刃を引きつけ合うようにしつつ、自身は移動。ソフィアとハルとガレンが一直線に並んだところで二人を二枚抜きすべくライフルを撃った。
「<プロスペロー>!」
ガレンはハルを樹木で囲んで風の刃とライフル弾を受ける。
「私も責任を感じているのだよ。未熟な奴にエクストラスキルを渡してしまったことも、ソフィアの本性に気付けなかったことも。<プロスペロー>!」
ガレンはソフィアの背後から攻撃を仕掛ける。ソフィアは<隠密>でガレンの意識から外れながら樹木による攻撃を躱す。
(やはりソフィアのスキルはどれもこれも厄介だな……。それに、本人の能力も高い。できれば敵に回したくないタイプだ。)
ガレンは顔に出さずに辟易としながらも、<プロスペロー>で樹木を何本も隙間なく垂直に生やすことで、樹木の檻を作って自分とフリーヴァーツパーティーを囲い込んだ。そして彼女はフリーヴァーツに宣言する。
「エクストラスキル絡みの責任を考えると、私は貴様もソフィアも殺さなければならない!」
「なっ――!?」
(やっぱり他人は信用できない――!)
ハルにポーションを飲ませていたフリーヴァーツはガレンに殺意を向ける。
「本来なら私はソフィアを責任もって殺した後、そこのダンジョンボスまで討伐しなければならない!だが、ウィンミル亡き今、貴様まで殺してやる余裕は無い。だから貴様にはチャンスをくれてやる!」
ガレンは狭くなったソフィアの行動範囲の中から、自分とフリーヴァーツ、ハルのポジショニングを見てソフィアの動きを予測。<風属性魔法>の刃を撃ち出す。
「――――!?」
(<隠密>を貫通しただと?!)
ソフィアは驚愕する。
「フリーヴァーツ、人を信用しろ。」
「できるわけないでしょう!」
「貴様は私たちの心を覗いたときに、貴様を恨むやつがいたか?貴様が望んだ人間関係はスキルで繋ぎ留めておかないといけないものだったのか?今、<ファイアーボンド>無しで戦ってくれている仲間はなんだ!クソみたいな呪いで、今までに出会えた人たちを信用できないようになりながら生きていきたいのか!?」
「嫌に決まっているでしょうッ!でも!でも呪いのせいで、人を信じることなんてできない!」
「疑ってもいい!人を信じるということは、疑わないということではない!疑って、疑って、人の事を正しく理解しろ!信用できるところ、信用できないところ、どこまで信用できるかを見極めて、人と付き合え!正しく恐れろ!」
「疑ってもいい……。人を信じるのに……。」
「人間不信でもいいから、まずは小さな第一歩、<ファイアーボンド>を使わないことからでいいから信じろ!貴様はハルを縛り付けたままでいいのか!」
フリーヴァーツはハルとの思い出を思い出す――。
三歳年下のハルはソフィアにいつもくっついていて、俺とソフィアの遊びに交ざってきていた。だから俺はソフィアだけじゃなく、ハルともよく遊んだものだ。あの頃は元気のいいハルに俺やソフィアの方が引っ張られていたなぁ。
ブラッディコート事件の後も、ハルは俺たちに付いてきてくれて、エンチャンターとして俺たちを何度も救ってくれた。今だってそうじゃないか……。
それに、ハルは俺たちの中で一番早くエクストラスキルを手に入れて……、それで俺たちをずっと助けてくれていた。それなのに、俺はハルが呪いに蝕まれていることに気付くこともできないまま、頼りっきりになって、そして今は感情も刺激も失って苦しんで、俺の無茶で死にそうになっている。
……最低じゃないか。果たして俺は何か一つでもハルに返すことができただろうか?今度こそ、俺が我慢してでもハルに恩返しするべきじゃないか?いや、俺がそうしたい。
「……分かりました。」
「よし、よく言った!共にヤツを倒すぞ!」
ガレンは竜巻を発生させ、右から左へ前方を薙ぎ払うように動かし、ソフィアを追い詰める。対するソフィアはすごく不機嫌そうな表情で走って竜巻から逃げる。
「なに、お前……。さっきから私のフリーヴァーツ様と仲良さそうにしやがって――。<猟銃>。」
ひどく底冷えする声を発しながら、流れるように銃が構えられる。そこでガレンは叫んだ。
「フリーヴァーツ!」
合図とともにフリーヴァーツが一気にソフィアのもとへ詰め寄る。だが、ソフィアの反射神経の方が速い――。このままでは決めきれない。だから、フリーヴァーツは最後の魔力でスキルを使った。
「<ファイアーボンド>!」
ハルとガレンにフリーヴァーツの作戦が伝わる。
「<プロスペロー>!」
まずは竜巻とフリーヴァーツの対応に追われていたソフィアのキャパシティオーバーを期待して、彼女の足元――竜巻とは反対側――から樹木を伸ばし、拘束を試みる。<プロスペロー>の樹木は少しの間とはいえ、ドラゴンすら拘束して見せたのだ。一度捕まると逃げ出すのは至難の業だろう。
横から竜巻、前からフリーヴァーツ、足元から樹木――。一見、絶体絶命のように見えるが、この状況だからこそソフィアは前に出る。フリーヴァーツが<ファイアーボンド>で何を伝えたのかは分からないが、どんな作戦も踏みつぶして見せる――ッ!
「<クイーン>!」
エクストラスキルの力で自分とフリーヴァーツが互いに引き合うようにする。しかも、踏み込んだときに、彼女のエクストラスキルの呪い、怪力の強制が発動したので、目にも留まらぬ速さでフリーヴァーツの鎧にショットガンの銃床を当てることに成功した。
「ガハッ!?」
――カラァンッ!
フリーヴァーツは一瞬意識が飛び、握っていた剣を落とす。ソフィアの頭にフリーヴァーツの吐血がかかる。
普通なら、ぶつかった衝撃でフリーヴァーツは後ろに吹き飛ぶところだが、今は<クイーン>の影響でソフィアから離れることができない。ソフィアは握りつぶしてしまったショットガンを捨て、新たに<猟銃>でショットガンを生成。そのままフリーヴァーツを盾にしてガレンを銃撃する。
「<敏捷力上昇>!」
「<風属性魔法>!」
対するガレンは機動力を強化して、右から弧を描くようにして機動することで、銃弾を躱しつつソフィアに近づく。当然、ソフィアもガレンの方に注意を向ける。だから、ここでソフィアの注意が向いていない逆サイドから攻める。
「<プロスペロー>。」
ソフィアからみて右斜め後方の樹木の壁を鞭のようにソフィアの足元に思いっきり叩きつける。
――バァンッ!
「きゃっ!?」
衝撃でソフィアは宙に浮かされ、バランスを崩しながらも、フリーヴァーツを庇うように抱き留める。
「<フィデーリ>。」
ここで、ハルが上空に向けて派手に黒い雷を放った。
(――?何を……?)
ソフィアは狙いが分からずに戸惑う。そこへ急速接近するガレン。
(陽動か――ッ!)
ソフィアが判断する頃には、完全に先手を取られていた。
ガレンの手には風の魔力が溜められ、一太刀の風の刃を形成している。ガレンはソフィアの背後から風の刃を横薙ぎに振るモーションに入った。
「なめんなッ!」
対するソフィアも諦めない。<クイーン>の融合能力で銃をガレンに誘導。振りの速さを底上げし、握っていたショットガンを力の限り振り抜く――。
――ベキィッ!
ソフィアの振り抜きがガレンの攻撃速度を上回り、ガレンは強かに頬を撃たれて体勢を崩した。崩したが、ガレンはそのまま回転してソフィアの右腕を斬り飛ばす。
――ブシャァアアアッ!
「うっ、ああああああああああっ?!」
ソフィアの甲高い悲鳴が響き渡る。
――カアァアアンッ!
それと同時に、隣の戦場からも甲高い金属音が鳴り響き、ダンジョンボスが持っていた片手剣が回転しながら飛んでくる。先ほどハルが上に放った<フィデーリ>はダンジョンボスを狙ったものだったのだ。ダンジョンボスはレティシアの<真珠入りの杯>によって<不死>に使うための魔力を吸われながらも、それにレジストしつつ、他のレティシアパーティーのメンバーたちの攻撃を捌いていたが、頭上から降ってくる雷までには対応しきれなかった。直後にレティシアが杖でダンジョンボスが持っていた片手剣を弾き飛ばし、ゼロ距離で<真珠入りの杯>を発動。ダンジョンボスの魔力と生命力をすべて吸い取ったのだった――。
そして、意識を取り戻したフリーヴァーツがその片手剣をパシッ!と手に取り、ソフィアの心臓に差し込む。正面から切っ先を突き立て、心臓を貫く感触は嫌に生々しかった。ソフィアを刺したフリーヴァーツは冒険を始めたきっかけを思い出す。
「どうして……。」
フリーヴァーツの悔しい声が虚しく響く。もとは、ソフィアの笑顔を取り戻すために始めた冒険だったはずだ。それなのに、今自分は彼女の心臓を穿っている。
――ゴポッ……。
血を吐いてから、ソフィアは言った。
「フリーヴァーツ様、そんなに悲しむことはありませんわ……。」
ソフィアは最後の力を振り絞って、すべての魔力を消費。莫大な魔力と共に、彼女を中心として玉虫色に輝く魔法陣が出現する。ソフィアが散々繰り返したエクストラスキルの実験の集大成の魔法陣だ。
もはや彼女の命は助からない。ならば、今ここでフリーヴァーツと魂の融合を果たせばいい。ソフィアの望みは元から融合であったし、身体も心も魂も一つになれば分かってくれるところもあるだろう。それに、死にそうな身体は捨て、愛するフリーヴァーツの身体の中で生きられるなら本望だ。
――バッ!
とガレンが腕を振り上げ、ソフィアが何かをする前に止めを刺そうとする。しかし、フリーヴァーツは軽く右手を上げ、ガレンを制止した。
「最後に一言だけ。ソフィア、俺は君のことが好きだった。子どもを産んで、幸せな家庭を築いていきたいと思っていたよ……。」
「――――ッ!!」
ソフィアはハッとして目を見開いた。
フリーヴァーツとしては、ソフィアのことは未だに許せていない。だが、彼女のことが好きだったのは紛れもない事実だ。だからこそ、愛する人がこれ以上罪を重ねないように、また、フリーヴァーツパーティーのリーダーとしての責任を取るために、自らの手でソフィアに引導を渡そう――。
フリーヴァーツは涙ながらに彼女の胸に刺さった剣の柄を両手で握りしめる。と、そのとき。
「うあああああっ!?」
隣からレティシアの苦しむ声が聞こえてきた。
「何が!?大丈夫ですか!?」
フリーヴァーツが隣を見ると、レティシアが仰向けで倒れ、心臓を掻きむしっていた。
「どうにも、ダンジョンボスを倒したときに、こいつの呪いが溜まっちまったらしい!」
デールが焦った声で怒鳴る。
「なっ――!?」
(レティシアさんが魔物化!?)
レティシアの呪いが溜まってしまったのは、フリーヴァーツが彼女を無理やりこのダンジョンに連れてきて、準備もないまま、いきなりボス戦に突入してしまったからだ。フリーヴァーツの心の中に、後悔、恥ずかしさ、申し訳なさ、どうやって責任を取ればいいのか、生まれて来る魔物にどうやって対処すればいいのか、など様々な考えが浮かぶ。
(どうしよう――!?)
焦るフリーヴァーツ――。そしてソフィアがエクストラスキルを発動した。
「<クイーン>……。」
するとその時、玉虫色の魔法陣が一際輝いた。
「うわっ!?」
光はすぐに収束する。レティシアはもう苦しんでいなかった。
「一体何が……?」
「私の、<クイーン>の力で、皆様の、エクストラスキルを、私の体の中に、移動させましたわ……。」
ソフィアが苦しそうな息継ぎをしながら答えた。
確かに、言われてみるとフリーヴァーツの身体の中から<ファイアーボンド>が消えている。だが、ソフィアはついさっきまで良からぬことを企んでいたのではないのか?フリーヴァーツは恐る恐る訊く。
「どうして、そんなことを……?」
「フリーヴァーツ様が、私との子どもを、欲しいと、言ってくださった、からですわ……。ほら、身体も、魂も、一つになってしまえば、子どもが産めないでしょう……?」
「だがっ……!だからと言って、みんなの呪いを引き受ける必要は無かったはずだ!」
ソフィアは今、みんなの呪いを吸収しているので、<クイーン>の呪いは溜まりきっているはずだ。
「ふふ……。好きな人には、幸せに、生きて欲しい……。好きな人には、良いところを、見せたい……。それは、人の子として、自然な、ことでしょう……?」
「ソフィア……。」
「ゴホッ、ゴホッ……!」
「ソフィアッ!」
フリーヴァーツはソフィアを抱きしめる。抱き留められたソフィアは幸せそうな笑顔を見せる。
「来世で待っていますわ……。」
その言葉を最後に彼女は息を引き取った。
次回で最終話になります。
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