第四十話
***
(レティシア視点)
(くっ……、不味いな……。ダンジョンボスを侮っていたつもりはないけど、想定以上に強い――ッ!)
デールが斬られ、イーダが回復する。
「<ヒール>、<キュア>!」
「すまねぇ!」
レティシアはデールが回復したことにホッとしつつも焦る。
(ボスの剣に毒が塗ってあるのも嫌らしいね。<ヒール>だけじゃなくて、<キュア>も使わされてる。このままじゃ、相手の魔力が尽きるよりも先に私たちのほうが倒れちゃう――。)
「いいよ、いいよ!積極的に攻めて行こう!とにかくボスに<不死>を使わせることが重要だから!」
レティシアは焦燥を勘づかれないように檄を飛ばし、どんな攻撃も無効化する敵と戦う仲間たちが士気を保てるように努める。
「オオッ!」
デールも行動で応えるべく、ダンジョンボスを石のグローブで固めた拳で殴り、<不死>を使わせる。
(今――ッ!)
「<風属性魔法>!」
ボスが霧化したタイミングに合わせてレティシアは突風を発生させ、霧を散らそうとするが――。
「アハハ!無駄だよ!!」
ボスは上空で平然と角の生えた大きな鎧を再構成し、レティシアにカウンターを仕掛けて来る。
(チッ!イーダの<聖域>をもってしても<不死>は無効化できないんじゃ、霧を霧散させても効果がないか……。)
イーダが<聖盾>でボスの攻撃からレティシアをカバーし、レティシアが<土属性魔法>で足元から石の槍を突き出し、ダンジョンボスが<不死>で躱す。
(さて……。ボスに対抗できる手段がないわけではないが……。)
レティシアはチラとフリーヴァーツたちの方を見る。
(ソフィアまで来てしまっているからな……。今のフリーヴァーツの体調は万全ではない。あっちがソフィアに負けた挙句、彼女がこっちの戦いに参戦してきて、私たちまで負ける可能性も考えておかないと……。そうなると、呪いを恐れずにエクストラスキルを使うしかないか……。)
レティシアはバックステップを踏みながらリスクのある手段をとる決断をした。
ここで、マーヴが槍でボスに横撃を仕掛ける。
「<真珠入りの杯>!」
「うっ……?!」
レティシアは呪いを恐れず全力でエクストラスキルを使用。魔力と生命力を吸い取られたボスは硬直し、<不死>が使えなくなる。そしてそのままマーヴの槍がボスに突き刺さった。
「ぐあっ!」
ボスの左脇腹から血が飛び出す。初めてボスにまともなダメージが入った瞬間だった。何度攻撃を仕掛けても、まったく攻撃が通らなくて心が折れそうになっていたマーヴも顔を綻ばせる。
「やった……!」
しかしボスはすぐに<真珠入りの杯>にレジストし、マーヴの槍を掴み返す。
「よくもやってくれたね……ッ!<操血>!」
「うわっ!」
ボスの左脇腹から出ていた血が鞭のようにしなり、マーヴを締め上げ、さらに両腕でホールドすることにより、マーヴを完全に拘束する。そして……。
「<吸血>ぅ~!」
ぐぱぁっ!っと大きく口を開けて、ダンジョンボスはマーヴの首に牙を突き立てた。
「ぐあああああっ?!」
マーヴは凄い勢いで血を奪われていき、それと引き換えにダンジョンボスの魔力と生命力が回復していく――。
「テメェ!マーヴを離しやがれ!!」
即座にデールがボスに対して、アッパーカットの要領で左拳を振り上げ、右肩と頭を狙う。それと同時に<土属性魔法>で地面から石の槍を生やし、ボスの左半身を掠めとる。当然、ボスには<不死>でダメージが入らないが、それでいい。ボスが頭部、両肩、左脇腹を霧化させたことで、マーヴに対する拘束が解除される。
「マーヴ君!<ヒール>!」
「<風属性魔法>!」
イーダがマーヴを回復させ、レティシアがマーヴを回収し、デールがボスの牽制に回る。だが、<ヒール>をかけたにも関わらず、マーヴが苦しみだした。
「――ッ!うあああああ!」
「マーヴ君!?<キュア>!」
すぐにイーダが状態異常を回復し、レティシアが無事を確認する。
「マーヴ、平気!?」
「うっ、平気っす!」
「オッケー!<吸血>は厄介だね!遠距離から攻めて行こう!」
「了解っす!<大砲>!」
ダンジョンボスは回復した魔力で<不死>を使い、反撃してくる。
(くそっ……!ここにきて始めからやり直しか……ッ!)
レティシアは一層の焦りを感じながら対応する。
一方のボスも動きに焦り始めた。ボスも本当は、<吸血>は隠し玉としてレティシアに使って確殺したかった。だが、レティシアパーティーの連携を崩しきれず、まずは周りから片付けていかなければならなかった。しかし結局のところ、マーヴを落とすことが出来ず、ただ自分の手札を晒しただけになってしまったのだ。
***
(フリーヴァーツ視点)
(許せない許せない許せない許せない許せない……ッ!)
フリーヴァーツは<ファイアーボンド>の呪いでソフィアへの恨みを募らせたまま戦う。
(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……ッ!)
怒りに任せた無謀な突出。しかも体調も万全でないので、動きに精彩を欠いている。だからソフィアに簡単にあしらわれる。
一方のソフィアも、フリーヴァーツを生け捕りにしないと、<クイーン>にて身体と魂を融合するという目的が達成できないので、手加減をして決めきれない。またハルのカバーと<防御力上昇>、それからフリーヴァーツ自身の<聖属性の加護>のせいで、毒のナイフも効きも悪い。
今のフリーヴァーツが脅威にならない以上、ソフィアにしてみれば、警戒すべきはハルだが、ハルに対しては容赦なく攻撃できる。妹に銃を向け、場合によっては<クイーン>で銃弾を誘導したり、<隠密>で奇襲したりして命を狙う――。
「うおおおっ!死ねぇっ!!」
フリーヴァーツはソフィアの後ろから首を狙って、片手剣を右斜め下に振り下ろすが、ソフィアはその軌道を<探知>で察知して頭を下に振ることで躱し、そのまま<探知>で前方にいたハルの位置を補足。ノールックで銃を当てた。
――バァンッ!
「ゥンッ!」
肺に銃弾が当たったせいでハルの口から吐息が漏れる。痛みを感じない彼女は特に気にすることなく、姉に攻撃をするために走り出そうとしたが……。
「ゲホッ!」
二~三歩駆けたところで、ハルが膝を突き、吐血した。
<フィデーリ>の呪いで感覚を喪失していたことが、ここで響いたのだ。蓄積したダメージの大きさに気付けず、回復が疎かになり、致命的な隙を晒してしまう。そして、そんな隙を逃すソフィアではない。
――パンッ、パンッ!
容赦なくショットガンの残弾二発をハルに向けて撃った。
絶体絶命……。
フリーヴァーツは走馬灯のように、景色がゆっくりと見えた。
(ああっ、また……。また自分のせいで仲間が……。俺が何をしたっていうんだよ……。俺は仲間を信じていたかっただけなのに……。もう……、もうやめてくれよ……。もう俺から何も奪わないでくれ……。)
弾丸がハルの目前まで迫る――。そして、風が吹いた。
マーヴ君がダンジョンボスに<吸血>された後に苦しんでいるのは、吸血鬼に噛まれた人間は吸血鬼になるという伝説に基づいた描写です。
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