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ファイアーボンド  作者: fuon
雪解け後には泥濘が残る
35/42

第三十五話

***

 フリーヴァーツの頭の中に、情報が流れ込む。

 ――能力名「Firebond(ファイアーボンド)

 ――あなたたちの絆は燃え上がるだろう。


「フリーヴァーツさんッ!<聖盾>ッ!」

 フリーヴァーツはルイの声でハッ!とした。目の前ではドラゴンから青白いブレスが放たれ、それを受け止めるために各種防御魔法が展開されていた。ブレスはガレンの樹木を焼き、ウィンミルの氷壁を融かし、デールの土壁を貫通し、レティシアの聖盾を破壊し、ルイの聖盾でようやく止まる。


「うぐぅっ……!」

 聖域の聖属性補正と魔物弱体化に加え、多くの人が威力を減衰させたにもかかわらず、ルイは重そうにブレスを受け止めている。エクストラスキルの能力が分からなければ使いようが無かったとはいえ、フリーヴァーツは一瞬でもぼーっとしたことに恥ずかしさと申し訳なさを感じた。


「ごめn……。」

 ――ゴアアアアアァッ!!

 しかし、フリーヴァーツの謝罪は最後まで言えなかった。ドラゴンのブレスを目眩(めくら)ましに、ドラゴンが開けた穴を最短経路で通って、オーガロードが<縮地>にて急速接近。冒険者たちの真ん中で<火属性魔法>を撒き散らす。


(クソッ!俺の引き当てたエクストラスキルがもっと直接、戦闘に使えるスキルだったら……ッ!!)

 心の中で愚痴をこぼしながら、フリーヴァーツは咄嗟に回避。オーガロードの流れるような二撃目。フリーヴァーツはオーガロードの横薙ぎを大きく後ろに跳躍。


「ドラゴンの<風属性魔法>だ!」

 フリーヴァーツが踏み切ったと同時にガレンが警報を叫んだ。ドラゴンの無尽蔵な魔力に裏打ちされた無数の風の刃が超高速で飛んでくる。残念なことに、フリーヴァーツは回避が間に合わない――。


「チッ!<プロスペロー>!」「<水属性魔法>!」

 仕方ないので、ホワイトコーツが受けに回る。そうして攻め手が緩んだ隙にオーガロードは次の一手に繋げていく。


 ――フリーヴァーツとホワイトコーツは引き離せた。レティシアパーティーはフリーヴァーツから見てオーガロードを挟んだ向こう側。フリーヴァーツ以外のフリーヴァーツパーティーはオーガロードの右側にいる。そこでオーガロードはまず、<聖域>の要となっているイーダの方へ<縮地>を発動した。


「<土属性魔法>!」

 デールの勘と反射神経のおかげでオーガロードのダッシュを止める。しかし、オーガロードは再度<縮地>を発動。レティシアパーティーへの急速接近をフェイントとして急速反転し、ソフィアたちの方へ襲い掛かった。


「<フィデーリ>。」

 ハルがエクストラスキルを使う。しかし、オーガロードは止まらない。

「<聖盾>!」

 ルイが聖なる盾を構える。しかし、その盾では防ぎきれないことは彼自身が一番痛感している。

 ――ガアアアアアッ!

 オーガロードが炎を纏った刀を大きく横に引き、思いっきり振り抜く。

 フリーヴァーツにとって、それは走馬灯のように、永遠に感じる時間だった。


(やめてくれッ……!大切な仲間を奪わないでくれッ!)

 フリーヴァーツは仲間の下へ走る。しかし現実は無慈悲なもので、決して間に合うような距離ではなかった。

 そんな中、ソフィアだけは暗殺者として、いかなる戦闘下でも冷静さを保つ訓練を受けてきたおかげで、この状況下でも冷静な判断を下すことができた。


「<クイーン>。」

 彼女は冷静にオーガロードの刀を地面に誘導する。オーガロードの腕力がいかに強かろうと、それは地面と水平な方向に加えている力なので、地面に垂直に加わる力に抵抗することは出来なかった。オーガロードの刀が斜めに地面を叩く。


 ――ボジュッ!!

 熱で雪が一気に蒸発し、その下の地面すら溶かして見せたオーガロードの一刀であったが、ソフィアたちに傷を与えることは叶わなかった。

 フリーヴァーツは仲間が無事だった喜びと、素直にソフィアを尊敬する気持ちと、自分の無力さが入り混じる。

(すごいッ……!本当にすごいなぁ、ソフィアは。それに引き換え、俺はどうだ?俺のエクストラスキルは直接的には戦闘に役に立たない……。)


 ――フリーヴァーツはオーガロードの後ろからそのまま攻撃を仕掛ける。オーガロードは振り向きざまに一閃。受け太刀は不利なので回避を選択。後ろではドラゴンが他の人たちを牽制して、こちらの援護に来れないようにしている気配がする。


(いいや、だからと言って諦めていい状況じゃないな。発想を変えよう。絆が燃え上がるとは何だ?何ができる?)

 オーガロードは炎をドーム状に展開。フリーヴァーツたちをまとめて焼き払おうとする。


(友情が燃え上がれば、連携が上手くなるんじゃないか?連携力でオーガロードに対抗することはできないか?逆に敵との絆の繋がりを強くすれば、相手の思考を読むこともできるかも。あ、そうだ。敵が自分に一方的に強い絆を感じれば――。)


 ――炎が収束すると同時に、<隠密>で気配を消したソフィアがショットガンを撃つが、それを読んでいたオーガロードは軽くサイドステップ、からの<縮地>による急速接近。フットワークのテンポを変えながらソフィアを襲う。


(――不味いッ!このままではオーガロードがソフィアを真っ二つにしてしまうッ!やるしかないッ!)

 フリーヴァーツは剣を黒く染めた。これで彼のエクストラスキルは強化される。


「<燃え上がる絆(ファイアーボンド)>!!」

 フリーヴァーツは無我夢中でエクストラスキルを使った。刀身が黒くなった片手剣ポステュマス・リオナータスも彼を援護する。

 瞬間、今にもソフィアを両断しそうだったオーガロードの刀がピタリと止まった。フリーヴァーツは自身の作戦が成功したことを確信する。


「よし!うまくいった!」

(俺だって、強い絆で結ばれている仲間たちを手に掛けることは凄く躊躇うだろう。オーガロードがソフィアに絆を感じるようにすれば、この通り、攻撃を止められるってわけだ。)


 しかし、オーガロードもすぐに何らかのスキルの効果を受けたことに気付いてレジストを試みる。だが、このワンテンポの遅れは致命的だった。

 フリーヴァーツは再度エクストラスキルを行使。オーガロードにかけた<ファイアーボンド>は解除して、今度はフリーヴァーツパーティーの間の絆を強化する。これによりお互いの考えていることが何となく分かるようになった。同時に、彼は<火属性魔法>にて足裏から炎を噴出することで加速する。


(ハル、俺に全力で<敏捷力上昇>をかけてくれ!!!)

 フリーヴァーツは<ファイアーボンド>の能力を介してハルに意思を伝える。


「<敏捷力上昇>。」

 <聖域>のおかげで効果値の上がった移動速度バフがフリーヴァーツを加速させる。

「<クイーン>!」

 さらに、ソフィアが融合能力でフリーヴァーツを引き寄せることで、彼はさらに加速した。

「ソフィア――っ。」

(ごめんな……、無理させてしまって。だが、呪いをいとわずに託された思いは俺が絶対に成し遂げて見せる――ッ!)


「うおおおおおッ!!!」

 フリーヴァーツは全身全霊の雄叫びとともに、オーガロードの背中へ突撃を仕掛ける。しかし、異変を感じたオーガロードも強引に腰を捻って反撃しようとする。


 ――ガアア……ッ!?「<聖盾>!」

 だが、それはルイが許さなかった。ルイはオーガロードの背中に作り出した盾を壁にして、オーガロードが振り向けないようにしたのだ。そこへフリーヴァーツが凄い勢いで突っ込んでくる。ルイは<ファイアーボンド>のおかげで高まったフリーヴァーツとの阿吽の呼吸を活かし、フリーヴァーツの突きがオーガロードに当たるギリギリのところで<聖盾>を解除――。

 ――ドスッ!

 確かな手ごたえが剣に伝わる。

 ――ゴボッ!

 一拍遅れてオーガロードは吐血した。

「よしっ……!」

 フリーヴァーツは歓喜した。


(そうだよ。これだよ。この連携こそが俺の求めていたものじゃないか――ッ!)

 今まで長い間冒険者生活を続け、時に命を危険に晒し、ガレンから仲間と手を取り合う連携よりも個々の強さを邪魔しない連携を勧められてきたが、ここに来てようやく理想としていたものの一端を掴めた気がした。


 フリーヴァーツはオーガロードの胸から片手剣を引き抜く。

(能力を知った時には、もっと直接役に立つスキルをくれよと思ったけど、このエクストラスキルを引けてよかった――ッ!)


「このままレティシアさんたちの援護に行こう!」

 フリーヴァーツは興奮冷めやらないまま、そう言って駆け出した。


 オーガロードは背を向けて走り出したフリーヴァーツを見て一人思う。

 ――まただ……。ホレイショーにいたときも、こいつらに負けてすべてを失った。母なるダンジョンコアも、血を同じくする絆で結ばれた兄弟たちも、育ての親たる故郷の山も、何も守れなかった。また負けて、こいつらにすべてを奪われるのはもう嫌だ……。


 ――ゴハアアアアッ!

 その思いがオーガロードに新たなスキルを覚醒させる。

「――?!まだ立ち上がるのかよ――ッ!」


 フリーヴァーツはオーガロードの生命力に驚愕したが、ソフィアには何か思い当たる節があるようだ。<ファイアーボンド>を介して伝わってくる。曰く、このオーガロード()<不死>を持っているのではないか、と。

 思えばこのオーガロードはホレイショーで一度本当に殺され、吸血鬼として復活し、再び倒されたというのに、今また息を吹き返している。何度倒されようとも立ち上がる不屈さにフリーヴァーツは恐怖を覚えた。


(ダメだ、心が繋がっているときにネガティブなことを考えたらみんなの士気が下がる。こういうときこそ敢えて希望を見出さなくては――!)

「みんな、俺に作戦がある!協力してくれ!」


 フリーヴァーツは自分のパーティーメンバーに檄を飛ばし、それ以上に自分自身を奮い立たせてオーガロードに向かっていく。


 まずは<ファイアーボンド>で極まった阿吽の呼吸でオーガロードの前にフリーヴァーツ、左にソフィア、ハル、ルイの三人が立つフォーメーションを迅速に組み上げる。オーガロードは孤立しているフリーヴァーツの方へ走り出す。しかし、ソフィアの銃撃がチクチクとオーガロードの足を突き刺し、ヘイトを稼ぐ。オーガロードはソフィアの方を振り向くが、即座にフリーヴァーツが<火属性魔法>にてオーガロードの全身に炎を浴びせかけ、ヘイトを再び奪う。それならば、とオーガロードはフリーヴァーツに狙いを絞り、ソフィアの攻撃は無視することにした。


 ――ヴォオオオオオッ!!!

 文字通り死を超えた力を振り絞り、オーガロードはフリーヴァーツに向かって走る。

「来いッ!オーガロード――ッ!!」

 対するフリーヴァーツも逃げずに真っ向から立ち向かう姿勢を見せる。


 ――ヴォオオオオオッ!!!

「……。」

 雄叫びを上げながら迫るオーガロードに対して、フリーヴァーツは無言で片手剣を鞘に納め、右足を一歩前に出す。居合の構えだ。


 ――ヴォオオオオオッ!!!

「……。」

 オーガロードは速度を緩めることなくフリーヴァーツに突っ込んでいく。一方のフリーヴァーツは冷静にタイミングを見計らう。

 そして、オーガロードはフリーヴァーツを射程圏内に捉えた。大きく横の薙ぎ払いをしようとする。フリーヴァーツは<ファイアーボンド>に意識を集中させ、そして待っていた好機が訪れた。


(ここだッ――!)

「<火属性魔法>!」

 フリーヴァーツは勇者の<聖属性の加護>のおかげで上がった身体能力と、<火属性魔法>にて足裏から出した炎の推進力を使って大きく()()()()()()()をした。

 盛大に空を切るオーガロードの刀、戸惑うオーガロード、離れた位置から見ていたフリーヴァーツパーティーの仲間たち。と、そこへ青白い死の光が到来した。ドラゴンのブレスだ。


 ――?!

 急所を突き刺しても死ななかったので、フリーヴァーツは始めから剣で決着をつける気は無く、ドラゴンのブレスでオーガロードを丸ごと消滅させる作戦を立てていたのだ。それには瘴雪のドラゴンがタイミングよくブレスを放ってくれる必要があったが、フリーヴァーツには<ファイアーボンド>がある。それでレティシアとの絆を強化し、ブレスを誘発するタイミングを合わせ、ソフィアたちの視点から観測したブレスの情報をフリーヴァーツが受け取れば、この通り。

 オーガロードは青白い光に飲み込まれ、消えて行った。

 そう言えば、オーガロードは吸血鬼になったわけですが、もしオーガロードがこのまま吸血鬼として進化してヴァンパイアロードになったら種族は何と呼べばいいんでしょう?吸血王オーガロード?


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