第三十四話
一方、ガレンはウィンミルにアイコンタクトを取った。
<エアリアル>で他者のエクストラスキルを使うと<エアリアル>の呪いに加え、コピーしたエクストラスキルの呪いの効果も受ける。そこでガレンはウィンミルの呪いの進行度に余裕があるのかを確認したのだ。そして、視線だけで素早く会話を終えたガレンはすぐに追撃に移る。
「私たちも行くぞ!総員、エクストラスキルの使い過ぎには注意しろよ!」
「「「「はいっ!」」」」
意気軒高にドラゴンに向かっていく一同だったが、ドラゴンの方もこのまま殺られるわけにはいかない。樹木に拘束されたときよりも、一層激しく抵抗する。ブレスを撒き散らし、太い腕を振り下ろし、体を一回転させ、尻尾で辺り一面を薙ぎ払う。一方のフリーヴァーツたちも懸命にドラゴンの攻撃を躱し、受け止め、反撃していく。いくらドラゴンの鱗が堅いとはいえ、ドラゴンにも流石に傷が増えていく。さらに、ドラゴンの動きも先読みできるようになってきた。
「来るぞ!総員、退避!」
ガレンが叫んだ後にドラゴンが<風属性魔法>で自身を中心として竜巻を発生させる。範囲攻撃によって自分を攻撃している不届き者どもを一掃しようとしたが、ガレンの合図のおかげで全員バックステップで回避することに成功した。
――ギョアアアアアッ!!
瘴雪のドラゴンが苛立たし気に叫ぶ。
「行ける――ッ!」
フリーヴァーツは果敢にドラゴンに向かって行こうとする。
――ゴアアアアアアアッ!!!
地獄の鬼が声を上げたのはその時だった。
「なんだっ?!」
フリーヴァーツが振り向くのと、オーガロードが踏み切るのは同時だった。白い巨体はまず、一番手近なところにいたフリーヴァーツに襲い掛かる。オーガ種の最上位たるオーガロードの筋力を吸血鬼の能力でさらに上乗せし、<縮地>まで使った全力の跳躍は、完全に人間の反応の限界を超えていた。フリーヴァーツが振り向き終わる瞬間にはすでに、オーガロードの右拳が大上段から振り下ろされている。
(――――――――。)
フリーヴァーツは状況が飲み込めず、それゆえに驚きも恐怖も感じることが出来なかった。ただただ頭が真っ白になり、目の前に迫る大きな拳と、今からこの死者特有の白い拳を食らって死ぬであろう事実だけを見つめる……。
「<クイーン>!」
しかし、えんじ色のコートを着た運命の女神は彼に微笑む。ソフィアが本能的にエクストラスキルを使い、辛うじてフリーヴァーツを救出した。本来はソフィアとフリーヴァーツがともに引き合うところだが、ソフィアだけが足の力で踏ん張り、フリーヴァーツを一方的に自分の方へ引っ張った。
――ドッ!
二人は思いっきりぶつかり、バランスを崩す。
「オフッ……!」「あぐっ……!」
その隙にオーガロードは左下に振り下ろした手で刀の柄を掴み、そのまま<居合>と<火属性魔法>を発動させる。
「「<聖盾>!」」「<土属性魔法>!」「<防御力上昇>。」「<風属性魔法>!」
ルイとイーダが聖なる盾を展開し、デールがオーガロードを土壁で囲み、ハルが全員の防御力を強化し、ガレンとウィンミルは風に乗って上に避ける。
オーガロードによって驚異的な速度で抜刀された刀が文字通り火を噴く。まるで紙を切り裂くかのようにオーガロードの刀はデールの土壁を破壊し、そのままの勢いで噴き出す炎がフリーヴァーツたちを飲み込んでいく。みんなで二重・三重に防御を張っていなければ、今頃フリーヴァーツたちは全滅していたかもしれない。炎が多少盾を回り込んだものの、<聖域>の効果で消えない黒炎ではなくなっていたことも大きい。
そしてデールは地味にオーガロードの背後にまで土壁を展開しておいたことで、オーガロードが孤立しているイーダの下へ行けないようにしている。それがウィンミルの反撃にも繋がる。
「<水属性魔法>!」
ウィンミルはオーガロードの頭上に巨大な氷塊を生成。オーガロードを圧し潰そうとする。
オーガロードに落とされる死の鉄槌――。
その質量は下にいるものに抗うことすら許さないはずだった。
オーガロードはあろうことか、大質量の氷の塊を左手一本で受け止めて見せる。
ところで、ソフィアの呪いはオーガロードがかけたものだ。それゆえに、オーガロードは彼女のエクストラスキルの能力を知っている。だから、オーガロードは左下で受け止めた巨大な氷塊をレティシアたちに投げつけ、自分は<縮地>でソフィアと一瞬で距離を詰めることでソフィアを牽制し、その氷をドラゴンに誘導しないようにする。ソフィアに<居合>の速度と威力をのせた凶刃が迫った。
「<聖盾>!」
ルイが何とか間に合わせるが、オーガロードの凶刃はいとも容易く彼の盾を貫通してくるので、ソフィアは全力でバックステップを踏む――。
が、ここで<クイーン>の呪いが赤い血で染まった牙を剥く。
――ボッ!!
ソフィアが踏んでいた雪が激しく巻き上げられる。彼女の足は強制的に力まされ、背後にいるドラゴンとの距離が想定以上に詰まった。しかも、その動きは当のソフィアにとっても予想外だったので、体勢が崩れてしまっている。ドラゴンは今まで顔の前を飛ぶホワイトコーツと争っていたくせに、ソフィアが自分の側に飛んで来た瞬間にギロリと目を下に向けた。
ドラゴンの左手が持ち上げられる――。
「貴様の相手は私だ!」
ガレンは風の刃をドラゴンの顔面に向けて放ち、同時に樹木でドラゴンの右手を巻き取る。ドラゴンは体勢を崩しそうになり、慌てて攻撃に使おうとしていた左手で体を支える。
「ありがとうございます、ガレン様っ!」
その隙にソフィアはすぐに立ち直し、<隠密>を使って身を隠す。一方のドラゴンは体を大きく回転させ、右手に巻き付いた樹木を引き抜きつつ、尻尾で周囲を薙ぎ払った。
その隙に、オーガロードはフリーヴァーツに向かって右の刀を大上段から振り下ろす。嫌なことに、振りが速すぎて回避が間に合わないので、ルイの<聖盾>とフリーヴァーツの腕力で受け止めざるを得ない。
――ガシャァアアンッ!
凄い音がして容赦無くルイの盾が破壊され、その奥のフリーヴァーツの剣も打ちつけられる。フリーヴァーツの腕、肩、内臓、足へと凄まじい衝撃の奔流が押し寄せた。
「ぐぅっ……?!」
フリーヴァーツは思わず声を漏らすが、辛うじて押し倒されないように持ちこたえる。彼の足と片手剣が折れなかったのは奇跡と言ってもいいだろう。しかし、奇跡はそれで終わりだとでも言わんばかりに、オーガロードは左手の刀を横一文字に振る。
「<聖盾>!」「<敏捷力上昇>。」
これもルイがオーガロードの攻撃を遅らせ、ハルが即応することで何とかカバーする。しかし、聖属性の盾とルイのメイス、そしてハルの両手に握られた大太刀と小太刀の四重ブロックで威力を殺したというのに、ハルは刀を押し込まれて手傷を負い、そのまま吹き飛ばされた。
「ハル――ッ!」
フリーヴァーツが叫ぶが、オーガロードは待ってはくれない。オーガロードは口を開け、喉の奥で赤く燃える炎を見せつける。
「くっ――!」
フリーヴァーツが「ここまでかっ……!」と思った直後、パァンッ!という銃声が鳴り響いた。気配を消してオーガロードの左側面に回り込んだソフィアが、ライフル銃でオーガロードにヘッドショットを決めたのだ。
「マジでナイスだ、ソフィアッ……!」
完璧な奇襲を決められたオーガロードは攻撃を中断させられ、たたらを踏む。ソフィアは敢えて<隠密>を解除し、そのままライフルで追撃することで、フリーヴァーツに行っているオーガロードのヘイトを自分の方に向けようと努める。
「ルイッ!ハルを頼めるかッ――?」
「いいですけど、フリーヴァーツさんはッ――?」
「俺はソフィアのカバーに行くッ!無理はしない!」
「分かりました!」
手早く話し合いを終え、フリーヴァーツとルイはすぐに動き出す。
「こっちだ、オーガロードッ!<火属性魔法>!」
フリーヴァーツの腕は未だ痺れて、まともに動かせないので魔法で注意を引く。ソフィアの方に<縮地>を使おうとしていたオーガロードはフリーヴァーツの方へ振り向く。しかし、振り向いた後で後頭部にソフィアの弾丸が飛んできたので、オーガロードはまた振り返った。再度フリーヴァーツは魔法を使おうとするが、今度はオーガロードが<縮地>を使い、フリーヴァーツの攻撃を回避しつつ、前後から挟み込まれていたポジションから脱出を図る――。
ただし、ただ脱出するだけではなかった。オーガロードはイーダの方へ一気に距離を詰めようとする。しかし、聖域を維持しているイーダが殺されるのが一番まずいことも、どこかのタイミングで狙ってくることも分かり切っていたので、レティシアたちとガレンが即座にカウンターを仕掛ける。
「<土属性魔法>!」
まず、<縮地>は膝以上の高さの障害物があると止まるという弱点を突いて、デールがバリケードで足止めする。
「「<風属性魔法>!」」「<大砲>!」
次にガレンとレティシアは二人がかりで猛烈な風圧を発生させることで、オーガロードを転倒させ、回避を封じた。そこに無数の風の刃と大砲の砲弾が襲い掛かる――。
なるほど、確かにオーガロードは追い詰められた。しかし、打ち合わせの時間が無かったとはいえ、それはイーダが攻撃されたことに多くの人が反応しすぎてしまったということであり、当然ドラゴンはフリーで攻撃できる。選ばれたのはレティシアだった。地獄にでも続いているのかと疑いたくなるほど暗く、深く、大きな咢が彼女の背後から迫る――。
「危ねぇっ!」
ドッ!――と音がして、レティシアはデールに突き飛ばされた。横目で迫りくる死を見つめることしかできなかった彼女の代わりに、デールの左腕と左足が棺桶に入れられた。
「うっ、ぐあああああっ!?」
「デーーールッ!!」
悲痛な叫び声が木霊する。レティシアは落ちていくデールを<風属性魔法>でキャッチし、そのまま<聖属性魔法・ヒール>を使う。だが、ドラゴンの追撃は止まらない。
「チッ!一旦立て直す。<風属性魔法>!」「<水属性魔法>。」
ガレンがレティシアパーティーとウィンミルを風で浮かすと同時に、ウィンミルがドラゴンの目の前に濃霧を発生させる。ドラゴンの視界が奪われている隙に、まずガレンたちはイーダのところまで後退し、彼女を回収する。
「レティシアさんは腕を!私が足を治します!<ヒール>!」
それからフリーヴァーツパーティーの方へ飛んで行った。
「デールさん――ッ!」
ガレンがフリーヴァーツパーティーの下へ着地するやいなや、フリーヴァーツが心配そうに駆け寄ってくる。
「心配すんな。<聖域>の聖属性強化のおかげで、俺の腕も俺の足もすっかり元通りだ。」
「よかった――ッ。」
フリーヴァーツは心の底から言った。しかし、今度はイーダが膝を突く。
「ごめんなさい。魔力がもう……。」
青白い顔で苦しそうに言った。ガレンはすぐに<プロスペロー>にて熟れていない緑色の果実を作り出す。
「早く食え。魔力は回復できる。」
「はい、いただきます。」
「さて、このままでは勝てんな。」
ガレンはサラッと言った。
「そんな……。」
複数人の声が漏れる。声を出さなかった人たちも、薄々感じていたことをズバリと言われたことで、ショックが顔に出ている。
「このままでは、だ。」
(一瞬の空白)
「忌々しいが、<プロスペロー>のエクストラスキル付与能力を使おう。」
ガレンは<プロスペロー>を使い、フリーヴァーツの目の前に赤い果実を作り出す。そして、聞いた。
「フリーヴァーツ、貴様、いざという時は仲間のために死ねるか?」
しかし、ここでデールが待ったをかける。
「いや、ちょっと待て。呪いを受けるのは俺でもいいはずだ。」
これに答えたのはウィンミルだ。
「いいえ、私もフリーヴァーツさんの方がいいと思いますよ。」
「どうしてだ?こういうのは若ぇヤツにやらせるもんじゃねぇ。俺みたいな年上がやるべきもんだろう。」
「一番の理由は武器の能力ですよ。フリーヴァーツさんの武器はエクストラスキルを強化できますから。それと、ドラゴンが今地上で戦っているのは、ドラゴンが拘束を引き千切って空を飛んでも、彼が諦めずに食らいついてくれたからですよ。そんな彼に託してみたいと思うのはおかしなことでしょうか?」
ドラゴンが吠える。オーガロードが雄叫びを上げる。ガレンが急かす。
「時間が無い!フリーヴァーツ、早く決めろ!」
「ッ!分かりました!」
フリーヴァーツは目の前の赤い果実をガッ!と掴み、一口で食べた。
――あなたたちの絆は燃え上がるだろう。
フリーヴァーツは直観的に自分が授かったエクストラスキルの能力を理解した。
デール:「エクストラスキルの呪いは年上の俺が引き受ける!」
実はフリーヴァーツの年齢設定が17歳でデールの年齢設定が20代半ばだったり。
高評価・コメントお待ちしております。




