第三十三話
***
フリーヴァーツたちがドラゴンと戦っている頃、一体のグリフォンが最寄りの――と言っても、瘴気を帯びた雪はかなり広い範囲に降っているので、それなりに遠い――森に舞い降りた。吸血鬼ヘレンは<変化>のスキルを解除し、グリフォンの姿からメイドの姿へと戻る。
「いや~、グリフォンちゃんの可愛さとメイドちゃんの可愛さって、全く別物だよね~。そう思わない、オーガロードさん?」
「ガァッ!」
吸血鬼になったことで体も髪も真っ白に染まり、目だけは赤々しくなったオーガロードが苛立たし気に答える。
「あらあら、早く偵察結果を教えろってぇ?余裕の無い男はモテませんよ~。」
オーガロードは無言で刀に手をかける。それを見たヘレンは降参という風に両手を上げて手の平を見せる。
「はいはい、冗談が通じませんね。見てきた感じ、勇者どもはちゃんとドラゴンと戦い始めましたよ~。」
「ガオォ。」
今度は満足そうに答え、そのままオーガロードは歩き出す。
「ふぅ~……。仲間の仇討はいいですけど、それに囚われすぎないようにお願いしますよ。あなたの任務はあくまでも、ナンバーワン冒険者パーティー、ホワイトコーツがドラゴンとの戦いで疲弊したところを始末することなんですからね~。」
ヘレンはオーガロードの背中に語り掛けたが、オーガロードは歩みを緩めなかった。
***
「<火属性魔法>!」
フリーヴァーツが火の玉を空に陣取るドラゴンに投げつける。
「<猟銃>!」
ソフィアも続く。いや、彼女だけではない。レティシアも、デールも、マーヴもガレンもウィンミルも続いた。対するドラゴンは<水属性魔法>を行使し、攻撃の数だけ空中に氷の盾を作り出す。
――ジュッ、ガッ、バキッ、ガリッ、ガキィ!!
すべての攻撃が受け止められる。
そして、ドラゴンが前後に大きく翼をはためかせた――。
次の瞬間、立つのが困難なほどの、真っ白な猛吹雪がフリーヴァーツたちに襲いかかる。
「「<聖盾>!」」「<水属性魔法>!」
ルイ、イーダ、ウィンミルがそれぞれ仲間のために防御を固める。しかし、流石は魔物の頂点に立つドラゴン。圧倒的な魔法が盾ごと全員を押し倒そうとする。
「くっ、冷たい……ッ。」
「ルイ、大丈夫か!?<火属性魔法>!」
フリーヴァーツは押し倒されそうになったルイの背中を支えつつ、<火属性魔法>でみんなの体温が奪われたり、積雪で動けなくなったりしないようにする。
「みんな踏ん張れ!倒されたら生き埋めと凍死のダブルパンチだぞ!」
フリーヴァーツはみんなを鼓舞し、何も見えないほどの猛吹雪に必死で耐える――。
そのとき、吹雪の奥で何かが動いた気がした。それにハッとしたガレンは反射神経が許す限りの速さで叫ぶ。
「伏せろっ!<風属性魔法>!」
ガレンは魔法で強引に味方を押し倒す。瞬間、ドラゴンはその巨体と質量を活かして、全員を対象に体当たりを敢行してきた――!
「<エアリアル>!」
ウィンミルはドラゴンの突進を止めるためにエクストラスキルを使う。ドラゴンの目の前にいきなり跳躍攻撃を仕掛ける幻影が出現した。視界が悪いのはドラゴンも同じなので、ドラゴンは敵が視界の悪さを逆に利用して奇襲してきたと勘違いし、対応に回る。ドラゴンとしては、このまま突撃しても、ジャンプで突進を躱され、そのまま頭上を抑えられるので、進行方向を少し上方修正し、幻影の攻撃に自ら突っ込んでいく。
「<プロスペロー>!」
――ギャア?!
さらにガレンは地面から大木を生やすことでドラゴンの腹を押し、ドラゴンが前に進むための推進力を完全に殺した。
(好機だ!このままでは終わらん!)
続いてガレンはドラゴンの腹に当たっている樹木をドラゴンの背まで回り込むように成長させ、ドラゴンの拘束を試みる。しかし、当然ドラゴンは激しく抵抗する。
「ぐっ――ッ!」
ガレンは苦虫を嚙み潰したような顔になる。ドラゴンの膂力が想定以上に強く、樹木の拘束が引き千切られそうになる。
(このままでは奴は再び我々の攻撃が届きにくい空に逃げてしまう……ッ!)
ガレンは焦った。
「ポリドーモード、<真珠入りの杯>!!」
しかしレティシアがエクストラスキルでドラゴンの魔力と生命力を吸い取ってくれた。これによってドラゴンは魔法の使用が一時的にできなくなり、体に力も入らなくなった。
「よくやった、レティシア――ッ!」
この隙にガレンはドラゴンの全身を完全に拘束する。ただ、この拘束は一時的なものだ。今はレティシアがエクストラスキルを使っているから、ドラゴンを抑えることが出来ているが、彼女の魔力が尽きれば今度こそドラゴンは拘束を引き千切って空へ飛んでいくだろう。そうなる前に、ウィンミルが全員に指示を飛ばす。
「全員、ドラゴンの羽を落とせ!空を飛べないようにするのだ!」
ドラゴンの身動きが取れないうちに頭なり心臓なりの急所を攻撃してもよかったが、そもそもドラゴンを拘束できる時間は限られているだろうから、堅い鱗に守られた急所を攻撃していても、攻めきれずに拘束を振り切って空に逃げてしまうだろう。目だって瞼を閉じれば堅い鱗に覆われてしまう。ならば、薄い羽を攻撃して飛行能力を削いだ方がいいだろう。そう判断してウィンミルは羽を攻撃するように指示した。
「うおおおおお!<剣術>!」
まずはドラゴンを木で拘束しているがために<火属性魔法>が使いづらくなったフリーヴァーツが指揮官先頭の精神で突撃する。ソフィアとルイはすぐに追従し、ハルもフリーヴァーツをパーティーの全員で援護するという作戦に従って、一瞬遅れて突撃を開始する。さらに、レティシアパーティーも続く。
「マーヴ、イーダ、お前らはレティシアを気遣ってやれ。俺が前に出る。」
「分かったっす。遠距離から攻撃しつつ、レティシアさんのことも見てるっす。」
「デールさんも無理しないでくださいね。」
「あたぼーよ!<鉄拳>、<土属性魔法>!」
デールは背中で語り、腕を二重に固め、打撃力を高めた。レティシアは呟くように謝罪する。
「ごめんね、攻撃に参加できなくて。だけど、その分ドラゴンを抑えて見せるから。」
「気にしなくていいっすよ。みんなで戦うのが俺たちじゃないっすか。」
「そうですよ。誰かができないことは他の誰かが代わりにやってあげればいいんです。」
「ありがとう、イーダちゃん、マーヴ君。」
「きっとデールさんも同じことを思ってるっすよ。<大砲>!」
それだけ言い残してマーヴはドラゴンの羽に向かって攻撃を開始した。ウィンミルもすでに攻撃を開始しており、ガレンなぞ器用にも<プロスペロー>と<風属性魔法>の同時使用までしてドラゴンを飛べなくしようとしている。
対するドラゴンはフリーヴァーツ、ソフィア、ハル、ルイ、デール、マーヴ、ガレン、ウィンミルの総攻撃を防御の薄い羽に受けているのにかかわらず、依然として羽が破れる気配はない。
フリーヴァーツはレティシアとガレンの方をチラリと見る。ガレンはまだ余裕がありそうだったが、レティシアの方は顔に汗が滲んでいた。
(クソッ、もうすぐドラゴンの拘束も限界だぞ――ッ!どうする、どうせ木が引き千切られるなら、俺の炎で木が焼き切れることを承知で<火属性魔法>を使うべきか?!)
そんなことを考えたフリーヴァーツだったが、ドラゴンの行動の方が早かった。
――グギャアアアアァッ!!!
ドラゴンは、レティシアが疲労から<真珠入りの杯>に対する魔力の込め方が甘くなった隙を逃さず、力尽くでガレンの拘束を引き千切った。
「うっ!?ごめん、みんな――ッ!!」
そのままドラゴンは空に飛んでいく。ウィンミルは自らの死を悟った感覚があった。
(ああっ……、ここで決めきれなかったか……。)
ウィンミルの顔には疲労と諦念が滲む。
「うおおおおおおっ!!諦めるなっ!!<火属性魔法>!」
ウィンミルが目を閉じた時、フリーヴァーツが足裏から炎を噴き出し、ロケットのように飛んで行った。ここに来て、いや、この状況だからこそオーガロードが最後の抵抗で飛行していたことを真似して見せたのだ。
「<剣術>!」
一気にドラゴンの翼に接近したフリーヴァーツは勢いに乗ったまま、突きを繰り出す。しかし、まだドラゴンの羽は落ちない。
「私たちも続きましょう!<猟銃>、<クイーン>!」
――パンッ、パンッ、パァンッ!
ソフィアはライフル銃を三連撃ちし、<クイーン>の融合能力でドラゴンの羽に誘導する。
「<フィデーリ>!」
ソフィアの呼びかけに応え、ハルもエクストラスキルを使う。当然ソフィアやハルの呪いは進行していくが、それよりも今ここでドラゴンを確殺することを優先した。
しかし、ドラゴンは当然のように思考能力を奪う黒い雷に対してレジストしてしまう。ドラゴンは何事も無かったかのように、<水属性魔法>を駆使して氷の盾を生成、ソフィアの攻撃を防ごうと試みる。ウィンミルは若い力に感心させられた。
(ああ、君たちはまだ諦めていないのか。俺はドラゴンがあのガレンさんの拘束を振り切って再び飛び上がった時、敗着の予感がしたというのに。)
「<プロスペロー>!」
そしてガレンも諦めずにドラゴンの足を樹木で引っ張る。ウィンミルはガレンと目が合い、彼女が言わんとすることが伝わった。曰く、「何をぼさっとしているッ!今こそ我々年長がやって見せるときだ!」と。
「そうか、そうだよな――ッ!今こそ<エアリアル>の真価を見せるときッ!<エアリアル>!」
ウィンミルは今までとは違う、特殊な幻影――いや、この幻影には実体があるので、分身と言うべきかもしれない――を作り出す。彼が作り出したのはハルの分身だが、その分身は大太刀をドラゴンの方に突きつけ、なんとエクストラスキル<フィデーリ>を発動して見せた。
「エクストラスキル!?」
レティシアは驚いた。
(今まではただの実体のないデコイだったのに……!実体のある分身が作れるということは、単純に戦闘員の数を増やせたり、他の人の魔法やエクストラスキルをコピーできたりするということじゃないか!)
彼女はウィンミルのエクストラスキルの脅威度を一段引き上げる。実際に、ドラゴンは倍になった<フィデーリ>に苦しめられ、先ほどまで展開していた氷の盾が維持できなくなっている。防御魔法が使えなくなったということは、こちらの攻撃が劇的に通りやすくなったということだ。
「ソフィアさん、俺の砲弾を使うっす!」
「俺の<土属性魔法>もくれてやる!」
マーヴは大砲を、デールは<土属性魔法>で作った石柱を、依然として空を飛び続けているドラゴンに向かって発射した。
「感謝いたしますわ!<クイーン>!」
ソフィアは自分の銃弾の代わりに彼らの砲弾をドラゴンの翼に誘導する。
「私もっ……!<真珠入りの杯>!」
レティシアもなけなしの気力を振り絞ってエクストラスキルを使った。
「「「「「行っけーーー!!!」」」」」
ソフィアも、レティシアも、デールも、マーヴも、ウィンミルも、力の限り叫ぶ――。情熱という感情を失っているハルだけは叫ばなかったが、気持ちは一緒だ。
――そして、色んな人が全力を振り絞った攻撃は、ついにドラゴンの羽に突き刺さった。瘴雪のドラゴンは飛行能力を失い、ゆっくりと地面に落ちていく。
「「「「「ぃよっし――ッ!!!」」」」」
みんなは歓喜を爆発させた。未だドラゴンは倒しきれていないが、ドラゴンを倒すための第一段階はクリアしたと言ってもいいだろう。フリーヴァーツも内心、はしゃぐ。
「すごいっ……。」
(みんなで力を合わせたら、ドラゴンを地に落とせた。本当に、本当にあともう少しでドラゴンを倒せる――ッ!)
「いいよ、いいよ!みんな、この調子で行こう!私もまだ魔法を使えるよ!」
レティシアは<真珠入りの杯>でドラゴンの魔力を吸い取れていることを確認しつつ、元気よく掛け声をかける。
「いけるっすよ!」「おうっ!」「はいっ!」
レティシアパーティーのメンバーが掛け声に返し、フリーヴァーツもその熱に乗る。
「レティシアさんの言う通りだ!俺たちも行くぞ!」
ドラゴンは体重の割りに小さな翼で飛ばなければなりませんから、本作ではドラゴンの翼には<風属性魔法>の効果を上昇させる機構が付いているという設定にしています。魔物の素材って大体、頑丈だったり、火に強かったり、刃物の切れ味が増したりするイメージがあるので、ドラゴンの翼にも自身の体重を浮かせる魔法回路的な何かがあってもいいんじゃないかなという発想です。
高評価・コメントお待ちしております。




