第三十一話
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夜になってフリーヴァーツたちは村の集会所に戻ると、ホワイトコーツは先に食事をとっていた。貧しい村なので量・質ともに貧相だが、村人たちの対応は頑張って食材を集め、真心を込めて作ったことが伝わる、温かい料理だった。
「うまい……。――ッ、美味しいです。」
フリーヴァーツは心から涙を流した。村長の老婆も嬉しそうに応える。
「勿体無いお言葉です。むしろ、この村を悩ませるドラゴンを命がけで退治しに行ってくださる方々にこんな粗末なものしかご用意できず、恥ずかしいかぎりでございます。」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。」
フリーヴァーツは感動しながら言う。そんな中、ガレンが素っ気無く事務連絡を伝える。
「明日はついに瘴雪のドラゴンの討伐に向かう。今日は早く寝てしっかりと体力を戻しておけ。」
「もちろんです。それと、お礼は言っておきます。貴重な武器をありがとうございます。」
「貴様が選んだのはPosthumus Leonatusか。」
ガレンはフリーヴァーツの足元にある片手剣を見る。
「はい。レティシアさんの杖みたいにモードチェンジができて、それぞれ聖属性魔法と闇属性魔法に補正がかかる剣ですよね。」
フリーヴァーツが手元の剣について説明すると、いつの間にか酒に酔ったレティシアがダル絡みをしてくる。
「お、フリーヴァーツ君も中二病心がくすぐられちゃったか~。分かるよ、モードチェンジ、カッコイイもんね。」
「あ!レティシアさんいつの間に!明日は大事な日なんですよ!?」
「だからこそ寝酒は大事――ッ!」
「ドヤ顔をされても困ります……。」
フリーヴァーツが呆れたのに対して、ガレンは意外にも落ち着いた対応をする。
「フッ。まぁ、その女は二日酔いになっても聖属性魔法で何とかなるだろう。」
「あれ、意外だね。てっきり怒られるかと思ってたんだけどな。」
レティシアもガレンの対応は予想外だったようだ。
「貴様は限度をわきまえているからな。それに、この村では大事な日の前には勝利を願って酒を飲む風習がある。私も一杯だけ頂こう。」
村長の老婆がガレンのお猪口に酒を注ぎ、ガレンが一気に飲み干した。これで、この場にいる三つの冒険者パーティーの内、二つの冒険者パーティーのリーダーが酒を飲んだことになる。
「さて、これは酒の席での話だと思って聞いて欲しいのだが――、私はそろそろ冒険者を辞めて、この村の住人と一緒に暮らしていこうと思っている。」
その場にいた全員が一斉に息を飲んだ。
「シンベリン王国ナンバーワン冒険者が突然の引退発表とは……。こりゃ、国中で大騒ぎになるね。」
レティシアも口調は軽いが、酔いが醒めた目で発言している。
「この村のためにそこまでしていただかなくても……。もしや、エクストラスキルをお使いになりすぎて、もう寿命が残り僅かなのですかな?」
老婆は鋭い視線で探る。それを気にせず、ガレンはウィンミルに話を振る。
「ウィンミルはどうだ?」
「私は……。フッ、私はそうですね、故郷の村を再建したいですね。どこまでできるかは分かりませんが。」
「だ、そうだ。パーティーメンバーがその状態なら、私も立て直す期間が必要だ。その間に小さな村の復興ぐらいは手伝っても構わんだろう。」
今度は老婆が頭を下げる。
「村を守護だけでなく、村の再生までしてくださるとは、ガレン様は正しく神様でございます。」
「さ、食い終わったから私は先に寝るぞ。」
ガレンが席を立ち、退出する。
「私も一杯だけ酒を頂いてもいいでしょうか?」
「申し訳ありません、ウィンミル様。ちょうど今ので酒を切らしておりまして。」
「おや、珍しい。」
「今年は不作でして……。」
「はは、最後に故郷の酒を飲んでおきたかったけど、残念ですね……。分かりました、私も明日に備えてもう寝ます。今まで、ありがとうございました。」
「ごゆっくりお休みください。」
ウィンミルも席を立ち、老婆が頭を下げて見送る。
そしてデールが呆れながら言った。
「絶対、お前さんが飲み過ぎたからだな。」
「ごめ~ん。酒を分けてあげられれば良かったんだけど、分ける前にどっか行っちゃったから。代わりにデールに分けてあげよう。」
「む、すまんな。」
何だかんだ言いながら、デールもお猪口を出し、レティシアが酒を注ぐ。しかし、酒は一滴だけ垂れて終わった。
デールのジト目がレティシアに刺さる。レティシアはゆっくりと顔をそむけた。
「お前、やっぱり……。」
「よし!私も、もう寝よう!寝酒の効果って凄い!」
眠気があるとは思えないくらい元気のいい声で彼女は席を立った。デールは逃げ去る彼女を呆れながら見送る。
「まったく……。」
デールは取り敢えず一滴だけ落ちた酒を飲み干した。
***
深夜、一同が寝静まった頃。ソフィアは物音を立てないように、コッソリとベッドから起き上がる。
(いつもなら、エクストラスキルの練習に行くところですが……。)
「はぁ……。」
ソフィアは暗闇の中、溜息を吐いた。
「悩み事か?」
ガレンの声がした。
「起きていらしたんですか?」
「貴様が大きな溜息をついたから目が覚めたのだ。」
この際、経験豊富なガレンに話を聞いてもらうのも悪くないかもしれない。そう思ったソフィアは相談をすることにした。
「……私はずっとフリーヴァーツ様のためにいろいろなことをしてきましたわ。そう、本当にいろいろなことを……。」
ソフィアは言葉を区切る。ガレンも黙って続きを待っている。月明りしかない部屋の中を静寂が満たす。
「ですが、私はフリーヴァーツ様のお手を怪我させてしまったとき、呪いの効果で力加減ができなくなったからこそ思ったのです。もしかしたら、私のやってきたことはやりすぎだったのではなかったのだろうか、と。」
「……力加減ができなくなったことで、その他の行動の加減も分からなくなったということか?」
「おっしゃる通りですわ。」
「違えるな。貴様が制御できなくなっているのは力加減だけだ。力加減だけには気を付けるべきだが、それ以外の行動など0か100以外は不要だ。中途半端が一番良くないからな。」
「100を超えるのはやりすぎでしょうか?」
「100か120かで迷う必要は無い。やるときは徹底的にやれ。」
ガレンは断言したが、ソフィアには完全には納得がいっていないところがあった。
(う~ん……。ガレン様の考える100と私の言う100は同じなのでしょうか?尺度が違うような気がしますわ。それで言うと、フリーヴァーツ様と私の尺度にも差があるのではないでしょうか?私は愛のためなら何をしても許されると思っておりますわ。当然ベスに報復するのも許されますが、あれほど仲間想いなフリーヴァーツ様にとってそれは許容できる行為でしたの?)
急に黙り込んだソフィアにガレンは問いかける。
「納得がいかないか?」
「いえ、そんなことはっ……。」
思考の海に沈んでいたソフィアは突然問いかけられたことにびっくりして、咄嗟に両手を軽く振って否定する。
「ハッキリと徹底的にやるように言って下さったおかげで、少しだけ吹っ切れたような気がしますわ。」
「そうか。今すぐに完全に納得することができなくても、時間が経ったら納得できることもある。あまり気にしすぎずに早く寝ろ。」
「はい。」
――この日、ソフィアはエクストラスキルの修行に行くことはなかった。
次回の話は少しだけ長くなる予定です。瘴雪のドラゴンと戦う前の話をもう少し続けてから、ドラゴンとの戦いに入っていきます。
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