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ファイアーボンド  作者: fuon
賽の河原崩し編
29/42

第二十九話

***

 日付が変わって翌日。フリーヴァーツたちは馬車に乗って北へ向かっていた。ホレイショーの周りは騎士団と冒険者たちが魔物の残党狩りをしたので、出発してから数日の間は全く戦わずに順調な旅を続けることができた。唯一順調ではなかったのはレティシアの乗り物酔いだろうか。いや、彼女の乗り物酔いはいつものことだから、ある意味順調かもしれない。


 しかし、グローブ町の近くに差し掛かったところで、魔物が増え始めた。前方に、女性の上半身と蛇の下半身を持つ魔物――ラミアが見える。ガレンは落ち着き払って言う。

「いい機会だ。御者よ、馬車を止めてくれ。フリーヴァーツパーティー、貴様らの戦闘力を測りたい。あのラミアと戦え。」

「分かりました。ドラゴン退治の前にお互いの戦い方を知っておいた方が良いですもんね。みんな、行こう!」

 フリーヴァーツは意気揚々と馬車を降りてラミアに向かっていく。他のフリーヴァーツパーティーのメンバーも彼に続く。


「ラミアの牙には毒があるから、遠距離から倒すぞ。ハル、<攻撃力上昇>を俺にかけてくれ。」

「分かったよ、お兄ちゃん。<攻撃力上昇>。」

 バフがちゃんとかかったことを実感したフリーヴァーツは次の指示を飛ばす。

「ソフィアは俺と一緒に遠距離攻撃、ルイは万が一、ラミアが近づいてきたら<聖盾>でカバーしてくれ。」

「了解ですわ。<猟銃>。」

「分かりました。」

「行くよ、<火属性魔法>!」

 フリーヴァーツはラミアの上半身に火炎放射。ラミアは蛇特有の素早い動きでこれを躱すが、回避した先にソフィアの置きエイムが刺さる。

 「ぎゃ?!」っとラミアが怯んだ隙にフリーヴァーツも<火属性魔法>でラミアに追撃を加える。

 こちらの攻撃は一方的にラミアに当たり、さらにフリーヴァーツの炎でラミアの視界は塞がれている。これを好機ととらえたハルは追撃をかけようとする。

「<敏捷力上昇>。」

「待て、ハル。行くな。このまま距離を取って安全に倒すぞ。」

 しかし、フリーヴァーツは追撃に出ようとしたハルを止める。

 ここで、ラミアが最後のあがきでスキルを発動。ラミアの尻尾が伸び、鋭い刺突がフリーヴァーツの顔目掛けて飛んでくる。

「<聖盾>!」

 ――ガッ!

「ナイスだ、ルイ!」

 そしてソフィアのショットガンがラミアの顔面に炸裂する。これが決まり手となり、戦闘が終了した。フリーヴァーツはソフィアのことも労う。

「ソフィアも正確な狙撃だった。」

「恐縮ですわ。フリーヴァーツ様の方こそ、素早く的確に指示を出したり、ラミアの動きを誘導したりとご活躍でしたでしょう?」


 しかし、ガレンは満足していなさそうに口を開いた。

「フリーヴァーツ、貴様なぜさっきハルに追撃をさせなかった?」

「ハルは感情と感覚を失っているので、危機管理がうまくできません。だから、俺がしっかりと守ってあげないと――。」

「いいや、さっきのは追撃に行けたはずだ。ハルの危機管理能力が失われているというより、貴様が仲間の能力を信頼せず、仲間が傷つくことを(いたずら)に恐れているだけだ。」


 フリーヴァーツはカチンときた。

「俺が仲間を信頼していない?それは違いますよ。俺たちはみんなの結束の力で連携して戦っているんです。」


「いいや、そもそも先ほどのラミアとの戦いで、貴様とハルの作戦は一致していなかっただろ。連携が甘ぇんだよ。ハルは呪いの影響で、危険な状況でも恐れずに突っ込むから、連携が取りづらいはずだ。ならば、個々の能力を活かす戦略に変えるべきだ。」


「レティシアさんとも話し合いましたが、一人が突出すれば各個撃破の危険が高まります。それこそ、今のラミアも毒の牙以外に尻尾攻撃という隠し玉も持っていました。みんなでカバーし合いながら安全に戦うことの何が悪いんですか?」


「あのラミアは実際、貴様一人でも倒せる程度の力しか持たんはずだ。貴様には『炎の勇者』のスキルツリーという最上級の才能があるのだから、それを活かしてさっさと倒していれば、ラミアの隠し玉も発動させないまま一方的に勝てた。それなのに、貴様が連携だ、遠距離から安全にだと、うだうだ言っているから、秘密兵器を使われて自分と仲間を危険に晒すのだ。」


「仲間が近くにいたからピンチを乗り越えることができたんですよ。」


「連携とは仲間を守ることだけではない。誰かが殺られる前に自分が殺る、攻めの連携もある。そして今の貴様らはそちらの個人技を寄せ集めた連携の方があっている。フリーヴァーツ、瘴雪のドラゴンの相手をするなら、なりふり構わずに自分のパーティーが持ちうる最高のパフォーマンスを出せ。妙なこだわりとプライドで出し惜みなぞすれば、貴様の大切な仲間が死ぬぞ。」


「今まで、俺たちは戦場で助け合うことで生き延びてきました。強敵に挑む前に今更、方針を転換すると、連携が崩れて危険ではないですから、ガレンさんの言葉には従えません。」


 フリーヴァーツとガレンの間で視線の火花がバチバチと散る。

 静寂を破ったのはルイだった。

「まぁまぁ。取り敢えずガレンさんの言う戦法も試してみればよいではないですか。」

「ルイ……。」

「確かにフリーヴァーツさんは私たちのことを守ろうとしすぎて、攻撃の手が緩くなっていた時があります。フリーヴァーツさんが私たちを守るのではなく、私たちがフリーヴァーツさんを支える戦法も悪くないと思いますよ。」

「そうなのか、ルイ……。」

 ガレンの時とは違い、フリーヴァーツは仲間の(げん)は素直に受け入れた。


「ウフフ。ルイ様、フリーヴァーツ様を支えるのは私の役目ですわ。」

「私も本来はエンチャンターだから、サポートは得意だよ。」

 ソフィアとハルが口々に言う。

「そうか、みんなはそう思っていたのか。」

 フリーヴァーツは少し驚いた。ガレンは言う。

「フリーヴァーツが攻撃に専念するなら、他の貴様らはフリーヴァーツの援護は受け取れないと思え。自分の身は自分で守れるようになれよ。」

「分かっておりますとも。私の<聖盾>で私自身もフリーヴァーツさんも守って見せましょう。」

(そして、ナイスカバーでカッコイイところを見せて、フリーヴァーツさんに告白しましょう。)

 ルイは堂々と返した。ここで、レティシアがガレンに質問する。

「話が一段落(いちだんらく)したところで聞きますけれど、フリーヴァーツパーティーの力を試したということは、次は私たちの力を見るのでしょうか?」

「当然そのつもりだ。」

「それなら、私のエクストラスキルを試していいですか?」

 ――バシャッ!!!

 直後、横から襲い掛かってきたウェアウルフがずたずたに切り刻まれた。ガレンが無言で<風属性魔法>を行使し、レティシアに見せつけるように魔物をみじん切りにして見せたのだ。その流れでガレンはレティシアを睨みつけるように問うた。


「貴様、自分が何を言っているか分かっているのか?」


 怖いくらいに厳粛な声にフリーヴァーツは唾を飲んだ。しかし、レティシアは怖気づかずに答える。


「はい。ドラゴンを倒すためにはどうしてもエクストラスキルの力が必要です。呪いを恐れすぎるあまり、いざという時にエクストラスキルを使いきれないようでは、仲間が殺されてしまいます。だから今のうちに使いこなせるようになっておきたいんです。」

「ほう……。」

 ガレンは目を細める。そして、一拍置いてフリーヴァーツが口を挟む。

「ちょっと待ってください、レティシアさん!仲間を守るために、エクストラスキルを使うというのは理解できます。でも、自分のことはいいんですか!?俺はレティシアさんが呪いで大変なことになるのは嫌ですよ!」

 動揺したフリーヴァーツを安心させるようにレティシアは微笑む。

「大丈夫だよ、フリーヴァーツ君。限度は守るから。それに、私には支えてくれる仲間がいる。」

 レティシアは自分のパーティーメンバーに目を向けた。フリーヴァーツも彼女の視線を追う。レティシアパーティーの表情は覚悟を決め、迷いを捨てた人たちのそれだった。

「実は、あの子たちとも話し合ったんだ。その上での結論だよ。それに、ドラゴンとの戦いでは、エクストラスキルを酷使する可能性は十分(じゅうぶん)にある。そうなると私は内容の分からない呪いが一気に進行して、逆に危険だと思ったんだよ。それよりかは今、エクストラスキルを少しだけ使って、私に掛けられた呪いがどういうものなのかを先に知っておきたい。そうすれば、対策もできるから。」

「レティシアさん……。」

 彼女の覚悟の重さに当てられ、フリーヴァーツは何も言えなくなってしまった。


「気にしないで、フリーヴァーツ君。私は――いや、私たちは何も知らないままエクストラスキルを使うんじゃない。覚悟を持ってエクストラスキルを使うんだ!」

 ――ッ!

 フリーヴァーツは気圧され、ガレンも彼女の覚悟を認める。

「……いいだろう。ただし呪いの内容によっては、次に細切れにされるのは貴様だ。」

「ありがとうございます。<真珠入りの杯>!」

 リッチにしてみれば、こんな魔物だらけの敵地で暢気に話し合いなどしていたのが隙だらけに見えたのだろう。会話に割り込むように放たれた魔法に対して、レティシアはエクストラスキルを発動させた。

 彼女のエクストラスキルはリッチの魔法を吸収するだけに(とど)まらず、リッチの命まで奪った。魔力と生命力をすべて奪われたリッチは黒い霧に変化し、デールの父親によって新調された黒い杖を介してレティシアに吸収される。ガレンは珍しく目を見開く。


「驚いたな。それは私の母親と同じエクストラスキルだ。」

「では、スキルの詳細も分かるのですか?」

 レティシアも食いつく。

「ああ。忘れもしない。そのスキルは私の母親を魔物に変え、母親が守った里の住人を大量虐殺させた、クソみたいな呪いだ。」

「魔物に変える呪いですか……。これはますます呪いに負けるわけにはいきませんね。」

「ああ。あの惨劇を繰り返すわけにはいかん。貴様が魔物になるようなことがあれば、私が殺してやる。」


 ガレンは有無を言わせない口調で宣言したが、デールが口を挟む。

「いや、待て。その役目は俺たちにやらせてくれ。それが俺たちの覚悟と責任だ。」

 互いの意思と覚悟が決して軽いものではないことを確認するために、互いの目の奥を覗き込むガレンとデール。他のレティシアパーティーのメンバーの目からも覚悟の色が見える。


 ――痛い沈黙。そこには途轍(とてつ)もない緊張感だけでなく、悲痛な思いも混ざっていた。

 時間にすると僅か数秒だっただろうか。されど生きた心地のしないほど重い数秒だった。ついにガレンが沈黙を破る。

「躊躇わずに一息でやれよ。それが互いのためだ。」

「ああ。分かっている。」

 答えたのはデールだ。だが、彼の声音と姿からはどこか悲しみが滲んでいた。

 こんな暗い空気であるからこそ、レティシアは旅を楽しいものにするために、わざと明るい声でおちゃらけてみせる。

「ところでさぁ、デールの親父さんに作ってもらったこの杖、すごくいいよ!何がいいって、モードチェンジができるってところだよね!厨二心をくすぐるなぁ。」

 レティシアのマイペースさにデールは苦笑いする。

「ははっ。杖が黒い状態はPolydore(ポリドー)モードとか言ったか。ポリドーモードのときの闇属性スキル強化機能のおかげで、さっきの<真珠入りの杯>の威力が高くなっていたことに対する評価じゃないのかよ。」

「もちろん、それも高評価だよ。次はもう一つの、Guiderius(ギデリアス)モードのほうも試してみよう。ギデリアスモードのときは杖が白くなって、聖属性スキルに補正がかかるらしいんだよね。」


 レティシアパーティーは和気藹藹(わきあいあい)としている。そんな中、フリーヴァーツは自分とレティシアを比較して少し焦りを感じた。

(どうやら、レティシアさんはこれまで以上に強くなったようだ。もともと賢者のスキルツリーを持っていて、闇属性以外のすべての基本属性が扱えたことだけでも凄いのに、ここに来てエクストラスキルと新武器で更なる高みに行ってしまった。でも、俺はどうだろう?ソフィアやハルばかりがエクストラスキルで強くなって、その代わりに呪いに苦しんでいる。リーダーの俺はエクストラスキルの強さも、呪いの苦しみも持ち合わせていないのに。剣を振る練習は欠かしていないけど、俺の戦闘力は全体的に伸び悩んでいるのが現状だ。俺、このままでいいのかな……。)


 ソフィアはそんなことを考えているフリーヴァーツを見て、彼が不安を感じていると思った。そこで、(恋愛の意味で)彼女らしく、彼に寄り添うことにする。

「どうかなさいましたか、フリーヴァーツ様?」

「ああ、俺、このままでいいのかなって。」

「と、言いますと?」

「俺はリーダーとして、みんなよりも先に呪いを受けたり、強くなったりするべきだったんじゃないかな?」

「ああ、それなら私たちが(<クイーン>の能力で)一つになれば解決しますわ。」

 ソフィアはそっとフリーヴァーツの手に触れてみる。


(ああ、なんて大胆なことを――ッ!フリーヴァーツ様はコッソリと付き合うほうがお好きなはずですのに、私は皆様の前ではしたなくないかしら?)

 ソフィアは上目遣いでフリーヴァーツをチラリと見る。

 一方のフリーヴァーツはソフィアの発言を「仲間で力を合わせればよい」という意味に解釈した。


「慰めてくれるんだな。ありがとう、ソフィアの優しさが心に染みるよ。でも、俺にも頑張らせてくれ!」

(俺もみんなの役に立ちたいんだ――ッ!)

 決意を固めてフリーヴァーツはソフィアの手を握り返す。もちろん、仲間同士の友好関係を示すための握手だ。

 しかし、ソフィアは恋人として有頂天になる。

(ハアァッ――!ついにフリーヴァーツ様も『頑張って勇気を出して』皆様の前で私の手を握ってくださるのですね――ッ!私もお応えしなくては――ッ!)

「はいっ――!」

 ソフィアは彼の手を握り返した。

「痛――ッ!?」

 ソフィアに手を握られた瞬間、フリーヴァーツに激痛が走った。見ると、彼の手はソフィアに握り潰されていたのだ。

 ソフィアは愛する人を傷つけてしまったことに動揺し、『ひゅっ――!』と息を飲んで青ざめた。

 彼女は慌てて手を離し、手を押さえる彼に謝罪する。

「申し訳ありません、フリーヴァーツ様――ッ!」

 そこへイーダが駆けつける。

「すぐに治療します!<ヒール>!」

 イーダのおかげですぐに回復したフリーヴァーツはすぐにイーダとソフィアに声をかける。

「ありがとう、イーダさん。ソフィア、もう俺は治ったんだ。気にするな。」

「ですが……、ですがっ……ッ!」

 ソフィアは膝を折って泣き崩れる。自分こそが世界で一番フリーヴァーツを愛していると自負していたのに、その自分が愛してやまないフリーヴァーツを怪我させてしまったのだ。その事実はソフィアだからこそ、誰よりも重くのしかかった。本当はフリーヴァーツに触れて慰めてもらいたかったが、またフリーヴァーツを怪我させるわけにはいけないので、彼に縋ることは出来ず、一人で泣く。


「泣くな、ソフィア。」

 しかし、そんなソフィアの頭をフリーヴァーツは怪我を治した手で撫でる。

「ほら、俺の手はこの通り、もう大丈夫だ。」

「ぐっ……!ぇぐっ……!」

 ――ソフィアが泣き止むまでしばらくかかった。その間、みんなはそっと待ち続けた。

「ソフィアの呪いは怪力の強制か。」

 ガレンの声だけがその場に響いた。

 生命力を吸われる不死者リッチ……ッ!


 レティシアのエクストラスキルは正確には魔力を吸収して、呪いとして体内に溜め込むものです。ただ、魔物は魔法生命体、つまり魔力で身体が構成されているため、魔物が魔力をすべて吸い取られた場合、身体の形も生命維持機能も保てずに魔力に分解・吸収されてしまいます。

 <真珠入りの杯>の能力で魔物を〇せるメカニズムの設定はこんな感じですが――つまり、<真珠入りの杯>や<キャリバン>の能力は魔力の分解吸収だけであって、生命力を吸収しているというと少し違うのですが――物語上では生命力と魔力を吸収していることにした方が設定が簡単になるという配慮で初期設定を少しいじったことで、思わぬところで弊害が。。。申し訳ありません。


 そして、もう一つ申し訳ないことを言わせていただくのですが、ちょっと話のストックが無くなったので、毎日投稿が続けられないかもしれません。なるべく早く再開できるように努めてまいりますが、皆様にご不便をおかけすることをお詫び申し上げます。

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