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ファイアーボンド  作者: fuon
賽の河原崩し編
25/42

第二十五話

***

 フリーヴァーツ、レティシア、ホワイトコーツの交渉が行われているころ、ソフィアはオーガのダンジョンだった山の麓にいた。夜の山は冷え込むが、ソフィアにはいつぞやの宿でフリーヴァーツから拝借した服がある。それを肌着として着込んでいた。

 なお、フリーヴァーツの服をわざわざ着用してきた理由はそれだけではない。彼女は今から、新しく手に入れたエクストラスキルの効果の確認と実験をするので、お守りとして彼の服を直に着ているのだ。


(ふふっ、フリーヴァーツ様を近くに感じますわ。フリーヴァーツ様の匂いに包まれていると、なんだか勇気が湧いてきますわね。)


 彼女は<土属性魔法>で封鎖された坑道の方を見る。さすがに、もうすぐ内側から封鎖が突破されそうだが、エクストラスキルの試験のためにはオーガたちに出てきてもらった方が都合がいい。と、ここでブルルッ!と死んでいたはずのバイコーンが鳴いた。実はコーネリアスの毒薬は仮死状態にするだけで、死にはしないのだ。


「おっと、バイコーンが起きかけてますわね。でしたら、バイコーンから実験に使いましょうか。さ、あなたもバイコーンの傍で寝ててください。」

 ソフィアは担いでいた()()()()()を地面に降ろす。ソフィアは最終的にエクストラスキルを人間に使いたかったので、その辺でクロートンを拉致っておいたのだ。ソフィアの耳には腕力を高めるピアス型の魔道具が付いているので、クロートンを眠らせてしまえば、運ぶのは簡単だった。


「このスキルの効果が『融合』だと知った時、私は運命を感じましたわ。だって、このスキルを極めることができれば、フリーヴァーツ様の魂と私の魂を『融合』させることもできるということでしょう?それはつまり、私とフリーヴァーツ様が本当の意味で一つになれるということですわ!この世でも!来世でも!その次でも!私たちはずっと一緒にいられる!フリーヴァーツ様のすべては私のもの!私のすべてはフリーヴァーツ様のもの!ガレンはエクストラスキルのことを呪いとかほざいていたが、それがどうした!そんなものはフリーヴァーツ様とひとつになることの前では些事だ!」

 彼女はバイコーンとクロートンに両手を触れる。

「エクストラスキル<Queen(クイーン)>!」

 ソフィアのエクストラスキルが発動し、バイコーンとクロートンが融合する。バイコーンとクロートンの混ぜ合わさったものから闇属性の魔力が爆発し、ソフィアの視界を覆った。

「くぅっ――!?」

 闇属性の魔力が収まった後にソフィアの前に立っていたのは首の無い騎馬、デュラハンであった。

「これは……。」

 しかし彼女はデュラハンの姿を見てショックを受けていた。確かに、肉体を混ぜ合わせて新しい魔物を生み出すことはできたが、所詮は首の無い馬に首の無い騎士が跨っているだけだ。これでは魂まで融合しているとは到底言えなかった。というか、それよりも――。


「てめぇ、それ私が着てたフリーヴァーツ様の服じゃねぇか!返せ!」

 デュラハンはフリーヴァーツの服を着ていた。どうやら、ソフィアは初めて使ったエクストラスキルの制御に慣れていなかったせいで、自分の着ていた肌着まで融合させてしまったようだ。しかし、それはソフィアの宝物。一刻も早く返してもらわねば。こんなに寒いのは冷え込みだけではなく、大切な戦利品を持っていかれた喪失感もあるだろう。というか、そっちの方が大きい。ソフィアはショットガンを創造して戦闘態勢に移行する。

 と、ここでソフィアは背後から声をかけられた。


「おや、ソフィアさんは面白い魔物を作り出したものだね。」

 夜の山よりも寒く、しかし、どこか聞き覚えのあるような声でもあった。バッ!とソフィアは振り返る。

「何者ですか!?どうして私の名を?」

(<探知>でも、暗殺者としての気配察知でも気付けなかっただと!?こいつ、強い。)

 

 ヤギの角が特徴的な鎧はソフィアに殺気を向けられても落ち着いた様子で返答する。

「おっと、これは失言だったね。まぁそれは置いておいて、私が聞きたいのはオーガロードの遺体が残っているかどうかと、残っているのならどこにあるのかだ。あの夜の会議で死んだら蘇らせるって約束しちゃったから、約束は守らないとね。」

「その質問に素直に答えるとでも?」

 冷や汗がソフィアの頬を伝う。

「素直に答えた方が良いんじゃない?そうしないと、私の眷属にして強制的に聞き出すことになるよ。あ、そっちの方が手っ取り早いか。」

「――ッ!」

 大柄の鎧姿の敵から恐ろしい殺気が溢れ出す。そのあまりの恐怖にソフィアは鳥肌を立てながらも、身体が委縮してしまわぬように集中力を高める――。夜の山の気温よりも冷たい緊張感の中、闖入者(ちんにゅうしゃ)が割り込んできた。パカラッ、という蹄の音を響かせて、デュラハンはソフィアも鎧も分け隔てなく右手に持った大剣で薙ぎ払う。暗殺者として子供のころから訓練を繰り返してきたおかげで、ソフィアは背後からの攻撃だったにも関わらず。(すん)でのところで大剣を回避できた。一方、鎧を着た敵は大剣をその胸に受け――血の霧となって大剣をすり抜けた。


「アハハハハッ!驚いたって顔をしているね。吸血鬼の真祖には<不死>のスキルがあるから絶対に死なないんだよ!」

「オーガロードを蘇らせるというのも真祖の力ですか?」

 ソフィアは動揺を取り繕いながら、取り敢えずバックステップで距離を稼ぎ、銃のリーチが少しでも活かせる間合いを確保しようと試みる。


「そうだよ。私の<眷属化>は死者すらも(よみがえ)らせることができる。だけど、死者蘇生にもタイムリミットがあるから、早いことオーガロードの死体の在り処を教えてくれないかな!?」

「おっと、デュラハンの攻撃が!」

 ――バンッ!

 ソフィアはわざとデュラハンの攻撃に対するカウンターが鎧の吸血鬼に当たるように銃を撃つが、鎧の吸血鬼はやはり霧化して、銃弾がすり抜けた。デュラハンの馬部分が悶える様子を背景に、鎧の吸血鬼は余裕の高笑いをする。

「アハハ、だから君たちの攻撃は効かないんだって!」


(クソッ、マジかよ……。こっちの攻撃はすり抜けるわ、死んだ奴を蘇らせるわ、こんな奴どうすればいいんだ……。)

 ソフィアは絶望的な気分になりながらも、必死に打開策を考える。当然彼女が思考を巡らせている間にも三つ巴の戦いは続くので、デュラハンは鎧の吸血鬼ごとソフィアを突き刺さんと突進してくる。鎧の吸血鬼の体で隠れて見えなかったデュラハンの大剣を左にサイドステップで躱すと、躱した先に鎧の吸血鬼が首元に噛みついてくるので、今度はバックステップで連続回避を決める。回避直後に、この状況でソフィアは鎧の吸血鬼に交渉を試みる。


「そういえばオーガロードを復活させるタイムリミットが迫ってきたんじゃありませんでしたか?オーガロードの死体は山頂付近にありますから、急いだほうがいいと思いますよ。」

「お、急に何?」

「今の私ではあなたに勝つ手段がありませんから、さっさと何処(どこ)かに行ってほしいのですわ。それと、私には<隠密>のスキルがありますから、あなたが私を<眷属化>しようとしても逃げ切れる自信がありますの。」

「…アハハ!私が君に負けることはないけど、さすがに君に粘られたら時間がかかりそうだね。いいよ、ここは君の提案に乗ってあげる。」


 ソフィアはわずかに安堵したが、鎧の吸血鬼はしっかりと水を差す。

「でも山頂付近にオーガロードの死体があるというのが嘘だったら、君たちがグローブ町のダンジョンを攻略するときに覚えておいてね。私、グローブ町のダンジョンのボスだから。」

 デュラハンが左手に持った大きな丸盾を前に構えて、ソフィアと鎧の吸血鬼の側面からシールドチャージ――。ソフィアはバックステップで飛び退き、鎧の吸血鬼は<不死>の効果で血の霧となって霧散する。ソフィアの視界が一瞬デュラハンの体で覆われ、再びデュラハンの向こう側が見えるようになったときにはすでに鎧の吸血鬼の姿は無かった。

 ソフィアがホッと安堵の溜息を吐いた直後、ボゴッ!という岩が崩れたような音が響いた。

「何事ッ!?」

 ソフィアが音がしたほうに振り向くと、デュラハンが坑道を封鎖していた岩に突っ込んでいた。中からオーガたちが次々に出て来る。

「これは……。練習のし甲斐がありますね。」

 ソフィアは苦し紛れに強がった。

オーガたちは部隊を三つに分けて、それぞれデュラハンの撃退と他の坑道の封鎖の解除とソフィアの迎撃に動く。

「<クイーン>!」

 夜はまだまだ続く――。


***

 その夜、ガレンは遠い昔の夢を見た。彼女がまだ十歳だった頃の、母親と楽しく暮らしていたときの記憶だ。母親は冒険者時代にシコラクスのジャングルで猛威を振るっていたダンジョンを攻略したことがあり、ダンジョンを攻略したパーティーのメンバーは全員英雄視されていたが、母親はダンジョンボスの魔女を倒したので特に一目置かれた存在だった。ガレンを妊娠してからは産休と育休のために冒険者活動を休止し、シコラクスに建てた家で新たに画家の仕事をしながら、良い母親として生きた。そう、あの事件の日までは――。


「ママー、何描いてるのー?」

 幼いガレンは無邪気に母親にじゃれつく。

「これはね、クマノミと言って、このイソギンチャクさんと共生関係にあるお魚さんよ。」

「共生関係~?」

「そうよ。クマノミさんとこのイソギンチャクさんはお互いに助け合いながら生活しているのよ。」

「ママがジャングルに出た魔物をやっつけて、みんながママにお礼を言うみたいな感じ?」

「そうね、私もみんなと共生関係よ。私はエクストラスキル<Caliban(キャリバン)>で魔物の魔力と生命力を吸い取って魔物を退治して、他のエルフたちを守ってあげる。守られた人たちは私たちに親切にしてくれる。私たちはみんなで支え合って生きているのよ。」

「おお、共生関係すごい!私もクマノミさんたちと仲良くできるかな?」

「クマノミに興味があるなら、今度見に行こっか。そこの海でも少し遠くまで行けば見られるはずよ。でも、イソギンチャクさんは毒を持っているから触っちゃだめよ。」

「えー、イソギンチャクさん、柔らかくて気持ちよさそうなのに。」

「うふふ、ガレンったら。」

 ガレンは母親と過ごす時間が楽しかった。しかし、この平穏を切り裂くような警鐘――。

 ――カンカンカンカンカン!!!

「魔物だー!ジャングルに魔物が出たぞー!」

 物見のエルフが慌てたように大声で叫ぶ。それを聞いた元冒険者の母親はすぐにキッと顔を引き締めた。ガレンの母親は子供を産んでからは、冒険者として長距離を移動することこそ控えていたが、近くのジャングルに魔物が出た時には魔物退治を買って出ることがしょっちゅうあった。

「ガレン、ママは魔物退治に行かないといけないみたい。大人しく良い子で待っててね。絶対にお家から出たらダメよ。」

「うん、分かった。ママ、頑張ってね!」

「ありがとう、ママ頑張ってくるから。」

 ガレンの母親は後ろを振り返ることなく魔物の方へ走っていく……。

「えへへ~、今日もコッソリ、ママのカッコいいところを見に行こーっと。<風属性魔法>っ!」


 子ども特有のやんちゃを発揮して、母親との約束を平然と破ったガレンは友達と木の上から母親が戦っている所を見ていた。ジャングルに出没したのは一体の魔女だったが、里のエルフたちでは手に負えず、切り傷や火傷を負っている兵士がたくさんいた。そこにガレンの母親が駆けつける。周りに敵しかいない魔女は魔法を周りにやたらめったらにまき散らす。魔女を囲んでいたエルフたちが被弾しかけるが、間一髪のところでガレンの母親がエクストラスキルで助ける。

「<キャリバン>!」

 魔女が放った魔法はガレンの母親の手の平に吸い取られた。

「ギィ?!」

 驚く魔女。余裕を見せる母親。

「これで終わりです。<キャリバン>!」

 ガレンの母親は続けてエクストラスキルを行使し、魔女の全生命力を吸い取った。生命力を失った魔女はそのまま黒い霧となってガレンの母親の手の平に吸い込まれる――。


「おお、ガレンちゃんのママすごーい!」

 ガレンの隣で戦いを見ていた女の子の友達が自分の母親のことを褒めてくれる。

「そうでしょ!私の自慢のママなんだ~。」

 ガレンは鼻を高くする。

「いいな~、憧れるな~。そうだ、いい事思いついた!ガレンちゃん、大きくなったら私たち二人で冒険者になろうよ。それで、ガレンちゃんのママみたいにカッコいい人になるんだぁ。」

「それいいね!私もママと同じくらい強くなって、いっぱい魔物をやっつけるんだ。魔物のせいで困っている人たちは助かるし、私は助けた人たちの笑顔が見て幸せになれる。これぞ、共生関係ってやつだよ!」

 ガレンは胸を張ってドヤ顔をした。

「共生関係?ガレンちゃんは難しい言葉を知ってるね。」

「今日、お母さんに教えてもらったの!みんなで助け合って生きていくことだって。私もクマノミさんとイソギンチャクさんみたいに、みんなと支え合いながら生きていくんだ!」

 と、ここで下の方がにわかに騒がしくなる。

「う、うぐっ……。」「おい、何だ?」「どうした、大丈夫か?」「魔女の毒魔法を受けていたみたいだ……。」「大変!私がすぐに<キャリバン>で治しますね。」

 ガレンの母親が毒を受けて苦しんでいるエルフの男性兵士に<キャリバン>を使い、体内の毒魔法を吸収していく。次第に毒に苦しんでいた彼の青白い顔色に血の気が戻ってくる。

「奇跡だ……。ありがとうございます!あなたがいてくれてよかった……ッ!」

 回復してもらった兵士は感動する。そしてそれは木の上で見ていたガレンの友達も一緒だった。

「ガレンちゃんのママは解毒までできちゃうんだね。」

「えへへ、私のママは何でも出来ちゃうんだから。でも、ママはどうして魔物の魔力とか毒とか吸い取って平気なんだろ?」

 幼いガレンは純粋な疑問を口にしたが、そんなものを吸い取って平気なわけがなかった。後になって分かったことだが、エクストラスキル<キャリバン>で魔物の魔力や生命力を吸うというのは、吸収した魔力と生命力を闇属性の魔力に変換して、呪いとして溜め込むということだった。しかも、その呪いというのが悪質極まりなかった。


 解毒をしてからガレンの母親は突然黙り込み、動かなくなった。そしてブルルッ!と一度体を震わせた直後、母親の体が変形する。ボゴゴッ、グチャチャ!とこの世のものとは思えないような音を立てて肥大化と変形を繰り返した末に、ガレンの母親はピエロと奴隷ようにみすぼらしい格好をした人型(ひとがた)を背中合わせで張り付けた、顔が二つに足が四本の魔物が生まれ変わった。


 みすぼらしい格好をした人間は両腕でガレンたちが登っていた木の幹を掴み、根元から引き抜く。当然ガレンと友達は空中に放り出される。

「きゃあああ?!」

「きゃあ!<風属性魔法>!」

 ――フワッ、ドタッ!

 ガレンは何とか自分と友達の体を風で支えようとしたが、落下の衝撃を殺しきれずに二人は体を軽く打撲する。

「いったぁ……。ありがとうガレンちゃん。」

 すかさず友達の少女の頭上に大木が振り下ろされた。

「止めて、ママ――!」

 ――ゴチャッ!

 嫌に生々しい音が耳に付く。嘘であってくれという願いを打ち砕くように、ゆっくりと木が持ち上げられ、その下の光景を見せつけられる。この時の光景は百年以上経った今でも忘れることなく、鮮明に思い出せた――。


 ガレンが立ち上がることができずに呆然としている間、周りの大人たちはパニックになりながらも対応を話し合う。

「おい、どうすんだこれ?!」「とにかく倒さないと里に被害が出るぞ!」「いや、でもシコラクスの英雄が……ッ。せめて長老に元に戻す方法を聞いてこい!」「じゃあ、お前がそこの女の子を避難させるついでに長老のところまで走れ!」

 ガレンは背後から小脇に抱えられ、その場から連れ去られた。その後のことはほとんど覚えていない。とにかく、魔物となってしまった母親があまりに強く、里のエルフたちは多数の死者を出し、みんなで生まれ故郷を捨てる羽目になったということだけは理解できる。


 ――ガレンは夢から目を覚ました。ふぅ、と一つ息を吐いてベッドの上で上体を起こし、長座の体勢になった。

「……あのときの悲劇を繰り返すわけにはいかんのだ、絶対に――ッ!」

 ガレンは右手を固く握った。


 ピロリン~♪クロートンは頭を失った代わりにスゴイ適応能力を手に入れた!


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