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ファイアーボンド  作者: fuon
賽の河原崩し編
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第二十三話

 バランスを立て直したオーガロードは駆け寄ってくる二人に気付いたが、まずは先ほど仕留め切れなかった後衛三人衆を片付けようとして、そちらに顔を向ける。オーガロードは腰を落として右足で踏ん張る、いかにも今から<縮地>を使いますよと言わんばかりの体勢を取った。

「させるか!<土属性魔法>!!」

 デールは即座にオーガロードとレティシアたちとの間にバリケードを張り巡らせる。するとオーガロードは不自然に構えを崩し、腰を上げた。それを見てデールが感じていた疑惑がより深いものになった。

「お前ら!恐らくだが、奴の<縮地>は前に膝以上の高さの障害物があると、その手前で止まるぞ!」

 デールは敢えて周りの人に聞こえるように大声で叫ぶ。

「了解!」

 フリーヴァーツがオーガロードに斬りかかり、デールもわずかに遅れて殴り掛かる。振り向いたオーガロードの受け太刀は両手を使う。それを見越していたソフィアとホワイトコーツは飽和攻撃になるように間断なく攻撃を放つ。

「<猟銃>。」

「<風属性魔法>!」

「<水属性魔法>。」

 ライフル弾が、風の刃が、氷の弾丸が三方向からそれぞれ頭、首、足を狙う。オーガロードはかろうじて首を傾けてライフル弾を躱すと同時に<闇属性魔法・黒炎>を使って風の刃を防ぎ、氷の弾丸を体の亀裂から吹き出る黒い炎で溶かす。しかしオーガロードに対応できたのはそこまでだった。

「<土属性魔法>!」

「<大砲>っす!」

 レティシアとマーヴの容赦ない攻撃がオーガロードに直撃する。レティシアの飛ばした礫は左側頭部に、マーヴの弾丸は左腰に当たった。

「グオオオオ!?」

 オーガロードは膝をつく。

「今だ!ウオオオオオ!」

 フリーヴァーツは片手剣を大上段から振り下ろす――。しかし刃が当たる直前、ギロッとオーガロードの目がフリーヴァーツを射抜いた。あんま舐めんなよ――そう言われた気がした直後、オーガロードから膨大な魔力が溢れ出した。ここにきて再び闇の炎がドーム状に急拡大する――。


(これは――向こうの方が早い!)

 必死に思考を加速させ、刹那の時間で判断を下したフリーヴァーツは全力のバックステップを三回連続で続け、死の炎から逃げる。今度は体に引火しなかったことを喜ぶ。隣のデールも同様だ。

「くっ、決めきれなかったか!だが、これで奴は動けない!<縮地>も完全に封じたはずだ!」

 フリーヴァーツはデールの真似をして叫んでみる。


(足の炎も一分経って消えたし、とにかく後は目の前で燃え続ける炎のドームが無くなり次第、みんなでオーガロードを袋叩きにすれば終わりだ。)

 そんなことを思っていると、突然ドームが消え、ジェットエンジンのように足から炎を噴出したオーガロードが空中を突っ切って来た。

「うおっ!?」

 フリーヴァーツは振り下ろされた刀の勢いに負け、体勢を崩しながら左肩に刀を沈ませる。そしてフリーヴァーツが後ろに倒れたことで、オーガロードの勢いを止めるものが無くなり、フリーヴァーツの上を飛ぶ。その時にオーガロードの足から噴出されている闇属性の炎をフリーヴァーツに思いっきり直撃させる。

「――ッ!うぎゃあああああ!!!」

「フリー…っく!?」

 ――パンッ。

 オーガロードがソフィアたちの方に飛んで来たので、ソフィアは銃を撃って迎撃せざるを得なくなる。オーガロードは両腕で銃弾を受け止めるが、まったく止まらない。

「<聖盾>。」

 ルイも訓練通りに、突進してくる敵の前に盾を展開する。しかしオーガロードは盾にぶつかる直前で軌道を急上昇させた――。

「まずい!みんな盾の下に入って!」

 前から攻撃が来ると思っていたら、急に頭上からの攻撃に切り替わったのだ。ルイは急いで盾を上に向け直し、ソフィアとハルは大慌てで盾の下に潜り込む。間一髪で避難が間に合った直後、ガレンが<風属性魔法>で空を飛んでオーガロードの横腹に突撃をしてくる。

「<風属性魔法>!」

 ガレンが生み出した風の刃はしかし、オーガロードに躱される。そのまま空中でチェイスが始まった。逃げながら黒炎をまき散らしていくオーガロード、追いかけながら風属性魔法を撃ち続けるガレン。ガレンとしては、このままオーガロードに自由に空を飛ばれるとフリーヴァーツみたいに焼かれる被害者が増えてしまうので、それを防ぐために<プロスペロー>の果実でフリーヴァーツを回復させるよりも先にオーガロードの牽制に行った。しかし今度はオーガロードを抑えることに手一杯となり、フリーヴァーツを回復させている暇が無い。

 また、空中で繰り広げられるチェイスが目まぐるしいので、ウィンミルも、レティシアも、マーヴも、攻撃に参加したくてもできない。というかそれ以前に、ガレンが頑張ってくれているとはいえ時々届いてしまう闇の炎をどうにかするので手を焼いていた。ウィンミルの氷の盾なり、イーダの<聖盾>なりで一応受けることは出来るが、炎の角度が変わったり回折したりするので、受けるのにも細心の注意を必要とした。精神力がドンドン削られていく。


 そんな中であってもレティシアたちはフリーヴァーツの救命に駆けつけた。何としても、何としてでもフリーヴァーツを助けなければ――!

「「<ヒール>!」」

 レティシアとイーダは防御をデールに任せ、全力でフリーヴァーツに回復魔法をかける。レティシアは<聖属性魔法>の権能で<ヒール>を発動するが、いかんせん今までの戦闘で魔力を使いすぎていた。フリーヴァーツを回復させるには魔力が足りない――。

「くそ――ッ!くそっ……。」

 レティシアの目に涙が滲む。ヤギの獣人の少女が脳裏をよぎった。

(あんなっ……、あの思いをもう一度味わわせないでくれよ――ッ!)


 レティシアの隣にいたイーダにはレティシアの表情がよく見えてしまう。こんなに弱気になっているレティシアはベスがいなくなった時以来だった。

(私が――、私が何とかしなきゃ!)

 イーダは必死に回復魔法を流し込む。しかし、いくら魔力を流し込んでも、黒炎がフリーヴァーツを蝕むのを止めることは出来なかった。フリーヴァーツはじわじわと死に近づいていく。彼女たちが駆けつけたときにはすでに彼は瀕死だったのだ。これ以上火傷が進行すればさすがに命は無い。

「何とか、何とかこの炎を取り除かないと……。でもどうやって……?」

 いや、答えは見えている。そもそもこの黒い炎に対抗するためにイーダは<聖域>の練習をしていたのだ。今こそ<聖域>を使えばいい。


(私にできるの……?)

 イーダは自信の無さを覚える。ヤーキモーのダンジョンボスと戦った時も不発に終わったし、ホレイショーに一万体のオーガが攻めてきた時も使えなかった。この山を登っていた、ついさっきでさえ発動できていない。しかし、その間にもフリーヴァーツの火傷は進行していく。

「ぐああぁぁ……ぁ…ぁ……。」

 悲鳴すら小さくなっていく絶望。小さな手の平を必死にかざし、命を繋ごうとしているのに、それでも力が足りずに人命がこの手から零れ落ちそうになっている。そしてイーダは残された最後の一手を何としてでも成功させる覚悟を決めた。


(もう、出来るかどうかじゃない!やれなければ、この人は死んじゃうんだ!)

「神様、どうかもう一度奇跡を――ッ!!」

 つい一つ前の戦闘で<聖盾>を開花させたのだ。今度もいける……。いけてくれ!

「<聖域>!」

 イーダは火事場の馬鹿力で膨大な魔力を放出する――。


 イーダを中心に聖域が広がった。闇属性の消えない炎はただの炎に変わり、レティシアの悔し涙が嬉し泣きに変わる。

「イーダちゃん……、これ――ッ。」

「すごいっす…………。」

「おお…………。」

 マーヴも息を呑み、デールは言葉を失うが、イーダは構わずに続ける。

「レティシアさん、今はフリーヴァーツさんの治療に専念しましょう。早く<水属性魔法>で消火してください。」

「あ、ああ、そうだね。<水属性魔法>。」

 レティシアはフリーヴァーツの体に満遍なく水をかけて火を消し、その間にイーダが回復魔法を流し込んでいく――。

 彼女たちの尽力のおかげでフリーヴァーツは辛うじて一命を取り留めることができた。


(しかしこれで私もイーダちゃんも魔法は打ち止めだね……。オーガロードの方はどうなったかな?)

 レティシアオーガロードの方を振り向く。<聖域>で弱体化させられたオーガロードは地に落ち、体中に生傷を作りながらも懸命に刀を振るっていた。これはチャンスだ。マーヴも<大砲>で援護しようとする。

 しかし、どうにもガレンがソフィアやマーヴの射線を意図的に塞ぐような立ち回りをしているような気がする……。


 しびれを切らしたマーヴが言ってみた。

「ガレンさん、邪魔っす!そんな動きされたら危ないっすよー!」

「これはわざとやっている!貴様らは手を出すな!」

「エクストラスキルはみんなのものっすよー!それに、あんたはすでにエクストラスキルを持ってるじゃないっすか。俺たちにも分けてくださいよ。」

「断固断る!」

 ――パンッ!

 ガレンは力強く宣言すると同時に、<風属性魔法>で圧縮した空気の弾丸をオーガロードの防御の隙間に通す。

「ゴフッ!?」

 オーガロードは喉元を穿たれた。


「けちんぼー!」

 勝負がついたと思ったマーヴは駄々をこねるように叫ぶがまだ止めは刺せていない。

「何とでも言え。」

 ガレンがきっちりと止めを刺そうとしたその時、ボォオン!という、くぐもった銃声が響いた。気が付けば、たった今ガレンが喉元に開けた風穴にソフィアがショットガンを押し込み、ゼロ距離で銃を撃っていた。

「……<隠密>か。」

「ご明察ですわ。お手柄を奪ってしまったようで申し訳ありません。ですが、フリーヴァーツ様をあんな目に合わせたこのオーガだけは、どうしても私の手で葬りたかったんですの。」

「これで、貴様もエクストラスキル持ちか……。」

 ガレンは頭を抱えた。

「そんなことよりも、今はフリーヴァーツ様ですわ!」

「あ、おい待て!」

 ガレンは駆け出したソフィアの手を慌てて掴む。彼女はソフィアの目を見ながら、静かかつ真剣な声で伝えた。

「……貴様らはエクストラスキルのことを何も分かっちゃいない。いいか?エクストラスキルの正体はダンジョンボスが今際の際に残す<闇属性魔法>の呪いだ!」

「あら、その割にはガレン様はお元気にエクストラスキルをお使いになられていたではありませんか。」

「それは――。」

 ガレンが何かを言いかけたところで、マーヴが二人の間に割って入る。

「ああ、もう!いい加減にするっす!峠は越えたとはいえ、フリーヴァーツさんは瀕死だったんすよ!?仲間を思う俺たちの気持ちも考えてくださいっす!行きましょう、ソフィアさん。」

 マーヴはそう言って、ソフィアとともにフリーヴァーツの所に向かう。

「くっ……。聞く耳を持たんか……。」

「ガレン様、残念ですが、今はダンジョンコアを破壊しに行きましょう。後で私の方からも言ってみますから。」

「ウィンミル……。ああ、そうだな。行くぞ。<風属性魔法>!」

 迷いを断ち切るかのように、あるいは八つ当たりするかのようにホワイトコーツは風に乗って山頂に飛んで行った。

 ガレンの言っている「エクストラスキル=呪い」というのは本当です。

 呪いは巨大な闇属性の魔力を持つ魔物を撃破した際、行き場を無くした闇の魔力が止めを刺した人間の中に入り込むことで、その人間の中にエクストラスキルという強大な力と、その代償たる呪いを生み出します。

 したがって、厳密にはダンジョンボスでなくとも、巨大な闇属性の魔力を持っている魔物を倒すことでもエクストラスキルは入手できますが、呪いを刻めるほどの闇の魔力を持つ魔物は何かと問われれば、ほとんどダンジョンボスになります。

 ちなみに、初代ジョウェルの英雄譚に謳われるジョウェルもエクストラスキルを所持しており、彼の呪いは「実際には呪いのはずのエクストラスキルを、エクストラスキル所持者(ここでは初代ジョウェル)にポジティブキャンペーンをさせ、みんながエクストラスキルという名の呪いを欲しがるように扇動する」という効果です。このプロパガンダがあったからこそ、フリーヴァーツが生きた時代の人々はみなエクストラスキルを最高勲章と捉える意識が根強く、ガレンがいくらエクストラスキルは呪いと主張しても笑われるだけで、まともに話を聞いてもらえないのです。


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