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ファイアーボンド  作者: fuon
賽の河原崩し編
22/42

第二十二話

***

 先ほどまでは何の気配も感じなかったというのに、今は異様な威圧感と不躾に自分たちのことを見定める視線を感じる。そして一通りフリーヴァーツたちのことを見定めたガレンが口を開く。

「帰れ。ダンジョンボスとダンジョンコアの始末は私がつけておく。」


 有無を言わせぬ一方的な宣告に一瞬たじろぐが、フリーヴァーツは言い返す。

「俺たちは死にそうな思いをしながらここまで来たんだ。今更何の戦利品も持たずに帰りたくはないです。」

「知るか。そもそも、ダンジョン攻略など早い者勝ちだ。お前らが遅いのが悪い。」

「それは敵を倒してたからで……。」

「うるせぇ。とにかくダンジョンボスは私が倒す。これだけは譲れん。」

「ダンジョンボスを横取りする気ですか?」

「そうだ。」

「なっ――!どうして悪びれもせずにそんなことが言えるんですか!?俺たちにはエクストラスキルが必要なんです。だから――。」

「エクストラスキルだと?」

 ガレンは底冷えする声で聞き返し、なぜか怒ったように告げる。


「絶対にやめろ。それは貴様らが思っているようなものではない。どうしてあんなものを欲しがっているのかは知らんが、エクストラスキル絡みの夢などとっとと諦めろ!迷惑だ!」

 話が通じないガレンにフリーヴァーツはカチンときた。

「……俺たちはエクストラスキルを使って、故郷を取り戻すんです。あんたは住む家すら失った俺たちがその願いを叶えるために今までどれだけ努力したと思ってるんだ!慣れない冒険者生活に苦しんだ。武器・防具もまともに揃えられない状態で魔物と戦わないと暮らしていけない日もあった。そんな泥水をすする生活でも諦めずに頑張ってきたからこそ、ヤーキモーのダンジョンボスを倒して、やっと一つ目のエクストラスキルを手に入れて、悲願の達成にようやく一歩近づいた。それなのに、ここで諦めろ?迷惑?ふざけないでくれ!!」

「あ?エクストラスキルを手に入れた?ならば今すぐ冒険者など辞めろ!」

「はぁ!?あんたの祖先だって、初代ジョウェルの英雄譚で――。」

「黙れ!またそれか!おのれ、忌まわしいプロパガンダめ!!いいか、エクストラスキルというのはな――。」


 ――ドンッ!!!


 大きな着地音と同時に言い争いが中断される。音に奪われた視線の先でゆっくりとオーガロードが立ち上がった。ガレンは相も変わらず一方的に告げる。

「ダンジョンボスか……。こいつは私が倒す。貴様らは下がっていろ。」

 ガレンは風の魔導書を開きながら前に出る。


 一方のフリーヴァーツはガレンの態度にやはりイラっとしたが、ギリギリのところで仲間たちのことが脳裏にチラついた。

(なんでこいつの言うことを聞かないといけないんだ……ッ!でも、ここで俺が戦ってしまったら、疲れてるみんなまで巻き込んでしまう。そうなると、みんなは死んでしまうんじゃ……?)


 そんなフリーヴァーツの躊躇を遮るかのようにレティシアが声を上げる。

「いや、私たちも加勢させてもらう。」

 ガレンの横暴にムカついたというだけでなく、ホレイショーのためにオーガロードを倒しておきたいレティシアは最後の気力を振り絞って進み出た。レティシアパーティーの面々も彼女に続く。ボロボロの状態で戦闘に参加しようとしている彼女たちにガレンは苦言を呈そうと口を僅かに動かしたが、声を発する前にオーガロードが左腰に差していた刀を右手で抜刀した。ガレンの目の前に黒い炎が迫る。スキル<闇属性魔法・黒炎>で刀の先から炎を噴出することでリーチを拡大し、スキル<居合>で刀を振り抜く速度を強化した横薙ぎの一刀だった。しかし、それと同時に地面から氷の壁がせりあがる。ウィンミルの<水属性魔法>だ。咄嗟の防御だったために氷壁の耐久力は高くなかったとはいえ、一瞬でそれを溶かしてしまった敵の能力にガレンは警戒度を一段階引き上げる。


「<風属性魔法>。」

 ガレンは一切の話し合いを止めてオーガロードの討伐に舵を切ったガレンは足に風属性の魔力を集中させ、一気に放出。予想以上の急接近にオーガロードは驚きつつも、今度は左手で右腰に差していた刀を<居合>で抜刀。ガレンの迎撃を試みる。

「<風属性魔法>。」

 それに対し、ガレンは進行方向を急転換。オーガロードの左半身側に回り込みつつ、刀のリーチの外に脱出。そしてそのまま風の刃を飛ばす。オーガロードは<闇属性魔法・黒炎>で風の刃、そしてその後ろのガレンを狙って砲径3 mの火炎放射で応える。圧倒的な黒炎の奔流は風の刃を飲み込むだけでは終わらず、ガレンにも襲い掛かる。ガレンはオーガロードの背後にまわりこむように疾走して躱すが、当然のごとくオーガロードは逃げる彼女に合わせて火炎放射の発射口を動かしていく。そうしてオーガロードが後ろに視線を向けた時、ウィンミルは練りこんでおいた大量の魔力を消費して<水属性魔法>を発動。オーガロードの足元から巨大な氷柱が出現する。しかしオーガロードは予想していたかのように――事実、後ろを向くなどという分かりやすい隙を見せたのはカウンター狙いだったが――<縮地>で回避とウィンミルへの急接近を同時に行った。魔法を撃った直後の一瞬の硬直を狙って、ウィンミルに黒炎を纏った右の刀が振りかぶる。


「<土属性魔法>!」

 オーガロードが刀を振り下ろす直前でレティシアがオーガロードの顔に礫を飛ばして妨害する。これは左の刀で軽く弾かれたし、そもそもウィンミルはそんな援護をするまでもなく避けていた。しかしレティシアが気を引いたおかげで、ウィンミルは心置きなくカウンターができる。彼は杖の先を氷で戦斧に変形させ、それをオーガロードの右脇腹にある亀裂目掛けて振るう。柔らかそうな所を狙ったが、その亀裂から噴き出す黒炎は氷の刃を急速に溶かした。

「おっと。危ない、危ない。」

 杖がオーガロードの体に当たる前に焼却されることを見切ったウィンミルは急いで杖を引き戻す。結果的にはオーガロードにダメージを与えることは出来なかったが、この一瞬の攻防はまったくの無駄だったわけではない。少なくともフリーヴァーツにとっては。

「俺もレティシアさんに続く。みんなは無理せず休んでいてくれ。」

「何言ってるの、お兄ちゃん。私たちも戦うよ。」

 ハルが他のフリーヴァーツパーティーの面々の気持ちを代弁する。

「……くれぐれも無茶はするなよ!」

 フリーヴァーツはそう言い残してオーガロードの下まで駆け出した。

 対するオーガロードは<縮地>、<刺突>、<闇属性魔法・黒炎>の同時使用により、フリーヴァーツに目にも留まらぬ速さで炎の刀を突きつける。

「<風属性魔法>。」

 このときガレン視点ではオーガロードが無防備に背後を晒しているので、オーガロードの動きを予測した置きエイムで、オーガロードの背中に無数の風の斬撃を飛ばす。オーガロードは背後からの攻撃に意識を向けざるを得なくなり、前方への攻撃が中途半端になる。それでフリーヴァーツは何とかオーガロードの突進攻撃を捌くことができた。

「くっ――!」

 彼は<剣術>の効果を使い、両手持ちした片手剣をオーガロードの左手の刀にぶつけることで、無理やり受け流しを試みる。筋力の差なのか、オーガロードの腕はほとんど動かせず、フリーヴァーツだけが押されるようにバランスを崩して尻もちを突く。そしてオーガロードの刀から炎が真っ直ぐに延び、フリーヴァーツの後ろにいたソフィアたちに襲い掛かった。

「<聖盾>!」

 すぐさまルイがソフィアとハルをカバーし、ソフィアがショットガンでオーガロードを牽制。そのままハルが大太刀を抜いて前に躍り出る。これは散々練習を重ねてきた動きなので、ハルの飛び出しまでは鮮やかに決まった。しかし、疲労の溜まっていたハルはこけそうになりながら走っている。

「この野郎!」

 懸命なハルに感化されたフリーヴァーツもすぐに立ち上がり、仲間を攻撃された怒りを片手剣に乗せる。

 オーガロードは正面で振られたフリーヴァーツの片手剣を受け太刀するが、フリーヴァーツの右斜め前から飛んできた大砲の弾丸に左の角を粉砕される。

「今っす!」

「おう!」

 マーヴの渾身の叫びに応えるべくデールの<鉄拳>もオーガロードの左脇腹に迫る。

「<風属性魔法>。」

「<水属性魔法>。」

 ホワイトコーツもそれぞれオーガロードの背後と右から魔法を放つ。

四方から一斉に放たれた攻撃。これはさすがのオーガロードもただでは済まない――。

 そんな思いをあざ笑うかのようにオーガロードは大規模な<闇属性魔法・黒炎>を行使した。

「グオオオオオ!!」

 大地を揺るがすほどの咆哮と共に、オーガロードを中心とした黒炎のドームがすごい勢いで広がっていく。

「あづっ!?」

「ぐっ!!」

 フリーヴァーツとデールは危険を察知して反射的に飛び退いたものの、オーガロードに触れることができるほど接近していたがために、彼らの足に闇の炎に当たるのは避けられなかった。

「<風属性魔法>!」

 しかし次の瞬間、彼らの体は突風によって吹き飛ばされ、ドームの広がる速さ以上の速度で安全圏まで運ばれていく。いや、彼らだけではなく、その場にいた全員が風属性魔法で吹っ飛ばされていた。特に、オーガロードに斬り掛かろうとしていたハルですら炎を受けなかったのはガレンのすごさを際立たせた。


 しかし喜んでばかりでもいられない。ガレンによってみんなが焼死する未来は回避できたものの、フリーヴァーツとデールの足に着いた黒炎は消えることなく二人の体を焼いていく。

「あああああああ!」

 熱で肉が急激に収縮し、骨を曲げ、自分の肉が焼ける匂いが足元から鼻の奥へ抜けて行く。耐えがたい苦痛にフリーヴァーツはただただ大声で叫ぶしかなかった。

「いでっ!あづっ!イーダ、早く回復魔法をっ――!」

 デールの方はフリーヴァーツよりかは冷静さを保っていたが、それでも堪らずにイーダに助けを求める。

「はいっ、今すぐ!<ヒー……。」

「ガオオオオオ!!」

 そんな願いを見抜いたのか、オーガロードが<縮地>でデール以外のレティシアパーティーの方へ移動する。今のレティシアパーティーはタンク役たるデールが動けなくなった上に、レティシアもイーダも後衛だ。マーヴだってハルに貸してもらった小太刀があるとはいえ、それでオーガロードを止めることは出来るはずもなく、<大砲>だって後衛用の武器だ。

 後衛三人衆が一気に窮地に陥る――。フリーヴァーツやデールは焼かれている苦痛で仲間をカバーする余裕が無い。ハルは魔力が残っていない。ルイはリーチが足りていない。ウィンミルは火力が足りていない。ソフィアではフリーヴァーツの叫び声に動揺して対応が遅れる。残ったのはガレンしかいない。しかしオーガロードはレティシアたちに刀を左下から右上に振りあげながらも、顔を左にいるガレンの方に少しだけ傾け、<風属性魔法>が使われた瞬間に<闇属性魔法・黒炎>で相殺する準備をしている。

(これはどうにもならないかなぁ……。)

 レティシアは頭が良いせいで余計に状況が絶望的だということが分かってしまった。

「……<プロスペロー>。」

 だからこそガレンは静かに、そして残念そうにエクストラスキルを発動させる。オーガロードの右側の地面から大量の木が槍のように勢いよく生えた。左を向いていたオーガロードは死角から急成長してきた樹木に右半身を強かに打ち付けられる。オーガロードはバランスを崩すだけに(とど)まらず、右半身全体に怪我をしてレティシアたちへの攻撃を中断させられた。

「マーヴ、イーダ、オーガロードから距離を取るよ!<聖属性魔法・ヒール>。」

 レティシアはマーヴとイーダを急かしながら、フリーヴァーツとデールに回復魔法をかけて、イーダが怪我人を見捨てて逃げることに躊躇しなくていいようにする。しかし、フリーヴァーツやデールの足に着いた黒炎は消えることなく二人を焼いていく。

(くそっ……!やはり<ヒール>くらいじゃ気休めにしかならないか。黒炎を消せたらいいんだけど、闇属性の炎に対抗するための<聖域>を維持する魔力が残っていない……。やっぱりやつの炎が消えるまでの一分間、回復魔法をかけ続けてつなぐしかないのか?)

 レティシアが苦悩していると、フリーヴァーツたちの手元に曲がりくねった木が生えた。木には熟れていない緑色の果実――イチイの実を大きくしたみたいな形の果実――が成っていた。ガレンが命令口調で叫ぶ。

「死にたくなければ、とっととそれを食え!」

 地獄のような苦痛から解放されたい一心でフリーヴァーツとデールはガッ!と果実を(むし)り取り、バクッ!と躊躇なく果実をかみ砕いた。咀嚼して嚥下した後、少し遅れて二人は体の奥から活力が(みなぎ)ってくる感覚を覚えた。闇属性の炎こそ消えていないが、痛みは和らぎ、黒炎が蝕む以上の速さで回復するのが分かった。

「すごい……!これなら戦える――!」

 フリーヴァーツは感動した。

「フリーヴァーツ様!もう怪我は大丈夫なんですの!?」

「ああ、大丈夫だ、ソフィア。心配かけたな。」

「それだけじゃねぇぞ、二人とも。魔力まで回復してやがるし、魔力の制御もいつもより上手くいきそうだ。」

 デールは補足する。

「体の方だって今までで一番よく動きそうですよ。さっそく行きましょう。<剣術>!」

 フリーヴァーツは今なお燃える足で走り出した。

「おうよ!ありがとうな、嵐の勇者さんよ!」

「ええ、本当に有難いですの!」

 デールとソフィアもフリーヴァーツに続いて走る。


 <闇属性魔法・黒炎>は可燃物・不燃物の区別なく燃やしたいものを燃やすスキルです。したがって、木や枯れ葉などの可燃物が多い山の中でも、オーガロードは山火事を心配することなくスキルを使うことができますし、石に火を点けることもできます。ただ、オーガロードが炎を使う関係上、ヴィジュアル的な分かりやすさのために、可燃物の無い広い舗装路で戦闘させています。


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