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ファイアーボンド  作者: fuon
巨大ミミックはヤーキモーのトランクだった?!編
2/42

第二話

***

 ――ヤギの石像が倒されたあの悪夢は後にブラッディコート事件と呼ばれることとなった。ブラッディコート事件から2日後、ソフィアたちは西の隣町Iachimo(ヤーキモー)に避難していた。隣町までの行程は食料も馬も足りず、いきなり町を追われたストレスや、慣れない野宿の緊張感ばかりが募ったが、被災を聞きつけた隣町から、騎士団の支援部隊が駆けつけてくれたので、何とかなったのは不幸中の幸いであった。


 ところで、(わたくし)ソフィアは今回の事件で決心したことがありますわ。今回の事件でよく分かりましたが、私たちはいつ死ぬか分かりませんの。ですから、私はフリーヴァーツ様への積年の想いを思い切ってお伝えしようと思ったのですわ。今までのように、()()()()()()()()()()だけでは私と彼の関係が一向に進展しませんの。ああ、丁度いいところに思い人がやってまいりましたわ。


「――ッ!あの、フリーヴァーツ様!」

「ん?どうしたんだい、ソフィア。」


 ああ、緊張で声が上ずってしまいましたわ。愛の告白とはこんなにも緊張するものでしたの?すごく震えますわ。けれど、しどろもどろでも、とにかく愛を伝えなくてはなりませんわ――ッ!

「あの、その、私たちの町は無くなってしまいましたけれど、フリーヴァーツ様は一生私と一緒にいてくださいますか!?」

 私は自分の領地を守れなかったり、領地が無くなって収入が少なくなったり、貴族位の存続も怪しかったりするトゥーソン家の人間ですけれど、フリーヴァーツ様はこんな私を受け入れてくださるでしょうか。不安で顔から血の気が引いていくのを感じますわ。


 ――この時フリーヴァーツは考えた。ソフィアは震え、青白い顔をしていて、緊張と不安がよく伝わってくる。なるほど、ついこの前故郷の町が魔物に侵略されたから、彼女は傷心なのだ。俺が慰めてあげなければ。故郷の町に魔物が押し寄せた時には彼女に守られたが、今こそ俺が彼女を守るとき――!

 フリーヴァーツはソフィアの手を両手で包むように握る。

「安心しろ。俺は何があってもお前のそばを離れない――!」

 ――フリーヴァーツはソフィアが愛の告白をしているとは全く思わずに口にした。一方のソフィアは色好(いろよ)い返事が貰えたことに舞い上がる。


 ああっ!これは現実かしら?喜びの涙も出てきてしまいますの。私はかろうじて一言だけ絞り出しますわ。

「はいっ!」

「ああ、絶対だ。」


 そしてフリーヴァーツは考える。その涙の気持ちは痛い程よく分かる。どうにか彼女を笑顔にしたい。彼女の悲しみはグローブを失ったことが原因だ。ということは、グローブ町に出現したダンジョンを攻略し、グローブ町を開放する事が根本的解決策になる。しかし悲しいかな、騎士団を動員するのには多大なコストがかかるが、それに見合う旨味がグローブ町にはないので、国はわざわざ騎士団を動かしてグローブ町を取り返そうとはしないだろう……。なるほど、故郷を取り返したくければ、自分が冒険者になってグローブ町のダンジョンを攻略しなければならないということか――ッ!

そこでフリーヴァーツは固い決意とともに宣言する。


「俺、冒険者になってダンジョンを攻略するよ。まかせとけって、俺のスキルツリーは最高のポテンシャルを持ってるんだろ?」

「……私もお供しますわ。」

(決意は固そうですわ。ですが、()と私はどこまでも一緒にいると誓いましたから♡)


「本気か?冒険者は危険がたくさんあるんだろ?」

「フリーヴァーツ様が私のことを守ろうとしてくださっていることは分かりますわ。ですが、(彼女たる)私としては、フリーヴァーツ様を一人で行かせるわけにはいきませんわ!」

 ソフィアは堅い決意で断言する。

「……そうか。そこまで言うのなら、よろしく頼む。」

(ソフィアから堅い意志を感じる――。自分もダンジョン攻略に乗り出すとは、領主の娘として、相当に責任を感じてるんだろうな……。だからこそ、ソフィアを絶対に危険な目には合わせるわけにはいかない。俺が守ってやる!)


 そしてここで、こっそりと話を聞いていた第三者から声をかけられる。

「ねぇ、それ私も交ぜてよ。」

「うおっ!ハル、いつからそこにいたんだ?」

「お兄ちゃんが冒険者になるところから。」


 確かにハルもソフィアと同じく、グローブ町の領主の娘なので、責任を感じているところがあるのだろう。

しかし、ソフィアはハルがダンジョン攻略をすることに反対のようだ。

「ハル、冒険者というのは命を落としやすい職業ですのよ。姉として妹をそんな危険に晒すことはできませんわ。」

 これはソフィアがフリーヴァーツを独り占めしたいがための建前だ。


「それはお姉ちゃんだって同じでしょ。家族だから、お姉ちゃんを助けたいと思うのは当然じゃん。」

「ですが……。」

「言っとくけど、お姉ちゃんが許さなくても、私一人でグローブ町のダンジョンに乗り込むから。」

 ハルの目は本気だった。だから、フリーヴァーツは折れることにする。

「さすがに、俺たちの目の届かないところで危険なことをされるよりかは、俺たちと一緒に活動してもらう方がいいんじゃないか?」

「むぅ。フリーヴァーツ様がそうおっしゃるのであれば、仕方ありませんわ。ですがハル、私の言うことはちゃんと聞きなさい。いいですわね?」

「わかってるって~。この話は押せばいけると思ったんだよね~。」

「もう、この子ったら。」

「ははは。」

 こうしてソフィアの困り顔とともに、フリーヴァーツ、ソフィア、ハルの3人パーティーが結成されたのだった。

 なお、ソフィアの困り顔はフリーヴァーツの独占に失敗したことに対する悩みであることは言うまでもない。

 ともかく、フリーヴァーツはソフィアとハルに向かって自分の意見を述べる。

「ところで、素人目で見ても俺たちの故郷に現れたダンジョンは攻略難易度が高い。魔物の数が多すぎて、今の俺たちの処理能力では城の中にすら入れないだろう。そこで、まずは攻略難易度の低いダンジョンで力をつけてから、故郷のダンジョンに挑むのが現実的だと思うがどうだろうか。」

「お兄ちゃんが言いたいのは、魔物を倒したときに手に入る素材で武器を強化することとか、ダンジョンボスをやっつけた時に与えられるエクストラスキルで自分たちの戦力を増強しようということだよね。」

「しかし、魔物と戦うと怪我をすることがあるので、先に回復薬の調達から始めた方がいいのではないでしょうか?」

 ハルがフリーヴァーツの意見を嚙み砕き、ソフィアが別の提案をする。

「それもそうだな。ではとりあえずは薬草採取クエストを受けて資金調達をしつつ、自分たちの分の薬草も確保する作戦でいこう。ポーションが確保できたら、魔物の討伐依頼でコンビネーションの練習をして…、それも終われば、いよいよダンジョン攻略だ。」

(魔物と戦うということは、俺も、ソフィアも、ハルも、命の危険があるということだ。だが、俺のFirebondって名前は火のように熱い絆って意味だ。たとえ危険な目にあったとしても、この名に賭けて絶対にみんなのことを見捨てはしない。)

「俺は一度握った手は決して離さない――ッ!」

 フリーヴァーツはソフィアもハルも守って見せるという決意で宣言した。

「――♡ッ!はいっ!私も一度握ったお手は絶対に話しませんわ!」

 ソフィアも別の意味で宣言した。


 この日から半年間の間、俺たちはダンジョン攻略の準備に勤しむのであった――。


***

 ――11月の秋、俺たちはみんな年齢が上がり、あの頃より幾分か逞しくなった。

 俺たちはある大樹から漏れ出す樹液を採取するクエストを受けていた。ただし、樹液には虫の魔物が群がっているので、まずは虫の魔物を倒さなければならない。

 まずは俺たちがそれぞれ何ができるかを確認しておこう。

 ソフィアのスキルツリーは「狩人」で、所持スキルは<隠密>、<探知>、<猟銃>の3つだ。

 ハルのスキルツリーは「付与術士」で、所持スキルは<攻撃力上昇>、<防御力上昇>、<敏捷力上昇>の3つだ。だが、彼女は俺たちより3つ年下で、スキルの熟練度が貯まっていないので、上昇率が今は低い。

 俺のスキルツリーは「炎の勇者」で、所持スキルは<火属性魔法>、<剣術>の2つだ。


 さらに、勇者のスキルツリーを持つ者にはこれらのアクティブスキルとは別に、魔力消費無しで常時発動するパッシブスキル、<聖属性の加護>が発動しているので、身体能力が高かったり、魔法が聖属性を帯びているために魔物への魔法攻撃の威力が大きかったり、状態異常が効き辛かったりする。


 結局、スキルの効果を考えると、移動中はソフィアが索敵をしながら進み、必要があれば斥候も担当してもらう。交戦時は俺が俺とハルが前衛で戦い、ソフィアが後方から銃撃するのがいいだろう。


 森には――この森はグローブ町の森とは別の森だが――思ったよりも多くの魔物がいるらしく、ソフィアからあれこれ指示があったが、そのおかげで交戦しないまま目的の大樹の前まで来ることができた。俺は感謝して彼女を労う。


「お疲れ様、ソフィア。消耗が大きいだろうから、敵の殲滅は俺とハルで多目に分担するよ」

「助かりますわ。」

「じゃあハル、バフをかけてくれるか?」

「モチのろんだよ。<攻撃力上昇>、<防御力上昇>。」


 みんなの攻撃力と防御力が少し上昇したところで戦闘開始――。敵はカブトムシの魔物と蜂の魔物と、それから蝶の魔物の3匹だ。俺は左腰に差した片手剣を抜き、ソフィアは<猟銃>にてショットガンを出現させ、ハルは小太刀を構える。


「パーティーに<キュア>が使える人はおりませんから、毒持ちの蜂の魔物は私が遠距離から処理いたしますわ。」

「カブトムシの魔物の外骨格は私じゃ抜けないから、お兄ちゃんの炎で焼き殺しちゃって。」

「任せろ。」


 ソフィアは狙いを蜂の魔物の柔らかい腹に定め、放つ。<攻撃力上昇>のおかげで一発で沈めることができた。それを見てすかさず俺とハルは敵に向かって走り出す。


「<敏捷力上昇>。」

 ハルはソフィアにかけていた<攻撃力上昇>を解除して自分の敏捷力を少し上げる。ハルは蝶の魔物に肉薄し、そのまま切り裂いた。そして俺が<火属性魔法>を使いやすいようにカブトムシの魔物から離れるのも忘れない。俺は片手剣を右手で持ち、空いた左手で魔法を行使する。


「<火属性魔法>」

 俺の左手から噴き出した炎はカブトムシの魔物を包み込み、カブトムシの魔物はしばらくすると活動を停止したのだった。


「<探知>に反応はありませんわ。今のうちに樹液の採取を済ませてしまいましょう。」

「いや~、それにしても、私たちの連携も様になってきたんじゃない?」

ハルの言うように、俺は連携力があがってきたのを感じた。そしてすでに、当初問題になったポーションの確保も無事に完了している。だから満を持してダンジョン攻略に行こう。


「そうだな。このヤーキモーの町のはずれにも小規模なダンジョンがあるらしい。まずは、そこの攻略から始めようか。」


 みんな大好き、すれ違いロマンス!

 よかったな、フリーヴァーツ。巨乳で、可愛くて、面倒見が良くて、お前のことだけを一途に想ってくれる幼馴染やぞ。


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