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ファイアーボンド  作者: fuon
賽の河原崩し編
19/42

第十九話

***

 時は少し遡り、和風の甲冑を着たオーガジェネラルがソフィアに肉薄したとき。フリーヴァーツとルイが二人がかりで大鉈を止めた後、フリーヴァーツに少し迷いが出た。

(これだけ接近しているのであれば短距離に限定して<火属性魔法>を使うのはどうだろう。いや、反射した炎がルイに当たるかもしれないな。)


 フリーヴァーツがそんなことを考えていると、オーガジェネラルは突然大鉈を引いた。中空に盾を浮かせる<聖盾>で大鉈を受けていたルイはともかく、オーガジェネラルに力負けしないように全力で片手剣を大鉈に押し付けていたフリーヴァーツの方は()()()つんのめる。フリーヴァーツは<聖属性の加護>で強化された身体能力のおかげで転ぶことこそなかったが、オーガジェネラルはフリーヴァーツに向かって大鉈を振りかぶる。

「させませんわ!」

 直後、ソフィアがハイオーガを狙撃していたライフル銃でオーガジェネラルの顔面に近距離射撃を敢行。オーガジェネラルは彼女がライフル銃を構えた瞬間に顔を傾けたので、かすり傷ですんだ。

「ありがとう、ソフィア!」

この隙にフリーヴァーツは体勢を整えつつ、オーガジェネラルの左脇腹に片手剣をスイングしようとした。しかしオーガジェネラルは空いていた左手でフックパンチを繰り出す。

「うおっ――!?」

 フリーヴァーツはなんとかオーガジェネラルの左拳と自分の間に片手剣を差し込んで受け太刀する。咄嗟のことだったので、片手剣はパンチの進行方向に対して斜めに入ったが、むしろそのおかげでパンチの衝撃を流すことができた。結果として、少しだけノックバックされるだけで済む。一方のオーガジェネラルは小手を嵌めていたので、剣で受け太刀したのに傷ついてはいない。

「「大丈夫ですか、フリーヴァーツ様/さん!?」」

 ソフィアとルイの声が重なる。フリーヴァーツは二人に無事を伝える。

「平気だ!それよりもこいつ見た目のわりにコンパクトな動きもしてくるぞ!」

「そうですね。」

「厄介ですわ。私が隙を作りますから、フリーヴァーツ様は攻撃を続けてくださいませ。」

 ルイとソフィアがそれぞれ発言して、フリーヴァーツも同意する。

「ああ、そうしよう!」


 オーガジェネラルは大鉈を縦に振り、フリーヴァーツとルイの間の隙間から後ろのソフィアを狙う。ルイは思考を加速させる。

(ソフィアさんの銃がダメージを与えそうになったから、ソフィアさんを狙ってきましたか。パーティーのタンク役を任されていながら、私は先ほどフリーヴァーツさんをオーガジェネラルの左フックからお守りすることが出来ませんでした。でも次は仲間を守って見せます――!)

「<聖盾>!」

 ルイはいつもより気合をいれてスキルを発動させた。ルイの前に二枚の聖属性を帯びた盾が浮かび上がる。ルイは集中してオーガジェネラルが振り下ろす大鉈の軌道を見極める。

(フリーヴァーツさんは左フックを受けた時、インパクトに対して斜めに受けることで衝撃を逃がしていました。私もそれを見習って――。)

 ルイは一枚目の聖盾を大鉈に対して斜めに当てる。大鉈の軌道が逸れ、オーガジェネラルの力が流れる。そして大鉈の衝撃力が落ちたところでルイは二枚目の聖盾を大鉈に当てて、大鉈を見事に止めて見せた。

「ナイスだ、ルイ!!」

 フリーヴァーツはそう言いながら素早く大きく右に飛び、ソフィアの射線を確保する。ソフィアも右手でライフル銃を持ったまま右に軽くジャンプしつつ、<猟銃>を発動して左手にショットガンを顕現させる。

(この角度でしたら皆様に銃弾は当たらないでしょう――!)

 ソフィアは左手一本でショットガンを構え、オーガジェネラルの頭に照準を定めて静かに引き金を引く。オーガジェネラルは散弾の散らばりのせいで首を動かしてもヘッドショットは避けられない。しかしオーガジェネラルの兜は固く、兜にヒビを入れるにとどまった。ソフィアはショットガンの反動に逆らわないようにすることで、オーガジェネラルから離れつつ、右側の斜面の下で<フィデーリ>に拘束されているハイオーガを見逃さない。


(フリーヴァーツ様に近づく敵は一人残らず対処いたしませんと――。)

 ソフィアは右手に持ったライフルを右下に向け、三体目のハイオーガの射殺を成功させる。視野を広く持ち続けることと高いエイム(りょく)が要求される、常人にはできない離れ業だった。

 そしてソフィアとスイッチするようにフリーヴァーツがオーガジェネラルの頭部に跳躍斬りを試みる。今度はオーガジェネラルがショットガンで頭を揺らされていたこともあり、左フックの餌食にならない。

(――当たる!)

 そう思ったフリーヴァーツだったが、スタンから復帰したオーガジェネラルはカッ!と目を見開き、サッ!と左手で頭をガードする。

(何っ!?あそこから間に合うのか!)

 ――ガガッ!

 フリーヴァーツの剣は左腕部の鎧を貫通したが、オーガジェネラルに与えた傷は浅い。オーガジェネラルは左拳を開き、左手でルイに掴みかかる。フリーヴァーツは片手剣がオーガジェネラルの左腕の鎧に引っかかっているので、掴みかかりと一緒に盛大に振られる。

「うおおおおおっ?!」

 そしてフリーヴァーツは片手剣がすっぽ抜けるのと同時に空中に放り出された。ルイは瞬間的に考える。

(あ…、このままだとフリーヴァーツさんは後ろの崖下に叩きつけられてしまう……。)

 ルイは咄嗟に<聖盾>をフリーヴァーツを受け止めることに使う。その代償として彼はオーガジェネラルの掴みかかりをまともに食らった。

「ぐああああ!」

 ミシミシと骨が折れる嫌な音が響き、ルイの口から血が溢れ出す。ソフィアは右手のライフル銃を捨てて、左手のショットガンを両手で構えることで弾道を安定させる。そして鎧で覆われていない膝裏の内の左側を狙い撃つ。

「グオッ?!」

 オーガジェネラルが左の膝裏を押さえ、ルイの拘束が解かれる。

「ルイ!くそっ!!」

 フリーヴァーツはルイを庇うようにルイとオーガジェネラルの間に割って入り、ルイを一瞥してルイが骨折していることを見て取る。

「ルイ、下がって居ろ!オーガジェネラルは俺が倒す!」

「いけ…、ません!あなたも…、オーガジェネラルの…、強さは、分かっているでしょう……?」

 オーガジェネラルは後ろのソフィアを警戒しつつも、フリーヴァーツに右手一本で持った大鉈を横なぎに振る。フリーヴァーツは大鉈を押し込まれてルイに攻撃が当たることがないように一歩左にずれ、自ら大鉈に近づく。そして彼は両手持ちした片手剣でその大鉈を下から掬い上げるようにして受け流す。フリーヴァーツもルイがオーガジェネラルの攻撃に対して盾を斜めに当てることで衝撃を逃がしていたのを見ていたのだ。

「はっ!!……俺は大丈夫だ。怪我人はおとなしく休んでいてくれ。」

 オーガジェネラルはルイに左手の正拳突きを繰り出す。フリーヴァーツが左にずれたことでルイとオーガジェネラルの間に壁が無くなったことを、オーガジェネラルは見逃さなかったのだ。

「――――ッ!」

「<聖盾>!」

 ルイはスキルで正拳突きを受け止める。

「私はまだ戦えます!ゴホッ……。私にフリーヴァーツさんを守らせてください!」

「危険だ!」

 ソフィアはオーガジェネラルの右膝の裏をショットガンで撃つが、警戒していたオーガジェネラルは大鉈でブロックする。フリーヴァーツはオーガジェネラルが後ろを向いた瞬間にオーガジェネラルの懐に飛び込むが、突如オーガジェネラルはフリーヴァーツの方へ向き直り、左フックを繰り出す。

(くっ、罠か――!このフックを食らわないように、後ろを向いた隙を突いたつもりだったんだがな……。)

 フリーヴァーツが絶望する中、ルイは<聖盾>を駆使してフリーヴァーツを左フックから守る。

「<聖盾>!フリーヴァーツさん、力を合わせなければこのオーガジェネラルには勝てませんよ!」

「しかしっ……!しかし、俺はルイに死んでほしくない――ッ!!」

 パァアアンッ!とソフィアがライフルを鳴らしながらオーガジェネラルに向かって走る。威力の高いライフル銃はひび割れていた兜を破壊してオーガジェネラルの頭皮を晒す。オーガジェネラルはソフィアをさすがに無視できなくなり、最優先で始末しようと動く。

 ――バッ!!!

 左膝を負傷したはずのオーガジェネラルは、なんと右足の力だけで凄まじい跳躍をして一気にソフィアとの距離を詰めたのだ。さらに不幸は重なる。

「わぷっ?!……しまった!!」

 フリーヴァーツはオーガジェネラルが巻き上げた土で目潰しされ、ソフィアのカバーに行くのが遅れたのだ。だが、彼は諦めない。


(諦めるな!仲間の命だけは諦めたらだめだ!!)

 フリーヴァーツは死に物狂いでオーガジェネラルの背を追いかける。ルイもフリーヴァーツの後に続く。一方、迫りくる凶刃によって窮地に立たされたソフィアが選んだ行動は二発目のライフル弾を発射することだった。

(受け技は間に合いませんわ。でしたら、一か八かでヘッドショットを狙うまでですわ!)


 彼女はライフルの銃口をオーガジェネラルの頭に向け、即座に引き金を引く――。パンッと発射された銃弾はしかし、左腕を頭に(かざ)したオーガジェネラルによって防がれてしまった。オーガジェネラルも一応左腕部の鎧が破損したり、左腕に新しい傷を作ったりしたが、この程度で止まることなどなかった。


(((間に合わないっ――!)))

 それがフリーヴァーツ、ソフィア、ルイの共通認識だった。無慈悲な刃がソフィアを襲う――。しかし大鉈はソフィアに届かない。黒い雷がオーガジェネラルに直撃した。矢から逃げていたハルがオーガジェネラルのところまで辿り着いたのだ。


(ありがとう、ハル――ッ!今しかないっ――!)

「うおおおおお!」

 今度はフリーヴァーツがオーガジェネラルの背中に跳躍する番だ。しかしオーガジェネラルもこのまま()られまいと、<フィデーリ>の拘束を死に物狂いで振り切って身体を捻り、フリーヴァーツに向かって大鉈を振った。

「させません!<聖盾>――ッ!」

 しかし大鉈は無慈悲にもルイに止められた。そこにフリーヴァーツの片手剣が振り下ろされる――。

 オーガジェネラルの顔が半分に割られた。

 

 一瞬の静寂――。特に木の上から矢を射かけていたオーガたちは何が起きたか分からなかった。分かりたくなかった。対するフリーヴァーツは自分たちを苦しめた強敵を倒せたことに興奮する。

「うおおおおおっし!!」

 フリーヴァーツは思いっきり叫んだ。

(これでソフィアやルイを殺しかけたオーガジェネラルは死んだ。ブラッディコート事件のときと違って、大切な仲間たちを無くさずに済んだんだ!)


 しかし、すぐに敵討ちの矢がフリーヴァーツたちを襲う。フリーヴァーツはすぐに仲間たちに指示を出す。

「矢は俺が受ける。<火属性魔法>!ソフィアは<探知>を使って狙撃してくれ。」

「私も盾を張ります!<聖……。」

「いや、ルイは休んでいろ。せっかくオーガジェネラルを倒したのに、ここで怪我をしているルイが無理をして死ぬのは嫌だよ……。ハルも休んでいていい。ソフィアはすまんがオーガの掃討をしてくれ。」

 ソフィアも「お気になさらないでください。フリーヴァーツ様との楽しい共同作業に邪魔者が入ってもらっては(かな)いませんから。」と言って微笑む。ルイは二人の優しさに甘えることにした。ハルは「私疲れてないよ。」と言っていたが、明らかに息切れしている。フリーヴァーツは「無理に気を使わなくていい。だがハルの性格的にどうしても俺たちの役に立ちたいなら、周囲の警戒をしていてくれ。」と軽く流す。「それではせめて私も周辺の警戒をします。」と宣言したルイと一緒にハルは近づいてくる敵がいないかを見張る係に回った。


 フリーヴァーツの炎がオーガたちの矢を防ぎつつ、ソフィアの銃口がどこを向いているのかを隠し、<探知>を利用したソフィアの狙撃が一方的にオーガたちを打ち抜いていく。木の上のオーガたちは木の上から降りて接近戦に持ち込みたいところだが、生憎彼らは弓矢しか持っていない。一言で言うとオーガたちは劣勢だった。オーガの指揮官は矢の残数を目視確認する。すでに矢をほとんど撃ち尽くしていたので、フリーヴァーツの魔力が尽きるまで持久戦をすることもできない。もっと言えば現状の攻撃はフリーヴァーツ一人に止められてしまっているが、まだルイの<聖盾>という防御スキルも残っている。自分たちの攻撃が全く効かず、隣の仲間が一方的に殺されていくというのは人でもオーガでも堪えるもので、オーガたちは次第に戦意を喪失していく。さすがにオーガ陣営の指揮官は仕切り直すことに決め、撤退してくのであった――。


 今回の話の冒頭で混乱なさった読者様もいらっしゃるかもしれませんが、今回の冒頭のオーガジェネラルと戦っている描写はフリーヴァーツ視点で描かれたものであり、前回の冒頭のオーガジェネラルと戦っている描写はソフィア視点で描かれたものです。


 ついでに申し上げますと、オーガジェネラルとの戦闘描写でフリーヴァーツ、ソフィア、ルイに矢が飛んでこない理由はオーガジェネラルが人間と比べてあまりに大きく、また近接戦闘中はふいに激しく動くこともあるため、木の上に控えているオーガが下手に矢を撃つと、味方のオーガジェネラルをフレンドリーファイアする恐れがあるからです。加えて、斜面にいるハル、レティシア、マーヴ、イーダの方に矢の射撃を集中させていたという理由もあります。


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