第十七話
***
細道を渡ったソフィアたちがフリーヴァーツたちと合流した後、八人全員で山道を進んで行く――。
しばらく進むと、整備された道が大きく崩落している箇所に辿り着いた。
「巨大オーガにでも叩き崩させたのかな?まあ、とにかくここは通れないから、いかにもココを通ってくださいと言っているような、そこの脇道に入ろうか。」
レティシアの提案にしたがって一同は傍にあった、踏み固められた獣道に入っていく。数メートル程その獣道の坂を上ると、山の尾根に出た。地形的に横陣が敷きにくいため、一行は自然と一列縦隊の形になる。いつものフォーメーションが組みづらいことを自覚しつつも、フリーヴァーツパーティー、レティシアパーティーの順で山頂目指して尾根の上を伝って山を登っていく。
「歩きづらいし、落ちたら大怪我だな。みんな、落ちないように足元に注意しろよ!」
フリーヴァーツが呼びかけたように、一行は足元にも注意を向けないといけなかった。そして当然のように待ち構えている頭上からのオーガの奇襲。山の両側の斜面から生えている木の上からオーガたちの弓矢が垂直クロスファイアだ。
フリーヴァーツたちがクラスター状に纏まっていれば防御もしやすかっただろうが、今は一列縦隊になっているので、みんなで必死に守り合う。一番先頭にいたルイは両手を顔の前で交差させて顔面を守りつつ<聖盾>を発動し、自分と後ろのソフィアを守る。
「ソフィアさんっ――!」
「ありがとうございます、ルイ様。<探知>、<猟銃>。」
ルイに守られたソフィアは<探知>と<猟銃>を起動。枝葉で体を隠したオーガの位置を<探知>で補足しながら、ショットガンで狙撃していく。
(山火事を気にしていたら、ハリネズミにされて死ぬな……。)
ソフィアの後ろにいるフリーヴァーツはそう判断して森の中で<火属性魔法>を行使することを決意した。
「<火属性魔法>!」
(山の麓でオーガたちと戦った時、レティシアさんは<風属性魔法>で矢の腹を押すことで矢をいなしていた。ならば<火属性魔法>で同じく矢の腹を押せないのか?いいや、俺はそれをやってやるんだ!!)
フリーヴァーツは下から上に勢いよく炎を噴き出し、それを両横に炎の壁を作るように展開する。飛来して来た矢は彼の目論見通り、炎の流れに押されて明後日の向きに方向転換してそのまま燃え尽きた。その他の仲間たちもそれぞれ自分の仕事をこなしていく。
「<防御力上昇>。」
「<風属性魔法>。」
「<ヒール>。」
「<土属性魔法>。」
フリーヴァーツの後ろにいたハルは八人全員の防御力を上昇させ、ハルの後ろのレティシアが風で矢をいなし、レティシアの後ろのイーダが傷ついた味方を癒し、最後尾のデールが斜面から土壁を生やして矢を防ぐ。そして、マーヴが言った。
「デールさん、俺の横の土壁にアーチ状の穴を開けてもらっていいっすか?」
「おう、何かするつもりだな?<土属性魔法>。」
「<大砲>。」
デールの防御でマーヴの大砲の射線は塞がれていたが、デールの前にいるマーヴは構わずに<大砲>を使う。彼の両側に顕現した二門の大砲は重力に従い、斜面を下っていく。土壁のアーチを通り抜けた大砲が転がっていく先にあるのはオーガたちが登っている木だ。巨大な質量が気を根元から揺らし、木の上のオーガたちを落下させたり、木をへし折ったりした。
「お!マーヴ君、それいいねぇ。<土属性魔法>!」
マーヴのやっていることを見たレティシアはすぐに真似して、巨大な岩石のボールを転がす。
「<土属性魔法>。」
そのレティシアをさらに真似してデールが岩石の球を転がし、マーヴが木の上から落としたオーガを轢きつぶしていく。
そこからのオーガたちの判断は早かった。オーガたちはすぐに今いる木から隣の木へと飛び移り、撤退していった。結局木々に火が燃え移ることもなく、多少全員の魔力が削られたものの、ダンジョン攻略の続行に支障はないと判断された。
***
「さあ、みんな、気を取り直して先に進もうか。」
レティシアの号令一下、攻略を再開した一行であったが、その後もたびたび同じ待ち伏せに会い、一同は着実に魔力、体力、精神力を削られていった。一度休憩を取りたかったが、そんな素振りを見せた途端にオーガたちは木の上を伝って来たため、碌な休憩も取れなかった。そして一同はもう何度目かも分からなくなった、木の上からの奇襲攻撃を受ける。
「またか……。」
フリーヴァーツが辟易しながら上を見上げたのに合わせて各自戦闘態勢に移ったその時、ソフィアが右手側に見える大きな切り株を指して叫んだ。
「<探知>に反応ですわ!そこの木の洞にオーガが六体潜伏してますわ!」
「何――ッ!」
敢えてワンパターンにされた攻撃方法にみんな悪い意味で慣れてしまっていたので、ソフィア以外の全員の意識は上に向いてしまっていた。ゆえに地上からの側面攻撃への対応がワンテンポ遅れる。しかも木の根元の洞から出て来たオーガたちは明らかに普通のオーガとは風格が違った。彼らは一体の和風の甲冑に身を包んだオーガジェネラルと五体の羽織袴を着たハイオーガで構成されるコマンド部隊だった。もっと言えば、フリーヴァーツたちは尾根の上にいるせいで、一列縦隊とかいう横腹を突きやすく、突破も容易な陣形になっていた。
一体のハイオーガが<縮地>を発動させてイーダとの距離を一瞬で詰める。今まで万全の守りを保障してきたデールの<土属性魔法>が使われる前に接近したハイオーガは腰に差した刀に手をかけていた。このまま居合抜きでイーダを切り捨てるつもりだ。
「――っ!」
イーダは死を覚悟したが、ハイオーガの刀が抜かれる瞬間、イーダの前に強引に割り込む影があった。
「イーダさんっ!!!」
イーダへの恋心ゆえに、今までの人生で一番の反射神経を発揮したマーヴが槍でハイオーガの居合を受ける。しかし、ただでさえ筋力に優れるオーガの中でもより筋力が強いハイオーガが、<居合>でさらに威力を底上げした抜刀術は生半可な防御で防げるほど甘くはなかった。ハイオーガが繰り出した凶刃はマーヴの槍を両断するだけでは飽き足らず、マーヴの体を深々と切り裂き、浴びるように血を飲む――。
マーヴはデールの父親の腕がよく、槍が丈夫だったおかげで即死を免れたものの、ハイオーガの膂力に押され、背後のイーダごと尾根から左側の崖に落下していく――。
「ゴフッ――!」
「きゃあっ!」
マーヴとイーダはそれぞれ口から血と悲鳴を上げながら落ちていく。ここでハイオーガは彼らを助ける隙を与えないようにするために連続技を放つ。マーヴを切った時に右上に振り抜いた刀を即座に翻し、レティシアのほうへ一歩踏み込む。そして両手持ちにした返しの刃をレティシアを彼女の左肩から袈裟斬りにするように振り下ろした。
(速ッ――!)
レティシアは自分の魔法よりもハイオーガの刀の方が速いことを理解できてしまった。
しかし今度はデールがカバーに走っている。彼は<土属性魔法>を使い、ノールックで後ろの斜面に土の壁を生やしてマーヴとイーダが崖下まで転落しないようにしつつ、<鉄拳>を発動。<鉄拳>によって加速した右拳を手の甲がハイオーガのほうを向くようにして、レティシアの前に滑り込ませる。さらに、拳がレティシアの前に差し込まれるまでのわずかな時間で右腕を石のグローブで雑に覆った。
「フン――ッ!」
ガッ!!という衝撃音の後、ハイオーガの刀は止まったが、刀は石のグローブを切り裂き、デールの肉に達している。
なお、この一瞬の攻防でレティシアはハイオーガが出て来た側と反対の斜面に一歩押し出され、滑落しそうになったが、なんとか踏ん張った。彼女は右腕から血を流すデールを<聖属性魔法>でヒールしようかと一瞬迷ったが、彼女の後ろではデールの<土属性魔法>によって受け止められたとはいえ、いまだに無防備を晒しているマーヴとイーダがいる。そんな格好の的を木の上のオーガたちが見逃すはずもなく、マーヴとイーダ目掛けて矢が殺到した。ヒュンッ!という鋭い飛翔音にハッ!とさせられた彼女は急いで180°反転し、そのまま斜面を滑落するかのように下りる。
「絶対に守って見せる――ッ!<風属性魔法>!!」
彼女の全力の<風属性魔法>は自身とマーヴとイーダに降り注いだすべての矢をいなした。
ザザザーッ、ジャッ!と斜面を滑り下りたレティシアは早口でマーヴとイーダの無事を確かめる。
「マーヴ、イーダ、無事!?」
レティシア自身も口に出した直後に、マーヴは確実に無事ではないことは理解したが、これは事態が急変しすぎて冷静に対応しきれていないところがある証左だった。
「私は無事です!お願い、生き返ってマーヴ君っ――!<ヒール>!!」
イーダはマーヴの蘇生を最優先に、全力で<ヒール>を行使する。彼女の必死の治療の甲斐もあってマーヴは呼吸が安定してくる。だが、彼のか細い虫の息などかき消して余りある大音量で角笛が吹かれた。
「ああ、くそっ。確か前はこの笛の後に増援らしき騎馬隊がでてきたんだっけ。」
レティシアは忌々し気に呟いたが、実際に来たのは弓矢部隊の増援だった。オーガの弓矢部隊の増援により、レティシア、マーヴ、イーダは半包囲される。
(ああ、もう!無駄に練度が高いっ!もう敵の増援が来たのかよ……。しかも、さっきまでよりも矢の物量が増えた上に、多角的な射撃になってるし。)
レティシアは心の中で盛大に愚痴をこぼす。
(正直、私一人を狙った飽和攻撃なら強引に何とかするけど……。)
彼女は足元のマーヴとイーダのことをチラと見る。そこには瀕死のマーヴと必死に<ヒール>をかけるイーダの姿があった。
(私にはこの子たちを守る義務があるっ――!)
レティシアは意気込んで魔法の出力を上げたが、防戦一方になっていることに変わりはない。さて、どうしたものか……とレティシアが冷や汗をかきながら考えていると、突如彼女の足元に大砲が出現した。
「マーヴ君……!?」
「マーヴ君、無理をしないでくださいっ――!」
レティシアは目を見開き、イーダは瀕死のマーヴが無理しているのを止める。マーヴはそれでも意を決した笑顔で言った。
「こいつを…盾に……。」
彼は決して大砲から手を離そうとしなかった。彼が大砲から手を離すと五秒後に大砲は消えて、矢を防ぐ壁が無くなってしまうから。レティシアは彼の覚悟を感じ取って言う。
「ありがとうっ――!」
レティシアは大砲を壁にしてしゃがみ、矢から身を守る。角度的にそれでも飛来する矢はあるが、警戒するべき矢の数は大幅に減った。それで生まれた余裕を反撃に回す。
「<土属性魔法>。」
レティシアは巨大な岩石球を転がし、オーガが陣取る木の根元を脅かす。ああ、この戦法も元々はマーヴ君のおかげで生まれたんだっけ。レティシアが岩石球を転がすとき、ふとそんなことを思った。彼女は左側の木の上にいるオーガを倒していく――。
前回の話で断崖絶壁にある細い一本道を渡る話をしたと思います。話を引き延ばして悪いのですが、レティシアたちがその道を渡るときに、なぜ<土属性魔法>で道幅を拡張しなかったのかの説明を加えさせてください。
レティシアたちとしては、たとえ道幅が広がったとしても、前方の対岸と横の崖上に潜むオーガたちによって立体的な挟撃をされることは変わりはありません。この状態でみんなで拡張された道を渡ろうとした場合、崖上のオーガたちとしては道幅が広くなったことで、その道に降りてきて奇襲をするという作戦が取りやすくなります。横撃もそうですが、特に崖上のオーガが背後に回り込んだ場合が厄介であり、オーガが一体でも後ろを取れば、レティシアたちとしては前方、崖上、後方を警戒しながら戦わなければならなくなるということです。イーダあたりは攻防ともに課題があるため、彼女を守り切れるかどうか分からない状況にはあまり持ち込みたくないという事情もあり、戦闘能力に優れるフリーヴァーツ、デール、レティシアの寡兵で敵の大軍に突っ込む方が生存率は高いのではないかという私の愚考の結果、あのような描写に致しました。
高評価・コメントお待ちしております。




