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ファイアーボンド  作者: fuon
賽の河原崩し編
15/42

第十五話

***

 一行は山の麓に差し掛かった。山肌には坑道の入り口が四つ横並びしていて、それぞれの入り口には二体ずつオーガが見張りに立っている。麓は木々が伐採されているため、見晴らしが良かった。フリーヴァーツたちの接近に気付いた見張りのオーガたちは角笛を吹き、坑道の中に待機していた仲間に敵の接近を知らせる。四つの坑道からは続々とオーガたちが出て来て隊列を整えようとするが、レティシアはオーガの隊列が整う前――と言うよりオーガたちが全員坑道から出てくる前に判断を下す。


「マーヴ、<大砲>で坑道の上を狙え!」

「入り口を崩落させて敵を閉じ込めるんっすね!」

 マーヴはレティシアの意図を正確に汲み取りながら、スキル<大砲>を起動し、大砲を展開する。それと同時に、デールが<土属性魔法>にて大砲の後ろに壁を作り、マーヴの大砲が下り坂に沿って落ちていかないように支える。

「デールさん、あざっす!」

 カジュアルな礼を言いながら放たれたマーヴの砲弾は見事に一番右端の坑道の入り口の上に命中し、入り口を完全に塞いだ。しかし残る三つの坑道からは依然としてオーガたちが出てきている。さらに言えば、崩落させた一番右端の坑道にもすでにオーガたちの救援部隊が群がり、土砂を退かそうとしている。このままではいずれ右端の坑道からに潜んでいた部隊も出てきてしまう。そこでマーヴは初めてのチャレンジをすることにした。


「ソフィアさんって、銃を二丁同時に作れるんっすよね。だったら俺も大砲を二門同時に出すっす!マーヴさん、さっきみたいに支えてくださいっす!」

「おう、任せろ!」

 マーヴが大砲を二門創造し、デールがそれらを支える。しかし、オーガたちも大砲で坑道を崩落させられると危険なことを学んだので、マーヴに矢を射かける。その矢をレティシアの<風属性魔法>によっていなし、ソフィアがショットガンで応射する。そして二門の大砲から砲弾が発射された。一発は右から二番目の坑道の上に直撃し、入り口を封鎖する。しかし、もう一発は右から三番目の坑道の入り口の右上に当たり、入り口の右半分だけ閉じる形になった。

「っ、すいませんっ!」

 マーヴが謝罪し、レティシアが素早く指示を飛ばす。

「いや、上出来だよマーヴ君!それよりも敵が突撃してくる前に敵の少ない右側から駆け上がるよ!ハルちゃん、全員に<敏捷力上昇>!」

「はいっ!」

 敏捷力が上がったレティシアはさらに<風属性魔法>を発動。一気に坂道を駆け上がり、近くにいたオーガを蹴散らす。そうしてできた拠点にフリーヴァーツたちがなだれ込む。

「<火属性魔法>!」

 鉱山開拓によって山の麓はきれいに森林が伐採されていることを活かし、まずはフリーヴァーツが<火属性魔法>によってオーガたちを豪快に焼き払う。山の上の方はまだ木々が残っているため、これ以降は山火事対策で<火属性魔法>の出番が極端に減ることと、なるべく早く今展開されているオーガの部隊を殲滅しないと、入り口を塞いだ坑道が復旧してオーガの増援が出て来る可能性があったため、フリーヴァーツは一切の手加減をしない全力の魔法を行使した。


 フリーヴァーツの魔法の威力と横陣の側面への攻撃による相乗効果により、オーガの軍勢は大きく揺らぐ。オーガ陣営も何とか態勢を立て直そうと、指揮官が指示を飛ばそうとするが、ハルのエクストラスキルがそれを許さない。

「<フィデーリ>。」

 冷酷無慈悲に指揮官らしきオーガに大太刀によって強化された黒い雷が命中する。さらにダメ押しでデールが坑道の入り口の土砂を<土属性魔法>によって分厚く、堅牢にしていく。マーヴが封鎖しきれなかった、右から三番目の坑道の入り口も完全に封鎖した。


 オーガの軍隊は動揺し、指揮官は思考を封じられ、援軍も来ることができない。もはやオーガたちに勢いづいたフリーヴァーツたちを止める術は無かった。デールが握り拳を<土属性魔法>によって生成した岩石で覆い、何気に初出のスキル<鉄拳>を起動させ、オーガに殴り掛かる。それを皮切りにフリーヴァーツの<剣術>が、ソフィアの<猟銃>が、ハルの<フィデーリ>が、レティシアの魔法が、マーヴの槍がオーガたちを襲った――。


 オーガの数が多かったので、殲滅には時間がかかったものの、終始一方的な展開で戦闘を終えることができた。オーガ殲滅直後、元々四つあった坑道の内、左端の坑道だけは閉じられていなかったので、デールは一番左端の坑道を指しながらソフィアに問いかける。

「ソフィア、お前さんの<探知>にこの坑道の中から敵の反応はあんのか?」

「いいえ、反応はありませんわ。」

「なら、この坑道は塞ぐ必要は無ぇな。俺たちが下山する時にオーガどもと戦わなくていいように、他の三つの坑道はしっかりと塞いでおこう。」

 デールは<土属性魔法>にて坑道の封鎖をより強固なものにした。そしてデールが作業を終えるやいなや、ハルがみんなを急かす。

「よし、デールさんの土木工事も終わったことだし、先に進もう!」

 このハルの発言にソフィアは苦言を呈し、フリーヴァーツは苦笑いする。

「ハル、周りのことも考えなさい!先程の戦闘で皆様疲れていらっしゃるでしょう?」

「ははは、ハルはいつも元気いっぱいだからなぁ。でも、今回は少し休んだ方が良いんじゃないか?」


 一方でレティシアはハルの意見に反対はしなかった。

「いや、ハルちゃんの提案もあながち悪くないよ。ここは敵地でしかも見晴らしが良い。ということは、ここで休憩していると敵が寄ってきやすいだろう。今の戦闘で疲れてるかもしれないけど、周囲のクリアリングだけはやっておこうよ。」


 そういうわけで、一行は一番左の坑道のさらに左にある川――おそらくこの川を伝って鉱石をホレイショーまで運搬しているのだろう――に架かる橋を渡った。渡った先はホレイショーの鉱山開発ないし林業で伐採されたのか、やけに木々が無く視界がいい印象を受ける場所だった。しかしソフィアはある場所を指差して叫ぶ。

「<探知>が反応しましたわ!そこに敵が!」

 ソフィアが指したのはシダ植物が密集して生えている、山頂側に一段高くなった崖の上だった。ソフィアの警告がオーガ側にも聞こえたようで、果たしてシダ植物の下に文字通り伏せていたオーガたちが一斉に立ち上がった。


 ――ッ!レティシアは即座に脳を回転させる。

(坑道のところで私たちを消耗させておいて、戦闘終了後の気の緩みをついた奇襲か。私たちが坑道に入ったら背後を突き、そのまま進んだらシダ植物に身を隠して横撃するつもりだったな。だがよく見れば数は六体しかいない。ここは冷静に――。)


 ここで一体のオーガが高らかに角笛を吹き、オーガたちが突撃を開始する。レティシアは作戦の変更を強いられた。


(くっ、まさか援軍を呼んだ?こっちはさっきの戦闘の疲労も残っているのに、増援が来るのか。敵の数がこちらより多くなるなら、橋で迎撃して敵の包囲を防ぎつつ各個撃破を狙おう。)

「みんな、さっきの橋まで戻って!」

 レティシアの号令に従い、一行は急いで橋の上まで戦略的撤退を開始。しかし一行が背を見せた途端、オーガたちはその背を追ってくる。その追撃は速く、ルイがスキル<聖盾>を使って殿(しんがり)をせざるを得なかった。

「ルイ!<剣術>!」

 フリーヴァーツは仲間のピンチを見過ごせず、ルイの下へ戻ろうとしたが、フリーヴァーツのカバーよりも先に、デールがルイと鍔迫り合いをしていたオーガをスキル<鉄拳>で殴り飛ばす。そしてデールは<土属性魔法>にて簡易的なバリケードを作って叫ぶ。

「走れ!」

 デールの叱咤で足が止まっていた一行は再び走り出し、橋の上までたどり着く。そのまま反転し、戦闘に備えた。


 ――パカラッ、パカラッ!

 一行はこの音に聞き覚えがあった。――そう、これは馬が走るときの蹄の音。それに気づいた瞬間、レティシアは慌てて警報を叫ぶ。

「――ッ!みんなッ、橋から撤退して左右に散開!」


 彼女の悲鳴のような命令に訳も分からないまま、フリーヴァーツたちは橋からさらに坑道側に戻り、フリーヴァーツパーティーは向かって右に、レティシアパーティーは向かって左に飛び出す。直後、奇襲をかけてきた歩兵の代わりに、バイコーンに跨った敵の騎兵六騎が橋の上に突っ込んできた。


(危なかった。あのまま狭い橋の上にいたら、一網打尽にされていた。)

 レティシアは動揺しながらも、冷静に次の手を打つために周囲を確認する。ソフィアはすでにショットガンを構え、迎撃に移っていた。これを見て、内心では敵に分断されたことで焦っていたレティシアも落ち着きを取り戻し、全員を鼓舞する。

「今私たちは敵を挟撃しているぞ!パーティー単位で落ち着いて戦え!」

「みんな、行くぞ!<火属性魔法>!」

 彼女の鼓舞に応えて、フリーヴァーツも果敢に攻勢に出る。しかし、バイコーンは火を恐れない。

「<猟銃>。」「<防御力上昇>、<敏捷力上昇>!」

 フリーヴァーツパーティーの仲間たちも戦闘に参加する。

 対する馬上のオーガたちも勇敢に交戦する。まずは機動力を活かして挟撃から脱出を図り、馬に乗っているという高所の有利で人数差をカバーを試みる。その戦いぶりは(まさ)しく人馬一体であった。

 しかし、挟撃の形を保つためにレティシアが細かく魔法で牽制したことが効き、じわじわと人数差の有利が現れて来る。そしてついにフリーヴァーツパーティーが一体のオーガを落馬させることに成功する。ここでフリーヴァーツは落馬したオーガに止めを刺しに駆け出したが、残されたバイコーンが暴れ出し、ソフィアに向かって突進。

 それに驚愕したフリーヴァーツは足を止め、口を開けるが、ルイがソフィアとバイコーンの間に滑り込み、ソフィアをカバーする。ソフィアはルイと入れ替わりでバイコーンの左半身側に飛び出しつつ、フリーヴァーツからもらったナイフを取り出し、そのままバイコーンの首筋を切りつける。ルイがバイコーンの突進の勢いを殺していたので、ソフィアはバイコーンにナイフを当てることは出来たが……。


(浅いっ――!俺がソフィアとルイのカバーに行かないと!!)

 フリーヴァーツはそう判断して走り出したが、すぐにバイコーンは「ビヒィイイイイン?!」という悲鳴を上げながら横転し、呼吸と脈拍を停止した。

(――!?一体何が……。いや、それよりも――。)

「ソフィア、ルイ!怪我はないか!?」

「はい、ありませんわ。」

「私は無事です。」

 ソフィアとルイはそれぞれ怪我が無いことをフリーヴァーツに伝えた。それに対してフリーヴァーツは本気で安堵のため息を吐く。

 そして、暴走したバイコーンが無力化されたことに安心したフリーヴァーツが落馬したオーガの方に向き直ると、オーガたちは落馬した仲間を拾い上げ、撤退していくところだった。落馬したオーガを倒しきれなかったことは無念だが、それよりも今はソフィアとルイが無事だったことを喜ぼうとフリーヴァーツは思った。


 一方のレティシアは思考に耽っていた。

(こりゃ、おそらく敵はゲリラ戦に移行したかな。角笛の合図で大軍の襲来を警戒したけど、実際に出て来たのは結局少数の騎兵だけだった。単純に山道の険しさのせいで大軍が動かしにくいというのもあるだろうが、敵はホレイショー攻めに失敗して数が減っている状態で、複数ある登山道のすべてに兵力を分散配置せざるを得ない。もっと言えば、敵は道なき道を強引に登ってくる人間にも警戒しておかないと、奇襲で簡単にダンジョンコアが破壊されてしまう。敵からすれば、今の状態で山全体に警戒網を敷くのはナンセンスだから、山頂のダンジョンコアの気配がする場所に兵力を固めないといけない。そうなると敵の内情は想定よりも厳しいのか。それこそ今私たちに大軍を差し向けて追撃してこないぐらいには。)


 レティシアはみんなを見渡し、次いでデールが入り口を塞いだ坑道の方を見る。

(この坑道の中に多数の敵を拘束できたことも踏まえると、意外とここで休息をとっても安全か?)

 そう判断したレティシアはみんなに号令をかける。

「ふぅ、疲れたねみんな。朝令暮改で悪いけど、やっぱりここで一度休憩を取ろう。」

 一行は再序盤にも関わらず、坂道ダッシュ・連戦・大小の状況判断によって疲れが見え始めていたこと、敵の個々の強さ、休める余裕を理由にレティシアはみんなを一度休ませることにした。とはいえ、敵地の真ん中で気が休まるかと言われれば無理があるので、レティシアは仲間の緊張をほぐすために雑談を試みる。


「ところでソフィアちゃん、さっきはどうやってバイコーンを倒したの?おねーさんの知らない所でそのナイフに細工したな~?」

「ええ、フリーヴァーツ様からいただいたナイフにCornelius(コーネリアス)先生の毒薬を塗ってみたんです。」

 ソフィアの言葉にレティシアは「毒ねぇ……。」と呟き、フリーヴァーツは驚いた。

「先生ってことはそのコーネリアスさんから薬学でも習っていたのか?初耳だな。」

「はいっ、何かと役に立ちますから!」

「俺はソフィアと長い間、本当に子どものころから一緒に過ごしてきたけど、ソフィアに薬学の知識があるとは知らなかったなぁ……。でも考えてみれば、薬学の知識は領民の病気を治したり、町の衛生環境を整えたりすることに役に立つよな。領主の娘も大変だな。」


 実際にはフリーヴァーツの予想したソフィアの薬学知識の使い道は、ソフィアにとって一番重要というわけではなかった。そこでソフィアはフリーヴァーツのために薬学を学んでいたことを伝えようと口を開いたが、第一声を発する前にハルの声が響いた。

「坑道の奥におやつが入った袋が落ちてました!意外と腐っていそうな臭いはしませんし、少し舐めてみても変な味はしませんでしたから、もしかしてこれ食べられるのでは!?」

 ハルは唯一入り口を塞いでいなかった一番左の坑道から顔を覗かせながら、そんなことを言った。みんなが疲れている中、彼女はいつの間やら坑道に入って奥を調べてきてくれたようだ。

「ハル……。それは鉱員が落としてから何日も経っているものですわ。絶対に食べたり、まして他人に勧めたりしてはいけませんわ。」

 ソフィアは呆れ交じりにハルを(たしな)めた。だが、このハルとソフィアの会話でみんなの空気は和んだため、一行は想定より質の良い小休止を取ることができたのであった。


・<土属性魔法>で落とし穴は掘れないというお話

 今回の話ではオーガの騎馬隊が橋の上を駆け抜けるシーンが出てきました。騎兵の突撃を回避するのに精一杯だったとはいえ、もしデールの<土属性魔法>でタイミング良く橋の出口に落とし穴を掘ることができたらよかったと思いませんか?だって騎馬を落とし穴にはめることさえできれば、後は身動きの取れなくなった騎兵を生き埋めにするだけで簡単にキルが取れたのですから。


 ちょっとややこしい書き方で申し訳ありませんが、この作品には

「<X属性魔法>をもってしても、自分の魔力で作られていないXを直接操って動かしたり消したりすることはできない。

(ただし、X = 火、水、土、風)」

 という設定があります。

 この設定があるから<土属性魔法>で手早く落とし穴を掘ることができず、バイコーンを落とし穴にはめることが難しいわけです。したがって、<土属性魔法>で騎馬を穴に落として、馬上にいることによる高所の優位と機動力の優位を削ろうとしても、それは難しくなっています。


 こう言うと、「じゃあ、あらかじめ地中に<土属性魔法>で大きな石を創造して土を押し退かしておいて、タイミング良くその魔法で作った石を消せば、地面が崩落するから落とし穴がすぐに作れるじゃないか」と思う方もいらっしゃると思いますが、そもそも魔力はそんなに地中深くまで届かせることができないので、<土属性魔法>で地中深くに石をつくることはできません。


 高評価・コメントお待ちしております。

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