第十一話
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翌日、俺たちは冒険者ギルドにいた。沸々、ピリピリと周りから緊迫感を感じる。今は決起集会が始まるのを待っている段階だ。冒険者ギルドには溢れんばかりの冒険者たちが集まっていた。これほどの数の冒険者が一堂に会すのは壮観だった。この光景を見て、俺は感じたままの感想を漏らす。
「人の数がすごいですね。」
「二千人いるらしいよ。」
レティシアさんは何でもないように答えたが、俺は衝撃を受けた。
「二千人ですか!よくこんなに冒険者が居ましたね……。」
俺のこの言葉にはソフィアが答える。
「ホレイショーはもともと大きな街ですし、近くにダンジョンがありますから、これほどの数の冒険者がいたんですわ。」
「そうか。ホレイショーは人が多いから、冒険者の数も多くなるのか。」
俺が納得していると、威厳のある男性の声で「皆の者、注目!これよりホレイショー防衛戦の決起集会を始める!」という言葉が響き渡った。
俺がギルドの集会場の中央に目を向けると、冒険者ギルドホレイショー支部の支部長と白いコートを着た二人組がいた。先ほどの声は支部長のものだろう。それはいいが、白いコートの二人組は浅黒い女性のエルフと50代後半の男性の人間のコンビは誰だ?エルフの方は金髪のショートボブで、緑色のビキニアーマーの上から白色のコートを肩掛けしている。彼女が手に持っているのは本の魔道具、別名、魔導書と言われるものだ。人間の方は白髪交じりの青髪だ。元々は濃かったであろう青い髪も、色素が抜けて薄くなってしまっている。彼は隣のエルフの女性とは異なり、白いコートのボタンをすべて止めていて、前をしっかりと閉めている。彼は杖を握っていた。
そして、支部長が話し始める。
「皆の者、今日はよく集まってくれた。周知のように、オーガどもは明日にでも、このホレイショーに押し寄せて来るだろう。その数は1万を超えるかもしれん。」
周りの冒険者たちがざわめく。
「しかし、皆の者、安心せよ!この緊急事態に、あのホワイトコーツが駆けつけてくれた!なぜ彼女たちはホワイトコーツと呼ばれているか知っているか?知らなければ教えよう!冒険者たちが戦闘をすると、通常服が汚れたり、破れたりするものだ。しかし、彼女たちは違う!汚れの目立つ白い服を着て戦っておきながら、全く汚れていない!なぜか?そう、彼女たちは文字通り敵を寄せ付けない強さをしているからだ!彼女たちの白いコートは強者のみに許された白き輝きなのだ!!今の俺たちには、そんな彼女たちが付いている!彼女たちがいる限り、我々に敗北の二文字は無い!」
一瞬の沈黙。そして興奮。冒険者たちは口々に叫び出す。
「うぉおおお!」「そうだ、そうだ!俺たちは負けねぇ!」「テンペスト様ー!」「水使いのおっさんにも期待してるぜー!」「ホワイトコーツ万歳!」「鬼どもがどうしたぁ!かかってこいやー!!」「俺たちもやるぞ!」「いよっ!ジョウェルの末裔!」「勝つぞー!」
気づけば俺も熱に浮かされていた。興奮が体を熱くする。敵の数は多い。でも、これなら本当に勝てるんじゃないか?
ここで、浅黒いエルフの女性が前に進み出る。
「傾注!」
よく通るはっきりとした声だった。しかし、この一言だけで、あれだけ騒いでいた冒険者たちが、しんと静まりかえるのは、ある種の恐怖を感じた。異様だった。
「私は先ほど紹介されたホワイトコーツのリーダーを務めている、Galen Futh Jowelだ。それとも、こう言った方がいいかな?嵐の勇者、『テンペスト』のガレンと。――さて、時間もないから早速はじめていくぞ。私のほうからホレイショー防衛戦の概要を説明させてもらう。まず、我々冒険者はホレイショーの北側を担当することになった。ああ、勘違いするなよ。騎士団どもは他所の門の防衛で忙しい。北門は我々冒険者だけで防衛しろとのお達しだ!」
え?騎士団抜きで戦えと?二千人の冒険者だけで北門を守れというのか?!
俺が動揺したように、他の冒険者たちも狼狽する。
「は?どういうことだ!」「敵は1万だろぉ?!」「ふざけんなー!」
しかし、そんな声は突如吹き荒れた強烈な突風によって一喝される。
「黙れ!おまえらが言うように、これは無茶な任務だ。しかし、それを成功させるために、私たちホワイトコーツが派遣されてきたのだ。冒険者諸君には今更エクストラスキルの強さを説明するまでもないだろう。」
俺は咄嗟にハルの黒雷を思い浮かべた。あれは敵の思考力を奪うとかいう化け物じみた性能をしていたはずだ。ガレンさんは続ける。そこには絶対の自信を感じた。
「そんなエクストラスキルを私も、私の隣に立つウィンミルも所有している。しかも我々は過去、今は亡き仲間を加えた、たった三人だけで、何万もの魔物がひしめくダンジョンを攻略したこともある!今回も同じだ!!オーガどもが何匹束になろうが、我々の敵ではないわ!」
俺は目を見開く。
「エクストラスキル持ちが二人も?!それに、たった三人でそんなダンジョンを攻略したのか?!」
「うーん、エクストラスキルを二人とも持っているのはすごいけど、ダンジョン攻略の方はカラクリがあるだろうね。」
カラクリ?俺は堪らず聞き返す。
「どういうことですか、レティシアさん。」
「別に何万もの敵のすべてを殲滅する必要もなければ、同時に戦ったとも言ってないし、敵の数も盛れるということだよ。まあ、味方の士気を上げるための方便さ。」
「そうか、それならまだ理解ができます。でも――。」
一体何体の魔物を屠ったんだ?少しばかり誇張が入っていたとしても、倒さなければならない魔物の数は多かったに違いない。そう考えるとゾッとした。これが、ホワイトコーツ、二人とはいえ、パーティーメンバー全員がエクストラスキルを所有するパーティーか――!
俺も、周りの冒険者たちも息を呑んだ。ガレンさんは静かにそれを確認してから話を続ける。
「冒険者たちは半分に分割される。これは昼の防衛組と夜の防衛組でローテーションを組むためだ。ただし、担当時間外でも予備戦力として急遽戦ってもらう可能性は十分にある。昼夜の担当分けはパーティーの代表者が、後でギルドの受付に聞きに行くように。」
ん?まてよ?俺はちょっと計算してみる。レティシアさんはここにいる冒険者は二千人といっていたな。二千を2でわると……千人?!
俺が仰天していても、ガレンさんは微塵も気にせず話をつづける。
「それから、冒険者も含めた戦闘員の多くは城壁の外で戦うことになるだろう。なぜならば、敵の戦力には<巨大化>のスキルを持ったオーガが複数体確認されているからだ。巨大化したオーガは身長が10 mほどであり、城壁の高さに迫ると言っても過言ではない。城壁に接近を許せば、壁が叩き壊される恐れがある。壁が破壊されれば、間違いなくそこから大量のオーガがホレイショー内部に入り込み、被害が拡大する。よって、我々は城壁の外で<巨大化>のスキルを持ったオーガを討伐せねばならん。」
巨大化するオーガのことはレティシアさんが昨日話してたな。衝撃が大きかったので、半ば現実逃避気味に昨日の会話を思い出す。
そして、ガレンさんは演説を締めくくった。
「私からの説明は以上だ。各自、襲撃に備えよ!」
その後、指示された通り、昼の防衛か夜の防衛かを聞きに行ったところ、フリーヴァーツパーティーも、レティシアパーティーも夜の防衛組だった。
果たして翌日、オーガがホレイショーに侵攻してくる――。
***
ホレイショーは敵の本拠地に近く、もっとも激しい戦場になることが予想される東門の防衛にシンベリン王都から来た騎士団を、東の戦場に次いで苛烈な戦場になるであろう北の防衛に冒険者を、敵の本拠地から最も遠く、比較的安全な西側の防衛にホレイショーに元からいた騎士団を、海が広がっており、大軍を展開しにくい南の防衛に民間の希望兵をあてがった。「ホレイショーの領主は自分のとこの軍隊が消耗するのが、よっぽど嫌みたいだね。」とはレティシアさんの言だ。
対する敵、オーガは北に5千、東に3千、南と西にそれぞれ千の軍隊を展開した。そして戦いの火蓋が切って落とされた。
ガレンは中央に歩兵、両翼に騎馬隊を配置した基本を押さえた横陣を敷くオーガの軍隊を冷静に見つめた。そう、敵は軍隊とよべる練度を感じさせた。一切乱れぬ足並み、意気軒高な声、磨き上げられた大鉈、鍛え上げられた筋肉、どれも素晴らしい。これを生まれてから一年も経っていない魔物がやってくるのは、長い間冒険者としての人生を過ごしてきたガレンをして、驚嘆に値した。
そしてついに恐るべき敵が攻撃を開始する。だが、小癪にも練兵などしてきた敵が一体どんな攻撃をするのかと警戒してみれば、拍子抜けしたことに、敵が仕掛けてきたのは単純な歩兵の突撃だった。基本に忠実とも言える一方で、その程度かという落胆もする。複雑な気持ちがガレンの中に湧いたが、ガレンは一旦そんな感情は置いておいて、敵に対する警戒度を一段階下げた。ホワイトコーツには、ブラッディコート事件でグローブ町を失陥した時の後悔から生み出した技がある。今こそ、それを使う時――ッ!
「ウィンミル!」
「はっ!」
もう何年も共に戦ってきたベテラン同士の意思疎通はそれだけで十分だった。
まずは敵を引き付ける。同時に「水の魔法使い」のスキルツリーを持つWynmil lowが<水属性魔法>を使い、空中に氷を作り出した。通常は水属性魔法で氷を作り出すことは出来ないが、彼は長年の冒険者人生の中で、水属性魔法を修練した結果、水を状態変化させて操ることができるようになっているのだ。
さらに、ここで作ったのは只の氷ではない。通常、氷の結晶構造は隙間が多くなるところを魔法で強引に密度を上げた、かなり質量の大きい氷だ。
続いて、ガレンが<風属性魔法>を行使した。猛烈な風がオーガたちをなぎ倒していく。オーガを転倒させ、回避が出来なくなったところで、ウィンミルが氷をオーガに向かって発射する。当然その氷はガレンの風を受けて加速するわけで……。
――ドガガガガガッ!!
オーガたちに向けて、とんでもない勢いで大質量の氷の弾丸が叩きつけられた結果、瞬く間に夥しい死体の山が出来上がった。
「ひゅー!」「すっげぇ!」「なんだ、今の?!」「はっはー!見たか、オーガども!」
敵の数に不安を感じていた冒険者たちも興奮する。
だが、何度も同じ手を食らう敵ではないようだ。敵は第二波の突撃を敢行して来る。今度は敵の左翼に置かれていた、バイコーンに跨る重装騎兵を正面から突撃させるつもりのようだ。第一波よりも突撃部隊の縦の厚みを削り、横に薄く広げてある。さらに第二波と距離を開けて、第三波も来ている。第三波は軽装にして機動力を向上させた歩兵のようだ――。
なるほど、これでは先ほどのガレンとウィンミルのコンボ技の殺傷効率を抑えることができるだろう。しかしガレンとウィンミルの引き出しはまだまだある。
一瞬のアイコンタクト。ガレンとウィンミルはそれだけで互いの意思を伝える。直後ウィンミルはハの字型の高い氷の壁を生成した。ホレイショーに近い側が狭くなり、遠い側が広がった形だ。そんなところに敵が殺到したらどうなるか?答えはぎゅうぎゅう詰めになって、身動きがとれないオーガたちを見ればよくわかるであろう。そこにガレンが<風属性魔法>を行使する。氷の壁の、狭まった隙間側から竜巻を走らせ、重武装の敵も軽武装の敵も軽々と天高く巻き上げていく。ガレンは空高く打ち上げられたオーガを落下死させるだけでなく、その下にいるオーガたちも巻き込んで被害を与えていく。しかし、さすがのガレンでも、このまま一人で魔法を使い続けたら魔力切れを起こして戦闘不能になる。そのため、ガレンが敵を捌いている間にウィンミルが他の冒険者たちに指示を出す。
「近接戦闘が得意な者はそこの狭い出口を囲め!遠距離攻撃ができる者はその後ろから囲み、敵を攻撃せよ!敵をハチの巣にしてやるのだ!」
ウィンミルの指示に従い、他の冒険者たちは動き出す。そして包囲が完了した時点でガレンは退き、ピンチに陥った時のために魔力の温存に努める。
劣勢を悟ったオーガは冒険者たちに正面から攻撃を試みていた部隊を一旦下げる。ただし、すべての突撃部隊を退却させるのではなく、一部は残している。これをされたことにより、ガレンは正面のオーガに対応するために、一部の冒険者を正面に残しておかなければならなくなる。敵軍はさらに、冒険者たちの左右から歩兵部隊を突撃させようとした。
ガレンは分析する。――正面からの突破が出来なかったから左右からの挟撃か。正面から突撃されたときよりも敵の動きが遅いな。その理由は敵の兵種が騎兵から歩兵に変わったこと以外にも、武装が大鉈から金棒に変わっていることが挙げられる。なるほど、敵は左右からの同時攻撃で左右のどちらかしか対応できなければよし、どちらにも正面突撃を敢行したときのように、氷の壁で対処した場合は鈍器で氷の壁を破壊して進軍するつもりだろう。だが、そこまで読めてしまえば――。
ガレンの思考がまとまると同時に、阿吽の呼吸でウィンミルは左右に高いハの字型氷の壁を展開する。やはり冒険者側を狭め、オーガ側を広げた形だった。ただし、氷の壁は簡単に破壊されないように、正面からの突撃を受け止めたときよりも厚くしてあった。氷の壁の内側に入り込んだオーガたちは果たして氷の壁を金棒で叩き始める。
しかし忘れてはいけない、そこはハの字型の壁の内側だと――。
ガレンとウィンミルは左右の冒険者たちに指示を出す。
「近接戦闘が得意な者は氷の壁の外側に並べ!早くしろ!」
「今から氷の壁を水蒸気に変えるぞ!スモークで攪乱して奇襲を仕掛けるのだ!」
氷の壁を叩くオーガたち、その壁の外に並べられた冒険者たち、ハの字型の地形ゆえに生まれた挟撃の形――点と線が繋がってゆく。先ほどまで氷の壁を叩いていたオーガたちは突如発生した水蒸気に視界を奪われ、一瞬思考が停止する。そこに襲い掛かる冒険者たち。オーガたちは瞬く間に恐慌状態に陥る。冒険者は奇襲が成功して押せ押せムード、オーガはもろに奇襲を受けて大混乱、しかも挟撃される形になったので、そこからは一方的な蹂躙であった。
「押せー!!」「オラオラオラァ!」「ぶっ殺せー!」「イケ!イケ!イケ!」
冒険者の咆哮とオーガたちの断末魔が戦場を支配した。これには堪らずオーガたちは撤退していく。正面と左右の三正面すべてだ。冒険者たちは沸き立つ。
「よっしゃー!見たかクソオーガども!」「勝ったぞー!!」「とっとと山に帰りやがれ!」
だが冒険者たちの歓声は、正面奥に見えるオーガの司令部らしきところで、二体のオーガが巨大化したことで、再び絶望の嘆きに変わった。
「なんだ、あれは。」「明らかに他のオーガよりも大きいぞ。」「クソッ、実物はやっぱ違ぇな。」
巨大なオーガたちは悠然と、しかし巨体ゆえに大きくなった一歩一歩で、見た目よりも遥かに早く歩み寄ってくるのだった。
***
一方そのころホレイショーの南側にて――。
攻めて来るオーガの数は千体と比較的少数だったが、やはり守っているのは民兵なので、オーガの猛攻に押されていた。今や三百人で何とか城門だけは死守している状態だ。
「ひいぃ、もうだめだぁ!」「うおおぉぉ!後ろには家族がいる!あきらめるなぁ!」
彼らは愛すべき人々を守るため、故郷を守るため、それでも懸命に戦う――。
そんな彼らに見せつけるかのように二体のオーガが巨大化した。北で巨大化したオーガとは別の二体だ。最も多くのオーガを配置し、巨大オーガまで登場させた北の戦場と、オーガの本拠地に近く、最も熾烈な戦いを繰り広げる東の戦場を陽動として、大軍が展開しにくく一見安全に見える南から突破を図るオーガの作戦が火を噴いた瞬間であった。
<巨大化>を使うと、着ている服と装備している武器も同時に巨大化します。したがって、オーガ陣営はわざわざ巨大オーガ用の大きな武器を特注したり、その重たい武器をみんなで担いだりする必要はありません。
高評価・コメントお待ちしております。




