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ファイアーボンド  作者: fuon
巨大ミミックはヤーキモーのトランクだった?!編
1/42

第一話

***

 ――Cymbeline(シンベリン)王国の東部、森林開拓地域の最前線の町Globe(グローブ)

 今年の春は異様に暑く、例年なら8月から9月が開花時期のタンジーが5月に早咲きしていた。

 俺、Freeverts(フリーヴァーツ・) Firebond(ファイアーボンド)は幼馴染のSophia(ソフィア・) Milford(ミルフォード・) Sysifuni(シシファニー・) Tuson(トゥーソン)と、Hal(ハル・ヴ) Verdimired(ァーディマイアード・) Inimadia(イニマディア・) Tuson(トゥーソン)を誘って一緒に五月祭を楽しもうと、彼女たちの家の前まで来ていた。


「お兄ちゃん、おっはろーー!」

 元気な挨拶と共に駆けて来た方がトゥーソン姉妹の妹、ハルだ。彼女は金髪ショートに碧眼の犬の獣人で、ロリータファッションをしている。


「愚昧がご迷惑をおかけしますわ。ハルも、もう少し落ち着きを持ちなさいと何時(いつ)も言っているでしょう?」

 ちょっぴり困ったようにハルに小言を言うのは姉のソフィアだ。彼女はピンク色の髪と瞳を持っており、長い髪を、左右に付けた紅白のバラの髪飾りから延びる白色の飾り毛束とピンク色の地毛で編んでハーフアップにしている。頭にケモミミが付いていない代わりに、耳に左右非対称のピアス、後頭部に飾り毛束で白いリボン結びを作っている。あと巨乳。


 そう、この姉妹は髪の長さも色も違うし、種族に至っては姉が人間で妹が獣人なのだ。これは、トゥーソン家の先祖に金髪の犬の獣人がいて、ハルが先祖返りしていることに起因している。それはそれとして、ソフィアに返事をしなくては。


「いや、俺はいつもハルに元気をもらっているよ。それよりも、ソフィアもハルも貴族としてのお勤めは終わったのか?」

「うん、完璧に終わらせたよ~」

「ここは狭い町ですし、トゥーソン家は所詮、大貴族にお仕えする弱小貴族ですから、書類

仕事は比較的少ないのですわ。」

「じゃあ、皆で祭りの出し物を見て回らないか?」

 俺が遊びに誘うと、ソフィアは優しそうな顔を嬉しそうに綻ばせて、了承してくれる。

「是非、お願いいたしますわ。今日は吟遊詩人がいらしていますの。」

「え~、お姉ちゃん、吟遊詩人が今日話してるのは初代ジョウェルの英雄譚だよ。そんなの耳にタコができるくらい聞いたって~。それよりも屋台で食べ歩きする方が良いよ!ほら、私たちがいつも集まるヤギの石像のところだよ。早く行こ!」

「ははは、ハルはよく食べるからな。初代ジョウェルの英雄譚と言うと、エクストラスキルを獲得したエルフが各地のダンジョンを攻略していくっていう、あの有名なお話か?カッコ良いよな。」

「うん、そうだよ、お兄ちゃん。あ、それで思い出した。この町って今、東の森を開拓してるけど、開拓したら、魔物とかダンジョンとかが見つかることがあるじゃん。それの対策でお父さんがその英雄ジョウェルさんの末裔にあたる、ガレンさんって人をこの町に呼んだらしいんだよね。」

「え、確かここには元々宮廷魔法使いだったけど、勤務中にギャンブルをして左遷されて来たとかいう凄腕の魔法使いがいるんじゃなかったっけ。」

 俺の疑問にはソフィアが答えてくれた。


「賢者レティシア様のことですわね。おっしゃるようにレティシア様は一流の魔法使いですが、ダンジョンの攻略となると流石(さすが)にお一人では難しいと思いますわ。そこでダンジョンが見つかった時に攻略するために、『テンペスト』の呼び声高いガレン様とそのパーティー、『white(ホワイト・) coats(コーツ)』の方たちにお越しいただいたんですの。」

「そっか、ダンジョンの攻略は大変だな。」

「でも、お兄ちゃんも炎の勇者っていうスキルツリーを持ってるじゃん。その才能を活かしてダンジョン攻略したいとか思わないの?」


 この世界では一人一つのスキルツリーを持っていて、そのスキルツリーに()って手に入るスキルが変わる。スキルは魔力を消費して使用することで、いろんな便利なことができる。そして自慢じゃないが、俺のスキルツリー「炎の勇者」はかなり優れたスキルツリーらしい。でも……。

「うーん。俺は皆と一緒にいられたらいいかな。ダンジョン攻略をする冒険者は転勤族だからな。」

 俺はこのまま、この町でみんなと一緒に楽しく暮らしていたい。

 この時はまさか自分がそのダンジョン攻略に乗り出すことになるとは考えたこともなかった。次の瞬間、森で禍々しい魔力が爆発した。

 ――ボワッ!

 あまりに大きく、邪悪な魔力だったので、俺は頭がクラッとして、その場にしゃがみ込む。周りの人々も立っていられなかったようだ。


「うっ……。なんだ、今の魔力は。それにあの大きな城は?」

 俺はそう言いながら、東の森の入り口に建つ見慣れない巨大な城に目を向ける。

 当時は知らなかったが、嫌な魔力の爆発はダンジョンが発生する兆候だったのだ。ダンジョンの誕生はまずモンスタースポナーたるダンジョンコアと防衛拠点たるダンジョンの建物が同時にできる。突如現れた城はダンジョンが造り出した防衛拠点だ。


「私たちはこの町の管理をしてるけど、あんな城のことは知らないよ。」

 ハルが緊張した面持ちで言った。

 だが、悲劇はここからだ。ハード面の設備を整えたダンジョンコアは次に、自身の防衛のために多量の魔物を生み出す。しかも不幸なことに、このダンジョンは普通とは違って、生み出す魔物の数と種類が他のダンジョンよりも多かった。


「うわぁぁあああ!魔物だぁぁあああ!」「誰か助けてくれー!」「ぎゃぁあ!噛まれたぁあ!」「うちの子を見ませんでしたか!?」「ひぃいいい!」「くっ、お兄ちゃんが時間を稼ぐっす!お前たちは早く逃げるっす!!」「うるせぇ、どけどけどけ!!」

 その結果は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


 俺は突然のことに頭が真っ白になる。――やばいやばい、どうすればいい?どこへいけばいい?そもそも何が起きている?

 俺の動揺を鎮めたのはソフィアの声だった。

「皆様落ち着きください!西と南の出口に分かれて町からお逃げください!」

 ――!この状況下でなんて冷静な指示なんだ。

「お姉ちゃんのすごい所は、こういう時に貴族として領民の命を第一に考えて、すぐに行動に移せる所だよね。というわけで、私も領民の避難誘導に行くから、お兄ちゃんは逃げて。」

「……っ。いや、俺は炎の勇者だ。こんな時こそ魔物を倒して町のみんなを助けるよ。」


 ソフィアと違ってすぐに行動を起こせなかった恥ずかしさと、彼女たち姉妹の助けになりたいという思いから俺は提案する。


「私としては、フリーヴァーツ様を危険にさらしたくはないのですが……、意志はお固そうですわね。それでしたら、せめて私の傍でお戦いなさってください。」

 ちょっぴり困ったような顔だったが、ソフィアは許してくれた。

「すまん。だが、町のみんなを助けたいんだ。」

 そう言って、俺たちは敵が押し寄せてきた東の方角へ駆け出した――。


***

 最前線ではすでに激しい戦闘が繰り広げられていた。魔物は森の方角からどんどん溢れ出てくるものの、神聖な雰囲気のする一角があったり、風が魔物を吹き飛ばしたり、どこからか大砲の音がしたりしている。しかし今は何とか持ちこたえていても、魔力を使って戦っている以上、いずれ魔力が枯渇して負けるのは目に見えている。絶望的な気分になりながら、俺は魔力が特に枯渇していそうな人間の兵士に声をかけた。


「そこの人、俺たちが代わりに戦います。あなたは避難誘導をしてください。」

「ソフィア様とあなたは?いや、今は聞いている場合ではないな。すまん、恩に着る。」

「もし取り残された人がいらしたら、お助け願いますわ」

 ソフィアが追加した。彼女は常に広い視点を持っている。


 だが、敵は待ってくれない。この会話が終わると同時に魔物チュパカブラが飛び掛かってくる。俺は腰に差した片手剣を素早く引き抜き、スキルツリー「炎の勇者」に結びついたスキル群の中からスキル<剣術>を発動させる。剣術の技能が上がった俺は、チュパカブラを逆に切り裂いた。


 ――ギャ!!!

 とチュパカブラが悲鳴を上げて怯んだ隙を逃さず、チュパカブラの頭目掛けて片手剣を振り下ろす。頭を割られたチュパカブラは動かなくなった。だが、ここで戦闘経験の無さが災いする――。

 奥でリッチが魔法を打ってこようとしているのだが、俺の剣が先ほど仕留めたチュパカブラに深々と刺さってしまっていて、抜けない。俺のスキル<火属性魔法>で受けるにしても、敵の攻撃の方が先に届くだろうし、剣を捨てて避けると武器なしで戦う羽目になる。

 どうする――!?

 しかし、そこはソフィアがカバーしてくれた。バンッ!という銃声がして、リッチの頭が吹き飛ぶ。


「ありがとうソフィア、助かったよ。」

 言いながら、チュパカブラの頭から剣を引き抜く。

「フリーヴァーツ様には何人(なんぴと)たりとも手出しさせませんわ!」


 今のはソフィアがスキルツリー「狩人」のスキル<猟銃>の効果で作った銃でリッチを打ち抜いたのだ。ちなみに、スキルで作られた武器は、作成者が触れていなければ5秒で消滅するので、銃の存在自体は知られているが、銃をスキルに頼らずに生産することには成功していない。それはともかく、今は町の防衛だ。


「俺が前衛で敵を引き付けるから、ソフィアは後方から銃でバックアップしてくれ。」

「お任せください。」

 即興のチームプレーだったが、俺たちは決死の覚悟で戦い続ける。しかし悲しいかな、魔物の数が人間側の戦闘員に比べて多すぎた。俺たちは必死の抵抗を続けたが、ついに町の中心にあった、この町のシンボル――犬歯が発達したヤギを(かたど)った大きな石像――が魔物に根元から倒された。


「くそっ、もうだめだ。」「やめっ……。」「おい、逃げるな。俺たちが逃げたら誰が町の住民をまもるんだ。」「やむを得ん。<Prospero>の赤い果実を使う!ウィンミル!!」「ちくしょう、ちくしょう。」「ぎゃあああ!!」「右から火の手が回ってくるぞ!気をつけろ!」


 戦況は悪化の一途をたどり、もはやこれまでと思った矢先、住民が町から脱出し終えたという報告が入る。その報告を聞いた俺たち戦闘員は順次撤退していくのであった――。


<設定過多でよく分からなくても、これだけ覚えておけば大丈夫!第一話のあらすじ>

 長閑な田舎町グローブ町に突然、魔物が襲撃してきた。故郷の人々を守るため、剣の扱いと火の魔法に長ける主人公フリーヴァーツと、領主の娘で銃を扱えるソフィアが奮闘するが、結局、魔物の物量に押され、主人公たちはグローブ町から追い出されてしまう。□


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