第6話 今は1ヶ月半ぐらいが目安らしい
逃げようとする僕をロッタが、あの手この手で引き止めようとして来る。
「そ、そういえばブラウさんがゆーゆさんの事を馬鹿にしてたっス! あんな胡散臭いヘタレ野郎は瞬殺してやるって〜!」
「ヘタレなのは事実だから言わせとけば良い」
「ひ、姫様がゆーゆさんの事を凄く気にしてたっス! 自分はずっと寝てたから、ゆーゆさんの戦ってる所を見てみたいって言ってたっス!」
「ほ、ほんとに?」
あのめちゃくちゃ可愛い姫様が僕を気にしてる? それが本当なら凄く嬉しいけど……。
「ほ、本当っス! ゆーゆさんがあまりにカッコイイから、ぜひ一夜を共にしたいって言ってたっス!」
「完全に嘘じゃねーかっ!」
僕の喜びを返せこの野郎。
「あーっと! そ、そうだ! これは本当の話っスが……」
これはって言いやがった。やっぱり今までの話は嘘じゃねーか!
「今回の模擬戦、ゆーゆさんにも報酬が出るっス!」
報酬と聞いて立ち止まってしまった。
「報酬?」
「そ、そうっス! 今日出る戦士には全員に報酬が出るっス!」
「い、いくらぐらい?」
「ゆーゆさんはメインに出場っスから、安く見積もっても金貨100枚は貰える筈っス!」
この世界の金貨一枚の価値が分からない!
「因みに金貨一枚あったら何が買える?」
「この国の通貨価値を知らないんスか? ゆーゆさんよそ者っスか? やっぱり胡散臭いっスね〜?」
「帰る!」
再びロッタを引きずる。
「ああ〜! ゴメンっス〜! ええっと……や、安物のステーキが食べれるぐらいっス〜!」
安物のステーキ?
この国の相場は分かんないけど、大体千円とか二千円ぐらい、か?
仮に金貨一枚が千円として、100枚なら10万ぐらいか?
確か女神様がこの世界にもゲームは存在するって言ってたから、10万もあれば新しいソフトがいっぱい買える!
瞬時に計算して僕が出した答えは!
「出る」
「え?」
「模擬戦、やる」
「ようやくその気になってくれたっスか〜! ありがとうっス! じゃあもうそろそろメインが始まりそうっスから、早く戻って準備するっス!」
「う、うん」
まあ模擬戦なら大怪我する事も無いだろうし、ゲームの為なら大勢に見られるぐらい、頑張って耐えてみせる!
「しかし、結局報酬に釣られるなんて、ゆーゆさんも現金な人っスね〜」
いや、お前にだけは言われたくねーわ!
闘技場に戻った時、既に舞台の中央にはブラウが木刀を持って待ち構えていた。
「危なかったっス! ギリギリだったっス! ゆーゆさん、魔導士の杖はどうしたっスか?」
「え? ああ、多分この中に……」
僕は無限倉庫の中に手を入れて杖を探した。
不思議そうに僕の腕を見ているロッタ。
「うわあ〜。それどうなってるっスか〜? 腕が途中で消えて……気持ち悪い魔法っスね〜?」
魔法? そっか……この世界には無限倉庫なんてものは無いのか?
「あれ?」
無限倉庫を探っていた僕の顔から冷や汗が滴り落ちる。
「どうしたっスか? 緊張してお腹痛いっスか?」
「杖が、無い……」
「ええ⁉︎ 無いって……どこかに置き忘れたんスか?」
「いや、あの時確かにこの中にしまった筈……」
「もう、ウッカリさんっスね〜。仕方無いっス。探してる時間は無いっスから、今回はあたしの杖を貸してあげるっス」
「え? いいの?」
「いくら負けるにしても、少しは粘って会場を盛り上げてほしいっスからね」
負けると決めつけんな!
いやまあ相手は騎士団の団長なんだから、そりゃあ僕みたいな戦闘の素人では勝てないだろうけども。
「ただし、もし壊したら弁償してもらうっスよ」
「う、うん。気を付ける」
「倍にして」
「何でだよ!」
緊張しながらも、ブラウの元へ歩いて行く。
「フッ。遅いからてっきり怖くなって逃げ出したのかと思ったぞ」
実際逃げたけどね。
「あんたが怖かった訳じゃないよ」
「ほう……言ってくれるじゃないか。せいぜい怪我をしないように気を付けるんだな」
審判が試合開始を告げる。
「それでは、始め!」
相手は剣。
こっちは魔法。
ならば当然接近される前に先制攻撃あるのみ!
「ファイヤー‼︎」
僕は勇ましく叫んだが、杖からは何も出なかった。
「え、何で?」
一瞬僕の魔法を警戒して防御姿勢をとったブラウだったが、何も出ないのを見て再び接近して来る。
「フェイントのつもりか? 小賢しい!」
いや、そんなつもり微塵もございません!
僕は再び魔法を撃とうとしてみた。
「ファイヤー! ファイヤー! バーニングファイヤー!」
だがやはり杖からは何も出なかった。
これ本当に魔導士の杖なのか?
ただの枝渡されたんじゃないの?
「何のつもりか知らんが、これで終わりだ!」
遂に間合いに入ったブラウが木刀を振り下ろして来る。
「うわあ!」
僕は咄嗟に杖を頭上に掲げて何とか防御した。
だがブラウの追撃は止まらなかった。
そこから怒涛の連撃が始まる。
しかし死んで目が良くなったのか、ブラウの動きが良く見え、何とか連撃を全て杖で防御出来た。
「何やってるっスか〜! 何で魔法撃たないんスか〜⁉︎ それは格闘用の武器じゃ無いって言ったっスよね〜! いくら相手が木刀とはいえ、そんなに激しく撃ち合ってたら壊れちゃうっスよ〜!」
遠くでロッタが何か喚いてるけど、こっちは必死なんだ。そんな事気にしてる余裕は無い。
だがブラウの渾身の一撃により、遂に杖は粉々に砕け散った。
「うにゃああああー!」
ロッタが言葉にならない叫び声をあげている。
トドメとばかりにもう一度木刀を振り下ろして来るブラウ。
もうダメだと思った瞬間、僕は無意識に信じられない動きでブラウの木刀をいなし、逆に腹に当て身を撃ち込んでいた。
「グハッ!」
まさかのカウンターに腹を押さえながら跪くブラウ。
「き、貴様あー!」
へ? 何? 今僕、何したの?
無意識に身体が反応したんだけど?
そんな事はお構い無しにロッタが叫んでいた。
「あたしの杖壊したっスね〜! だからあれ程打ち合いなんかしちゃダメって言ったっスよね〜⁉︎」
それはゴメン。
「弁償っス! 給料の3ヶ月分で弁償っス!」
婚約指輪かっ!