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第4話 天然もまたスキル

 馬車の中に居た少女を見た僕は、隣に居るロッタに尋ねた。


「今、姫様って言った?」

「そうっス。あのお方はこのダール王国の王女、エスタ様っス」

「いや何でそんな偉い人がこんなとこに?」

「それは……」

「ロッタ!」


 ブラウと呼ばれた男がこちらを見ている。


「姫様がご無事だったのは良い。だがその男は何だ?」

「彼の名はゆーゆ」


 悠遊な……まあ良いけど。


「野党に襲われてあたしひとりになった所を一緒に戦ってくれたっス! 彼が居なかったらどうなってたか分からないっス!」

「ふむ……」


 馬車を降りて近付いて来るブラウ。


「助太刀してくれた事には感謝する。しかし、この男が野党共の仲間では無いとも言い切れない」


 オイオイ、何を言い出すんだコイツは?

 今日この世界に来たばかりの僕が野党の仲間な訳無いだろ!

 まあ異世界だの転生だの言っても信じてはくれないよなぁ。


「何言ってるっスか⁉︎ 彼は最初野党に襲われてたっス! 戦えないみたいだったから助けて、あたしの側に来るように言って、そしたら急に魔法を使えるように……」


 自分で話しながら違和感を感じたのか、ゆっくりと僕の方を見るロッタ。


「そら見た事か! 一般人のフリをして馬車に接近するのが目的だったんじゃ無いのか?」

「ええっと……」


 いやどんどん雲行きが怪しくなってるんですけど?

 もっと頑張ってよロッタさん!


「いやでも、確かにあの時はあたしが助けなかったら、間違い無くゆーゆさんは開きになってたし、姫様の暗殺が目的ならあんなに馬車の近くに居たんだから、いくらでもチャンスはあったっス!」


 そうそう!

 そもそも馬車の中に女の子が寝てたなんて知らなかったんだから!


「フン。まあいい。一応恩人として城に迎え入れるがロッタ! 決してその男から目を離すんじゃないぞ!」

「わ、分かったっス」


 そうして僕は馬車に乗せられ、城へ招かれる事となった。


「あなたが恩人さんですかぁ? ありがとうございますぅ」


 そして何故か僕の前には姫様が座っている。

 いや、散々疑ってた僕を姫様と同じ馬車に乗せるってどうなの⁉︎


「お名前……教えて頂けますかぁ?」


 随分おっとりした喋り方をする子だなぁ。


「あ、ええと…… 悠遊……長久悠遊、です」

「ゆうゆうながひさゆうゆうさん、ですかぁ。随分長いお名前ですねぇ?」


 古典的なボケ!


「姫様、それでは長いから、ゆーゆで良いっス」


 いや、お前が言うな。


「ゆーゆさんですかぁ。可愛いお名前ですねぇ。私はエスタと申します。一応この国のお姫様なんですよぉ、エヘン」


 ドヤ顔で胸を張った瞬間、後頭部を馬車に打ち付けるエスタ。


「痛あ〜い! 何するんですかぁ⁉︎」

「姫様。ご自分でぶつけたっス」


 天然⁉︎


「その姫様がろくに護衛も付けずに、何であんなとこに?」


 沈黙が怖いので、さっき聞きそびれた質問をもう一度してみた。


「隣町に行ってたっス。いわゆる視察ってやつっス。護衛が少ないのは、むしろその方が目立たなくて良いと思ったからっス。でもどこかから情報が漏れたのか、いきなり野党に襲われ……」


 ゆっくりこっち見んな!


 そうこうしてる内に、馬車は城に到着した。

 馬車が停止すると、さっきの失礼なブラウとか言う騎士がドアを開ける。


「着きました姫様。さあどうぞ」

「ご苦労様です、ブラウニャああ〜‼︎」


 馬車を降りようと階段に足をかけた瞬間滑り落ちるエスタ。

 

「危なっ!」


 咄嗟に助けようと手を出しかけたが、まるでそうなる事が分かっていたかのように、ブラウとロッタのふたりに支えられるエスタ。


 お〜、さすが〜。


「お気をつけください、姫様」

「いつもありがとうございますニャアあ〜‼︎」


 歩きだしたエスタが、今度は何も段差の無い場所でいきなり前のめりに転ぶ。


「姫様!」


 だが今度も周りに居た騎士達がしっかり受け止めて無事だった。


「またまた助かりましたぁ」


 何だろ? 階段を踏み外したり、何も無い所でつまずいたり、もしかして目が悪い? それとも足が弱い?


「ゆーゆさん今、姫様が目が悪いとか足が弱いとか思ったっスね?」


 心を読むな!


「違うっスよ。姫様はただの天然おとぼけドジっ子少女なだけっスよ」


 やっぱ天然っ⁉︎


「でもそこが可愛いんス」


 王女様に向かって可愛いはどうなんだ。


 そして僕は国王と謁見する。


「おお、エスタよ! よくぞ無事に戻った!」

「ただいまですぅ」

「ロッタよ、よくエスタを守り抜いてくれた。礼を言うぞ」

「ハハッ! 有難いお言葉っス!」

「して、その少年が共に戦ってくれた……」


 ロッタが小声で耳打ちして来る。


「ほら、ゆーゆさん。自己紹介するっス」

「あ、ハイ! 長久悠遊、です」

「そうか。わしはこの国の王を務めておるヴォル・ローシュじゃ。よろしくの、ゆーゆよ」


 あんたもゆーゆって呼ぶんかいっ!


「ハ、ハイ! よろしくお願いしゅにゃっ!」


 盛大に噛んでしまった。

 恥ずかしい。


「プププ。ゆーゆさん、今噛んだっスね? しゅにゃって何スか?」


 隣でロッタが笑っている。


 ああそうだ。後でこいつしばくんだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] はたしてシバけるのだろうか……
[一言] 相変わらず、個性豊かな登場人物達の織り成すコント劇に和ませていただいております(*´`) ほんわかとした雰囲気でありながら、しっかりと作品に爪痕を残してくれるエスタ姫のパンチの強さが最高です…
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