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第1話 死んでも放さない!

 長い人生の中では楽しい事もあれば、死んでしまいたくなるような辛い時もある。


 でも、今この瞬間にだけは絶対に死にたくないって思う時があるだろう。


 例えばずっと楽しみにしていた旅行に行く前だったり、大好物の料理を食べる直前だったり、好きな人に告白して付き合う事が決まった瞬間だったり。



 かくいう僕、長久悠遊(ながひさゆうゆう)16才も今だけは絶対に死にたくないと思っている。

 こらそこ! パンダみたいな名前とか言わない!


 何故こんなゆるキャラみたいな名前なのかと言うと、元々長久という言葉には、長く続くとか永久とか言う意味があるので、ずっと遊んで暮らせる人生になるようにとの願いを込めて、悠遊と両親が付けたらしい。


 しかしよく考えてみると、名前にある悠の文字にも永遠とかいう意味があるので、永久永遠に遊ぶとなり意味がかぶっておかしな感じになっているのである。

 まあ、それは別にいいのだが。


 友達からはゆうゆうでは呼びにくいので、略してゆーゆと呼ばれている。

 殆ど変わらない気もするが。


 かなり話が逸れてしまった。

 何故今死にたくないかと言うと、高校入学前の冬に来年夏発売決定の情報を知り、16になったと同時にバイトを始め、ただ今夏休み真っ只中!

 遂に手に入れた念願の新型携帯ゲーム機とローンチソフト一式。これを遊ぶまでは絶対に死ねないのである。


 お願いしますよ神様! 今だけは絶対に死なせないでくださいね! 


 今何かの理由で死んじゃったら、それこそ死んでも死に切れないという奴である。

 そんな事を心の中で祈りながら帰りを急いでいる時、後ろで誰かの叫び声が聞こえた。


「危なーいっ‼︎」

「え?」



 何だ? 何が起こった?

 目の前が真っ暗で何も見えない。

 体の感覚も何だかおかしい。

 全身麻酔でもかけられたみたいに何も感じないしどこも動かせない。

 


「キャー‼︎」

「車が歩道に突っ込んだぞー‼︎」

「オイ‼︎ 子供がはねられたぞ‼︎ 早く救急車を呼べ‼︎」


 微かに聞こえる周りの声で、自分の状況が理解出来た。

 ああ……僕、車にはねられたんだ……。


「凄い出血だ。こりゃもう駄目かも……」


 え⁉︎ 嘘⁉︎

 僕、死ぬの?

 そんな……ヤダよ!

 必死にバイトして節約してせっかくゲーム機ゲットしたのに、一度も遊べないまま死ぬの?

 そりゃ無いよ神様。今だけは絶対に死にたくないって言ったじゃない……。

 酷い……よ……。


 そうして僕の意識は、深い闇へと落ちて行った……。



「もしもーし。起きてよー! ねえ! 起きてってばー!」


 少女の声が聞こえる……。


「ん? 何?」


 ゆっくり目を開けるとそこには、両頬に手を付きしゃがみ込んで僕を覗き込んでいるとても可愛い、ピンク色でハーフツインの美少女が居た。


「あ、やっと起きた」

「君、は? え? ここは?」


 体を起こし辺りを見回してみたがそこには何も無く、ただ無限に空間が広がっていた。


「僕はこの世界の女神だよ」

「え⁉︎ 女神⁉︎」


 僕のイメージ的には女神といえばもっとグラマラスで色っぽいお姉さんって感じだが、目の前にいるのはどこからどう見ても中学生ぐらいの女の子だ。


「ん? 今何か失礼な事考えた?」


 いや待て! 女神⁉︎ 女神だって⁉︎ それってつまり。


「僕……やっぱり死んだ、の?」

「あ〜、うん。残念だけどそうなんだ」


「そんな……今だけは絶対死にたくないって言ったのに……」

「そう、そこなんだけど。この世界はね、君みたいに理不尽な死に方した人や、物凄ーく悔いを残して死んだ人なんかが来る世界なんだ」


「え⁉︎ ちょっと待って! この世界って、ここはあの世ってやつじゃないの?」

「ん? 違うよ。ここは……君達から見たら、いわゆる異世界ってやつ」


「異世界⁉︎ 異世界ってあの、ラノベなんかによく出て来るあの異世界?」

「ん〜、同じかどうかは分かんないけど、まあそんなとこ」


 何かいい加減だな〜。

 ちょこんと正座して説明を始めるロリ女神。


「君には3つの選択肢があります。まずひとつ目は、このまま死を受け入れてあの世に行き、再び新たな命として元の世界に生まれ変わる道……」


 あの世とか生まれ変わりとか、本当にあるんだ?


「ふたつ目は、この異世界に生まれ変わる道……ただしこの世界は君が居た世界と違い、剣と魔法とモンスターが居るファンタジーの世界だ」


 ファンタジー。益々ラノベの世界だな〜。


「そしてみっつ目。まあ殆どの人はこれを選ぶんだけど。今の記憶と姿を持ったまま、この異世界で残りの人生を過ごす道……ただその場合は、何の力も持たない人がいきなりこの世界に来てあっさり死んじゃう可能性があるから、何かひとつだけ僕の加護を受けられる事になってるんだ。さあ、どれにする?」


「加護? 加護ってどんな?」

「そだな〜、今までの前例から言うと〜、剣術の達人になったり、大魔導士になったり、無敵の防御力、なんてのもあったな〜」

「要するに、チート能力を貰えるって事?」


「そういう事。ただし、あんまり非常識なのはダメだよ?」

「非常識とは?」

「例えば不老不死になりたいだとか、神をも倒せる力を得たいだとか、女神である僕を連れて行きたいだとかね」


 どこかで聞いた事あるな……。

 

「さあ、どれにする?」


 どれにするかって?

 そんなのは決まっている。

 現世に未練を残してたからここに来たって言うなら、僕の未練は間違いなく!


「このゲーム機を遊べるようにして‼︎」


 そう言って僕は、例え車に跳ねられようともずっと掴んだまま離さなかった、買ったばかりのゲーム機を差し出した。

 だが、さすがに車にはねられた衝撃でゲーム機はボロボロに壊れていた。


「え⁉︎ ゲーム機? チート能力とかじゃなくて?」


 驚きの表情で聞き返してくる女神。

 

「うん。僕の未練はせっかく買ったゲーム機を一度も遊ぶ事なく死んだ事だから、このゲーム機を直して遊べるようにしてほしいんだ」


 だが、そんな僕の言葉を疑うかのように、色々誘惑して来る女神。


「チート能力もらって無双ってのが定番なのに?」

「僕はインドア派だからね」


 まあ確かに最強ってものに憧れはある。


「魔法だってバンバン使えるんだよ?」

「余り目立ちたくないから」


 魔法か〜、使ってみたかったけどな〜。


「強いと女の子がたくさん寄って来てハーレムだって夢じゃないよ?」

「いや、神様がそういう事言う?」


 一度ぐらい彼女欲しかったな〜。


 ひと通り質問をした後、何故か黙ったままじっと僕を見つめている女神。


「あ、あの……何か?」

「よし分かった! 君がそこまでゲームを愛してるのなら、同じゲーム好きとしてもう何も言わないよ!」


 へ⁉︎ 神様もゲームとかやるの?


「ゲーム機なんてわざわざ僕に頼まなくても、こっちで同じやつが普通に売ってるのに、それでもあえて自分で買ったゲーム機を選ぶなんてゲーマーの鑑だね」


 えっ⁉︎ 今ゲーム機普通に売ってるって言った⁉︎ ちょっと待って‼︎ それなら話は別だ‼︎ チート能力を‼︎


「いやあのっ!」

「分かってる!」


 慌てて訂正しようとする僕を、手を出して制止する女神。


「みなまで言うな! さすがにそれだけじゃ可哀想だからね」


 ホッ、分かってくれたか?


「充電なんかしなくても、いつまでもずっと遊べるようにしてあげるね!」


 分かってねえええ‼︎


「いやあのね⁉︎」


 必死に訂正しようとする僕を、更に手を出して制止する女神。


「分かってるって! パッケージ版だとどうしてもかさばるもんね。それも異次元の無限倉庫に自由に出し入れできるようにしてあげるから。これで持ち運びもバッチリだね!」


 得意げに親指を立てる女神。

 ダメだ! 全然伝わらない。早くチート能力に変えてもらわないと!


「だから違っ!」


 食い気味に口を挟んで来る女神。


「大丈夫! もし敵に襲われても絶対に壊れないように神のオーラでゲーム機を保護してあげるから、例えこの世界が消滅してもそのゲーム機だけは絶対に残るよ」


 いや、ゲーム機だけ残っても意味ないでしょうがっ!

 必死に訂正しようとする僕を無視して、着々と転生の準備を始める女神。


「さ! 準備出来たよ! それじゃあ、楽しい異世界ライフを楽しんでね〜!」


「楽しい2回言った〜! だからちょっと待ってってばああああ!」



 遂に僕の声が女神に届く事はなく、虚しい叫び声を残しながら僕の意識は薄れて行った。









 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回はTSしないのか( ˘ω˘ ) [一言] この女神もそこはかとなく残念臭が……
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